転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!? 作:西園寺卓也
「で、どこで迎撃する?」
準備された会議室での軍議。いきなりキモになる質問をセルジア国王が発した。
この軍議の出した結論によってガーデンバール王国の命運も決まると言ってもよかった。
「取れる手立ては今となっては二つだけです」
ガレン将軍が答える。
「それは?」
真剣に問いかけるセルジア国王にガレン将軍は目をそらし、俯き加減で説明し出す。
「一つはこの王都ログリアに籠城する事です。王都の城壁は高く厚く出来ています。ほぼ中央に鎮座するガーデンバール城も堅牢です。全軍を王都の防衛に回し、凌ぎ切るという作戦です」
「馬鹿な! 王都で戦を行うだと!」
「香り高い文化革新の我が王都ログリアで戦など!」
誰が我が王都ログリアだよ、とセルジア国王は発言した貴族をジロッと睨む。
「ちなみにもう一案は?」
「ここから東に大きな町が二つあります。北側にあるタレリアの町と南にあるコラーンの町です。この二つの町に兵を派遣し、東から来る敵軍を待ち受けます」
「おお!それがいい!」
「王都を戦場にするよりはよっぽどマシだ!」
「それに南側にあるコラーンの町は小麦を生産する一大農業産地でもある。食糧の心配もない!」
「なるほど!」
次々と貴族たちが賛成して行く。軍議に役立つのかわからないような貴族たちだが、上級貴族たちは大臣職などに就いていなくともある程度の会議では発言権があった。
「ですが、その案には大きな穴があります」
「それは」
「北側のタレリアと南側のコラーンでは距離が離れています。この二つの町の間は平野のため、敵軍が二つの町を無視して王都へ直進する可能性もあるのです」
セルジア国王の質問に致命的なデメリットを説明するガレン将軍。
「そ、それでは中間地点の平野に陣取ればいいではないか!」
貴族の一人が声を荒げる。
「その場合、敵軍は北のタレリア、南のコラーンに向けて進軍するでしょう。そして、現在の二つの町の防衛力ではとてもではありませんが敵軍を防ぐことなどできないでしょう」
ガレン将軍の説明に軍議出席者一同が声を失う。
「東からの敵を迎え撃つために最も良い戦場は二つの町のさらに東にあるポルポタの丘です。この丘の北東には北の山脈のすそ野が広がっており、南東は深い森があります。そのため、進軍速度を最も重視していると思われる敵軍は間違いなく進軍経路が狭まり、ポルポタの丘へ続く進路を取るはずです。このポルポタの丘に布陣できれば、こちらの兵力が少ない状況でも有利に戦局を運ぶことが出来るでしょう」
「おお! そんないい場所があるのか! すぐに兵を派遣するのじゃ!」
上級貴族の一人がガレン将軍に偉そうに指示する。
「それは無理です。どれほど急いでもポルポタの丘への到着は敵軍の方が早いでしょう。ポルポタの丘へ進軍すれば、我々よりも早くポルポタの丘を占拠した敵軍より正しく逆落としを喰らい壊滅の危機に瀕します」
再び軍議の場に静寂が訪れる。迎撃に有利な場所への布陣は絶対に間に合わない。
王都から出て迎撃準備をしても、王都へ向かう事を阻止できない可能性が高い。
その場に絶望の空気が漂い始める。
「父上」
それまで一言も発さなかったセルシオ王太子が立ち上がった。
「なんだ?」
「先ほどヤーベ様への助力を乞おうとした際に私を止めたのは、ひとえにこの国の事をおもんぱかっての事でしょうか?」
ジッと父親であるセルジア国王を見るセルシオ王太子。
「その通りだ。国として軽々しくヤーベ卿の助力を受けるわけにはいかん。それだけの見返りを示さねばならぬし、場合によってはバルバロイ王国と我が国の関係が大きく不利に働くような条件を後から出されるかもしれぬ。またヤーベ卿個人と交渉して力を借りれば、バルバロイ王国の許可なくヤーベ卿が力を振るったととらえられるだろう。それはヤーベ卿にとっても良い事ではないはずだ」
「大体、あのような者に何が出来ると言うのですか?」
「しかりしかり、美しい女子を侍らせているだけの道化よ」
「正しく」
セルジア国王に追従するようにやいやい言い出す貴族たち。
「父上、俺は例えバルバロイ王国からどのような不利な条件を突きつけられようと、今国民を失うわけにはいかないと思う。例えガーデンバール王国の名が無くなったとしたって、そこに無事に我が国の民たちが安心して暮らせるのなら、俺はそれでもいいと思う」
嘲わらう貴族たちを無視してセルシオ王太子は語る。
「馬鹿なっ!」
「王国の名が消えるという事は王家そのものが消えるという事ですぞ!」
貴族たちがセルシオ王太子に食って掛かる。だがそれを無視してセルシオ王太子は言葉を続ける。
「父上、私のやることが間違っているのならば、王太子の座を返上いたします。それで足りなければこの首をお取りください。もしバルバロイ王国から無理難題な要求が出るようならこのセルシオが勝手に行ったことだと、バルバロイ王国に突き出してください」
そう言ってセルシオ王太子は部屋を出た。
――――そのころ、客室では。
「ヤーベ、なぜセルシオ王太子の救援依頼を拒んだのだ」
イリーナが俺に疑問をぶつけて来る。
「俺たちはバルバロイ王国の特使として来ているからな。あの場で簡単に救援依頼を受諾する事は難しいよ」
「・・・そうかもしれないが」
ガーデンバール王国を助けないという選択をしたと思っているイリーナは不満のようだ。
「それに俺個人が協力を申し出たとしても、バルバロイ王国から指示も無く勝手に振る舞う事になるからな。ワーレンハイド国王への進言と、それに対する許可をもらう必要があるだろうね」
「それに関しては、お父様はヤーベ様の判断を全面的に支持すると思いますが」
カッシーナが俺の判断を全面的に国王が認めてくれると太鼓判を押してくれる。いや、ありがたいけどさ。
「まあ、一応建前上の体面ってヤツがあるだろうからね」
俺は苦笑しながらカッシーナに微笑む。
「ヤーベ様は英雄なのですから、そのような体面など不要かと」
いやいや、どんだけ持ち上げてくれちゃってるのかな?
さすがにテレますよ?
「それで、旦那様はいかがなさるおつもりですか?」
フィレオンティーナが心配そうに俺の顔を見る。
「・・・まあ、きっとその内呼びに来るよ。それまでお茶でも飲んで待っていよう」
俺はソファに座るとメイドさんにお茶をお願いした。
「・・・呼びに来るのですか? 誰が?」
みんなは疑問を持ったようだが、しばらくしてセルシオ王太子が真剣な表情で部屋に入ってきて、「ガーデンバール王国の窮地救うため、軍議に参加いただきたい」と深々と頭を下げたことに驚いていた。
「・・・なるほど、お話はよくわかりました」
セルシオ王太子に軍議の場に連れて来られた俺は、それまでの話し合いの内容と検討された対応内容をガレン将軍から説明された。
「やはりバルバロイ王国からの国賓、ヤーベ・フォン・スライム伯爵に力を借りようということか・・・」
貴族の一人が憎々しげに俺を睨む。
いや、文句あるなら自分で何とかしなさいよ。
「先の食事会の席で、貴殿は『合従軍』と呟いたな。それはどういった意味であろうか?」
セルジア国王が俺に問いかける。
あの呟きを聞かれていたのか。
「合従軍とは、まあ端的に説明すれば複数の国がある目的をもって一つの国を攻めようと一致団結して軍を起こす事です」
「今回の目的はこのガーデンバール王国を攻める事・・・」
「そうなります」
「それで、どうだろうか? 迎撃の二案は?」
「どちらも致命的な結果をもたらすでしょう」
さらりと言った俺の回答に議場が紛糾する。
「貴様!どういうつもりか!」
「我々を愚弄するか!」
騒ぎ出す貴族たちを抑えてセルジア国王が俺を見る。
「どういうことか説明してもらえるだろうか?」
「この王都ログリアに籠城する作戦は、一見バドル三国の襲来を受け止めるには良い案かと思います」
「それではなぜ問題なのだ?」
「
「・・・勝利条件?」
「この王都は最終防衛地です。敵からすればここを落とせば勝ちです。そして、落とされれば我々は滅亡することになる。それで
「あ・・・」
気が付いたようだ。籠城するのだから、敵軍を打ち破るという話ではない。敵の侵攻を受け止める戦術なのだ。ならば敵軍が退却するまで侵攻を受け止めきれなければ勝利できないのが『籠城』という戦術だ。
「籠城は古来より援軍が来る事を前提とした戦略となります。バルバロイ王国から確実に勝てるだけの援軍が約束されてない今、籠城は危険な選択肢と言えるでしょう。そして敵軍は必ず、南のコラーンの町を占拠し、食料を奪って来るはず。十分な食料を持って敵に攻めかかられれば、敵が食糧難になって退却する事も望めません」
「なんと・・・」
「そして二案目はもっと危険ですね。どこに配置しても必ずこの王都を目指して進軍してくるはず。敵がこの王都ログリアの陥落を至上の命題としている事は越境して侵攻してきた軍が村々を蹂躙しながらも進軍速度をまったく落としていないことからも明白です。そのため、タレリア、コラーンの二つの町に戦力を配備しても間違いなく素通りしてこの王都ログリアに敵軍が殺到するのはほぼ間違いないでしょう。事前案としては食料が豊富にあるコラーンの町に戦力を分散して、通過した敵軍が王都ログリアに到着したところで、王都守備軍との挟撃を狙う作戦がありますが、戦力の分散がバレれば、間違いなく全力でコラーンの町に攻めかかられるでしょう。ただでさえ戦力がこちらは敵軍を下回っていますから、各個撃破の目標となってしまいます」
「むう・・・」
「ならば、どうすればいいというんじゃ!」
貴族の一人が苛立ちながら怒鳴る。
「それ以前に、皆様方は
「な、なに!?」
セルジア国王が俺に驚いた顔を向ける。セルシオ王太子も首を傾げる。
「あれだけ小競り合いを起こしてきたバドル三国が、いきなり足並みをそろえてこのガーデンバール王国へ挙兵した。しかも電光石火の進軍でこの王都ログリアを目指している。
「現実に起きておるから我々がこうして軍議を開いておるんじゃろうが!」
更に苛立ちを深める貴族たち。
「ま、まさか・・・」
聡いセルシオ王太子は気づいたようだ。
「そのとおりですよ、セルシオ王太子。この三国の小競り合いに利がない事を説き、ガーデンバール王国へ兵を向けさせた何者かがいるという事ですよ。それも、
「そ、それでは・・・」
「ええ、バドル三国以外に第四の国がいるという事です」
「まさか、ラードスリブ王国か・・・」
セルジア国王が呻くように呟く。
「ええ、その通りです。
「ど、どういう事でしょうか?」
セルシオ王太子の疑問に端的に俺は答えた。
「ラードスリブ王国がバドル三国をそそのかしてこのガーデンバール王国へ全兵力を向けたとすれば、バドル三国の東に位置する
何せ自国を空にしてまでこのガーデンバール王国を攻めているのですから。もしかしたら自国を空にしてガーデンバール王国を攻めている時にラードスリブ王国が裏切ってバドル三国のどこかを攻め落とすかもしれない。そういった疑問すらも抱かせない、もしくは
そんな敵がバドル三国をけしかけて争いを傍観するだけならまだ対処は楽ですが、バドル三国をまとめ上げて挙兵させられるだけの知恵者がそれで終わるとも思えません。別の何か目的があるのならばともかく、もしこのガーデンバール王国を攻め落とすことが目的ならば、間違いなく後詰の形でラードスリブ王国からも兵を出立させているでしょう。その総兵力はバドル三国の一国分を遥かに上回る戦力だと思われます。たとえこの王都ログリアで籠城し、持ちこたえていたとしても、後から悠々と戦場へ到着し、互角の戦いを強いられる我々の息の根を止めることが出来るだけの戦力を用意しているでしょう」
俺の説明に軍議の場にいた誰もが絶句した。