転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?   作:西園寺卓也

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第263話 高い文化の香りを楽しんでみよう

 

「いやはや、まいったね」

 

 

 

俺は右手で顔をパタパタと仰ぎながら、歩いている。

 

冒険者ギルドからフィレオンティーナと二人で出てきた後、そのまま大通りを宿泊宿の方へ歩き始めている。

 

 

 

「そうですわね・・・思いっきり旦那様がSランク冒険者でバルバロイ王国の伯爵様だとバレてしまいましたわ・・・」

 

 

 

隣で歩くフィレオンティーナも深い溜息を吐く。

 

ガーデンバール王国に折角来たのだ。王城での面会が終わったら王都を観光しようとしていた俺たちにとって、身バレは出来るだけ避けたい状況だった。

 

だがすでに冒険者ギルドにはバレてしまった。以後ヤーベの名で冒険者ギルドに行けば騒動の元になるだろう。

 

 

 

「はああ・・・」

 

 

 

ついつい深い溜息が出てしまう。

 

 

 

「まあまあ、旦那様。せっかく二人きりのデートなんですし。気を取り直して何か美味しい物を探しながら町を歩きましょうか」

 

 

 

そう言って俺の左手をグイッと両腕で取り込むように抱きついてくるフィレオンティーナ。

 

ともすれば、フィレオンティーナの爆乳が俺の左手を包み込むわけで。

 

 

 

拝啓母上様。天使のマシュマロに包まれる幸せを知りました。

 

 

 

「それに、ガーデンバール王国の王都ログリアは『芸術の都』とも呼ばれていますの。旦那様とぜひ演劇でも見たいですわ」

 

 

 

「演劇とかあるんだ・・・」

 

 

 

そう言えば異世界に転生?して、生き残る事に必死であまり娯楽に意識を向けることは無かったな。リバーシとか作って売ったけど、自分で楽しむというよりは金儲けのためとか、王国の国民に楽しんでもらおうという意図だったからな。純粋に何か自分が楽しもうなんて考える余裕無かったな。

 

これでもバルバロイ王国では伯爵位を賜る身だ。

 

ある程度生活水準も上げられる。自分自身の生活の事も見つめ直してもいい時期かもしれない。

 

 

 

「そうだな。演劇とは非常に高い文化レベルを感じるな。ぜひとも俺も見てみたいよ」

 

 

 

カッシーナ達をほっぽり出しておいてフィレオンティーナと二人っきりで演劇とか見ていていいんだろうか?まあ、後で怒られたら怒られた時だな。

 

 

 

「あ、旦那様!あれ!あれ美味しそうですわ!」

 

 

 

多くの屋台が連なる広めの通り。

 

フィレオンティーナが指さす屋台では、果物を潰してジュースにした飲み物を売っていた。台の上にはいろいろな果物がのっている。

 

上からてこの原理で板を押し込む道具で果物の果汁を絞っているようだ。

 

 

 

「わたくしはこのゴーマンの果物ジュースが飲みたいですの!」

 

 

 

そう言って俺の左手をブンブンと振りながら、黄色く完熟した果物を指さす。これってマンゴー?

 

 

 

「おっ!おねーさん詳しいね!このゴーマンを知ってるんだ。こいつはこのガーデンバール王国の東にあるバドル三国のさらに東にあるラードスリブ王国産なんだよ。距離もあるうえに最近バドル三国がキナ臭くて、なかなか入って来ないから高騰してるんだよ。だが、オレっちの店のモノは新鮮だぜ!ここに着くころに食べごろになる様に調整して収穫してもらってるからね!」

 

 

 

自信満々に説明するドリンク屋のにーちゃん。

 

いろいろ聞いてみると、このガーデンバール王国の東にはバドル三国と呼ばれる小国がそれぞれ隣接している。この三国はそれぞれバドルシア、バドルローレン、バドルウルブスと言い、この三国で小競り合いをずっと起こしているらしい。小競り合いばかり起こしているので、三すくみのようになっており、このガーデンバール王国や東のラードスリブ王国には戦争を仕掛けられないらしい。そのため、ここしばらく戦争がなく平和が続いているようだ。平和なのは何よりだ。

 

 

 

フィレオンティーナにゴーマンのジュースを、俺はリゴンとオーレンのミックスジュースを注文しつつ、この屋台のにーちゃんから情報収集する。

 

何やらバドル三国の東にあるラードスリブ王国で最近不穏な動きがあり、農作物の仕入れが不安定になっているらしい。元々美しい王女姉妹がいたラードスリブ王国だが、十年以上前に姉妹で失踪、行方不明になっているらしい。その後国王の体調が不調になり、その叔父が国王代理の座についてから、今の宰相が抜擢され、キナ臭い情報が流れる様になってきたという。元々ラードスリブ王国はそのさらに東には列国最大の大帝国であるロズ・ゴルディア大帝国が広がっている。この大陸の東に君臨するこの大帝国は圧倒的な戦力を誇る列国でも最大面積の国であるのだが、険しい山間部が多く国内の移動も苦労するらしい。

 

 

 

(三国志でいうと、蜀のようなイメージか・・・?)

 

 

 

元々常にロズ・ゴルディア大帝国に脅かされているラードスリブ王国は、あの手この手で大帝国にすり寄っていたらしい。その切り札が美人姉妹の王女たちだったらしいという噂を聞いた時は異世界の世知辛さを感じられずにはいられなかった。

 

何でも失踪した時、姉妹は十歳にも満たない子供だったという。誘拐説、事故死説、陰謀説など今でもいろいろな噂が絶えず、演劇の演目にもなっているらしい。

 

 

 

「ふーん、何だかいろいろ面倒臭そうな国際情勢だな。もう帰りたくなってきたよ」

 

 

 

そう言ってフィレオンティーナの方を見たのだが、フィレオンティーナは受け取ったゴーマンのジュースを手に持ったままボーッとしていた。

 

 

 

「どうした?フィレオンティーナ?」

 

 

 

「え、ええ。何でもありませんわ。ジュース、美味しいですわね」

 

 

 

そう言って勢いよくゴーマンのジュースを啜るフィレオンティーナ。

 

俺の左手を取ると、勢いよくスキップしながら歩き出す。

 

 

 

「さあ、演劇を見に行きましょう旦那様!」

 

 

 

急にテンションを上げながら俺を引っ張るフィレオンティーナに俺は首を傾げながらも付いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ!あそこが演劇場みたいですわ!」

 

 

 

見れば大きな建物の前に行列が出来ていた。結構な人が並んでいるな。

 

 

 

「おいおい、これみんな演劇を見るために並んでいるのか?」

 

 

 

俺は地球時代並ぶのが本当に苦手だった。ラーメンとか、人気店など、何で並んでまで食べたりしないといけないのか、そう思っていた。まあ、時間のほとんどをラノベを読む、という時間に費やしたい俺にとっては無駄な時間は徹底的に省くのがライフスタンスだったしな。

 

 

 

「あら・・・これ・・・?」

 

 

 

「ん?」

 

 

 

フィレオンティーナが俺の左手を離して、演劇場の壁に貼られた演目ポスターを見に行く。

 

 

 

「これ・・・旦那様の事では?」

 

 

 

「え?」

 

 

 

フィレオンティーナが何を言っているかわからなかったので、演目ポスターを見た。

 

 

 

「ブフッ!」

 

 

 

俺は全力でミックスジュースを吹いた。

 

演目ポスターにはこう表記されている。

 

 

 

『救国の英雄見参!立ちふさがる敵は竜でも公爵でもぶった切り!!各国の王女をこの手に抱き、目指すはハーレム大帝国!』

 

 

 

誰の事だよっ!! 後、ハーレム大帝国なんて目指してませんからー!!

 

 

 

 




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