転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?   作:西園寺卓也

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閑話45 王制会議その1 件の伯爵がなかなか自重しない件

 

「――――と、いうわけで、王家直轄領に亜人を中心とした開拓村が出来ることになります。つきましては代理の代官が任命されていますので、こちらから正式な代官と政務官を送って村の管理を地元の者達と協力して行っていく必要があります」

 

 

 

宰相ルベルク・フォン・ミッタマイヤーの説明が一区切りつく。

 

概ね肯定的にとらえられているが、一部の者は不満そうな顔をしていた。

 

 

 

「ったく、メンドーな事しか起こさねーのかよ、あの野郎は」

 

 

 

悪態を吐いたのはフレアルト侯爵だ。

 

 

 

「なんだ? 新たな開拓村が出来上がって王国に税収が入ってくるようになるのだぞ? 不満などあるまい」

 

 

 

すました顔で宰相ルベルクの説明の意を汲むのはキルエ侯爵だった。

 

 

 

「ハンッ!亜人の村からの税収などたかが知れてるだろうよ。それよりか、亜人たちが暴動を起こして騒がなきゃいいけどな!」

 

 

 

吐き捨てる様に言うフレアルト侯爵。

 

 

 

「それについては、そうならぬようこちらからも代官や政務官には柔軟に対応できる人間を選抜する必要があるだろうな」

 

 

 

淡々とした物言いでエルサーパ侯爵が意見を述べる。

 

ワーレンハイド国王は腕を組んだまま目を瞑って黙って聞いていた。

 

 

 

「それこそ新たな火種にならなきゃいいがな」

 

 

 

フレアルト侯爵はあくまでケチをつけたいようだった。

 

 

 

「税の話が出ましたので、開拓村の説明を続けます」

 

 

 

宰相ルベルクが再び話し出したので、まだ話が終わっていなかったのかと一同はルベルクを見た。

 

 

 

「開拓村ですが、村の北西にキングトレントが率いるエルダートレントの群れが住んでいる事が分かったそうです」

 

 

 

「なんだとっ!?」

 

「キ、キングトレントだと!?」

 

 

 

ここにはドライセン公爵、四侯爵以外にも伯爵、辺境伯の他、領地を持たない宮廷貴族の内、大臣を賜っている者達が勢揃いしている。

 

普段この国のかじ取りを行う歴戦の者達をして、キングトレントが率いるエルダートレントの群れというものはおいそれと無視できぬ話であった。

 

 

 

「ご安心を、すでにスライム伯によって一部の討伐及び、キングトレント率いるエルダートレントの群れの支配下契約が済んでおります」

 

 

 

「な、なにぃ!?」

 

「ば、バカな!!」

 

 

 

一部の者達が信じられぬと声を上げる。

 

それはそうだろう。エルダートレント一個体ならともかく、キングトレントにエルダートレントの群れなど、災害級の状況である。それを支配下に置くなど、ありえると考える方がおかしい。通常は、であるが。

 

 

 

「はっはっは、さすがはヤーベ殿。もう何でもありだな」

 

「確かに。魔王と友達になったと言っても驚かないかもしれませんな」

 

 

 

好き放題言っているのはコルーナ辺境伯にルーベンゲルグ伯爵だった。

 

どちらも娘がヤーベに嫁いでいるため、お互いがヤーベを「婿殿」と呼ぶ間柄だ。

 

 

 

「開拓村では、亜人たちの住む村中心部から離れた位置にキングトレント及びエルダートレントの群れが根を張り、住み分けが出来ているそうです。また、スライム伯へ直接ですが、キングトレント及びエルダートレントの群れから、伸びた枝葉の譲渡が決まっており、その木材を安く開拓村に譲ることに決まったそうです。そのエルダートレントの木材を開拓村が定期的に販売する事で、開拓村は高級木材の輸出という産業がなりたつとのことです」

 

 

 

宰相ルベルクの説明に誰もが二の句を告げなくなる。

 

開拓村は通常、何年もの時間をかけて村を造り上げ、そのさらに先にやっと生産物を確保できるようになるのが通常だ。

 

それが、開拓村を造ることになったかと思えば、即座にエルダートレントの木材という超高級素材を販売できるという。とんでもない夢物語、まるでいきなり金鉱でも掘り当てたかのような話であった。

 

 

 

「・・・彼の御仁はどこまでも規格外だの」

 

 

 

ため息交じりにキルエ侯爵が呟く。

 

 

 

「な、なんでヤーベの野郎が買い上げで村に売りつけてるんだよ!? この村は王家直轄領になるんだろうが!」

 

 

 

席から立ち上がって激昂するフレアルト侯爵。

 

この話では、自分の領地ではないスライム伯爵が勝手に中抜きのマージンを取っているようにも見える。

 

 

 

「元々、ヤーベ卿も開拓村に直接エルダートレントの材木を卸すように話をして下さったみたいですが、キングトレントが『我らの素材はぜひヤーベ様にお受け取り頂きたく』と譲らなかったため、一応ヤーベ卿が受け取ったものを村へ卸すという流れになったそうです。一応ヤーベ卿より木材管理担当の人員を一名派遣してもらい、そのものが材木の受け渡しに立ち会う事でキングトレントに了承して貰ったそうです。それでも、キングトレントの素材は村へは卸さずにヤーベ卿が村に訪れた時にキングトレントが直接素材を引き渡すことになったと報告が来ております」

 

 

 

再び、会議室がシンとなる。

 

この話を聞く限り、どこまでもキングトレントとエルダートレントの群れはスライム伯爵に従っている事が伝わって来る。

 

大半の人間がそんなことがあるのかと半信半疑になっていた。

 

 

 

「・・・くっくっく、はっはっは!」

 

 

 

急に笑い出したワーレンハイド国王に、何事かと会議室の全員が視線を向けた。

 

 

 

「ルベルクよ。確か王家の静養のために保養地を選定してあったな」

 

 

 

「・・・はい、確かに。ここから馬車で三日ほどですか。オーロレント湖の畔あたりだったかと思いますが」

 

 

 

「だが、建物はまだ未建設であったな?」

 

 

 

「・・・ええ、予算もさることながら、オーロレント湖のまわりはあまりよい石が取れず、建設素材の確保が難しかったからですが・・・」

 

 

 

「ぜひ、エルダートレントの木材を使って立ててもらいたい。木材なら軽く運びやすいであろうし、何よりエルダートレントの木材は相当な耐久と軽さを誇るという。ぴったりではないか」

 

 

 

嬉しそうにワーレンハイド国王は説明した。

 

元々王都は富裕層ほど石造りの建物であり、木材の建物などは平民でも貧しい人間が住むイメージがあるが、高級素材であるトレントの木材を使った建物を別宅として持つことが一部貴族の中でも特別なステータスとして認識されていた。

 

だが、さすがに王族の保養施設、別宅とはいえ、木材での建設となると、耐久性や安全性の観点からOKが出なかった。エルダートレントの木材は、それらをクリアできる素材であり、ワーレンハイド国王にとっては念願の木造別宅という風流な保養施設を完成させることが出来るのである。

 

 

 

「確かにその通りですが・・・。王族の保養施設としても通常の木材では不安ですが、エルダートレントの木材となれば石よりも遥かに強靭で魔法抵抗力も高いですからな。文句はありませんが・・・それほどの予算が取ってありましたかな?」

 

 

 

首を捻る宰相ルベルク。

 

エルダートレントの木材は何と言っても超高級素材である。それを使って王族用の保養施設を建てようというのだ。どれほどの金額が必要か、頭の痛いところであった。

 

 

 

「はっはっは、ワーレンハイド国王にとってヤーベ卿は婿殿に当たる。少し安く融通してくれるようお願いしてみればいかがか?」

 

 

 

面白そうにワーレンハイド国王を煽るのはドライセン公爵だった。

 

確かにワーレンハイド国王にとって次女のカッシーナの夫になったヤーベ卿は『婿殿』である事に間違いはないのだが。

 

 

 

「そうしたいのはやまやまだが、一応建前上は開拓村からの販売になるしな」

 

 

 

「そういえばそうでしたか」

 

 

 

お互い、腕を組みながら悪い笑みを浮かべあう。

 

どちらにしても、今後王国が潤う事に変わりはないと分かっているのである。

 

 

 

「それにしても、開拓村は一山越えた北側が旧リカオロスト公爵領ですからな。自分の手柄を全面的に出して、開拓村を自身の管理する領に組み込もうとしてもよさそうなものですが」

 

 

 

内務大臣を務めるトラン・フォン・コレスト伯爵が呟いた。

 

コレスト伯爵は内務大臣として王城に常勤しているが、内政会議にヤーベが出席しないため、ヤーベと直接話したことはほとんどなかった。

 

 

 

「欲深い者はそういったことも考えるかもしれぬがな、彼の御仁はあまり我欲を持たぬらしい」

 

 

 

キルエ侯爵は目を瞑ったまま説明した。

 

 

 

「ちっ!」

 

 

 

フレアルト侯爵が舌打ちするが、それを無視するようにドルミア侯爵も口を開く。

 

 

 

「それに、今回の事は妻となられたカッシーナ王女の顔を立てての事やもしれぬ」

 

 

 

「と、いうと?」

 

 

 

キルエ侯爵が目を開けてドルミア侯爵を見る。

 

 

 

「なに、カッシーナ王女は降嫁されたわけだが、その時に王位継承権が消滅しておられる。実質的にはカルセル王太子やドライセン公爵殿に何かあっても、スライム伯爵とカッシーナ王女のお子が王族に連なる事は無い」

 

 

 

ドルミア侯爵の説明をその場の誰もが黙って聞いた。

 

 

 

「王位継承権を捨ててでも自分の元へ来てくれたカッシーナ王女と王位継承権を外してでも自分の元へカッシーナ王女を送り出してくれたワーレンハイド国王への感謝の気持ちが出ているのでは・・・と思ったのだよ。開拓村がすぐに軌道に乗って、経済が豊かになる、それも王家直轄地で。それは王家にとっては大変ありがたい事であるだろうからの」

 

 

 

老獪なドルミア侯爵の説明に、納得する者達。

 

自由奔放に生きているように見えるスライム伯爵も、王家に感謝している――――

 

ヤーベに対するそんな感情が生まれる中、フレアルト侯爵だけは面白くなさそうにむっつりとした表情で腕を組むのであった。




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