転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?   作:西園寺卓也

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第28話 やっぱりギルドで登録しよう

ギルドを出て大通りを歩き出す。

 

「どうするヤーベ殿。大金が手に入ったが」

 

「そうだな~」

 

実際の所、亜空間圧縮収納の魔物在庫はまだ半分以上ある。

必要に応じで買い取りに出せばいいだろう。

薬草や魔物の収納状況から、収納した物は腐敗が進んでいないことが分かっているので多分長期保存しても問題ないと思われる。

 

それにしても、手袋を手に入れたのは僥倖だった。

スライムの触手をコントロールするにあたって、触手自体は自由に操れるようになったが、細かい作業はあまりうまくこなせなかった。巻き付けたりして物を持つことは出来るのだが、指先のような微細な調整はうまく出来なかった。

 

ところが、触手の先に手袋をつけたので、触手の先が強制的に手袋内で別れて、手のひらの様になった。その感覚を覚えたため、人間であったころの感覚と合わせ、指先、手のひらを作り上げ、コントロールすることが出来るようになった。

 

「これは大きいぞ。これで揉んだり摘まんだりできるようになる」

 

何を?と思わなくもないが、取りあえず出来るか出来ないかで言えば、出来る方がよいのだ、うん。

 

『ところでボス、よろしかったのですか?』

 

ヒヨコ隊長が問いかけてくる。

 

「何が?」

 

『ギルドでの冒険者登録ですよ。人間の町に出入りするためには身分証が必要だったのでは?』

 

ヒヨコ隊長が鋭く突っ込む。

 

「・・・ダメじゃん?」

 

『なぜに疑問形です!?』

 

ぴよぴよっと驚いた表情のヒヨコ隊長。

 

「そういやそうだ。ギルドに縛られたり、個人情報取られたくなくて登録はいいやって言ったけど、身分証はいるじゃん!」

 

あた~、失敗した。常にイリーナのリュックの中に隠れて町を出入りするわけにもいかない。

ギルドに登録すれば、間違いなく俺の個人情報を引き出そうとしてくるだろう。

先ほどのギルドマスターの様子も変だったし。

何より強制的に招集されたりするのは嫌だ。

だが、ラノベを読みまくっている俺の情報からすると、強制義務が発生するのは高ランクになってからのはず。それならば登録だけしておいて、ランクを上げず、最低限の仕事だけこなしてランクを保持しておけばよいか。

 

「うん!気が変わったぞ。やっぱり冒険者ギルドで俺も登録しよう。身分証がないといつもイリーナのリュックに隠れていなければならないからな」

 

「むうっ、私ならば、ヤーベ殿の役に立つのならばいつでもリュックを背負うくらいの苦労は厭わないつもりだが」

 

口を尖らしてアピールするイリーナ。

 

「いつもイリーナに背負ってもらうわけにもいかないし、何より場合によっては俺だけで町の出入りをしなくてはいけない可能性だってある。やはり登録しておこう」

 

「むう・・・致し方ないか」

 

依頼を請け負わずに魔物の買い取りだけお願いしておけば、ランクを上げないまま買い取りの金額を受け取っておけば良いだろう。

 

「さて、早速冒険者ギルドに戻るとしよう」

 

俺たちは早々に冒険者ギルドに向かうべく大通りをUターンした。

 

 

 

 

冒険者ギルドの大扉をドバーンと開け放つ。

チリンチリンと鳴るベルがけたたましい音を立てる。

勢いよく開け過ぎたようだ。

 

ギルド内にいた冒険者たちが何事かと振り向けば、先ほどギルドマスターと話し込んでいた怪しい魔導士と女冒険者が戻って来た。

 

怪しい魔導士はきょろきょろとあたりを見回し、カウンターのギルド嬢を見つけるなり、

 

「おーい、さっきのお姉さ~ん!」

 

とけたたましく声を上げてカウンターにすっ飛んでいった。

 

「なんだありゃ・・・?」

 

冒険者たちは触らぬ神に祟りなしとばかり、関わらない事に決めたようだ。

 

 

 

「お姉さ~ん、やっぱり冒険者登録お願いね!」

 

冒険者ギルドのカウンター、先ほど買い取り金額の支払いを行ってくれた女性だ。

ラッキーなことに受付が空いていたので、直行した。

元気よくお願いをしたところ、奥の部屋から「ブフォッ!」って誰かが何かを噴く音が聞こえたが、まあ気にしないことにしよう。

 

「はい、冒険者登録ですね?」

 

「そう、お願いできる?」

 

「わかりました、ではこちらの申込書に記載をお願いします。代筆は必要ですか?」

 

そういってギルド嬢は申込書を出してくる。羊皮紙のような厚い用紙だな。

じっと見ると記載項目の説明が読める。

ペンを借りて、名前を書いてみる。

 

「これ、読める?」

 

「・・・ヤーベ、様でよろしいですか?」

 

お、日本語で書いたのだが、なぜか読めるようだ。助かる。この年で語学を一から勉強するのははっきり言って苦痛以外の何物でもない。

 

「では書き込んでいこう・・・名前、出身地・・・職業? 能力・・・はい、書けた」

 

俺はギルド嬢に書き込んだ申込書を提出する。

 

「はい、承ります・・・お名前はヤーベ様。出身地は奇跡の泉の畔・・・?」

 

「そう、奇跡の泉には俺がしたんだけど」

 

いや、水の精霊ウィンティアのおかげか?まあいいか。

 

「職業は大魔導士・・・」

 

「そう」

 

「むっ!私の師匠と書いてくれてもいいのだぞ? あ、後・・・師匠だけでなく、は、は、伴侶と書いてもらっても・・・」

 

何かごにょごにょ言いながらすごい赤くなってクネクネしているイリーナ。

どうした?

 

「え・・・? <調教師(テイマー)>?<召喚師(サモニスト)>?」

 

「そう」

 

「・・・えっと・・・部下って書いてありますけど、使役獣のことですか?」

 

「そう」

 

「・・・えっと・・・狼牙族一族郎党60匹って・・・」

 

「ダメ?」

 

ちょっと可愛く聞いてみる。

 

「召喚は四大精霊・・・!!」

 

「そう、とってもイイコたちだよ」

 

「・・・少々お待ちください」

 

ギルド嬢は額に手を当ててクラクラしたのか頭を振りながら俺の書いた申込書を持って奥の部屋へ消えて行く。

 

「な、なんだこれは!」

 

誰かの叫び声が聞こえる。うん、きっとギルドマスターだな、たぶん。

 

 

 

ガチャリと扉から出て来た受付嬢が俺に向かって声を掛ける。

 

「ヤーベ様、イリーナ様、こちらの部屋へお入りください」

 

呼ばれたので部屋に入ってみると、やっぱり先に会ったギルドマスターが居た。

 

「やあ、ギルドマスターじゃないか。どうした?」

 

「どうしたじゃねーんだよ!なんで登録に戻って来た!」

 

バンッ!と俺の書いた申込書を机に叩きつけてギルドマスターが怒鳴る。

え~、何で怒られてんの、俺?

 

「え~、だって身分証がないと町の出入り困るじゃん」

 

「そりゃそーだけどよ・・・、で、お前何がしたいんだ?」

 

「え? 別に何も。魔物狩ってお金に替えてもらう以外特に用はないな」

 

俺ははっきりと目的を伝える。

 

「名前はヤーベ・・・何だよ、年齢が『謎』って。ふざけてんのか・・・。職業大魔導士・・・頭痛ェ・・・」

 

クラクラしているのか頭を振りながら読み進めるギルドマスター。

 

「<調教師(テイマー)>?<召喚師(サモニスト)>?」

 

「そう、いいだろ」

 

ドヤ顔で自慢してやる俺。まあ、ローブで包まれてるし、顔はわからんだろうけど。

 

「使役獣は狼牙族一族郎党60匹・・・召喚は四大精霊・・・おまーホント何でもありかよ!」

 

キレ気味に怒鳴ってくるギルドマスター。何を言う!神様からチートももらえず生きるのに精一杯なただのスライムに向かって失礼な。

 

「友達だけは増えたな」

 

「普通使役獣や召喚精霊は友達って言わねーんだよ・・・」

 

しみじみと嘆息するギルドマスター。

 

「そうするとものすっごく寂しくなるから却下で」

 

俺はきっぱりと告げる。彼らは友達です。

 

「はあ・・・登録は認めてやるから絶対問題起こすんじゃねーぞ! 何かわかんねーことがあったら絶対俺に相談しに来い! 勝手な行動すんじゃねーぞ!いいな!」

 

「ああ、うんうん、わかったわかった。じゃあよろしく」

 

と言ってさっさと出て行こうとする。

 

「ちょっと待て、後一つ質問だ。お前、冒険者ランクを上げる気あるのか?」

 

「ないよ」

 

何の確認か知らんが間髪入れず答えておこう。何か俺に期待されても困る。面倒はお断りだ。

 

「・・・わかった。行っていいぞ」

 

「じゃあな。また魔物の買い取り頼むぞ。イリーナ、買い物に行こう」

 

「わかった師匠、早速買い物に出かけよう」

 

俺たちは今度こそ冒険者ギルドの後にした。

 




今後とも「まさスラ」応援よろしくお願いします!

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