転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!? 作:西園寺卓也
「さあレッド! 思いっきり疾走するのだ! 遠慮はいらんぞ!」
「グァウグァウ!」
ドスドスと派手な音を立ててファイアードラゴンのレッドが草原を疾走する。
草原と言っても、土は硬く、荒れ気味でどちらかと言えば荒野に近いイメージだが。
ここはドラゴニア王国、王都ドラグーンよりランズの村へ向かった平原。
ヤーベは西方三国同盟よりも前に締結されたバルバロイ王国とドラゴニア王国の友誼に基づき、農業の生産改善のためにドラゴニア王国へ足を運んでいた。
王都ドラグーンの周りをまわって、どこも土が硬く栄養が不足気味であることが判明。そこで比較的広い土地が確保できるランズの村近郊で大規模な畑を作るプロジェクトを発足した。
発足して翌日、ファイアードラゴンのレッドに鉄の爪を牽かせて硬い土壌を掘削する。その後土の精霊ベルヒアのパワーで栄養ある下層の土とかき混ぜ、加護を与える事により、すばらしい土壌へと変革していった。
「バーゼル。土の精霊が与えられるのは王都近郊で、ランズの村近くのここだけだ。後は鉄の爪や農機具を貸し出すから、ワイバーンなどを使って硬い土の掘削作業を地道に進めて行けよ? 出来た畑には栄養を追加できるよう肥料を準備してやるから、それで畑の様子を見て行ってくれ」
俺はバーゼルに説明する。
ドラゴニア王国の全ての畑にベルヒアの加護をやるわけにもいかんしな。王都周りのこの畑だけでも相当な量の農作物が取れるはずだ。それだけで食料事情はだいぶ改善するだろう。後は国の隅々へ畑の開墾技術を普及してくことでドラゴニア王国の農業革新は進んで行けるだろう。
「ありがとうございます、アニキ! それだけでも十分ですよ!これで飢えて苦しむ国民が少しでも少なくなるなら、こんなに嬉しいことは無い!」
大げさに身振り手振りで感動と感謝を伝えて来るドラゴニア王国の国王バーゼル。見れば後ろの農業担当大臣も泣いて喜んでいる。
苦労したんだろうな、だいぶ硬い土だったからな。大型の魔獣のパワーでも使わないと人間だけの手では掘り返して畑にするなんて、夢のまた夢だっただろう。
「さて、せっかく加護が与えられたんだ。大至急国民のお腹を満たす作物を植えようではないか!」
そう言って俺は仰々しくある作物を取り出した。
「・・・それはなんですか? アニキ」
「ふふーん、見て驚け聞いて腰抜かせ! これが俺様の秘密兵器、ジャガーイモだ!」
俺はヒョウ柄のイモを取り出す。
このジャガーイモ、地球時代でいうところの「ジャガイモ」だ。
蒸せばホクホクで甘みも強く、何より一杯取れるし、腹にも溜まる。
その上、ありがたい事にこの異世界では連作障害がないらしい。
ならば植えまくって大量ゲットを目指すべきでしょ!
「さあさあ、この種芋を植えまくるのだ! あ、均等にな!」
この畑の管理はランズの村で行うことになった。
このランズの村、帝国来襲時に雷牙とハンゾウたちが村を護衛したことで、何故か俺様に忠誠を誓うと謎の反応を見せている村である。
そんなわけで、俺が怪しい畑を猛スピードで開墾して行っても、「さすがヤーベ様」の一言で片づけられていた。解せぬ。まあいいけど。
そうしてジャガーイモも大量に植えて僅か一ヶ月。
「アニキ! スゴイ大量ですよ! ジャガーイモがこんなに!」
いや、めっちゃくちゃ早くない?成長。
カソの村でもジャガーイモは二ヶ月くらいかかってた気がする。いや、それも通常半年以上からすればメチャ早いんだけども。
やはり、水の精霊ウィンティアの加護を受けた水を撒いたことと、土の精霊ベルヒアの加護を受けた大地で育てたことによる精霊ダブルパワーが影響しているのかな。
まー、採れる採れる。ザクザク採れる。帝国に輸出できるくらい取れてないだろうか?
「農業大臣! 辺境の村の隅々までこの芋を配るぞ! 手配しろ!」
「ははっ!」
うれし泣きの農業大臣がダッシュで運搬手配を検討に行く。
国民が皆飢えることなく生活できる。バーゼルにとって最も叶えたい夢が今叶いそうなんだ。嬉しさも一入か。
「アニキ!、これはやっぱりふかして塩をかけて食べるんですよね?」
笑顔で聞いて来たバーゼルに俺はカツを入れる。
「バカモン! 俺の後ろのキレイどころは何のために連れてきたと思っている! 今日はドラゴニア王国のイモパーティだ! あらゆるジャガーイモ料理を伝授してやる! そのあまりのうまさに腰を抜かせ! 天よただ刮目せよ!」
「なんかわからんけど、さすがアニキだ!」
そう言ってなにやら感動しているバーゼルに俺の後ろのフィレオンティーナやリューナちゃんを紹介する。なぜかレストラン「デリャタカー」のオーナーシェフ、ドエリャ・モーケテーガヤーまで協力すると申し出てきたので、一緒に連れてきた。
「まずは基本のジャガバターですよ!」
フィレオンティーナがスタッフにジャガーイモを切り、ふかすように指示して行く。もちろん森のバターこと、バタールの実も新鮮なものをたっぷり用意してある。
「私はポテトサラダですね!」
リューナちゃんがジャガーイモを使ってポテトサラダを作っていく。
「わたくしは自慢のソースを使ったシチューを振る舞いましょう!」
ドエリャが大きな鍋をいくつも準備させ、煮込みの味を指示して行く。
「ふっふっふ、俺もジャガーイモを美味しく食べる魔法のレシピを持ち合わせているのだよ!」
そう言って大き目の中華鍋のような入れ物に油をたっぷり入れる。
「むうっ! やはりスライム伯爵は新しい料理を・・・、これだから彼の御仁からは目が離せぬ!」
何やらドエリャが煮込み鍋を準備しながら俺の方に熱い視線を送って来る。まあいいけど。
「イリーナ、ルシーナ、サリーナ、ジャガーイモを出来るだけ薄く切ってくれ」
「「「了解!」」」
「リーナはこの器の中のジャガーイモをこねてくれるか?」
「はいなのでしゅ!」
「キュキュ――――!」
「ズゴズゴ――――!」
リーナの頭の上にいるジョージとジンベーも返事をするが、手伝わないようだ。
そのくせコイツら恐ろしいほど食欲あるからな・・・。
「ヤーベ、出来たぞ。どうするんだ?」
「もちろんこうする」
そう言ってイリーナたちが薄く切ったジャガーイモを油の中に放り込む。
ジュワ~~~~!
「うわ!すごいな!」
「油がパチパチ言ってますよ!」
「すごいねー」
「これは油で揚げているんだ。ポテトチップスって料理だよ」
そう言ってからりと揚がった薄切りのジャガーイモを油から取り出し、金属で作った網目の器に取り出して行く。
油を吸う紙がないからな。仕方がない。ここへ塩をふる。
「食べてごらん」
パリッ!
「「「!!」」」
女性陣が驚いたまま固まる。
「おいしい!」
「サックサクです!」
「これ、止まらないよ~!」
ポテトチップスは簡単だからな。どんどん揚げて行こう。
そうしている間にバーゼル達も食べにくる。
「アニキ、こりゃウマイ!」
「今日は無料だ!どんどん配れ!もう少ししたらジャガバターもポテトサラダもシチューも出来るぞ!」
「「「うおお~~~」」」
「リーナ、それはいももちっていうんだ。出来たら食べてみてごらん?もちもちだよ?」
リーナが自分でこねて丸めたいももちを食べる。
「もちもちでしゅー!」
満面の笑みで喜ぶリーナ。自分で作ったからよりおいしく感じているかな?
「あ、それも食べたいぞ!」
「わたくしにも!」
イリーナやフィレオンティーナがリーナの元へ駆け寄って行く。
「「もちもち~!」」
いももちも好評のようだ。
「さあ、イモ料理はまだまだあるぞ!腹がパンパンになってもう食べられないっていうまで食べ尽くせ!」
「「「おおー!!」」」
どうせ精霊の加護のある畑なんだ。
とってもまたすぐ実が付くだろう。
とりあえず今は飢えた奴が誰もいなくなって全員腹いっぱいになるまで面倒見てやるぞ!
「さあさあ食え食え――――!!」
「「「わああ~~~!!」」」
王都入口で行ったジャガーイモ試食会はその後三日三晩続くお祭りとなり、王都中の店が便乗して盛り上がるのであった。
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