転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?   作:西園寺卓也

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閑話40 ある男の選択

 

「ケッ! ロクな事がねえっ!」

 

 

 

男は毒づきながら、足元の石を蹴った。

 

男は生まれてからずっとツイていない、そう思っていた。

 

 

 

グランスィード帝国の辺境にある田舎の村で生まれ、貧しいながらも両親は一生懸命畑を耕しながら育ててくれたはずだが、男は常に一獲千金を夢見ていた。

 

常々、「こんなビンボーな村は俺の器に合わねぇ!」が口癖だった。

 

だが、王都に移動するだけの金すら工面できず、生まれた村から少しばかり大きい町に移動するのが関の山であった。

 

 

 

男は定職についても長続きせず、努力を続けることも無く、全てを周りのせいにしながら生きてきた。自分への不当な評価が許せないと考えていた。そして、この状況はまだ自分が本気を出していないだけ、とも考えていた。

 

 

 

このころ、グランスィード帝国ではノーワロディが前帝王ガンタレスを打倒し、統治者が交代した頃であった。この後、王都を中心にグランスィード帝国は平民が住みやすい国へと変わって行くのだが、まだ辺境の町や村への改革の波が届くのはずっと先の事である。

 

男は国内が回復に向かっている事を感じることは無かった。

 

尤もそのような事を感じるほど努力をしているわけでもなかったのだが。

 

 

 

今もなけなしの有り金を闇賭博でスッてしまった帰りだった。

 

 

 

「おい! イテェな! テメエか! 今石ぶつけたのは!」

 

 

 

見れば、チンピラ三人組が男を睨みつけていた。

 

どうやらムシャクシャして蹴った石がチンピラの一人に当たってしまった様だった。

 

 

 

「あ・・・いや・・・」

 

 

 

「テメエ!覚悟は出来てんだろう―な!」

 

 

 

男は路地裏に連れて行かれ、殴る蹴るの暴行を受けてボロボロになった。

 

 

 

 

 

 

 

「ち・・・ちくしょう・・・何で・・・こんな目に・・・」

 

 

 

口と鼻から血を流して地面に転がる男。

 

 

 

「こんな世の中間違ってる・・・みんな消えちまえばいいんだ!」

 

 

 

中々起き上がる事も出来ないほどダメージを受けながらも、怨嗟の声を上げた。

 

 

 

「変えたいかね? 世の中を」

 

 

 

不意に後方から声が聞こえた。

 

男はイモムシの様に地面をはいずり、何とか声のする方へ視線を向けた。

 

 

 

「だ・・・誰だ・・・?」

 

 

 

そこには闇の様に黒いボロのようなローブを纏った男が立っていた。

 

男だと思ったのは、声がしゃがれていたからだった。

 

 

 

()()()()そんなことは君には何の価値も生み出さないだろう。だが、私は君が望めば、君の望みをかなえてやることができる」

 

 

 

「望みを・・・叶える?」

 

 

 

「そうだ」

 

 

 

「何でも・・・か?」

 

 

 

「ああ、きっとお前の望みは何でも叶うようになるだろうよ」

 

 

 

男はあまりにも胡散臭い話だと思った。

 

だが、今の男には失うものがあまりにも無さすぎた。

 

 

 

「このクソッタレな世の中が壊せるなら、何だってやってやるよ!」

 

 

 

「ふふふ・・・何でもか。だがお前が意気込む必要はない。何も難しいことは無い。ある場所へ行って宝玉を手にするだけだ。それだけでお前は巨万の力を得る。気に入らない世界をぶち壊せるほどの力をな」

 

 

 

黒いボロを纏った男の声がまるで魔法の様に男の心に沁み込んで行く。

 

 

 

「・・・それで、俺はどこへ行きゃいいんだ?」

 

 

 

膝を付いてやっと体を起こす男。

 

 

 

「お前の故郷の村の南の森に古びたダンジョンがある。そこの最下層に宝玉がある。それを手に取るだけだ」

 

 

 

だが、男の反応は鈍かった。

 

 

 

「ダンジョンだと・・・? しかも最下層なんて、自殺行為もいいとこじゃねーか!」

 

 

 

男は冒険者ではない。ダンジョンになど潜ればその命は風前の灯火だった。

 

 

 

「ふふふ・・・心配など無用よ。この「退魔の杖」があれば魔物など寄って来ぬよ」

 

 

 

黒いボロを纏った男はどこからともなく、高価な宝石が付いた杖を取り出した。

 

その杖をふわりと宙に浮かせると、男の足元に突き刺さした。

 

 

 

「手に取るがいい。そしてダンジョンに踏み入れたらその「退魔の杖」を掲げるがいい。それだけで魔物は寄って来なくなる。後は最下層の宝玉を手に入れるだけだ」

 

 

 

「こんなお宝を俺に渡して、お前に何の得がある? それに、それほどの力が得られるなら、なぜ自分が行かない?」

 

 

 

男は疑問を呈した。九割九分信じてダンジョンへ向かう気になっていたからこそ、最後の確認も込めて聞いた。

 

 

 

「ははっ! お前が世の中を壊したいと思う程の憎悪を持っているからこそ、お前に声を掛けた。まあ、俺と同類なヤツを見捨てるのが忍びない・・・と言ったところだ。それに、俺がその力をもう持っていないとでも思っているのか?」

 

 

 

黒のボロを纏った男は、そう答えた。

 

男の腹は決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、男はダンジョンに踏み込んだ。

 

「退魔の杖」の効果か、男に襲い掛かってくる魔物は皆無だった。

 

 

 

「ははっ!こりゃいいや!マジですげーぜ!」

 

 

 

そして男は最下層に着く。

 

通常ならダンジョンボスが存在するはずの大広間にも、魔物はいなかった。

 

男はその事を不審に思う事も無く、大広間の奥へと進んで行く。

 

 

 

男がもう少し周りを気にしたのならば、ここでしばらく前に魔物が倒されたことが分かったかもしれない。壁に飛び散った血や、匂いに気づいたかもしれない。

 

だが、男は高揚した気持ちと思い込みから、その事に気づけなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「ククク・・・これが『宝玉』か!」

 

 

 

男が冒険者ギルドに所属していたら、きっとこれが「ダンジョンコア」であることに気が付いたかもしれなかった。だが、男にはその知識が無かった。

 

男は無造作に「ダンジョンコア」を手に取った。

 

 

 

瞬間、

 

 

 

「ぎゃあああああああ!!」

 

 

 

黒いオーラが吹き荒れ、男を包む。

 

 

 

『ギャハハハハッ! 哀れなイケニエちゃんがやって来たぜぇ!』

 

 

 

声がする。

 

男は知らなかった。ダンジョンには、ダンジョンマスターと呼ばれるダンジョンを管理する存在があるが、長い歳月を存在してきたダンジョンはダンジョンマスターが息絶えてしまう事がある。その場合新たなダンジョンマスターを設ける事がほとんどだが、ごくまれに『ダンジョンコア』と融合し、自分の意識をダンジョンコアに移してその存在を長らえる輩がいた。

 

ダンジョンマスターとダンジョンコアが融合すると、ダンジョン管理は今まで通り行えるのだが、ダンジョンコアはその場所から動いてしまうとダンジョンが崩壊してしまうため、コア自身はその場から離れられなくなる。ダンジョンマスターとしても体が無くなりその意識だけをコアに移した状態になっているので、つまりは意識がダンジョンから外に出られなくなってしまう。

 

 

 

だが、意識を移せる肉体が手に入れば、話は別だ。

 

 

 

『ギャハハハハ! 今からお前の意識を喰らって体を頂いてやるぜぇ!』

 

 

 

「がああああ! 俺は・・・騙されたのか・・・」

 

 

 

男の意識は闇に沈んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くはははは! これで俺はダンジョンコアを動かさずに自由に行動できる」

 

 

 

乗っ取った男の体を確かめる様に色々と動かして見る。

 

 

 

「くくく・・・全力でダンジョンを暴走させ<迷宮氾濫(スタンピード)>を起こしてやる! それも過去にないほどの規模でなぁ!」

 

 

 

高笑いしながら男・・・いや、乗っ取られた元男は歩き出す。

 

 

 

「破壊だ・・・全てを破壊し尽くしてやる・・・」

 

 

 

その元男の目には暗い炎が揺らめいていた。

 

 

 

 

 

 

 

ダンジョンの外―――――

 

 

 

黒いボロを纏った男が離れた位置からダンジョンを見つめていた。

 

 

 

「ククク・・・どうやらうまく行ったようだ・・・」

 

 

 

ダンジョンの雰囲気が変わった事を見て、我が事成れりとほくそ笑んだ。

 

 

 

「これで大陸の西の雄、グランスィード帝国は滅亡待ったなしだ・・・少なくとも大打撃で立ち直れないだろうな」

 

 

 

嫌らしく男は笑うと、踵を返した。

 

 

 

「大陸西の最も強大な国でさえ、この程度で沈む・・・。楽な仕事だな。大陸の統一も大して時間はかからぬだろうよ」

 

 

 

男は闇に解ける様に消えた。

 

 




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