転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!? 作:西園寺卓也
「果たして、鬼が出るか蛇がでるか・・・」
国務大臣のパーシバルは籠の中で揺られながら溜息を吐いた。
「鬼や蛇程度ならば退治すればすむのだがな」
腕組みしながらむっつりと呟く軍務大臣のガレンシア。
ドラゴニア王国国王バーゼルが捕らえられて、まともに戦端が開かれる前に戦争が終結、ドラゴニア王国の敗北を告げられたドラゴニア王国の責任者たち。
最初は「ふざけるな!」とばかりヒヨコの手紙に激昂した責任者たちだが、国王の王冠と、バーゼルが持っていた魔導通信機での話、そして、ドラゴニア王国の王都を現在スライム伯爵直属のヒヨコと狼牙族、そしてコントロールされたワイバーンがグランスィード帝国からの侵攻を守っていると言う真実。
これらの状況を突き付けられたドラゴニア王国の責任者たちは話し合いに応じないわけにはいかないと腹をくくった。
国王バーゼルはすでに捕らえられ、グランスィード帝国に睨みを効かせている戦力を反対に王都に向けられればドラゴニア王国としては対応する術がないのだ。
「それにしても、ワイ、確実にクビやな~、ワイバーン取り上げられたらオマンマ食い上げやで、ホンマ」
一同の中でも最も肩を落とし、落ち込むのは竜騎兵隊長のドワルーであった。
何せワイバーンを取り上げられている今、ドワルーには指揮する兵団が無いのだ。
ちなみに国防大臣のノルテガは留守番を強行に主張したのだが、無理矢理籠に押し込められて連れて来られていた。
「敵国にて話し合い・・・皆殺しの予感がする!」
不吉な事しか言わないノルテガの首を絞めて黙らせたいと思う一同であった。
やがてワイバーンは高度を下げ、バルバロイ王国王都バーロンへと到着する。
比較的静かに籠は地面に着き、ワイバーンが地上に到着する。
籠は外から鍵を開けるタイプのため、開けられるのを待つ一同。
ガシャリと閂が外される音がして籠の扉が開いた。
そこにはフルプレートを纏った精鋭そうな騎士たちがずらりと並んでいた。
「ようこそバルバロイ王国王都バーロンへ。私は皆様の案内役を務めますグラシア・スペルシオと申します。よろしくお願いします」
ひと際輝いた鎧を身に纏った騎士が挨拶してくる。
「バルバロイ王国騎士団長のグラシア殿が案内役とは・・・」
軍務大臣であるガレンシアはバルバロイ王国の戦力にも精通していた。
まさか騎士団最強の男がわざわざ案内役とは、些か訝しんだ。
「ははは、お気になさらず。此度の戦・・・といいますか、小競り合いは特に騎士団の出番がありませんでしたので、暇を持て余しておりまして」
「・・・」
国務大臣のパーシバルは開いた口が塞がらなかった。
こちらは<古代竜エンシェントドラゴン>まで繰り出したのである。
それを、ただの小競り合い、と切って捨て、あまつさえ出番が無かったから暇だと言い切られたのである。ドラゴニア王国の責任者たちは一言も言い返すことが出来なかった。
「おうグラシア殿、そちらがドラゴニア王国から来られた皆さまかな?」
「あ、これはヤーベ卿」
畏まって挨拶しようとしたグラシアをヤーベは手で軽く制した。
「これから大会議室にご案内する予定です」
「そうか、遠路はるばる来られたところ恐縮だが、すぐご案内して頂こうか。飲み物だけは準備するように給仕に伝えてあるから、席に着いたら一息入れてもらうといい」
「わかりました。では皆さまこちらへどうぞ」
グラシアが歩いて行く後ろをついて行く一同。
「・・・グラシア殿、先ほどの御方はどなたかな?」
国務大臣のパーシバルはグラシア団長に問いかけた。
王国騎士団の団長と言う地位にある男が、かなり丁寧に対応しようとした人物。
貴族には間違いないだろうと思うのだが、パーシバルの持つ情報の中にあの男のものはなかった。
「あの御方はヤーベ・フォン・スライム伯爵です。会議にもご参加の予定です」
「は、伯爵ですと!」
パーシバルは驚きを隠せなかった。
隣国とは言え、バルバロイ王国における伯爵クラスの人間はすべて把握しているつもりであった。
また、名前を聞いても何も記憶に引っかからない。男爵や子爵で活躍したという情報も持ち合わせていない。
「ご存じないのも無理ないでしょうね。彼のヤーベ卿は王都に訪れて僅か六日で伯爵に任じられた、正しく「救国の英雄」なのですよ」
その瞬間、ドラゴニア王国の責任者たちは稲妻に打たれたように理解した。
なぜこのバルバロイ王国を狙った電撃的侵攻戦略が破られたのか。ワイバーンの異変、<古代竜エンシェントドラゴン>の無力化など、信じられないことの数々を裏で仕掛けていたのが、件の男だったのではないか・・・と推測できたのだ。現れて僅か六日で伯爵に任じられるほどの能力。途轍もないバケモノを敵に回してしまったのだと、今さらながらに肝が冷える思いだった。
・・・尤もノルテガだけはピンと来ていなかったようだが。
パーシバルやガレンシアは実際その目で見ている。ワイバーンが忽然と姿を消した事。なぜか舞い戻って来てグランスィード帝国の方を向いて睨みを効かせ、王都を守っている事。その首に隷属の首輪が付いていない事・・・・・・・・。竜騎兵隊長ドワルーの言う事を全く聞かない事。それらの原因がこれで腑に落ちたのである。
そして更なる疑問が押し寄せる。その男はどうやってかは知らないが、ワイバーンを完全に使役しており、なぜか我々ドラゴニア王国を守ろうとしているらしいと言う事を。
「・・・何も安心できる材料はないのだが・・・」
「うむ・・・何とか最悪の状況だけは回避できそうな希望が生まれてきたな・・・」
そう、パーシバルもガレンシアも今、大きな希望が生まれたと思っていた。
ドラゴニア王国を殲滅したければ帝国の侵攻を止めなくてよかった。
それを止めたと言う事は、少なくともドラゴニア王国に価値を見出しているという事に他ならない。ならば、自分たちが国王と共に生き延びる可能性が見えてきたと言っても過言ではあるまい。
呼び出しておいて戦争責任を問わせ、並んで打ち首と言う可能性も無くはないが、そこまで面倒なことをする必要が感じられなかったことも大きかった。
それだけ、その男に手玉に取られたと言う感覚がパーシバルとガレンシアを包み込んだのである。
だが、二人が感じた希望など、ほんの序の口であったことが後で明らかになる。
「こ! ・・・これは・・・」
「本気・・・なのか・・・?」
案内された大会議室。そこにはすでにバルバロイ王国国王ワーレンハイドとその后リヴァンダ王妃、その息子であるカルセル王太子、そして来週結婚が発表されているカッシーナ第二王女の王族が揃っていた。そして宰相ルベルク、公爵家からドライセン公爵、侯爵家から、キルエ、ドルミア、エルサーパ、フレアルトの四家が、そして西を守るコルーナ辺境伯が席についていた。案内されたドラゴニア王国の責任者である国務大臣のパーシバル、軍務大臣のガレンシア、竜騎兵隊長ドワルー、国防大臣ノルテガ、参謀秘書のセーレンの五人ともが着座する。そこへヤーベに連れられてドラゴニア王国国王バーゼルが会議室にやって来た。
バーゼルは特に手を縛られたりせず、普通の状態で連れて来られていた。
「おおっ!バーゼル国王陛下!」
思わず立ち上がって声を上げてしまうガレンシア。
他の一同も無事なバーゼル国王の姿を見て安堵してるようだった。
「他国の国王陛下の前ですよ、少しご自重ください、ガレンシア軍務大臣」
セーレンと呼ばれた女性秘書官は落ち着いた声でガレンシアを窘めた。
「う、うむ」
席に座り直すガレンシア。
「バーゼル国王はあちらにお座り下さい」
案内して来たヤーベはバーゼルに席を指示した。だが、
「お、俺はアニキの横に座りたいと思っているのですが・・・」
子犬が捨てられそうな感じの目を向けて来るバーゼルに引き気味のヤーベ。
「いやいや、今は国家間の話し合いを行いますので、陛下はあちらに・・・」
そう言って再度席を指示され、肩をガックリと落として席につくバーゼル。
その様子を見て、全員が一体どうしたのかと驚いた。
そして、会議の挨拶を終え、早々にワーレンハイド国王から提示されたその内容に驚いて冒頭の反応になったのである。
その書面内容はこうだ。
バルバロイ王国とドラゴニア王国間における国家間友好条約の締結について
その1.バルバロイ王国王国の今回発した宣戦布告に対する一連の騒動に置いて、バルバロイ王国はドラゴニア王国へ一切の賠償責任を問わないものとする。
その2.ドラゴニア王国の食糧事情を鑑み、協議の上バルバロイ王国よりドラゴニア王国へ食料援助を行うものとする。詳細は別途閣議会議で決定する。
その3.ドラゴニア王国の農業事情を鑑み、土壌改善ややせた土地でも育ちやすい作物の選定など、農業改革に協力するものとする。詳細は別途閣議会議で決定する。
その4.ワイバーンに関しては、今後ドラゴニア王国の警備を担当するためバルバロイ王国側より管理者を含め無償で貸し出す事とする。その責務は必要に応じて管理者に運用要望を提示し、許可を得る事。但し侵略戦争に力を貸すことはしない。また、ワイバーンの厩舎及び食事等維持メンテナンスにかかる費用はドラゴニア王国側にて負担する事とする。
その5.ドラゴニア王国国王陛下バーゼル・ドラン・ドラゴニア八世を今この時を以て無条件で解放するものとする。
その6.バルバロイ王国、ドラゴニア王国は友好な関係を築けるよう、今後は定期的に閣議レベルで会議を設け、情報交換を行い、意見を出し合って友好な関係を保つこととする。
その7.今後永久に両国間に友好が保たれるよう、この国家間友好条約には期限を定めないものとする。
大まかにはそのような事が書かれていた。
「どういう事なのです・・・ワーレンハイド国王」
国務大臣のパーシバルは自分の頭では理解が追い付かなかった。
「どういう事とは? そこに書いてある通りだが」
笑みを絶やさないワーレンハイド国王。
「宣戦布告して、貴国へ攻めておきながら、一切の責任を問わず、国王も解放され、あまつさえ食料援助と農業改善の技術提供も頂ける。我らに属国になれとおっしゃられているのですかな?」
えらく穿った見方だが、条件が良すぎると人間怖くなるものなのだろうか。
徐にヤーベは席を立ちあがる。その動きに一同の視線が集まる。
「あんまり難しい事考えなさんなよ。みんなでハッピーに仲良くやりませんか? そう言っているだけの事さ」
ヤーベは笑顔でそう説明した。ほとんど一同が呆気に取られてる中、王族の三人が苦笑して、カッシーナだけが美しく微笑んでいた。
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