転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!? 作:西園寺卓也
「・・・それにしても、あれほどの逸材が良く一人でふらふらと冒険者登録なぞに来たもんだな?」
俺はゾリアとテーブルを挟んで対面に座り、花豆茶を飲んでいる。
ゾリアも同じものを頼んでいる。さすがに朝一からエールと言うわけにもいかないようだ。
ちなみにケモミミ三人娘とヴォーラは朝食にがっついている。
「あれは、俺の知り合いの武神から預かった娘なんだ」
「ブッ!」
俺は花豆茶を思わず吹き出してしまう。
元々雰囲気が通常の冒険者と違うとは思ったが、とんでもない出目じゃねーか。
後、ゾリア。さらっと出していい単語じゃないぞ、武神って。
「汚ねーな」
「お前のせいだろ!何だよ?武神って!?」
ゾリアはバツの悪そうな顔をしながら花豆茶を飲む。
「うむ・・・実は俺の冒険者時代の師匠的な感じの一人なんだよ」
「一人って・・・師匠何人いるんだよ」
「俺たちの時代はもっと魔獣が跋扈して不安定な時代だったからな・・・生き残るのに必死だったし、もっと殺伐としていた気がするよ」
「そうだったんだな・・・、で? 武神って?」
「ああ、武神ドルフの事だな。徒手空拳の達人で、伝説ではドラゴンも素手で倒したらしいぞ」
ドルフって、名前からしてすげー怖そうな感じじゃないか。
でも、俺も先日三頭黄金竜スリーヘッドゴールデンドラゴン素手で倒したよな。
あ、でもあれは精霊魔法で仕留めたからな。でも初撃は拳で殴りつけたぞ。だけど武神とやり合いたいかといったら、ノーセンキューだ。俺は脳筋でも戦闘狂でも格闘バカでもない。
「で、何で預かる事になったんだ?」
「実は、ずっと山籠もりで修行ばかりの生活だったらしくてな・・・一般常識が全くないらしい」
「ブホッ!?」
達人に育てられて、すげー強くなって、イッケネ、常識教えるの忘れとったって、賢者〇孫かよ!? 大好きなラノベだけど! まさかの俺?ならぬアタシTUEEEE!? ラノベの主人公クラス、キタ―――――!?
「汚ねーな」
「お前のせいだろ! 大体常識無いのに、常識が極めて薄いケモミミ三人娘のパーティに加えて大丈夫なのか!?」
「うーむ、俺もそれが心配なんだ」
「心配ならパーティ加入なんて認めるなよ!」
「まあ、お前が何とかするだろ」
「丸投げか!」
俺は花豆茶の入っていた木のジョッキをテーブルにガンと叩きつける様に置いた。
「しょーがねーだろ、お前以外に適任者なんていねーんだから」
「しょーがねーだろ、じゃねーんだよ!しょーがねーじゃ!」
俺がプリプリ怒っているのが面白いのか、けらけらと笑いながら俺を見るゾリア。
どう考えても、トラブルが起こらないわけがない。心労で倒れる自信がある。
「まあ、俺も気を付けるけど、お前も気にかけてやってくれよな」
「お前はすぐにでもソレナリーニの町に帰る事になるんだろーが!!」
「はっはっは」
「はっはっはじゃねーだろーが!」
「何よ、アンタ!」
俺とゾリアがガチャガチャやり合っていると、サーシャの怒鳴り声が聞こえてくる。
見れば依頼書が貼り出してある掲示板の前で、サーシャたち四人とにらみ合う五人の男たちがいた。
「邪魔だ、亜人の不潔な雑魚ども!」
おいおい、何だ?とんでもない事を口走ってるやつが来たな。
「坊ちゃん、こういう亜人の女は遊びに使うのがちょーどいいんですよ」
「違いねえや」
ゲッヘッヘとゲスな笑いを浮かべる取り巻き。
坊ちゃんってどこの坊ちゃんだ?地球時代なら坊ちゃんは名作なんだが。
「ふざけないで!」
「失礼なのです」
「最悪にゃ!」
「親友ともを守るために振るう力を正義と呼ぶ」
おおう、すでに拳を引こうとしているヴォーラは要注意だな。
サーシャはもちろん、コーヴィルもミミも怒っているな。
「全く、躾のなっていない者どもだな。不敬罪だな。こいつ等を見せしめにひんむいて殺せ」
ピクリ。
俺とゾリアの気配が変わる。
不敬罪。
ラノベのクズ貴族が大義名分で振り回す伝家の宝刀。流れに漏れず、というか、このバルバロイ王国にも制定された法律の中に文言がある。
つまり、ハッタリじゃなければ、少なくとも貴族の当主に名を連ねるものだと言う事だ。だが、あんなクズの取り巻き連れている若造なんて見たことがないけど。少なくとも王城の集まりに居なかった事は確かだ。
「不敬罪が何よっ!」
サーシャがさらに怒鳴り声を上げる。
対応としてはまずいな。どれだけクズ貴族だろうとも、不敬罪の言質を取られるのはマズイ。
人付き合いなどの教育って、それも俺の仕事なんだろうか?
だが、相手は相当いかれた連中のようだ。
「我がゴキナゾール男爵家に楯突くとは、万死に値するなぁ」
若造がサーシャたちを見下しながらほざく。
ゴキナゾール? 殺虫剤かなんかか? それでもってそんな男爵聞いたことないが。
「じゃあ坊ちゃん、不敬罪って事でいっちょ殺っちまいますか」
「不敬罪は死刑だ。殺れ」
「あばよ子猫ちゃんども!」
いきなり剣を抜いて振り上げる取り巻きの一人。
冒険者ギルド内で武器を抜くとは、マジでどうかしている連中だな。
ブンッ!
俺は花豆茶を飲んでいた木のジョッキを剣を振り上げた男の右手めがけて投げつける。
ガツンッ!
「ぐわっ!」
ものの見事に木のジョッキは男の右手甲を直撃する。その衝撃で剣を取り落とす男。
「ヤーベ先生!」
真っ先に俺に気づいたコーヴィルが俺の名を呼ぶ。
「冒険者ギルド内で武器を抜くのはご法度だ」
俺はテーブルを立つと、若造の前に歩み出る。
ヴォーラがあのままコイツらに攻撃を仕掛けていたら、正拳突き一発で良くて肋骨ボキボキ、悪いと内臓が木端微塵で死亡間違いなしだ。
「なんだぁ、貴様? 貴様も俺に逆らうと言うならば不敬罪で死刑だなぁ」
ニタニタとイラやしい笑みを浮かべながら宣う若造。
すごいな、不敬罪のオンパレード、バーゲンセールだぞ。
俺はチラリとギルドの入口に目線を送る。
心得たとばかりにヒヨコが一匹飛んでいく。頼りになるね。
「おい、土下座して僕の靴をペロペロ舐めて泣いて謝れば命だけは助けてやるぞ?」
若造のセリフに取り巻き達がギャハハと笑いだす。
「そりゃいいや、坊ちゃん傑作だ!」
「そうすりゃテメエの後ろの人モドキどもの命も助けてやるよ」
ビクリと身を竦める三人娘と怒りを露わにするヴォーラ。
あ、今なんつった、コイツ・・・? 人モドキ・・・だと!?
ピシリッ!
一瞬空気が固まる様な気配が静寂を生む。
離れた場所で、「あーあ、ヤーベキレさすってどんだけバカなんだよ・・・」とゾリアが頭を抱えているようだが、知った事ではない。
「確かに・・・お前の言うとおり不敬罪だな」
俺がお前の言うとおり、なんて言い方をしてしまったからか、後ろの娘たちに一瞬動揺が走る。違うよ。俺が言いたいのは、自分の行いが自分に返ってくるよ、ということだよ。
「“
「はあっ?何言ってんだテメー?頭おかしいのか?」
そう言って俺の胸倉を掴もうと近寄って来る男。こいつが後ろの娘たちを「人モドキ」と抜かしやがった。
俺は左手を瞬時に伸ばし、男の頬をわしづかみにして、顎を砕く。
ゴシャリ。
「グギャア!」
砕けた顎のせいで口からおびただしい血を流し喚く男。前屈みになったその後頭部をめがけて左足を高々と上げ、かかと落としでギルドの床に顔面をめり込ませる。
ドゴッ!
「ふぐわっ!」
そのまま男の後頭部を踏みつけたまま、俺は連中を見回し、告げる。
「不敬罪だ。お前ら全員覚悟は出来ているんだろうな? 不敬罪は自分が振りかざしたんだ。振りかざした刃が自分に振り下ろされる可能性を考えていなかったとすればそれはただのバカだろうさ。“
「ふ、ふざけるな! こいつを殺せ!」
若造の言葉に一斉に武器を抜いて襲い掛かって来る取り巻き四人。一人高速で沈めても向かって来る根性があるとは、ある意味あっぱれ・・・いや、実力差も気づけないただのバカだな。
前にいた二人をそれぞれ武器を持つ利き手を肘から逆にへし折ってやり、どてっ腹に蹴りを入れる。これで二人が瞬時にダウン。後ろの二人はそれぞれナイフを抜いていたが、固まって動けなくなった。
そのまま俺は若造の胸倉を左手で掴み、引き寄せる。
「ひっ!僕に何かあったら、パパが黙ってないぞ!僕のパパは男爵なんだぞ!」
喚き散らす若造の胸倉を掴んだまま往復ビンタをかます。
バシンバシン!
「うぎゃ!」
「おい、そこの二人」
「「ははは、はいい!」」
「今すぐコイツの親とやらを連れて来い。ここに今すぐだ」
「いいい、今すぐですか?」
「それはいくら何でも・・・」
「親が来るまでずっとこいつに往復ビンタかましているから。あまり遅いとコイツの首が取れちまうかもな」
喋っている間もずっと往復ビンタしている。
うぎゃ!とか、おげっ!とかうるさいが、気にしない。
「た、たぢけて・・・」
「い、急いで連れてきます!」
そう言ってギルドを飛び出して行く二人。
「よう小僧。早くパパが来てくれるといいなあ?」
そう言いながら往復ビンタ。ばしばし。
「ふぎゃ!ぐげっ!も、もうゆるぢて・・・」
「はて? お前は自分で言ったじゃないか。不敬罪だと。だから死刑なんだろ?」
「そ、そうだぞ・・・僕にこんなことして、お前は不敬罪だ!死刑確定だからな!」
口と鼻からダラダラ血を流しながら喚く若造。汚ねーな。
「だから、お前が不敬罪で死刑なんだよ。わかりやすいだろ?」
「はへ?」
しばらくして、馬車の急停車する音が聞こえた。こいつのパパとやらが到着したのかな?
「どこだ!ワシの息子に暴力を振っているのは!」
髭面ハゲ親父が部下らしき騎士っぽい奴ら三人と共に飛び込んできた。
「お前か!ワシの息子に暴力を振るったなどと、冒険者風情が貴族を舐めおって! 正しく不敬罪じゃ!即刻コヤツを切り捨てよ!」
部下の騎士らしき連中にどなるオッサン。
「貴族は正しく貴族の当主の事を指す。その息子や配偶者は家族としての地位を認められているが、貴族の当主ではない。そのため、バルバロイ王国においては不敬罪を息子への対応をもって直接問うことは出来ない」
俺だって貴族のはしくれだからね。ちゃーんとお勉強したのよ。これホント。
「馬鹿が!こざかしい知恵を振りかざしおって!ワシが不敬罪と言うのだから貴族のワシが法律じゃ!貴様は不敬罪で死刑じゃ!」
実の所、不敬罪だから必ず死刑という決まりはない。貴族当主がその不敬罪により処断を決められるとある。まあ、その場で切って捨てることが昔は往々にしてあったらしいけど。今もこんな感じの貴族って、さすがにバルバロイ王国では珍しい、というか見たことない、というか。あのプレジャー公爵でさえ、もう少し真面まともだった気がする。
「そうか、不敬罪で死刑か」
「そうじゃ!貴様は死刑じゃ!冒険者ごとき、ワシの一存でどうとでもなる事をしれい!」
愉悦見まみれた汚ぇ顔で笑うオッサン。
俺はオッサンの息子である若造を掴んでいた手を離す。
どさりと俺の足元に落ちる若造。
「おお、早く息子を助けろ!」
だが、俺は騎士らしき男たちが動くより早く若造の頭をドゴッと踏みつけて床にめり込ませる。
「ふぎゃ!」
カエルが潰れたような声が聞こえたが、気にしない。
「な、何をするんじゃ!」
「“
「はあっ?」
きょとんとしたオッサン。まるで馬鹿を見るような目つきをしているが、馬鹿はお前だからな。
俺は胸元から取り出すふりをして亜空間圧縮収納から自分の伯爵の身分を証明する貴族証をを取り出す。装飾の施された短剣である。伯爵と辺境伯はこの短剣がモチーフになっているらしい。男爵と子爵の時は準備が間に合わなかったので貰わなかったからどんな形が見てないけど。
「・・・え?」
ポカンとして状況が飲み込めないオッサン。
「だから、お前ら全員、
王家の紋章が入った細工の複雑な短剣を見て、やっと自分が誰に啖呵を切っていたのか、身の程を知ったオッサンが顔面蒼白で土下座する。
「は、ははは、伯爵様とは露知らず、大変申し訳ございませんでしたぁぁぁぁぁ!!」
「「「えええっ!?」」」
連れてきた騎士らしき連中が驚くが、オッサンが怒鳴りつける。
「貴様らも頭を下げんか! は、伯爵様であらせられるぞ!」
「「「は、ははぁぁぁぁ!」」」
なんだろう、コレ。こんなイメージどこかで・・・。
あ、思い出した。水戸〇門だわ、コレ。
今後とも「まさスラ」応援よろしくお願いします!
よろしければしおりや評価よろしくお願い致します。
大変励みになります(^0^)