転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?   作:西園寺卓也

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いつも「まさスラ」をお読みいただきまして誠にありがとうございます。
今回の「閑話39」は約7000字近くと通常の私の投稿の倍近い文章量です。
いつまでもノーワロディの会議で引っ張るのもと思い、一気に纏めました。
お時間に余裕のある時にお楽しみいただければと思います。
今後ともコツコツ更新して参りますのでよろしくお願い致します。


閑話39 魔王去りて平穏は訪れるのか?(後編)

「一体どういう事なのだ! なぜあれほどの戦力がバルバロイ王国に敗れるのだ! 大体なぜワイバーンが出撃しておらん!」

 

 

 

私は疑問点の最たる部分をぶちまけた。

 

 

 

「まあまあ、ノーワ様、少し落ち着かれてはいかがか」

 

 

 

そう言って会議室に控えていたメイドにお茶を給仕させる大臣の一人。

 

それどころではないと怒鳴りつけてやりたいが、あまりピリピリするだけでも話は進まないだろう。せっかくのタイミングだし、それに乗る事にしよう。

 

 

 

「ああ、すまない。一杯貰おうか。それで?」

 

 

 

私は落ち着いたふりをして情報部長官に視線を戻す。

 

 

 

大体、<古代竜(エンシェントドラゴン)>が打ち破られたのならば、それを上回る脅威があると言う事だ。何としても暴かねばならないのだ。のこのこと手をこまねいている余裕などない。その脅威が帝国に向けられたら、例え防衛に成功したとしても多大な被害が出る事は想像に難くないのだから。

 

 

 

「実は、これもまだ未確定情報なのですが・・・」

 

 

 

またも勿体つける様に口ごもる情報部長官。

 

 

 

「いいから申せ!」

 

 

 

「はっ! 実は今朝方、ドラゴニア王国王都にて上層部の中でもトップクラスの人間が数人、ワイバーンに吊られた籠に乗ってどこかへ出かけたよしにございます」

 

 

 

「なんだとっ!? 誰だ? わかっておるのか?」

 

 

 

「は、判明しているのは国務大臣のパーシバル、軍務大臣のガレンシアが少なくとも含まれているとのことです」

 

 

 

「な・・・なにっ?」

 

 

 

どちらも重鎮中の重鎮じゃないか。どうしてその二人ともが・・・。

 

 

 

「で、どこへ行ったのだ?」

 

 

 

「現在目下調査中ですが、南下したとの報告もありますので、おそらくバルバロイ王国王都バーレンに向かったものと・・・」

 

 

 

「なっ・・・!?」

 

 

 

のこのことそんな重鎮たちがバルバロイ王国に出向くわけがない。どう考えても戦争責任を取らされて首が落ちる。大体、一戦当たって敗北したとはいえ、それで戦争が終結することなど普通ない。退けられたと言っても全滅したわけでもあるまい。態勢を立て直して打開策を練るのが普通だ。一体何が起きている?

 

 

 

私は机を両手で勢いよく叩くと、立ち上がった。

 

 

 

「洗えっ!! 徹底的に状況を洗えっ!! 僅かな情報も漏らすな! 一体バルバロイ王国に何が起きているのか、なぜドラゴニア王国の重鎮たちを呼び寄せたのか、その全てを洗い出せ!」

 

 

 

「ははっ!すでにバルバロイ王国に送っている諜報部員のリーダーに魔導通信にて指示しております。本日中の情報を朝までに纏めます」

 

 

 

「わかった、明日朝一で再度会議を行う。皆もどのような情報が出るかわからぬ。すぐに動けるように準備しておいてくれ」

 

 

 

「「「ははっ!」」」

 

 

 

私は一度会議を解散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・お母さん?」

 

 

 

私は休息を取りがてら母の部屋へやって来た。ノックをしても母はおろか、メイドも出て来ないので覗いて見ると、部屋はもぬけの殻であった。

 

 

 

「あっ!ノーワ様!」

 

 

 

母についているメイドの一人が走ってやって来た。

 

 

 

「どうした?」

 

 

 

「アナスタシア様のお姿がどこにも見えないのです!」

 

 

 

「・・・! いつからだ!」

 

 

 

「先ほど、シーツの替えをお持ちした時にはもうお姿が・・・」

 

 

 

「くっ!」

 

 

 

まさか、あの魔王がまた来て母を・・・。

 

そう思ったのだが。

 

 

 

バサリッ。

 

 

 

見れば羽ばたく音がして、部屋の窓が開けられる。

 

そこには母の姿が。窓枠を跨いで部屋へ戻ろうとしている所で、私とメイドと目が合う。

 

 

 

「あ」

 

 

 

「あ、じゃないでしょ!お母さんどこに行ってたの! 心配したでしょ!」

 

 

 

私は母を部屋に引き込むと肩を掴んで揺する。

 

 

 

「ちょ、ちょっとちょっと、ロディちゃん」

 

 

 

私は揺する手を止める。見れば母の手にはどこかで摘んだ花が何本か握られていた。

 

 

 

「それは?」

 

 

 

「ふふん、これ? この花を取りに行ってたの。もう一種類は昨日の夜にコッソリ取りに行ったし」

 

 

 

そう言って花瓶を指さす母。見れば薄いブルーの花が何本か活けてあった。

 

 

 

「・・・と言うかお母さん、夜こっそり抜け出してたの!?」

 

 

 

私のツッコミにしまったという表情を浮かべる母。

 

 

 

「だってだって・・・月下草(げっかそう)の花は深夜しか咲かないんだよ? 咲いてるのを摘んでこないと花は見られないんだから」

 

 

 

目に涙を浮かべていやんいやんと顔を左右にフリフリする母。異様に可愛いわね。

 

 

 

「それにね、この紅草(くれないそう)は別名『落陽(らくよう)の花』とも呼ばれていてね、花言葉が『命尽きるまで貴方を愛します』って言葉なの! そしてねそしてね! こっちの月下草(げっかそう)は別名『月光の花』とも呼ばれていてね、花言葉は『例えこの命尽きても、貴方を思い続けます』って意味なの」

 

 

 

頬を赤く染めて、紅草(くれないそう)で顔を隠そうとする母。

 

 

 

「素敵な気もするけど、重い!重いよお母さん!?」

 

 

 

いきなりそんな花を用意して、相手がどう思うんだろ?

 

・・・て、言うか、相手って・・・まさか魔王!?

 

 

 

「お母さん、一応聞くけど・・・お母さんの想い人って・・・この前の魔王?」

 

 

 

「・・・(コクン)」

 

 

 

「ダメッ!ダメダメダメ!ダメったらダメ!!!!!」

 

 

 

「えー、何で何で何で!?」

 

 

 

ダメを連発した私に涙目になって抗議する母。

 

 

 

「アイツは絶対怪しいから!」

 

 

 

「そんなことないよ、あの人は良い人だもん!」

 

 

 

頬を膨らませてプイッと横を向いて拗ねる母。駄々っ子か!

 

 

 

「何でいい人ってわかるのよ!?」

 

 

 

私は子供にお説教するように母を問い詰めた。

 

 

 

「だって、私の体を治してくれたの、あの人だし」

 

 

 

・・・え!?

 

 

 

「ええっ!? あの魔王がお母さんの体を治してくれたの!?」

 

 

 

お母さんの体を治してくれた・・・まさか、本当にいい人?

 

 

 

「あ、もしかして、ママだけ幸せになろうとしてると思って、拗ねてるんでしょー」

 

 

 

「なっ!?」

 

 

 

ちょっとボーッとした瞬間に明後日の解釈をしだす母。マジで勘弁して!

 

 

 

「大丈夫だよ? ロディちゃんも私と一緒にお嫁さんにしてもらえばいいんだよ!」

 

 

 

「全然大丈夫じゃない!?」

 

 

 

母の斜め上を遥かに超える提案に私は頭痛が止まらない。どこからそんな発想が・・・。

 

 

 

「えーとね、ホラ!これこれ!この恋愛小説だとね・・・えーと、コレ! 母娘(おやこ)ドーン!」

 

 

 

「ブフッ!!」

 

 

 

誰だ!私の大切な母にとんでもない小説読ませたのは! 出て来い! 即刻打ち首よ!

 

 

 

母娘(おやこ)ドーン! だとね、母も娘もとっても幸せになれるんだよ?」

 

 

 

「お母さん!それは何かが違うから!」

 

 

 

私は母の誤解を解こうと一生懸命頑張ったが、母の目は何故か遠いお空の雲を見つめながらニコニコするばかりだった。私は泣きたくなった。

 

・・・あの魔王、今度来たら絶対に殺す!

 

 

 

「フンフンフン~、ヤーベ様~、ヤーベ様~、私はここに~、心はそこに~」

 

 

 

謎の鼻歌を歌いながら摘んできた花を花瓶に活ける母。はあ、頭が痛い。

 

・・・それにしても、ヤーベ?誰それ?・・・まさか、魔王の名前とか? と言うか、どこかで聞いたことあるような・・・まあいいか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、朝一番に会議を始めることにした。

 

冒頭、情報部長官の顔が青ざめており、そのサポートなのか、昨日とは別に二名が席についていた。

 

 

 

「早々に報告を始めてもらおう」

 

 

 

そう言葉を掛けたのだが、長官は目が死んだようになっており、動かない。

 

 

 

「どうした?」

 

 

 

「はっ、長官は心労が祟りまして・・・代わりに私からご報告させて頂きます」

 

 

 

心労が祟るとか、一体どうしたと言うのか。まあいい、話を聞こう。

 

 

 

「バルバロイ王国とドラゴニア王国は永久的な友好条約を結んだよしにございます」

 

 

 

「・・・はっ?」

 

 

 

「バルバロイ王国は今回宣戦布告して攻めてきたドラゴニア王国へ一切の賠償を求めず、戦争責任も問わないと明言致しました。そればかりか、ドラゴニア王国の食糧事情にも触れ、食糧援助と農業の技術改革の協力を約束した模様です」

 

 

 

「ば・・・バカな・・・」

 

 

 

戦争を仕掛けてきた国を無条件で許した上、食料援助と農業技術改革を協力する・・・そんなことがあり得るのか?

 

 

 

「ドラゴニア王国バーゼル国王も無条件で解放されました」

 

 

 

「・・・、無条件で解放・・・と、言う事はすでにバーゼル国王はバルバロイ王国に捕らわれていたと申すか!」

 

 

 

私の剣幕に臆することなく情報部の担当は「はい」と返事をした。

 

 

 

「しかも、<古代竜(エンシェントドラゴン)>はバーゼル国王の支配下を離れ、バルバロイ王国のある<調教師(テイマー)>の能力を持った伯爵に使役された・・・と報告が」

 

 

 

「な、なんだとおっ!?」

 

 

 

私だけではない、大臣たちからも声が上がる。

 

 

 

「<古代竜(エンシェントドラゴン)>が使役されるなど、そんなバカなことが!」

 

「そうか!バーゼルは魔導器を奪われたに違いない!」

 

「なるほど!」

 

 

 

確かに、そう考えねば納得できるものでもない。だが・・・

 

 

 

「報告では使役の魔導器である『支配の王錫』は破壊され、<古代竜(エンシェントドラゴン)>は支配から解放され、バーゼル国王は殺される寸前だったそうです。ですが、それを助けたのも、その<調教師(テイマー)>の能力を持った伯爵だったそうです」

 

 

 

「馬鹿な!」

 

 

 

私は思わず机を叩いて立ち上がった。

 

信じられない、信じたくない。そんな化け物じみた<調教師(テイマー)>がいるなんて。

 

 

 

「それで! その伯爵とやらは何者なのだ!」

 

 

 

大臣の一人が怒鳴り声を上げる。

 

 

 

「はっ、なんでもスライム伯爵と呼ばれており、『救国の英雄』という二つ名がついているようです。しかも、精霊神の加護持ちだとか、スライム伯爵そのものが精霊神だ、などという話も広まっております」

 

 

 

「何をバカな!」

 

 

 

別の大臣が一笑に付する。私もそう思いたい。

 

 

 

「ヤーベ伯爵・・・という名ではないのだな?」

 

 

 

不意にずっと腕を組んだまま黙っていたゴルゴダ・ヤーン大元帥が問いかけた。

 

 

 

「はっ!今朝までの情報では「スライム伯爵」としか確認が取れておりません。ただ、当然ファーストネームもあるはずですので、引き続きスライム伯爵の情報を集めさせております。スライム伯爵につきましては非常に重要な人物と考えておりますので、会議中ではありますが、新たな情報が入り次第、こちらへ連絡が届く手筈になっております」

 

 

 

その説明に再び考える様に黙り込むゴルゴダ・ヤーン大元帥。

 

 

 

「大元帥殿、なぜそのような確認を?」

 

 

 

大臣の一人が疑問をぶつけた。

 

 

 

「我らの進軍を妨げたのは、間違いなく『ヤーベ伯爵』なる人物であると考えています。少なくともこの人物本人か、その手下が第二師団を殲滅させたと考えて間違いない。そう考えると、我々の進軍をワイバーンで止めたのもこの人物がやったか、少なくとも関与していると思われる」

 

 

 

「・・・なるほど」

 

 

 

「そして、この人物は帝国の伯爵でもドラゴニア王国の伯爵でもなかった」

 

 

 

「・・・まさか!」

 

 

 

大臣の一人が声を上げ、青ざめる。見ればゴルゴダ・ヤーン大元帥にも一筋の汗が見える。

 

 

 

「このヤーベ伯爵とやらが、裏で全てを指揮しているとすれば・・・」

 

 

 

あの歴戦の勇者たるゴルゴダ・ヤーン大元帥をして、声を震わせる人物。

 

 

 

ドサリ。

 

 

 

私は足の力が抜け、椅子に座り込んでしまった。きっと私の顔面は蒼白だろう。

 

私の策は完全に裏目に出た。

 

 

 

国内の掌握が進み、これからの打開策を考えた時、使えないサーレンをうまくドラゴニア王国に送り、バルバロイ王国と戦争させ、その間にドラゴニア王国を乗っ取る。戦争で疲弊したバルバロイ王国をその後に下せば、大陸の西側を制することができ、一大勢力となる。これで東の商業国イーサカを挟んで小競り合いを起こしている東の雄と呼ばれるトランジール王国との戦いも優位に進めることができ、そして大陸最強である東の帝国に肩を並べるまでになるはずだった。

 

 

 

・・・だが、今の状況は最悪だ。完全に思い描いたシナリオを逆手に取られた。今の状況はバルバロイ王国が陥るものであったはずなのに。これではバルバロイ王国はドラゴニア王国をほとんど属国化したような物だ。併呑したのとさして変わらない。そして、その戦力を今度はこのグランスィード帝国に向けることが出来るのだ。背後の憂いも無く。

 

 

 

私はテーブルの上で両手の拳を握る。マズイ!非常にマズイ。今更ドラゴニア王国と和解も出来ない。サーレンも逆に足かせになるだろう。私の打った策はその全てが裏目に出たのだ。

 

 

 

その時、

 

 

 

「・・・ヤーベだと!?」

 

 

 

絶望の淵に立たされた私に母の言葉が思い出された。母の想い人、それは『ヤーベ』。

 

 

 

「どうしたのですか?」

 

 

 

ゴルゴダ・ヤーン大元帥がヤーベの名を口にした私を見た。

 

 

 

「母が・・・先日母を攫おうと我が城に乗り込んできた魔王が「ヤーベ」と名乗ったと・・・母が言っていた」

 

 

 

「なっ!?」

 

 

 

ゴルゴダ・ヤーン大元帥が驚く。

 

第二師団を殲滅した手の者がこの国の中枢である帝都コロネバの女帝ノーワロディ・ルワブ・グランスィードの居城、ゴルゴダード城に姿を現していたことになるのだ。

 

 

 

会議室に重苦しい空気が流れる。そこへ、

 

 

 

「ロディちゃん、いる~?」

 

 

 

ガチャリと扉を開け、のんびりした明るい声で話しかけてきたのは母であるアナスタシアだった。

 

 

 

「母上・・・」

 

 

 

「あら・・・お仕事忙しかったかしら」

 

 

 

「申し訳ありません・・・」

 

 

 

「そう・・・せっかくヤーベ様からラブレターを頂いたから嬉しくってロディちゃんにも報告しようと思って来たのだけれど・・・後にするわね」

 

 

 

そう言って踵を返し会議室を出て行こうとする母。

 

 

 

なに?ちょっと待って!ラブレターですって!?

 

 

 

私は椅子から飛び上がる様に立ち上がった。

 

がたんと派手な音が鳴る。

 

 

 

「は、母上ちょっとお待ちください!」

 

 

 

「な~に?」

 

 

 

「魔王・・・ヤーベからラブ・・・手紙が届いたのですか?」

 

 

 

ラブレターとは認めない。断じて。

 

 

 

「そう!ヤーベ様からラブレター頂いちゃったの!嬉しくて嬉しくて!」

 

 

 

多分その手紙だろう。母は大きな胸に埋める様に大事に両手で握っている。

 

 

 

「一体いつ!どうやって!」

 

 

 

「え?ついさっきよ? 可愛いヒヨコちゃんが咥えて持って来てくれたの!」

 

 

 

嬉しそうに語るアナスタシア。

 

 

 

ヒヨコが咥えて持ってきた?

 

 

 

「ヒヨコ・・・そう言えば、ランズの村の狼達の頭にヒヨコが乗っていたと言う情報も」

 

 

 

「なにっ?」

 

 

 

情報部の追加情報に目を光らせたのはゴルゴダ・ヤーン大元帥であった。

 

 

 

「すみません!ちょっと見せてください!」

 

 

 

そう言って私は母からその手紙を奪い取る。

 

 

 

「あん、大事に扱ってよね! ・・・後、こんなに大勢の皆さんの前で読むの? ママ恥ずかしい・・・」

 

 

 

顔を真っ赤にして俯く母。だか、今は情報が欲しい。早々に手紙を開く。

 

 

 

 

 

「親愛なるアナスタシアへ。

 

 

 

 先日はいきなり現れてすまなかった。君の美しさに見惚れてしまい心がうまく制御できなかった。

 

だが、こうして離れていても君を愛しいと思う気持ちは日々膨らむばかりだ。

 

落陽の中、女神の様に美しかった君を思い出すと、私の心はいつも締め付けられる。ああ、貴女は罪な人だ。私には妻に迎えるべき女性がもう複数おり、今週末には結婚式を挙げねばならないのです。その時に、貴女にもぜひ我が妻の席の一つに座って頂くことができたなら・・・そんな懸想ばかりが浮かんでは消えて行く。

 

こんな私は最低な男だろうか。でも貴女を諦めるなんて、出来そうにもない。

 

 

 

いつか月明かりの下、貴女を迎えに行く。

 

その時は月下の魔術師、とでも名乗ろうか。貴女を奪う、魔術師となろう。

 

その時こそ、永遠の愛を貴女に。それまで壮健なれ。

 

 

 

バルバロイ王国 伯爵 ヤーベ・フォン・スライム」

 

 

 

クソみたいな女ったらしの戯言などどうでもいい。

 

だが、その署名!

 

 

 

「バルバロイ王国、伯爵。ヤーベ・フォン・スライム・・・」

 

 

 

「最悪・・・ですな」

 

 

 

ゴルゴダ・ヤーン大元帥が立ち上がり、テーブルに両手をついて頭を垂れた。

 

ドラゴニア王国の攻勢を碌に被害も出さずに跳ね返し、<古代竜(エンシェントドラゴン)>さえも手懐けた上に、ドラゴニア王国そのものを許し、友誼を結ばせた男。

 

 

 

コンコン、ガチャリ。

 

会議室に情報部の一人が入って来て、今まで長官の代わりに説明していた情報部員に何か耳打ちする。

 

 

 

「・・・確認が取れました。ドラゴニア王国との友誼を結ばせた『救国の英雄』、その名はヤーベ・フォン・スライム伯爵・・・です」

 

 

 

「・・・確定、か」

 

 

 

腕組みをしたまま難しい顔をしたゴルゴダ・ヤーン大元帥。

 

 

 

すべては、このヤーベ・フォン・スライム伯爵の手の上で行われたことだったのである。

 

そして、ドラゴニア王国を手に入れたも同然のこの男が当然次に狙うのは・・・そう、我々帝国なのだ。

 

私が手に入れたかった全ての物を奪い去り、そして私に立ち向かってくる男。

 

ヤーベ・フォン・スライム伯爵。

 

私はひそかに戦慄した。

 

 




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