転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?   作:西園寺卓也

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閑話43 結婚前夜の乙女たち(前編)

「う・・・うう・・・ううう・・・」

 

 

 

カッシーナは泣いていた。

 

それはもう、先ほどからポロポロポロポロと涙をこぼし続けている。

 

 

 

「いい加減落ち着いたらどうだ、カッシーナ」

 

「そうですよ、あまりに泣いておりますと、明日目が腫れぼったくなってカワイイ顔がだいなしになりますわ」

 

 

 

カッシーナの横に座ったイリーナとルシーナはそれぞれハンカチを持ってカッシーナの涙を抑えていた。

 

 

 

「だって・・・だって・・・やっとヤーベ様の下へ嫁ぐことが出来るから・・・」

 

 

 

そう、カッシーナはあまりの嬉しさにうれし涙が止まらなかったのであった。

 

 

 

「今から泣いてたんじゃ、明日の本番、大丈夫かなぁ?」

 

「そうですわね、感動して卒倒されても困りますわねぇ」

 

 

 

苦笑しながらサリーナとフィレオンティーナがどうしたものかと言葉を交わす。

 

 

 

「明日の結婚式でみーんな幸せしあわしぇでしゅ!」

 

「キュキュ――――!」

 

「ズゴズゴ――――!」

 

 

 

リーナが笑顔で右の拳を天に突き上げれば。その頭に乗った二匹の神獣たちも賛同したように鳴き声をあげる。

 

 

 

「ふむ、主殿のつがいに正式になる儀式が明日行われるのじゃな・・・(これは好都合じゃったわ)」

 

 

 

なぜか古代竜エンシェントドラゴンのミーティアも幼女姿でここにいた。

 

 

 

ここはバルバロイ王国が誇るバルバロイ大聖堂。

 

アンリ枢機卿たちが普段生活している教会の大聖堂とは違い、バルバロイ王国の王族が使用する専用の教会だ。バルバロイ大聖堂は月に一度一般国民に入場料を取って見学ツアーが組まれているが、それはあまり娯楽のない王国では大人気であり、申し込みが殺到するイベントでもあった。豪華な作りに、美しいステンドクラスのような内装が施され、大聖堂内に色とりどりな光を届けていた。

 

この大聖堂は王族の結婚式や儀式以外で使用されることは普段ない。そのため、見学ツアーで中を見たことがある人も、無い人も、王族の結婚式が大々的に行われ、その姿を見ることは長年の希望の一つでもあった。

 

 

 

そんなバルバロイ大聖堂の一室。婚姻の儀を前日に控えた花嫁が身を清め、当日まで俗世との関りを絶つために籠る部屋・・・そこになぜかカッシーナの他にイリーナ、ルシーナ、サリーナ、フィレオンティーナ、そしてリーナと神獣二匹にミーティアまでもが集結していた。

 

 

 

皆が皆、清められた白いローブに身を包んでいる。

 

まさしく、花嫁準備であった。

 

ここにヤーベがいたら、まさしくこう言うだろう。

 

 

 

「なんでリーナとミーティア幼女枠と神獣様謎のイキモノが! てか、ジョージとジンベーってメスだった!?」・・・と。

 

 

 

「まあ、カッシーナ王女はいつもヤーベさんのそばにいられなかったからね、やっとそばに来ることが出来てうれしいって気持ちはわかるけどね」

 

 

 

肩を竦めながらサリーナがカッシーナを見つめる。

 

 

 

「もう・・・サリーナさんも王女なんてやめてください。カッシーナと呼び捨てになってください」

 

 

 

「ああ、そうだったね。つい王女様だーって思っちゃって」

 

 

 

「逆にイリーナはカッシーナと即座に呼び捨てに慣れてましたけど・・・逆に慣れすぎでは?」

 

 

 

フィレオンティーナが苦笑しながらイリーナを見た。

 

 

 

「む?我らは皆ヤーベの奥さんになるのだろう?ならば同士ではないか。皆で協力しあってヤーベを支えて行かねばならぬからな。そのためには変に遠慮などしていられん」

 

 

 

腕を組みながらむっつりとするイリーナ。

 

 

 

「さすがはイリーナおねえしゃんなのでしゅ!」

 

「キュキュ――――!」

 

「ズゴズゴ――――!」

 

 

 

リーナがイリーナを褒め称える。

 

パチパチパチと小さな手で拍手する。神獣たちもヒレをペチペチと叩いている。

 

嬉しそうにニコリとするイリーナ。

 

 

 

「そうですね、ヤーベ様の奥さんになるわけですし、ヤーベ様の前には家柄など無意味ですね。私の事はルシーナと呼んでください。明日からよろしくお願いしますね、カッシーナ」

 

 

 

隣に座りカッシーナの涙を拭いていたルシーナがハンカチを膝に置き、改めてカッシーナの方を向いてほほ笑んだ。

 

 

 

「・・・ありがとう、ルシーナ。これからもよろしくお願いね」

 

 

 

やっと涙が止まり笑顔になったカッシーナに他のメンバーも笑顔を向ける。

 

 

 

「それで、カッシーナは結婚パレードの後、ウチ・・の屋敷にすぐ来るのか?」

 

 

 

イリーナの問いかけにカッシーナではなくルシーナが先に反応した。

 

 

 

「ウチの屋敷って・・・ヤーベ伯爵の屋敷の事ですよね? まあすでに引っ越ししてみんなで住んでいますから、あながち間違いではないのですけど、もう正妻気取りですか?」

 

 

 

ジトッと横目でにらんでくるルシーナにウッと言葉を詰まらせるイリーナ。

 

 

 

「まあ、まだ正式に誰もヤーベ様と婚姻を結んだわけではありませんからね・・・、対外的には、今はヤーベ伯爵邸に居候しているのが私たちの立場なわけですが」

 

 

 

苦笑しながらフィレオンティーナが説明する。

 

 

 

「はうっ!」

 

 

 

方々からやり込められて涙目になるイリーナ。

 

 

 

「いえいえ、最も古くからヤーベ様のおそばにいらっしゃったイリーナさんだからこそ、そのお気持ちがあるのですよね。わかるつもりです。実はお父様やお母様と特にその話をしていないのですが、パレードが終わったらその足でヤーベ様の館に行くつもりです」

 

 

 

堂々と即刻移籍と言わんばかりの言いように呆気にとられる一同。

 

 

 

「・・・いや、結婚パレードの後は王城で披露宴パーティじゃなかったか? 確かこの前の王都スイーツ決定戦でダブル優勝したドエリャとか言うシェフと喫茶<水晶の庭クリスタルガーデン>のオーナーであるリューナちゃんが腕を振るった料理が並ぶんだろ?」

 

 

 

「・・・ああ、そうでした・・・」

 

 

 

イリーナの説明に心底がっかりしたと肩を落とすカッシーナ。

 

 

 

「いや、なんでがっかりしているの?自分たちの披露宴でしょ?」

 

 

 

サリーナが首を傾げる。

 

 

 

「披露宴パーティなど、貴族の集まりに挨拶するだけの退屈な時間ですよ」

 

 

 

「そうはいっても、ヤーベの隣に立って一緒に挨拶するのだろう? それこそ夫婦最初の仕事じゃないか」

 

 

 

落ち込むカッシーナに叱咤激励するイリーナ。

 

 

 

「そ、そうですわね!夫婦最初の共同作業ですわね!ヤーベ様のお隣に立って、『妻のカッシーナですわ!』って挨拶・・・うふふふふ」

 

 

 

だいぶ残念な娘になって怪しく笑うカッシーナを呆れる目で見つめるイリーナ。

 

対外的にもカッシーナを第一夫人に納めるしかないのだが、だんだんと本当に大丈夫かと心配になって来ていた。

 

・・・尤も陰で『ポンコツイリーナ』とヤーベに揶揄され続けたイリーナに心配されるカッシーナにだいぶ不安が残る一同であった。

 

 

 

 

 

 

 

「それはそうと、本当に私たちも参加していいのか?」

 

 

 

イリーナが真剣な眼差しでカッシーナに問いかけた。

 

 

 

「ええ、もちろんですわ。皆さまを差し置いて私だけ婚姻の儀に臨むなど、申し訳ありませんから」

 

 

 

英雄と王女の結婚式に参加するように伝えてきたのは、他でもないカッシーナだった。

 

そして、今カッシーナと同じく清められたローブに身を包める者たち。

 

それが何を意味するのか・・・ここにいるメンバーは理解していた。

 

・・・若干リーナは怪しい面もあるのだが。

 

それでも『ご主人しゃまとケッコンケッコン』と喜んで踊っていたので、何もわかっていないわけではないだろう。

 

 

 

「しかし、ミーティアまでヤーベを狙ってくるとは思わなかったな」

 

 

 

溜息を吐きながらイリーナがミーティアに視線を送る。

 

 

 

「何を言う。すでにワシは主殿に従うと決めたのじゃ。それに強きオスに惹かれるのはメスとして当然の事じゃ」

 

 

 

両手を腰に当て、無い胸を張ってドヤ顔するミーティア。

 

 

 

「なら妾でいーじゃん」

 

 

 

サリーナが不服そうに文句を言った。

 

 

 

「どうせなら寵愛はガッツリ受けた方がよいじゃろうが。それにこんなおこちゃまが主殿の妻になるのならば、ワシも同列に並ばねばならぬわ」

 

 

 

そう言ってリーナの方を向くミーティア。

 

 

 

「うにゅ!ライバルには負けないのでしゅ!」

 

 

 

プリプリしだすリーナを宥めるように神獣たちがリーナの頭にまとわりつく。

 

 

 

「ところで、確認しておきたいことがあるのだが・・・」

 

 

 

イリーナは清めの部屋にいる全員を見渡すように話し出した。

 

 

 

 




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