転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?   作:西園寺卓也

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閑話44 結婚前夜の乙女たち(後編)

 

「この先、ヤーベには様々な困難が降りかかるのではないかと思っている」

 

 

 

イリーナには珍しく、真剣な表情で全員を見回しながら告げた。

 

 

 

「それでも私は、ヤーベを絶対に裏切らないと誓う。ルーベンゲルグ伯爵家の名に懸けて」

 

 

 

イリーナは力強く宣言した。

 

 

 

「もちろん! 私もバルバロイ王家の血を引くものとして、ヤーベ様に一生寄り添い支え続けると誓います!」

 

 

 

「私もコルーナ辺境伯の名に懸けてヤーベ様を裏切るなどという事はしません」

 

 

 

カッシーナとルシーナも同調する。

 

 

 

「リーナはご主人しゃまと一心同体なのでしゅ!」

 

「主殿に逆らうと神獣様の神罰が怖いのじゃ」

 

 

 

奴隷紋を刻まれているリーナと神獣にヤーベに使えるよう指示されているミーティアも元気よく宣言する。

 

 

 

「私も絶対裏切らないと誓うよ! だって、生まれ故郷のカソの村が大発展してるのもぜーんぶヤーベさんのおかげだしね!感謝しかないよ」

 

 

 

カソの村出身の錬金術師サリーナも笑顔で宣言する。

 

 

 

最後にその場の全員がフィレオンティーナに視線を向ける。

 

 

 

「私は今まで出身を明かしておりません」

 

 

 

語り出したフィレオンティーナを全員が見つめる。

 

 

 

「ですが、私の出目は今しばらく秘密にさせてください」

 

 

 

そう言って頭を下げるフィレオンティーナ。

 

元々『雷撃姫』『轟雷の女神』などと途轍もない二つ名を持つ元Aクラスの冒険者にして、引退後売れっ子の占い師だったという経歴を持つ彼女だが、妹がタルバリ伯爵の奥さんになっているが、その生まれは詳しく聞いていなかった。

 

 

 

「ですが、旦那様を心の底から愛しております。悪魔の塔に捕らわれ、悪魔王ガルアードに生贄に捧げられる直前、颯爽と私を救ってくださった旦那様の事はこの命例え尽きようとも永遠に忘れることは無いでしょう。旦那様に助けて頂けなかったら私の命は悪魔王ガルアードへの生贄として消えておりました。この命は旦那様に救って頂いた物。この命消えるまで旦那様のお傍に仕える所存です」

 

 

 

そう言って立ち上がると深々とお辞儀をするフィレオンティーナ。

 

 

 

「うん、フィレオンティーナがどこの生まれだったかとか、あまり気にしてはいないよ。貴女がここに居てくれることはとても心強い。共にヤーベを支えて行こう」

 

 

 

そう言ってイリーナが右手を差し出す。

 

 

 

「ええ、こちらこそよろしくお願いいたしますわ」

 

 

 

フィレオンティーナもイリーナの手を握り返した。

 

 

 

ここに奥さんズの面々が一丸となってヤーベを支えて行くという魂の絆がつながった瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

コンコン。

 

 

 

 

 

 

 

清めの部屋の扉がノックされる。

 

 

 

「・・・? 明日の朝まで誰も来ないはずですが」

 

 

 

そう言ってカッシーナが自ら「はい」と返事をして扉を開ける。

 

 

 

「えへへ・・・来ちゃいました」

 

 

 

そう言ってカッシーナ達が着ている白いローブと同じものを纏ったアナスタシアが入って来た。

 

 

 

「ア、アナスタシアさん!?」

 

 

 

ルシーナが驚く。

 

無理もない。グランスィード帝国の女帝ノーワロディの母親、魔族のアナスタシアがなぜここにいるのか。

 

 

 

「実はワイバーン便で運んで来てもらったのです。ヤーベ様のご結婚パレードの末席にでも愛妾でもいいので参加させて頂きたいな~と思ってやってきました」

 

 

 

ニコニコしながらあっけらかんとやってきましたと説明するアナスタシア。

 

 

 

「愛妾・・・、だが、貴女は白いローブを纏ってここへ来ているが?」

 

 

 

イリーナが訝しむ。

 

 

 

「そうなのです、大変図々しい話なのですが、私の娘でグランスィード帝国の女帝を賜っておりますノーワロディが、妾ではなく、正妻としてなら認めなくもない・・・と言いだしまして」

 

 

 

「な、なに!?」

 

「ええっ!?」

 

 

 

イリーナとルシーナが同時に驚く。

 

 

 

「あちゃ~、そうなるんじゃないかと思ったけど、思ったより早かったね」

 

「そうですわね、まさか結婚パレードに間に合わせて来るとは」

 

 

 

サリーナとフィレオンティーナが苦笑しながら顔を見合わせた。

 

 

 

「ロディちゃんは夜遅い時間だけど、ワーレンハイド国王様とリヴァンダ王妃に面会させてもらって、私の正妻入りをお願いしてくれて。リヴァンダ王妃も大賛成してくれて」

 

 

 

「ヤーベには会ったのか?」

 

 

 

「ううん、まだ会えてないの」

 

 

 

イリーナの問いかけに首を振るアナスタシア。

 

 

 

「ヤ、ヤーベは知らないのか・・・」

 

「それなのにお母様はOK出したのですね・・・」

 

 

 

ポリポリほっぺを掻くイリーナに右手で両目を覆うカッシーナ。

 

 

 

「えへへ・・・一応ヤーベさんにはお前が欲しいって言われてて・・・。いきなり来てサプライズしちゃおうって」

 

 

 

ほっぺを両手で押さえながら照れるアナスタシア。

 

 

 

「むむっ・・・、だが、最も長くヤーベと付き合っているのはこの私だからなっ!」

 

 

 

イリーナが腕を組んで偉そうにする。

 

 

 

「そうなんですかっ! ぜひヤーベさんと出会った時のお話聞かせてくださいっ!」

 

 

 

アナスタシアがものすごく前のめりに聞いてくる。

 

 

 

「ふおおっ!ご主人しゃまとイリーナおねーしゃんが出会った時のことでしゅか?リーナも知りたいでしゅ!」

 

 

 

リーナがぴょんぴょん飛び跳ねて話をねだる。

 

 

 

「よし、ならば語ろう!私とヤーベの運命の輪が絡まった瞬間の話をな!」

 

 

 

パチパチパチパチ!

 

 

 

何故だかみんなワクワク顔でイリーナの話を聞く姿勢になった。

 

 

 

「アレはカソの村の北にある奇跡の泉の畔でのことだった。盗賊に襲われた私を華麗に救ってくれたのだ!」

 

 

 

「キャ――――!ヤーベ様カッコイイ!」

 

 

 

アナスタシアが少女の様に声を上げて手をブンブン振る。

 

 

 

「私は、テロリストたちに仕掛けられた毒によって死ぬ寸前だったのをヤーベさんの奇蹟によって命を救われたんです!」

 

 

 

「ふおおっ!ご主人しゃまの奇跡でしゅ!」

 

「すごいねすごいね!」

 

 

 

ルシーナの話に何故かリーナとアナスタシアが手を取り合いながら興奮している。

 

 

 

「わたくしは、悪魔王ガルアードに生贄に捧げられる直前に旦那様に助けて頂きました。本当にカッコよかったですわ!」

 

 

 

フィレオンティーナは顔を真っ赤にしながらヤーベとの出会いを話す。

 

 

 

「あの時に初めてヤーベさんローブを脱がれたんですよね、カッコよかったな~」

 

「そうだな、それまでずっとローブで身を包むような姿だったな」

 

 

 

ルシーナとイリーナが当時を思い出したのか懐かしそうに眼を細める。

 

 

 

「リーナは奴隷商で捨てられる直前にご主人しゃまに買って頂けたでしゅ! ケガでつぶれていた目も動かない腕もご主人しゃまの奇蹟で治してもらったでしゅ!」

 

 

 

とても嬉しそうに話すリーナ。

 

 

 

「私も半身が大やけどで酷い傷だった体をヤーベ様の奇蹟の御業で治して頂きました。どんなにお礼を申し上げても足りません」

 

 

 

続いてカッシーナも祈る様にヤーベとの思い出を話す。

 

 

 

「体を治す前に、空のデートに連れて行ってもらったんです。月が綺麗でしたわ・・・」

 

 

 

カッシーナが恍惚とした表情で思い出を語る。

 

 

 

「え!? なにそれ?聞いてないですけど!」

 

 

 

ルシーナが空のデートに敏感に反応する。

 

 

 

「どんなデートなんだ?」

 

「聞きたいですわっ!」

 

 

 

イリーナとアナスタシアがカッシーナに食いついてくる。

 

 

 

「う~~~~、私は全然ヤーベさんとのハデな想い出がないよ~」

 

 

 

頭を抱えるサリーナ。

 

カソの村から一緒に王都まで旅してきたサリーナだが、サリーナが主役となったイベントは特になかった。

 

 

 

「結構アタシ平和だったんだ~」

 

「平和な方が良いではないか。ワシなぞ殺されかけたぞ?とんでもない大魔法で」

 

 

 

頭をばりばりと掻き毟るサリーナに苦笑しながらミーティアが慰めの言葉をかける。

 

 

 

ヤーベの奥さんとならんとする女性たちはそれぞれの想いや過去の思い出を思う存分語り合った。

 

・・・語り合いすぎですでに日が昇り朝となっている事に気づかず、全員が目が真っ赤のまま清めの部屋より出て来て、シスターたちにメチャメチャ怒られたのであった。

 

 




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