転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!? 作:西園寺卓也
パンパン!
大会議室に手を叩く乾いた音が響いた。
見ればリヴァンダ王妃が二度手を叩いて立ち上がっていた。
「少し空気を入れ替えるためにも休憩しましょうか。皆様一度会議室から出て頂けますか?」
そう言って宰相のルベルクに視線を送るリヴァンダ王妃。
「そうですな、ちょっと落ち着くためにも一息入れましょうか。外の空気を吸いに行きましょう」
そう言って貴族たちに席を立って会議室を出る様に急かす。
俺の<気配察知>、<魔力感知>などの能力で、俺が土下座中の貴族たちのコソコソトークも聞こえている。
大半、俺がカッシーナ王女に頭が上がらない、完全に尻に敷かれている軟弱男のイメージが根付いたようだ。俺としては作戦大成功だ。俺の力を脅威に思う人間もまだいるだろう。それこそ、バルバロイ王国に牙を剥くような事があっては一大事と考えていたりするかもしれない。そんな人間からすると、今の俺はかなり安全パイに見えるだろう。
何人もいる奥さんに頭の上がらない、ショボイ男のイメージを植え付けておけば、俺を危険視する連中も減るだろう。
わらわらと出ていく貴族の皆様方。
とりあえず土下座を解くタイミングを推し量ろう。
「ふふふ、この後大事な話があるのであろう?私もこの場に残ろうかのう?」
キルエ侯爵が面白そうにつぶやく。
「悪いけど、侯爵もご遠慮なさって?」
リヴァンダ王妃がキルエ侯爵にクギを刺す。
「それは残念じゃの」
そう言ってキルエ侯爵も会議室を出ていく。
フレアルト侯爵なぞ、「ケッ!なっさけねぇ!」と俺を見下しながら出て行った。
思惑通りだとは言え、アイツに突っ込まれるのは腹が立つな。
会議室に残っているのは俺とカッシーナとリヴァンダ王妃、そしてワーレンハイド国王だけになった。
ちなみに俺はまだ絶賛土下座中だ。辞め時を完全に逸してしまった。
「さて、もういいですわよ、スライム伯爵・・・いえ、ヤーベさん」
リヴァンダ王妃の声に俺は顔を上げる。
「お、お母さま・・・?」
メソメソしていたカッシーナがリヴァンダ王妃の方に顔を向ける。
「ヤーベさんの演技で、王国中の貴族の大半はヤーベさんがカッシーナに頭の上がらない気弱な旦那様で、かかあ天下の家庭を築くだろうと思ったでしょうね。そして、そんな弱腰な夫は、このバルバロイ王国に弓引くことなどありえないだろう・・・とも」
少し冷たい印象を受けるリヴァンダ王妃の視線。
なんなら、逆に俺の事を信用し切れないとでも言いたげだな。
俺は心から言いたい・・・「ボクは悪いスライムじゃないよっ!」・・・と。
「なぜ、道化を演じてまで、その力を隠そうとするのです?」
さらに冷たい目を向けるリヴァンダ王妃。
なぜ・・・と言われても、とりあえず奥さんズの面々やカッシーナに怒られたら土下座でやり過ごす以外に有益な方法が思いつかないだけのことで。
とりあえず俺はそっと立ち上がる。そしてリヴァンダ王妃に笑みを向ける。
尤もかなり苦笑いになっているかもしれないが・・・。
「私自身、大した力など持っていないと自負していますがね・・・。美人に泣かれるのは性に合わないので」
ハハン、といった感じで肩を竦める。
「ヤーベ様・・・」
涙を拭いて落ち着きを取り戻すカッシーナ。
「・・・ふう、それは置いておきましょう。そしてごめんなさい。カッシーナの教育が出来ていなくて」
そう言ってリヴァンダ王妃は俺に向き直ると深々と頭を下げた。
「お、お母さま!?」
「おいおい・・・」
カッシーナにワーレンハイド国王がリヴァンダ王妃の謝罪に驚く。俺も驚いた。まさかリヴァンダ王妃が頭を下げるとは。
「カッシーナは五歳の時に事故で半身に大けがを負ってしまってからというもの、ずっと引きこもりだったので・・・。王家として、王族の教育をほとんど行っていないのよ。だから、ヤーベさんが戦争回避のためにグランスィード帝国の女帝との関係を築くつもりで出かけて行ったことも多分許せないくらいの気持ちでいると思うわ」
はあ、と溜息を吐きながらカッシーナを見るリヴァンダ王妃。
「お。お母さまはお父さまが別の国の王女や女王を娶ったり口説いたりしてもよいのですか!」
「あたりまえじゃない。必要とするならば当然認めますよ。例えばグランスィード帝国の女帝との婚姻なら、諸手を上げて賛成しますよ?」
「お。お母さま!?」
リヴァンダ王妃の答えに信じられないという表情のカッシーナ。
「このバルバロイ王国にドラゴニア王国を降し、そしてグランスィード帝国の女帝と婚姻を結べたら、この大陸の三分の一を抑えることが出来る。これほどの好条件を指を咥えて見逃す手などありませんよ、カッシーナ」
冷静に自分の娘を見つめるリヴァンダ王妃。
「そ、そんな・・・」
「それより、貴女こそどういうつもりなの? 規格外の英雄たるヤーベ様と婚姻を結べることになったのに、その足枷になるつもりなの? それでも王族の血が流れているのかしら?」
畳みかけるリヴァンダ王妃の言葉に絶句するカッシーナ。
「まるで御伽話のお姫様みたいに王子様に助けられて末永く幸せに暮らしました、みたいな物語が現実にあると?」
「お、お母さま!だから私はヤーベ様を・・・!」
「それで? ヤーベ様に自分だけを見ろと? 自分より先に奥さんになる人たちは我慢するけど、自分より新しく現れた女は許さないと?」
「あう・・・」
リヴァンダ王妃の追及に二の句の告げないカッシーナ。
「貴女、英雄の妻になるという意味が分からないなら結婚なんてやめなさいな」
「そんなっ!!」
残酷な現実を教えるかの如く突き付けるリヴァンダ王妃。
「貴女の我儘でヤーベさんがうまく動けずに帝国と戦争になったら、貴女が責任を取るの? 我が国民に対して貴女は何と言うの?」
「はうっ・・・」
「貴女が感情だけを振り回して物事を決められるほど王家の血は軽くはないのですよ」
カッシーナの目が涙に揺れる。
リヴァンダ王妃の言わんとすることは何となくわかる。
王族であればこそ、国民を守る義務があるのだろう。それはつまり、国を守るということでもある。
王族としての血を残すと言う意味以外で言うならば、その婚姻が国の繁栄や防衛に繋がるのであれば是非もないと言う事なのだろう。
「なんなら、ヤーベ様には各国のお姫様を娶って大陸制覇を成し遂げて頂いてもよろしいのですよ?」
腕を組んで、どうです、この作戦?みたいな目線を送られても。
そんな大陸制覇にハーレム生活って、ラノベでもなかなか無いシチュエーションではないだろうか?ノーチートの俺は元より、チート満載のラノベ主人公でもそうは成功しないだろう。そんな偉い立場の女性を何人も囲ったら心が持たない。間違いなく。心労で禿げそうだ。スライムだから髪ないけど。
「そんな器でもありませんし、なんだかそれはロクでもない男のような気がしますから遠慮しておきますよ。前にも言いましたが、国を治めるなんてメンドクサイことこの上ないですし」
俺が欲しいのは心の安寧であって、大陸制覇でも各国の姫でもない。神としてあがめられることでも魔王の称号でもない。ないったらない。大事な事だから二度言おう。
「・・・それで、どうするのかね? 帝国への対応は?」
ワーレンハイド国王が会議冒頭の問いに戻る。
「その前にドラゴニア王国をどうするかです。捕らえたバーゼル国王をどうするのか。それによって対応が変わります」
俺は国王ワーレンハイドを見つめる。
「うむ・・・」
ワーレンハイド国王も腕を組み、考えをめぐらすように視線を宙に彷徨わせる。
ドラゴニア王国、そしてその向こうのグランスィード帝国。
バルバロイ王国はそれらの国への対応について、正に岐路に立たされたのであった。
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