転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!? 作:西園寺卓也
「ようこそおいで下さいました!救国の英雄殿!」
近くに寄るといきなり俺の手を掴んで両手で握り満面の笑みで挨拶をくれる。
ガーデンバール王国の王太子、セルシオ・ヴァン・ガーデンバールその人だ。
満面の笑みで手を握られて訪問を喜ばれるのは悪い気はしない・・・通常なら。
だが、ここはガーデンバール王国の王都ログリアにあるガーデンバール城。そして国王への謁見の間である。王都ログリアに到着して数日、結構早い日数でガーデンバール国王への謁見が準備された。通常は十日以上かかるらしいが、俺達がバルバロイ王国の重要人物で国賓待遇でのおもてなしとなっているかららしい。
そんなわけで、王都ログリアを十分に堪能している時間は無かった。
まあ、謁見が終われば帰る前にゆっくり観光してもいいのだが。
ちなみに、俺様を題材にした謎の演劇は奥さんズがどうしても見たいと言ったので怪しいローブを被ったり仮面をつけて見に行ってみた。
・・・誰だよ。俺様の情報をリークしたやつは!?
詳しすぎだろ!どうでもいいところまで結構あってるじゃねーか!
俺のセリフの言い回し、マジで勘弁してもらえませんかね!?
おっと、王都をざっと観光したことを思い出している場合ではない。
今もセルシオ王太子は俺の手を両手で握り満面の笑みを俺に向けている。
王太子の父親であるガーデンバール王国の現国王セルジア・ヴァン・ガーデンバール王は玉座に座りながら苦笑していた。
この謁見の間は、バルバロイ王国では国王側が三段ほど高かったのに比べ、ガーデンバール王国の謁見の間は五段と更に高く、王族と謁見する訪問者の差が大きくなっていた。
その段差を駆けおりる様にしてセルシオ王太子が俺の元へやって来て、両手を取ったのである。異例中の異例だ。
見れば俺から見て国王の左側には3人の后が並んでいた。
事前の情報では王位継承権を持つ子供がいるのは3名の后達であり、長男のセルシオの母親、次男のセドリックの母親、まだ12歳だが、長女になるプラウディアの母親と並んでいる。そのセドリックとプラウディアは国王の右側に並んでいるのだが、一緒に並んでいたセルシオが駆け下りていってしまったので口をあんぐりと開けて驚いている。
「坊ちゃま!いくら国賓待遇のお客様とはいえ、身が軽すぎますぞ!」
なんだかお付きの爺やみたいな人が怒っている。
でも、どう見てもこの国の宰相の地位にいるような人だよな。段の下にいるとはいえ、国王様の一番近いところに立っていたからな。
「いや、あのバルバロイの救国の英雄が結婚後、一番、最も、最初に!我が国を訪問国に選んで足を運んでくれたんだよ?こんなうれしい事が他にあるかい?」
おんなじことを言ってないか?一番、とか、最も、とか、最初、とか。
「まあまあ、セルシオはスライム伯爵様の大ファンですから」
ホホホと笑う后、というかこの国の第一王妃様だよね。
「えーっと、誰かと間違えてません?」
「間違えてませんよ!ヤーベ伯爵様!」
俺の腕をブンブンと振って満面の笑みを浮かべるセルシオ王太子。
なぜだろう、なんで彼はこんなにも俺を気に入っている?
「結婚の儀にお伺いした時にコーデリアと一緒にカッシーナ王女よりヤーベ卿の武勇伝を聞かせてもらいました!もう一つ一つのエピソードが大興奮ですよ!」
(お前かぁ! お前のせいか!)
俺は首をグリンと後ろに向けて、背後に並んでいた奥さんズの内、カッシーナを睨みつける。
イリーナたちはジトッと横目でジト目を向けている。
当のカッシーナは鳴らない口笛をヒューヒューと吹きながら明後日の方を向いて冷汗を流している。
ウチの奥さん達、口笛吹けない娘が多くないか?イリーナもだし。
「私が国に戻って来てすぐ、国営の演劇場で公演を担当している脚本家がすっ飛んで来てね。ヤーベ卿の武勇伝を聞かせろとしつこくてね。みっちり取材されてしまったよ」
(お前かぁ! お前のせいか!)
俺は再び首をグリンと回して前を向いた。セルシオ王太子を睨みつけるわけにはいかないのでジト目で抑えておく。
でも、王太子のせいか!どうりで王都ログリアの演劇場に俺の演目があったわけだよ。それも結構詳しくな!そりゃそうだ!カッシーナが死ぬほど自慢げに詳しく語っちゃったからね!それを聞いた王太子も、きっと自慢げに詳しく語っちゃったんだろーね!
プレジャー公爵を追い詰めて
でもサキュバスのミーナが出てきた所は全カットだったな・・・あ、ミーナ元気にストラップ作ってるかな?
ブンブンといまだに振られる腕を見ながら、俺はバルバロイ王国に残してきた連中の事をふと考えた。
―――― その頃のバルバロイ王国 ――――
「主殿は無事謁見に臨んでおるのかのう?」
屋敷の庭で日向ぼっこをしながら椅子に腰かけていたのは<古代竜エンシェントドラゴン>のミーティアであった。
「どうだべかな。もう少し時間がかかるでねえかな」
ハルバードを振り回しながら一人でトレーニングしているゲルドンが答えた。
「お互い人間ではないから、お留守番とは・・・主殿も薄情よな」
ぷりぷりしながらミーティアはバルバロイ王国の自宅で留守番するよう指示したヤーベに不満を見せた。
「仕方ないだで。別の国に行けば、人間でないとバレた時に問題になる可能性が高いだで」
「ふん、そんな輩は焼き尽くしてやればいいのじゃ!」
「そんなことをしたら大問題だで」
尤もミーティアも本気で言ってはいないので、ゲルドンのツッコミにむっとした表情を返すに留まっている。
「・・・そう言えば、神獣様たちはどうしてるだ?姿が見えないだが」
神獣であるジョージとジンベーはその存在が希少すぎると家で留守番するようにヤーベが申し付けていた。絶望の表情を浮かべて滝のような涙を流してキューキューズゴズゴ泣いていた。
「神獣様は透明化の能力がある。ダメだと言ってもついて行ったのだろう。あのちびっ娘に懐いておられたしの」
(あのちびっ娘・・・ああ、リーナ殿のことだか)
ゲルドンは訓練を止め、屋敷を振り返った。
ヤーベは奥さんズのほとんどを連れて行っているし、ミノ娘たちの数人も選抜して連れて行っている。古参の狼牙族もローガを筆頭に連れ立っていた。
「ヤーベ殿が帰って来るまで、屋敷も寂しくなるだな」
ゲルドンはそう言って一つ溜息を吐いたのだが、今も屋敷の地下でサキュバスのミーナがヤーベストラップを作り続けている事は気づいていなかった。
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