転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?   作:西園寺卓也

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第239話 その実力を受け止めよう

「さて、得物は何を使うんだい?」

 

 

 

冒険者ギルドが訓練用に置いてある木剣の入れ物を探る俺。

 

通常のロングソードに短めのショートソード、ダガーなどのナイフ。

 

それからスピアーにアックス、ハルバードタイプまであるな。

 

木を削ってこれだけ作るのは見事なものだな。

 

京都の修学旅行生たちが通るお土産屋に、木刀の代わりにこれらが置いてあったらSNSで爆散されること間違いなしの出来栄えだ。

 

てか、京都の修学旅行土産に木製のハルバード2mとか怖すぎる。

 

 

 

「私はこれで戦います・・・」

 

 

 

小さめの声で俺に伝えるヴォーラ。見れば拳を構えている。

 

 

 

「え~と、徒手空拳で戦うって事かな?」

 

 

 

「はい。自分、武道家ですので・・・」

 

 

 

その説明に両目を右手で抑えて上を向く俺。

 

どこの世界に好き好んで魔獣と素手でやりあおうなどと考える輩がいるのか・・・ここにいたけど。

 

武道家って、ゲームの中だけの職業じゃなかったんですね。

 

黄金で出来たツメとか装備してみるか?

 

 

 

だが、逆の見方もできなくはない。武器が無ければ戦えませんでは、冒険者家業を生き残る事は難しいだろう。武器を無くすこともあるだろうし、戦闘中に武器が破損する事だってあり得るだろう。だからと言って徒手空拳がメインです、というのもどうかとは思うのだが。

 

 

 

「・・・まあいい、ヴォーラの実力を試すとしよう」

 

 

 

そう言って俺はギルドが用意した練習用の木剣を収納箱に戻す。

 

 

 

「教官殿が無手で付き合って頂く必要はないのでは・・・?」

 

 

 

ヴォーラが少し首を傾げた。

 

それ自体は当然だ。冒険者として戦う以上、相手は魔獣だったり盗賊だったりするだろう。武器を持っていたりすることの方が多い。

 

だが、あくまでも今はヴォーラの実力を見るのが目的だからな。

 

 

 

「君の実力を見るだけだからね。君に合わせるよ。いつでもかかって来てくれ」

 

 

 

そう言って訓練場の戦闘練習用コートの1面に歩みを進め、無造作に仁王立ちする。

 

見ればいつの間にか野次馬が集まってきている。

 

ゾリアの野郎にグランドマスターのモーヴィンまで来ているな。

 

ヒマか?コイツら。

 

 

 

ヴォーラは両手にグローブをしている。上半身はシャツに毛皮のようなチョッキを纏っているか。下半身はホットパンツと言っても過言ではないほどの短パンだ。それにブーツ。

 

 

 

ヴォーラも俺のいる戦闘コートに入ってくると、一礼して構える。

 

まるで空手のようなスタイルだな。

 

 

 

「獣究空手免許皆伝、熊人族ヴォーラ。参ります」

 

 

 

なんだか沖縄っぽかった!しかも免許皆伝だ!

 

 

 

「ギルドFランク教官のヤーベだ。その実力拝見しよう」

 

 

 

そう言って俺も構える。

 

くっくっく、だが俺は拳を構えない。前に構えた右手は人差し指と中指を緩やかに曲げ、腰に引きつけた左手は抜き手の構えを作る。

 

典型的なドラゴ○ボールの孫悟空スタイルだ。

 

・・・だってしょうがないじゃないか。俺は地球時代空手とかやったことないし。

 

後構えられるのはジャッキー・チェ○主演の酔拳や蛇拳とかだな。あ、これの方がかっこよくてわかりやすかったか。

 

 

 

「はあっ!」

 

 

 

漫画ならばドンッと効果音が付きそうなくらいのスピードでダッシュするヴォーラ。

 

俺は構えを解かずに迎撃するためヴォーラの動きを観察する。

 

 

 

いきなりヴォーラが飛び上がる。

 

 

 

「!?」

 

 

 

何のフェイントもなく、真正面から飛び上がったヴォーラが俺に向かってくる。

 

 

 

「番傘旋風脚!!」

 

 

 

そう言ってクルクルと回し蹴りの要領で回りながら俺に向かって落ちてくるヴォーラ。

 

 

 

「どう見ても竜巻旋○脚なんですけど!?」

 

 

 

俺はツッコミの言葉が思わず漏れてしまう。

 

コレ、どうしたらいいの?威力があるかどうか知らんけど、クルクル回りながらこちらに落ちてくるんだから、ちょっと回避すれば済むことだ。

 

何を持って初手に意味不明な大技?を選んだのか。

 

 

 

とりあえず俺は当たらないギリギリで躱す。

 

すたっと着地したヴォーラはその回転を止め、こちらに連続の掌底を突き出してくる。

 

 

 

「はりゃりゃりゃりゃ!」

 

 

 

よく見れば手のひらが肉厚でぷにぷにしているみたいだ。

 

コレ、当たると痛いんだろうか?当たっても痛くないとか?

 

 

 

そう思いながらもなかなかな鋭さの掌底を両手で防御していく。

 

 

 

「!!」

 

 

 

この娘の攻撃をいなしてみてわかった。

 

この娘、かなりのパワー型だ。防御する腕が押し込まれるような感触がある。

 

流れに沿って撃ち落とすつもりだったが、大して魔力強化していない状況では俺の方が防御していても押されている。

 

 

 

「やっやっや!」

 

 

 

「今度は百裂キックかよ!」

 

 

 

俺は鋭く連続で繰り出されるミドルキックとハイキックの連脚をめいっぱい防御する。

 

この娘、対人戦闘としてはかなり優秀ではないだろうか?

 

 

 

ドコッ!

 

 

 

俺にドロップキックの要領で両足キックをお見舞いしながらバック転で距離を取るヴォーラ。俺は両手をクロスにした十字受けでヴォーラのドロップキックを凌いだが、ビリビリ腕が痺れる。なかなかの威力だ。ゴブリンやコボルド程度なら一撃で吹き飛ぶだろう。

 

 

 

少し離れたヴォーラは再度構える。

 

 

 

「・・・教官殿は攻撃してこないのですか・・・?」

 

 

 

少し不思議そうにヴォーラは俺に問いかけた。

 

 

 

「君の実力がどの程度か判断がある程度ついてから反撃するよ」

 

 

 

そう言って俺も再度構える。

 

俺の言葉が挑発的に聞こえたか、ヴォーラの青い目がギラリと光った気がした。

 

 

 

ドンッ!

 

 

 

再びそんな擬音が聞こえそうなほどの加速で向かってくるヴォーラ。

 

とりあえず迎撃のために、正拳突きを見舞う。

 

 

 

瞬間、ヴォーラの姿が消える。

 

<気配感知>にて下への移動を捉える。だが、視覚だけであれば捉えられなかったほどの切れのある動きだ。

 

 

 

「なにぃ!? スピニング○―ドキックだとぉ!」

 

 

 

俺は驚きのあまり、おもわずツッコミを口にしながら襲い来る脚撃をスウェーして躱す。

 

尤も、ゲームのように空中を逆さに回転しながら飛んでくるわけではない。

 

視線の死角に潜り、逆立ちするような姿勢から回転して回し蹴りを放ったのだ。イメージで言えばカポエイラだろう。ヴォーラも地面に両手をつけて回転しているしな。

 

 

 

「はあっ!」

 

 

 

あ、イカン。下半身を動かさずに上体だけのスウェーで躱したから、まだヴォーラの脚撃範囲内だ。ヴォーラは上半身を跳ね上げ、前転するように高速のかかと落しを放った。狙いはスウェーしきって動けない俺の上半身、胸だ。

 

完全に体重が後ろに流れているため、両腕の防御など力が入らず、ヴォーラのかかとに撃ち抜かれてしまうだろう。それはギルドの教官としては立場上マズイ。

 

 

 

そんなわけで、俺は無理やり躱す。

 

 

 

プルンッ!

 

 

 

通常の骨格では若干?あり得ない、まるでこんにゃくが揺れたかのように腰の部分がくにゃりと後ろに引かれ、ヴォーラのかかと落としを回避する。

 

 

 

「!?」

 

 

 

驚愕の表情を浮かべるヴォーラ。そりゃそうだよな。タイミング的には通常、どうやっても躱せないだろう。俺様のスライムボディでもなければな。

 

それが躱されただけにその衝撃も大きいだろう。

 

 

 

俺はかかと落としを空振りしたヴォーラの顔面に正拳突きを寸止めする。

 

 

 

「そこまで、見事な組手でしたな」

 

 

 

見ればグランドマスターのモーヴィンがパチパチと拍手しながらこちらへ歩み寄る。その後ろにはゾリアもいる。

 

 

 

「なかなかの腕前じゃないか」

 

 

 

だが、その判定を不服としたのは他でもないヴォーラ自身であった。

 

 

 

「待ってください。勝負はまだついていません」

 

 

 

そう言ってグランドマスターのモーヴィンとゾリアを手で制して、俺に正対する。

 

 

 

「今の動き・・・人のものとは思えないのですが。もしかして魔物が化けて紛れ込んでいる・・・?」

 

 

 

死ぬほど物騒なことをブツブツとつぶやくヴォーラ。やべえ、この娘、結構アブナイ娘か?

 

 

 

「どちらにしても、私の最大の必殺技でその正体を暴きます」

 

 

 

そう言うとヴォーラは右拳を引き、腰に当てる。左手は軽く拳を握り、肘を軽く曲げて前に出している。所謂「右正拳突き」の構え。全力で右拳を打ち込むのが彼女の必殺技、という事だろうか。

 

 

 

「はああっ!」

 

 

 

ヴォーラの右手に青白い光が輝きだす。

 

 

 

「この娘・・・<闘気(オーラ)>使いか!」

 

 

 

ゾリアが驚く。<闘気(オーラ)>と来たか。魔法ではない、純粋な生命エネルギーのイメージだが。

 

 

 

「貴方が魔物なら、これで消し飛ぶ・・・」

 

 

 

「物騒だなぁ、おい」

 

 

 

一応先生らしく余裕ぶった態度をとってみるが、果たして大丈夫だろうか。

 

 

 

「<根性の拳(こんじょうのフィスト)!!>」

 

 

 

ズオオッ!!

 

 

 

瞬時に超加速で左足を踏み込み、右足を前に出すとともに右拳を突き出してくる。所謂「順突き」というやつか。

 

 

 

バシィィィィィィ!!

 

 

 

闘気(オーラ)>エネルギーを乗せたヴォーラの右正拳突きを両手で受け止める。激しい音とともに<闘気(オーラ)>のエネルギーが破裂する。

 

 

 

もちろん、強化無しで拳を受けてスライム細胞が飛び散ったりした日にゃ、相当な騒ぎになってしまうので<細胞防御(セルディフェンド)>で強化した両腕で受け止めた。

 

ヴォーラの<闘気オーラ>パワーと俺の魔力ぐるぐるエネルギーがぶつかったためにより派手な音が鳴ったのだろう。

 

 

 

「すごい・・・私の必殺技を完全に止められた・・・」

 

 

 

さすがにかなりのエネルギーを込めたのか、玉のような汗をかき、肩で息するヴォーラ。

 

 

 

「文句なしだ、ヴォーラ。お前は合格だ。ケモミーズへの加入は問題ない。なんならサーシャの代わりにリーダーやってもいいぞ」

 

 

 

真実はいつも一つ!

 

何かいろいろと事情がありそうな娘だが、ヴォーラの実力は本物だ。

 

俺は笑いながら告げると、模擬戦を見ていたサーシャたちが色めきだす。

 

 

 

「ななな、何を勝手なコト言ってるのよヤーベ!リーダーはあくまで私なんだからね!」

 

「すごいにゃ!ヴォーラはこんなに強かったにゃ!」

 

「素晴らしい戦いだったのです。これでケモミーズも安泰なのです」

 

 

 

などとケモミミ三人娘が大いに盛り上がっていた。

 

 

 

「私の<闘気(オーラ)>エネルギーは悪しき存在に触れると激しくスパークして対象に多大なダメージを与えるです。貴方が魔物ではないという証拠なのです」

 

 

 

そう言って笑顔を見せるヴォーラ。

 

こっちが審査しているつもりだったのに、いつの間にか審査されてましたよ。

 

ともあれ、ケモミーズに強力な仲間が入ることになるのはいいことだろう。

 

俺はケモミミ三人娘とヴォーラを見ながら、少なくともヴォーラの加入により、サーシャたちの生還率がより高くなってくれることを願った。

 

 




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