転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?   作:西園寺卓也

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第251話 独身最後の夜はハメを外して盛り上がろう

 

「「「「「カンパ―――――イ!!!」」」」」

 

 

 

並々と注がれたエールが入った木のジョッキを勢いよくぶつけ合う。

 

当然のことながら、エールの飛沫が飛び交う。

 

 

 

ここは冒険者ギルドからほどなく歩いた場所。

 

『ハラが減ったら食ってきなっ!』で大人気の冒険者御用達のレストラン「満腹亭エクストラ」。

 

恰幅のいいおかみさんであるエルガさんが切り盛りする食堂だ。

 

どの料理も盛りが多くて味もいいということで、冒険者だけでなく、兵士や騎士団の連中にも大人気の店である。その店を思いっきり貸し切りやがった。だいぶ張り込んだな。

 

 

 

外では貸し切りに気づかずがっかりしている連中もいるようだが、店の外に並べられたベンチで何故か振る舞い酒とちょっとしたツマミが用意されていた。これも明日俺とカッシーナの婚姻の儀があるからおめでたいという事で振る舞っているらしい。

 

 

 

「いや~~~、本当におめでとうございます!」

 

 

 

そう言って何度も木のジョッキをぶつけてくるのは、王国騎士団の団長、グラシア・スペルシオだ。

 

 

 

「この国も間違いなく安泰というものです」

 

 

 

グラシア団長の肩を叩いてわっはっはと笑っているのは、その父親のアンソニーさんだ。スペルシオ商会の会頭でもある、商人の間では超の付く実力者だ。

 

実は、この俺の独身最後を祝う会は発起人がグラシア団長という事になっているのだが、バックアップは親父であるアンソニーさんが手配したのだろう。

 

 

 

「アローベ商会と提携できたので、私共としましても商売大繁盛なのですよ」

 

 

 

どうもアローベ商会への口利きと言うだけでもウハウハで相当忙しいらしい。

 

まあ、そのあたりはうまくやってもらいたいが。

 

 

 

「本当におめでとう、伯爵。しかし王女と結婚なさるとは、いやはや・・・」

 

 

 

そう言って来たのは商業ギルドの副ギルドマスターであるロンメルだ。

 

 

 

「アローベ商会を通じて卸したギガンテス、肉の解体が終わったら約束分届けてくれよな」

 

 

 

「わかってますって! あまりのデカさに解体部がてんやわんやでしてね。錬金術ギルドのギルドマスターと副ギルドマスターが飛んできましたよ。目玉と角は絶対に売ってもらいたいからオークションにかけるのは待ってくれって」

 

 

 

「オークション?」

 

 

 

錬金術ギルドが飛んで来たのはギガンテスの目玉と角が貴重な素材になるだろうからと想像つくが、オークション?

 

 

 

「そうです。王都で年一回開かれる大オークションですよ。ちょうど来月行われます。その時に出品すれば諸外国からも関係者が狙ってやって来るくらい貴重な素材ですからね。国外に売るなというクギを刺しに来たのでしょう」

 

 

 

「ふーん、オークションね・・・」

 

 

 

ラノベでオークションって言うと、どうも裏の世界の匂いがする事が多いんだけどな。奴隷の売買とか、ヤバイクスリが出品されたり・・・。

 

 

 

「よう!ついに年貢の納め時だな!」

 

「ご結婚おめでとうございます」

 

 

 

二人並んで来たのはソレナリーニの町冒険者ギルドのギルドマスター、ゾリアと王都冒険者ギルドのグランドマスター、モーヴィンだ。

 

 

 

「おう、ありがとう」

 

 

 

そう言ってエールが少ししか入っていない木のジョッキをぶつけあう。

 

 

 

「なんだ、入っていないじゃないか」

 

 

 

そう言って一際デカイ木のピッチャーを持ち出して俺のジョッキにエールを並々と注ぐゾリア。

 

 

 

「おいゾリアよ、いい加減お前ソレナリーニの町に帰らないと副ギルドマスターのサリーナちゃんがブチ切れるぞ?」

 

 

 

俺がニヤつきながらツッコんでやったら、ゾリアはとんでもない事を言いやがった。

 

 

 

「ああ、それならサリーナがギルドマスターに昇格したぞ」

 

 

 

「はあっ!?」

 

 

 

俺はコイツが何を言っているのか理解するのに時間がかかった。

 

 

 

「はっはっは、だから何も心配いらねーぞ?」

 

 

 

「いや、サリーナちゃんが心配だろ!てか、お前何してんのよ?」

 

 

 

「サリーナは優秀だから何も問題はないぞ? 俺はちなみに王都冒険者本部サブグランドマスターに就任した。まあ、ほぼお前専用の相談役?だな!」

 

 

 

そう言って豪快に笑うゾリア。隣ではモーヴィンが苦笑している。

 

コイツ、俺をダシに王都に残る作戦たてやがったな!

 

大体サブグランドマスターって何か偉そうになってるじゃねーか!何かムカつくぞ、ゾリアのくせに。

 

 

 

「ん? それって・・・俺はサリーナに恨まれないか?」

 

 

 

「なんか、矢継ぎ早にすごい文句の手紙がギルド本部に何通も届いたらしいが黙殺している」

 

 

 

「黙殺すんなっ!」

 

 

 

ダメだろ、絶対。サリーナの怒り顔が頭に浮かぶ。

 

 

 

「いや、開けたらメンドクサイ事がいっぱい書いてあるだろうし・・・」

 

 

 

「開けなくても後でメンドクサイことになるんだよ!」

 

 

 

頭イテェ・・・。ゾリアのヤツ、マジで帰らないとか信じらんねーな。

 

 

 

「ヤーベさん、ご結婚おめでとうございます!」

 

「おめでとう」

 

 

 

「ヤーベさんご結婚されるんですね!おめでとうございます!」

 

「フン、アンタに奥さんが出来るなんて、物好きもいたもんね!」

 

「あらあら、ヤーベさんおめでとうございます」

 

 

 

見れば美味しいパンで有名になったマンマミーヤのマミちゃんとその親父さん、それにポポロ食堂の姉妹レムちゃんとリンちゃん、それに母親のルーミさんまで来てくれたのか。

 

 

 

「はい、ヤーベさん!差し入れのポポロ食堂特製コロッケですよ!」

 

 

 

そう言ってリンちゃんが大きなバスケットを俺のテーブルに置いてくれる。中には温かいコロッケが。

 

 

 

「こりゃ嬉しいね!早速頂くよ!」

 

 

 

一つ摘まんでパクリと食べる。ホントにシンプルにウマイんだよね、ポポロ食堂のコロッケは。

 

 

 

「今回はご結婚おめでとうございますの意味も込めてますから、代金は頂きませんからね!コッソリ金貨を入れてくださるのも無しですよ!」

 

 

 

そう言って可愛くウインクするリンちゃん。

 

こりゃまいった。こっそりお礼を入れている事にもクギを刺されてしまった。まあ、今度お礼にコロッケ100個注文入れるかな。コロッケパーティでもやろう。

 

後、レムちゃん、その物好きはこの国の王女様です。

 

 

 

「ヤーベさん!おつまみになるようハードブレッドにフルーツを乗せたおつまみを新作して見たんです。ぜひ試して見てください!」

 

 

 

そう言ってマミちゃんもバスケットから中の創作パンを出してくれる。ああ、これは硬く焼いたクラッカーのようなパンの上に果物やジャムなどを乗せている。所謂カナッペだな。

 

先日古くなって硬くなったパンの処理に悩んでいたマミちゃんに、揚げパンなどのアイデアを話した時に、最初から硬めに焼いたクラッカーに近いようなイメージの物を教えたんだが、まさか独力でカナッペに仕上げて来るとは、マミちゃん恐るべし!

 

 

 

俺は一つ摘まんで口の中に放り込む。

 

 

 

「うん、ウマイッ!」

 

 

 

「よかった!」

 

 

 

嬉しそうなマミちゃん。

 

 

 

「なんだなんだヤーベ、美味そうなものを食べてるじゃないか!」

 

 

 

ゾリアたちがやって来てカナッペやコロッケをパクつく。

 

みんながうまそうに食べて行くのでどんどん減るな。

 

俺ももっと食べよう。

 

 

 

「ほらよっ!おかみの肉焼きマウンテン盛りお待ちだよっ!」

 

 

 

女将さんがうまそうに焼けた肉をこれでもかと盛り付けた皿をドーンとテーブルの真ん中に置く。

 

 

 

「よっしゃ!追加来た――――!」

 

 

 

ゾリアが嬉しそうにジョッキを掲げて肉にアタックを開始する。

 

ホントにうまそうだな。俺も早速頂こう。

 

 

 

「ヤーベさん、ご結婚おめでとうございます!」

 

 

 

肉を口にてんこ盛り頬張ったところなのでうまく喋れないが、どちら様かと振り向けば、<水晶の庭(クリスタルガーデン)>のオーナーであるリューナちゃんだ。今日も銀色のモフモフとした耳と尻尾がかわいいね。

 

 

 

「りゅーにゃひゃん、うぁりがたう」

 

 

 

「ふふっ、ヤーベさんお口の中がいっぱいですよ?」

 

 

 

笑いながらリューナちゃんもバスケットを持っている。

 

テーブルに置いたバスケットからはすでに甘くいい匂いが・・・。

 

 

 

「ヤーベさんにぜひ食べて頂きたくて・・・。はいっ!初めて私が一から作ったホットケーキです!」

 

 

 

そう言って取り出したのは皿に乗ったホットケーキだった。

 

今までホットケーキの生地だけは俺が作ったものを納品していたけど、リューナちゃんは一から自力で作る練習を欠かさなかった。

 

 

 

「どれ・・・」

 

 

 

一口大に切ってパクリと食べる。

 

 

 

「うん、ウマイッ!」

 

「ホントですか!」

 

「ああ、本当に美味しいよ。見事だね!免許皆伝だな」

 

 

 

あ、ちょっと涙ぐんじゃった。

 

 

 

「嬉しいです!」

 

 

 

そう言って俺に抱きついてくるリューナちゃん。

 

 

 

「おお?結婚する前から浮気か?」

 

 

 

「うっせ!」

 

 

 

茶化してくるゾリアにツッコミを入れておく。

 

 

 

「免許皆伝嬉しいですけど、ヤーベさんと会えなくなるのは寂しいです・・・」

 

 

 

抱きついて耳元で囁くように話すリューナちゃんにちょっとドキドキしてしまう。ここに奥さんズの面々がいればO・SHI・O・KI間違いなしの事案発生だ。

 

 

 

「大丈夫大丈夫、ちゃんと会いに行くし、食べに行くし」

 

 

 

そうして頭をポンポンと撫でてあげる。

 

・・・ついでに耳をモフモフしちゃう。

 

 

 

「・・・ンッ・・・」

 

 

 

ヤバイ!リューナちゃんが色っぽい!これ以上はキケンなり!

 

 

 

「いや~、さすがは救国の英雄殿、モテモテですな!」

 

 

 

いや、アンソニーさんそんな嬉しそうにしなくても。

 

いや、グラシア団長とウンウンと頷きあって無くてもいいでしょ?

 

 

 

 

 

ガンッ!

 

 

 

 

 

木のジョッキを叩きつけるようなハデな音が鳴る。

 

 

 

「うにゅう・・・わらしは・・・わらしは・・・」

 

「ちょっと!クレリア隊長!飲み過ぎですよ!」

 

「うりゅしゃい!わらしわぁ!」

 

 

 

見れば叩きつけたジョッキを振り回しながらテーブルに器用に突っ伏しているのは王都警備隊隊長のクレリア・スペルシオと、それを宥める副隊長のエリンシアだった。

 

 

 

「クレリア隊長!最後の花束贈呈はクレリア隊長の役目ですよね!?ちゃんとしてください!」

 

「わらしはぁ!ヤーベしゃまがしゅきなのらぁぁぁぁ!」

 

「ええっ!?」

 

 

 

エリンシアが固まる。

 

そりゃそうだよな。俺に花束贈呈でおめでとうっていう役の人が、俺の結婚で失恋して泣いてるのはまずい気がするけど。

 

 

 

「ヤーベしゃまに命を助けられてぇ!賊の討伐に協力してもらってぇ!まるで王子しゃまなんだもぉん!ステキしゅぎるんだもぉん!そんなのしゅきになるに決まってるでしょお!わ~んわんわん!」

 

 

 

ヤベェ・・・ガチ泣きだ。クレリア隊長はスーパー泣き上戸だったんだな。

 

エリンシアが肩を叩いたり頭を抱きかかえたりしながらクレリアを落ち着かせようとしているが、ガチ泣きのクレリアは収まらない。しまいにエリンシアも涙目だ。

 

 

 

「・・・ヤーベ卿、大変申し訳ないのですが、妾の末席にでも我が娘を置いてやってはもらえませんか・・・」

 

 

 

大変すまなさそうに俺に謝りながらとんでもないお願いをブッ込んでくるアンソニーさん。

 

 

 

「えええっ!?」

 

 

 

「すみません・・・まさか妹があれほどヤーベ様を愛しているとは・・・ついぞ気が付きませんで」

 

 

 

頭をポリポリと掻くグラシア団長。

 

いまだに俺の事を好きなんだ~と喚きながら泣いているクレリア隊長。

 

誰か助けて~と涙目のエリンシア。

 

 

 

「え、えーと・・・ちょっと奥さん達と相談していいかな?」

 

 

 

俺はそう答えるのが精一杯だった。

 

どーしてこうなってるの!?

 

 




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