転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?   作:西園寺卓也

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第228話 古代竜を迎撃しよう

「旦那様・・・もうすぐ<古代竜(エンシェントドラゴン)>がここにくるのですわよね・・・?」

 

 

 

不安そうな表情を浮かべるフィレオンティーナ。見れば少し震えているようだ。

 

 

 

「大丈夫だよ。念のためにフィレオンティーナには俺のそばにいてもらうけど、戦ってもらうつもりはないから。今のところは」

 

 

 

そう言ってフィレオンティーナの肩をそっと抱く。

 

 

 

「クスッ・・・今のところは、ですのね」

 

 

 

俺の肩に頭を寄せ、上目づかいに俺を見る。震えは止まったようだ。

 

 

 

「ぬぐぐ・・・リア充伯爵様めぇ・・・」

 

「くそう!伯爵様はカッシーナ王女と結婚式を控えているってのに・・・」

 

「あんな美人を・・・」

 

「何故だ!何故美人は一人の英雄の元に集まるのだ!皆平等にチャンスがあってもいいはずだ!」

 

「ヘッ!何故か目から水が出てきやがるぜ!」

 

「何故だ・・・何故俺の弓は敵ばかり貫いて女性のハートを貫けぬのだ・・・」

 

 

 

・・・オレイス将軍のところの弓矢隊から何故か不穏な慟哭が唸り聞こえてくる・・・。

 

 

地球時代全くモテなかった俺に何故だと聞かれても、答えなどモッテイナイ。ちなみにチートもモッテイナイ。

 

 

「伯爵、えろうすんまへんな」

 

 

頭を掻きながら俺に声を掛けてきたのは、ヤーネン・ナーンデーだった。

 

ヤーネンも大商家の出で、貴族ではないものの家名持ちだった。

 

何でも抜群の弓の腕前と持ち前の明るい性格で統率力も高いらしい。

 

だが、貴族派閥のオレイス将軍率いる軍部では冷や飯食らいだった。

 

グラシア団長の大抜擢で今回の弓矢隊隊長に就任している。

 

 

 

「ヤーネン隊長か。気にしてないよ・・・というか、少し前まで俺は彼らと同類だったからね」

 

 

 

笑って答えた俺をびっくりした目で見るヤーネン。隣を見ればフィレオンティーナまで驚いている。俺のどこにモテ要素があるんだよ? スライムだぞ、スライム。まあその姿をあまり晒してはいないけどさ。

 

 

 

「はあ~、全くもって信じられまへんけどな・・・。そう言えば、伯爵様がワイを推薦してくれはったんでっしゃろ? おおきに、感謝しますわ」

 

 

 

「推薦したのはグラシア団長だよ。お礼なら彼に」

 

 

 

「グラシア団長さんのトコにはもう挨拶行って来ましたわ。そしたら将軍とは別の腕利きを隊長に据える様に伯爵様に言われたって言ってはりましたわ」

 

 

 

「だから、グラシア団長が君を抜擢したんじゃない。ところで、隊長とかメンドクセ~わ~とか思ってない?」

 

 

 

「いえいえ!思ってまへんわ!大出世ですやん、ありがたい限りですわ!給与もナンボかマシになるかもしれへんし」

 

 

 

屈託のない笑顔を見せるヤーネン。何だか憎めない奴だ。

 

 

 

「ぶっちゃけ、居てくれるだけでいいよ。<古代竜エンシェントドラゴン>とガチでやり合おうとかあんまり思ってないから」

 

 

 

「はあ・・・まあ、隊長を任されたからには、あんじょう働きますよってに」

 

 

 

「よろしく」

 

 

 

そう言って俺は手を振ると、王都の外壁の北西角までやって来た。

 

 

 

俺はどちらかと言えばエゴイストだ。

 

王都の自分の屋敷だけ強力な結界を張って来た。

 

出張用スライムを応用した結界魔法、<スライム的大結界(スライフィールド)>だ。

 

スライム(ペー)、スライム(ナン)、スライム(トン)、スライム西(シャー)の四匹を屋敷の東西南北に配置、風と光の合成結界魔法を発動させている。

 

屋敷にはイリーナやルシーナ、サリーナ、そしてリーナは屋敷から出ない様に指示している。

 

ミノ娘たちやセバス、メイドさんたちにも同様の指示を出している。

 

・・・なぜか、謎の生物二匹のジョージとジンベーは泣きながら俺の頭に飛びついて来たので連れて来ている。俺の頭に二匹も謎の生物が乗っているのに、普通に会話してくれた弓矢隊の隊長であるヤーネンには感嘆を禁じ得ない。

 

 

 

 

 

 

 

『ボス!<古代竜(エンシェントドラゴン)>王都バーロンへ接敵します!接敵まで後五分!』

 

 

 

『了解』

 

 

 

俺は念話でヒヨコ隊長に了解を伝える。

 

 

 

「さて、招かれざる客を迎えるとしましょうかね」

 

 

 

「もう、くるんでっか?」

 

 

 

見ればヤーネンが俺の隣に来ていた。

 

 

 

「ああ、後五分で見える」

 

 

 

「お前ら!気合い入れて行くんやで!空飛ぶ蜥蜴がナンボのモンじゃ!」

 

 

 

「「「おおお――――!!」」」

 

 

 

おお、なかなかカリスマ性があるじゃないか。

 

 

 

 

 

「ガアアアアアアアア!!」

 

 

 

 

 

ついにその姿を現した<古代竜(エンシェントドラゴン)>。

 

 

 

「はははっ!これでバルバロイ王国も終わりだ!」

 

 

 

よく見れば<古代竜(エンシェントドラゴン)>の頭に誰かしがみついて喚いている。なるほど、あれがドラゴニア王国のバーゼル国王陛下というわけか。小物だな。

 

 

 

古代竜(エンシェントドラゴン)>の咆哮に弓矢隊の兵士たちが竦み上がる。

 

 

 

「お前ら!ボケっとすんな!気合い入れや!そんなしょーもない態度で空飛ぶ蜥蜴から王国を守れると思っとるんか!」

 

 

 

「「「おおお―――――ッス!!」」」

 

 

 

おおっ!鼓舞で兵士たちを立ち直らせたぞ! ヤーネンやるなあ。大阪弁っぽく聞こえるのはきっと地方の出身なんだろう。

 

 

 

「斉射用意っ! 指示があるまで待て!」

 

 

 

「「「おおお――――ッス!!」」」

 

 

 

弓矢隊、頼りになりそう。

 

 

 

やがて<古代竜(エンシェントドラゴン)>が近づくにつれてその姿がはっきりしてくる。

 

体長は20mを越えそうな巨大な姿だ。

 

さすが<古代竜(エンシェントドラゴン)>、大迫力だ。ジェラシック何とかなんて目じゃないね。これが動物園だったらよかったんだろうけどな。

 

 

 

「行けっ!ミーティア!バルバロイ王国を火の海に沈めるのだ!」

 

 

 

古代竜(エンシェントドラゴン)>の頭の上で何やら棒を振り回して騒いでいるバーゼル。やかましい奴だ。

 

 

 

「グオオオオオオオ!!」

 

 

 

ファイア・ブレスを放つ<古代竜(エンシェントドラゴン)>。このままでは外壁の上にいる弓矢隊の多くが炎に包まれてしまう。

 

 

 

「<細胞防御(セル・ディフェンド)>」

 

 

 

右手を掲げて被膜状にスライム細胞を広げて火炎を防御する。

 

さすが<古代竜(エンシェントドラゴン)>のファイア・ブレスだ。火炎に魔力が練り込まれている。通常の火炎防御では防ぎきれない威力だ。

 

 

 

できれば某大魔王様みたいに「喰らい尽くせ、グラ〇ニー!」とか言ってきれいさっぱり消して見たいところだが、残念ながらノーチートの俺にはそれは難しい。

 

細胞(セル)・捕食吸収(アブソ-プション)>は捕食した対象をスライム細胞で吸収する技だが、俺は吸収するために自分のスライム細胞で魔力ぐるぐるエネルギーに変換する必要がある。魔力に近いものであれば捕食吸収しやすいが、そうでないものは変換がうまくいかなかったり、時間がかかったりする。そんなわけで魔力を纏うとはいえ、強力なドラゴンブレスの純粋な火炎エネルギーを吸収処理する事は俺には難しいのだ。

 

とりあえずブレスからは守り切るしかない。

 

 

 

吐きまくられるブレスを悉く<細胞防御(セル・ディフェンド)>で防御し切る。

 

 

 

「キュキュ――――!」

 

「ズゴズゴ――――!」

 

 

 

荒れ狂う炎にビビっているのかジョージとジンベーが俺の頭をヒレでペチペチ叩く。痛い。

 

違う、俺に気合を入れようとしているようだ。大丈夫だ、あんな空飛ぶ蜥蜴に負けはしない。

 

 

 

「何をやっているんだ!ミーティアよ!早く王都を火の海にするのだ!」

 

 

 

暴れる小物。ザコ臭が漂うな。

 

 

 

パキーン!

 

 

 

「な!? 支配の王錫が!?」

 

 

 

どうやら<古代竜(エンシェントドラゴン)>を使役するための魔道具が壊れたようだ。あはれなりけり。

 

 

 

『グハハハ!これで我は自由よ!』

 

 

 

頭の上の小物を振り飛ばす<古代竜(エンシェントドラゴン)>。

 

 

 

「うわ―――――!!」

 

 

 

小物が何故かこちらへ飛んで来る。ギャグ漫画なら頭から突っ込んで埋まるところだろうが、現実世界だからな。このままでは間違いなく王都の外壁に叩きつけられてキタネェ花火になって死ぬだろう。

 

 

 

「<スライム的捕縛網(スライキャッチャー)>」

 

 

 

俺は飛んで来た小物をスライム網でキャッチする。どうせキャッチするなら美人の女の子の方がいい。小物とかいらん。

 

 

 

「グラシア団長、この小物を一応捕まえておいてくれるかな?」

 

「了解しました、伯爵」

 

 

 

「貴様!誰が小物か!余を誰だと心得る!」

 

 

 

グラシア団長に引き渡したバーゼルがやかましく吠える。

 

 

 

「制御不能になった<古代竜(エンシェントドラゴン)>に振り落とされて死にそうになった小物だろ? 文句あるなら、同じ高さからもう一度落っことしてやろうか?」

 

 

 

俺がじろっと睨むと、口をパクパクして黙り込むバーゼル。

 

 

 

「さて、<古代竜(エンシェントドラゴン)>とやらがどれほどのものか見てやるか」

 

 

 

そう言って俺は頭の上のジョージとジンベーをフィレオンティーナに渡して抱かせる。

 

 

 

「キュキュ~~~」

 

「ズゴズゴ~~~」

 

 

 

何でか知らないが大人しく手を振る二匹。文句が無くて何よりだ。

 

 

 

バサリッ!

 

 

 

以前カッシーナが出した薄緑色に輝く翼を出す。

 

翼を出した矢部裕樹の姿を見せた事があるのは今までカッシーナだけだったが、今はスラ神様の加護を持つ身だからな。翼ぐらい生えてもいいだろう。

 

 

 

『グハハハハ!もののついでだ!我が怒りを人間どもにぶつけてやろう』

 

 

 

ああ。そういう(ヒト)ね。なら遠慮はいらないか。

 

 

 

高速飛翔(フライハイ)!」

 

 

 

俺は翼を広げて大空に飛び上がる。

 

 

 

「さあ、大きな空飛ぶ蜥蜴よ、その力を見せてもらおうか?」

 

 

 

俺は思いっきり啖呵を切る。

 

何と言ってもラノベではまさに王道!大興奮間違いなしの手に汗握るドラゴンとの戦闘シーン!今こそマンキツせずして何がラノベ大魔王か!

 

 

 

『グハハ、不遜なる者よ!その矮小な身で我に立ち向かうと言うか!』

 

 

 

巨大な翼を広げてその巨体を宙に合わせる<古代竜(エンシェントドラゴン)>。

 

 

 

「光の精霊ライティールよ、その力を貸してもらうぞ?」

 

 

 

『ボクの力を使うのかい?いいよ、いくらでも力を貸すよ』

 

 

 

光の精霊ライティールは金髪ボブカットのボクッ娘だ。風の精霊ウィンティアと被り気味だが、より少年っぽい。短パンだし、胸はペッタンコだし。

 

 

 

『キミは何か良からぬ事を考えていないか?』

 

 

 

「キノセイデス」

 

 

 

そう言いながら<古代竜(エンシェントドラゴン)>に光の精霊魔法を放つ。

 

 

 

「<光の矢(ライトアロー)>」

 

 

 

光の精霊ライティールの力を使用した光の矢が<古代竜(エンシェントドラゴン)>に向かうが、パキーンとあっさり消滅した。

 

 

 

『クハハ、なんとも貧弱・・・』

 

 

 

そう笑おうとした<古代竜(エンシェントドラゴン)>の表情が固まる。

 

 

 

キュアアアアアア!!

 

 

 

俺の指先に凄まじい光が集まっている。

 

 

 

「<閃光の投擲(シャイニングジャベリン)>!」

 

 

 

シュオォォォォォ! ズガン!!

 

 

 

『グォォォ!?』

 

 

 

古代竜(エンシェントドラゴン)>の眉間を寸分たがわず捕らえる。

 

刺さりはしなかったが、衝撃は与えたようだ。

 

 

 

『き、貴様! ゆ、ゆるさんぞ・・・?』

 

 

 

顔を上げた<古代竜(エンシェントドラゴン)>ミーティアが見た物、それは数多くの光の球に囲まれている自分だった。

 

 

 

「<荒れ狂う流星(シャイニングミーティア)>」

 

 

 

大量に浮かべた光の球はまるで四方八方から<古代竜(エンシェントドラゴン)>に襲い掛かる。

 

 

 

ドドドドドン!!

 

 

 

『ゴハッ!』

 

 

 

光の玉を喰らった<古代竜(エンシェントドラゴン)>は煙を上げながら空中で姿勢を崩す。墜落こそしないが、そこそこダメージが通ったようだ。

 

 

 

まあ、<荒れ狂う流星(シャイニングミーティア)>は光の精霊魔法の中でも上位の部類に入る。

 

例え<古代竜(エンシェントドラゴン)>であろうと、その魔法防御壁を貫くことが出来るようだ。

 

 

 

『ウググ・・・貴様ッ!タダで済むと思うなよ!』

 

 

 

ダメージを負って無茶苦茶に暴れ出す<古代竜(エンシェントドラゴン)>。

 

俺は翼を羽ばたかせブンブンと振り回される前足を素早く回避する。

 

 

 

「まあ、お前の力は大体わかった。もう暴れないで住処に帰るなら見逃してやらんこともないが?」

 

 

 

古代竜(エンシェントドラゴン)>相手に上から目線で提案する。

 

 

 

『ふ、ふざけるなぁ!』

 

 

 

火炎のブレスを吹きまくりながら暴れまくる<古代竜(エンシェントドラゴン)>。

 

ふむ、遠慮はいらないようだ。

 

 

 

「ベルヒア、ダータレラ。思いっきり力を借りるよ」

 

 

 

「いいわ、私の力はヤーベの物よ?」

 

「貴方・・・深淵覗いて見る?」

 

 

 

土の精霊ベルヒアねーさんと闇の精霊ダータレラだ。

 

二人から力を借りて強力な精霊魔法を唱える。

 

 

 

「<深淵の重力場アビス・グラビディ>!!」

 

 

 

『ウグォ!?』

 

 

 

地面より発生する圧倒的な重力場により、地面に墜落する<古代竜エンシェントドラゴン>。

 

 

 

ズトオオオオオン!

 

 

 

『ガハッ!こ・・・こんなバカな・・・』

 

 

 

地面に縫い付けられるように押さえつけられ、自由に動けずに唸り声を上げる。

 

 

 

「さて・・・順応にならぬと言うなら、後は食べるしかないか」

 

 

 

俺は両腕を組みながら呟く。

 

 

 

『ヒイッ!?』

 

 

 

<古代竜エンシェントドラゴン>の目に恐怖の色が浮かび上がる。

 

 

 

「キュキュ―――――!!」

 

「ズゴズゴ―――――!!」

 

 

 

お、謎の生物ジョージとジンベーがふわふわと飛んできて俺の頭に乗る。

 

コイツら仲いいんだよな。なぜか俺の頭の上に重なって乗るのが好きなようだ。

 

 

 

『・・・神獣様!?』

 

 

 

え?今なんて?

 

 

 

『・・・それも二柱も!?』

 

 

 

・・・コイツらが神獣・・・マジで!?

 

 


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