転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?   作:西園寺卓也

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今回、珍しくヤーベ君が出て来ているのに三人称で書かせてもらいました。

ヤーベ君のおバカぶりを外から見て頂きたかったので(^^;)
いつもは女性の方からヤーベに迫って来る?パターンが多い中、ヤーベ君一世一代の告白?ぜひぜひご覧くださいませ!


第232話 せっかく異世界なんだからラノベのお約束張りに全力でクサイセリフを口にしよう

黄昏時―――――

 

 

 

ノーワロディは自身の居城であるゴルゴダード城の三階にあるバルコニーに出ていた。

 

今日は天気が良かったせいか澄んだ青空であったが、今は太陽も大きく傾き、オレンジ色の優しい光で空に散らばった雲を照らし出していた。

 

 

 

「一体どうなっているの・・・」

 

 

 

ノーワロディは独り言ちる。

 

ゴルゴダ・ヤーンの報告を受け、近くの村まで軍を撤退させた。

 

その代わりドラゴニア王国王都とランズの村の情報を集めさせている。

 

だが、その状況はいまだにはっきりとわからぬものであった。

 

 

 

そのノーワロディを屋根から見つめる存在が。

 

 

 

『フッ・・・ヤツ・・が一人になったぞ』

 

『チャンスだな・・・。ボスを呼び寄せよう』

 

 

 

ヒヨコのサスケと狼牙のハンゾウ。隠密という特別な立場を与えられた新参者たちである。

 

サスケとハンゾウはボスであるヤーベに古参の者達を差し置いて新参者の自分たちに特別な役割を与えてくれた事をことのほか感激していた。それだけに、その恩に全力で報いねばならないとその任務に並々ならぬ執念を燃やしていた。

 

 

 

『ボス、聞こえますか?サスケです』

 

 

 

サスケはヤーベに出張用ボスを通じて連絡を取った。

 

さすがにヒヨコの魔力では国を越えてヤーベに長距離念話を飛ばすのは難しいので、出張用ボスを預かっている。

 

もちろん、出張用ボスは長距離念話のためだけではない。狩った魔物収納のために亜空間圧縮収納機能を使うためでもあり、転移の扉を開くためでもある。

 

 

 

『サスケか。どうした?』

 

 

 

『グランスィード帝国の女帝ノーワロディが一人になりました。今がチャンスです』

 

 

 

『・・・ウム、すぐに行く』

 

 

 

少しばかり緊張して声が上ずったヤーベを、珍しいこともあるものだとサスケは驚いていた。常に冷静沈着で的確な指示を出すボスも緊張する事があるのか・・・。そんな思いでボスの到着を待った。

 

 

 

「ノーワ様!情報部の一人が帰ってきました!」

 

 

 

「なに!どこだ!」

 

 

 

「こちらです!エントランスに待たせてあります!」

 

 

 

「すぐに行く!」

 

 

 

バルコニーで佇んでいたノーワロディは部下からの報告に大股で歩き出すとバルコニーを出て行ってしまった。

 

 

 

バルコニーを出て廊下を左に進み、エントランスに向かったノーワロディと入れ違うように、右手から廊下をゆっくりゆっくり歩いて来た女性がいた。

 

しばらく寝たきりで休んでいたノーワロディの母親、魔族のアナスタシアであった。

 

 

 

「ふうっ・・・ふうっ・・・」

 

 

 

廊下に手を付きながらゆっくりと歩いてくるアナスタシア。

 

 

 

「ずっと寝たきりだったから・・・足の筋肉が言う事を聞かないわね・・・」

 

 

 

独り言ちながらバルコニーに辿り着き、その夕日を全身に浴びる。

 

 

 

「なんて綺麗・・・」

 

 

 

「ですが、その美しい夕日も貴女の美しさの前には単なる引き立て役に成り下がる」

 

 

 

「えっ?」

 

 

 

誰もいないと思っていたバルコニーの端から声がしたのでそちらに振り向くと、そこには男の姿があった。

 

夕日を見つめていたアナスタシアに声を掛けた者。そう、我らがヤーベであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ノーワロディが一人きりになるタイミングがあったら呼んでくれ』

 

『了解しました!』

 

 

 

元々サスケにそんな指示を出していたヤーベ。

 

狙いはドラゴニア王国の解放にあった。

 

戦争などしたくないので、とりあえず元の状態に戻しませんか?と交渉するつもりであった。

 

 

 

そのため、サスケの呼び出しのタイミングで意気揚々とやって来たのだ。

 

「女帝」と聞いたため、意味不明にテンションを上げて。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あの・・・どちら様でしょうか?」

 

 

 

「見てごらん? 夕日も貴女の美しさに照れてしまって・・・ほら、こんなに赤くなっている」

 

 

 

ゆっくり歩み寄りながら夕日を指さすヤーベ。クサイ。クサすぎる。

 

 

 

「ふえっ!?」

 

 

 

アナスタシアのそばまで歩み寄ったヤーベはアナスタシアの肩を抱いた。

 

アナスタシアはまだ足腰が弱く、急には動けず、あっさりヤーベの腕の中に納まってしまった。

 

 

 

「貴女は美しい・・・。黄昏の光を浴びてオレンジ色に輝く金髪はまるで女神のようだ。その瞳も黄昏の光を湛えて琥珀のような柔らかい光を放っている。ああ、その目に僕は吸い込まれそうだ」

 

 

 

右手でアナスタシアの肩を抱いたまま仰々しく左手を動かし、オーバーにそんなセリフを吐くヤーベ。

 

 

 

「はわわわわ・・・」

 

 

 

顔を真っ赤にしてあわあわするアナスタシア。

 

何せ十代半ばと言う若さでガンダレスに捕らわれてしまい、その後十四年もの間幽閉されていたのだ。現在三十代前半とはいえ、男に対する免疫はゼロである。なにせ男の経験はガンダレスしかなく、今まではガンダレスから人形でも相手にするかのようなひどい扱いを受けてきたアナスタシアである。そんな心に大きな傷を負った少女のようなアナスタシアは初めて異性に褒めちぎられ優しくされてしまった。

 

 

 

下劣で粗野なガンダレスなどとは違って、気品?があり、優しい笑みを浮かべて魔法?のような言霊を紡ぎ出し、自分を褒めちぎってくれる存在。

 

そう!今まで一度も女として優しくされたことの無い魔族の姫は初めて女として優しくされてしまったのである!

 

 

 

娘のノーワロディが自分に優しくしてくれるのは「家族」の愛である。

 

それはアナスタシアにもよく理解できた。

 

だが、この男からは発せられる優しさは「家族の愛」とは違っていた。

 

いつも無理矢理乱暴に扱われ、人形の様に心を閉ざしていたアナスタシア。そんな地獄から解放してくれた娘に愛される日々にやっと心の安らぎを取り戻し始めた今、新たな感情がアナスタシアに押し寄せて来ていた。

 

 

 

 

 

 

 

微笑みながらヤーベは思った。

 

 

 

(女帝さん、フィレオンティーナに勝るとも劣らないほどの爆乳の持ち主さんではないか! この華奢な腰つきに対して似合わない胸!世界七大ミステリーの一つに違いない!)

 

 

 

そんな事を心の中で考えていたヤーベ。サイテーである。そして、残り六つのミステリーについては謎のままである。

 

 

 

「そんな美しい貴女に戦争なんて似合わない。そう、夕日さんもそう言っていると思いませんか。ほら、こんなに優しく温かい」

 

 

 

そう言って右肩を抱いたまま左手でアナスタシアの右手を取り、手を握る。自分の手のひらの体温を伝えて温かさを優しさに変換、心まで温めようと言うヤーベの作戦であった。

 

ちなみにスライムであるヤーベに体温はない。

 

イリーナ曰く、ひんやりして気持ちいい、らしいので、ここは魔力ぐるぐるエネルギーでスライム細胞を活性化。体と手のひらの温度を少し上げて温かさを演出している。無駄にスライム細胞の扱いがうまくなっているヤーベであった。

 

 

 

「あ、あのっ!そ・・・そのっ・・・え?戦争」

 

 

 

褒められていたアナスタシアはテレテレのまま急に「戦争」の単語にキョトンとした。

 

 

 

「ええ・・・、戦争なんてしてたら、心が殺伐として貴女の美しさが失われてしまう・・・。そんなこと僕には耐えられない。僕は貴女ともっと仲良くなりたい。(友達として)付き合っていけたら、(両国にとって)素敵な関係になれると思うのです」

 

 

 

全力の「ニコッ☆キラリン」(何故か歯の一本が夕日を反射して光る演出付き:もちろん魔力ぐるぐるエネルギーによる)でセリフを紡ぐヤーベ。

 

 

 

「ええっ!? もっと仲良く・・・(恋人、いつか夫婦として)付き合って行けたら・・・、(二人にとって)素敵な関係に・・・」

 

 

 

顔をゆでだこの如く真っ赤にして今にも頭からシュ~~~~と煙が噴き出そうなアナスタシア。今、この瞬間、アナスタシアは魔族でもなく、国母でもなく、母親でもなく、正しく一人の少女であった。そう、例え三十を過ぎていたとしても。

 

 

 

「ん?」

 

 

 

自分にチートがない事はわかっているものの、せっかく異世界に来たのだから、一度はラノベのチート鬼モテ主人公キャラを地で行くかの如くゲキクサのセリフで女性に迫ってみようと気合を入れてきた(一応平和のためにという理由あり)ヤーベであったが、アナスタシアの体調がおかしい事に気が付く。

 

 

 

つないでいた左手を離すヤーベ。

 

 

 

「あっ・・・」

 

 

 

急に失われるぬくもりにとても切なさを感じてしまったアナスタシアは、とても寂しそうな声を上げてしまう。だが、次の瞬間、

 

 

 

「ふぁっ!?」

 

 

 

その左手のひらを自分のおでこに当てられたアナスタシア。

 

余りの驚きに声が裏返ってしまった。

 

そしてヤーベの顔がアナスタシアの顔に近づく。

 

 

 

「~~~~~!」

 

 

 

「ん~~~、微熱があるね。それに魔力が体中から霧散するように少しずつ漏れ続けているね」

 

 

 

今度は驚愕の表情を浮かべるアナスタシア。

 

一目で自分の状態を見破られたことに驚きを禁じ得ない。

 

 

 

「ねえ、こんな症状何か知ってる?」

 

 

 

急に虚空ヘ話しかけた男を、どうしたのかと見つめるアナスタシア。

 

次の瞬間、

 

 

 

「珍しい症状ですわねー」

 

「僕は見たことあるよ」

 

「あーら、かわいいお嬢さんね~」

 

「ヤーベ、また女性を口説いているのか?」

 

「ははっ!キミはいつも規格外だな」

 

「魔力回路が痛んでいます・・・」

 

 

 

風の精霊シルフィー、水の精霊ウィンティア、土の精霊ベルヒア、炎の精霊フレイア、光の精霊ライティール、闇の精霊ダータレラ。まさかの六大精霊顕現にさしものアナスタシアも驚き過ぎて声が出ない。

 

 

 

「どうやったら治るかな?」

 

 

 

「どうやら魔力回路の損傷による魔力欠乏症のようですわね・・・。衰弱して魔力回路が異常を来しているようです。ヤーベ様はご自身の魔力が膨大ですから、虚弱した彼女の魔力回路を強引にこじ開けるように魔力を流し込めば体調が改善できるはずですわ」

 

 

 

闇の精霊ダータレラが対処方法を語る。

 

 

 

「なるほど・・・こうかな?ちょっと失礼」

 

 

 

そう言ってヤーベはアナスタシアの両肩を掴むと、自身の魔力ぐるぐるエネルギーを流し込んでみる。

 

 

 

「ふあうっ!?」

 

 

 

余りの感触に体をビクリと震わせる。

 

 

 

「肩周りにヤーベ様の魔力が入り込みましたね・・・。全身を回る様に魔力を流し込めば体調が完全に回復するでしょう」

 

 

 

「やってみよう」

 

 

 

闇の精霊ダータレラの説明に頷くヤーベ。

 

 

 

「ぜ、ぜぜぜ全身!?」

 

 

 

全身と聞いて体を震わせるアナスタシア。この男に触れられた肩の部分がじんわり熱くなって心地よくなったと思ったら、一気に体の中に魔力が入り込んできて体の中を掃除してくれるような気持ちよさが伝わって来た。これが全身ともなると逆に恐ろしい気持ちになってしまう。

 

 

 

「さあ、魔力を注ぎ込むよ」

 

 

 

「い、いや・・・わたくし、怖い・・・」

 

 

 

ヤーベの腕の中で身を捩らせるアナスタシア。捩らせるだけで、ヤーベの腕の中から逃げようとはしない。

 

 

 

「大丈夫だよ。さあ、僕に身を任せて・・・」

 

 

 

またも全力の「ニコッ!」を発動させるヤーベ。

 

アナスタシアはこわばらせていた体の力が抜けて行くのを感じた。

 

 

 

「や、優しくしてください・・・」

 

 

 

涙目のアナスタシアはヤーベの腕の中から上目使いにそう言った。

 

 

 

「もちろんだよ・・・」

 

 

 

「あの、お名前を・・・お名前をお教えいただけますか?」

 

 

 

「僕はヤーベと言います、美しい女帝さん」

 

 

 

女帝と言われて一瞬「?」となるアナスタシアだが、目の前の素敵な男の名前が「ヤーベ」と判明したことに比べれば些細な事であった。

 

 

 

「さあ、行くよ?」

 

 

 

そう言って魔力を流し込んで行くヤーベ。

 

 

 

「ふあっ!あ、あつい! ヤーベさんのあついのが、私の中に、入ってきますぅ!」

 

 

 

とんでもない表現をするアナスタシアにヤーベの表情は引き攣るが途中でやめるわけにはいかない。ぐっと魔力を込める。

 

 

 

「あ、ああ・・・! どんどん、ヤーベさんの・・・(魔力が)私の中で大きくなっていきます!」

 

 

 

魔力を流し込んでいるので絶対量は多くなっているのだが、大きくなっているわけではない。

 

 

 

「もう少しだ・・・もう少しで(全体に魔力が回り切る!)」

 

 

 

魔力を送り込む手に力をかけるヤーベ。

 

 

 

「ああ!もっと!もっとヤーベさんの(魔力)がわたくしの中に入ってくりゅうぅぅぅぅ!あついよぉぉぉぉぉ!」

 

 

 

もはやろれつも回らない勢いで絶叫するアナスタシア。

 

そして魔力を全身に流し切って回路が繋がり、自己魔力循環がつながったアナスタシアは、急に魔力循環が回復したためか、体に負荷がかかり・・・

 

 

 

「きゅう・・・」

 

 

 

と気絶してぐったりしてしまった。

 

急にヤーベの腕の中でカクンと体を折るアナスタシア。

 

 

 

 

 

 

 

『・・・どうするサスケ?』

 

 

 

屋根の上で事の流れを一部始終見ていた狼牙のハンゾウは汗をダラダラと流しながら頭の上のサスケに聞いた。

 

 

 

『・・・今更人違いなどと、どうして言えようか・・・』

 

 

 

こちらも汗をダラダラと流すヒヨコのサスケ。

 

 

 

そう、ノーワロディが一人でバルコニーに出たところを見計らって出張用ボスを使った長距離念話でヤーベを呼び出したまでは良かったのだが、ヤーベが現れるまでのタイムラグの間に、ノーワロディが移動してしまい、入れ違いにまさかノーワロディの母親であるアナスタシアが同じ場所に現れるとは神でも気づかぬ偶然であろう。

 

 

 

「何!今の絶叫みたいな悲鳴は!?」

 

 

 

そこへノーワロディがバルコニーに駆け込んできた。

 

目に映る光景は怪しい男が自分の母親を腕に抱いているシーン。

 

しかも母親は男の腕の中でぐったりして気を失っているようだ。

 

その状況から推測される結論は、ただ一つ。

 

 

 

「貴様!我が母を誘拐するつもりか!」

 

 

 

眉を吊り上げ、右手の人差し指をビシッ!と突き付けるノーワロディ。

 

まさか自分の母親がバルコニーで口説かれているとは想定外のさらに外であろう。

 

 

 

「へっ・・・誰?」

 

 

 

突然現れた美少女に、首を傾げるヤーベ。女帝に娘がいるなんて情報無かったんだけど・・・などと頭を捻っている。何気に呑気な男であった。




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