転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?   作:西園寺卓也

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第272話 出迎える準備をしよう

 

「さて・・・、そろそろ王都ログリアの攻略が始まっている頃でしょうか」

 

 

 

真っ黒な衣装を身にまとい、黒いマントを翻しながら馬を進める男。

 

ラードスリブ王国にて黒衣の宰相と呼ばれるレオナルド・カルバドリーその人である。

 

フォンの名が入らないことからもわかる様に、貴族の出ではないレオナルドだが、ラードスリブ王国の現在の王位に就くグランドー・デアル・ファインソートが見出だした人材であり、現国王の懐刀といった存在になっている。

 

 

 

「何とか勇者召喚が成功したと思ったら、死ぬほど人間性最悪のクズが召喚されるとは・・・」

 

 

 

レオナルドは歩くようなスピードで馬を進める。

 

その後ろにはラードスリブ王国の約半数の戦力である一万五千の軍勢を率いている。

 

 

 

「あの勇者・・・召喚された直後はうまくスキルも使えなかったくせに、騎士団長のトロア殿に扱かれて強くなったかと思ったら、女、女と騒ぎ出して・・・。犯罪まがいの行為も何度も起こして、それを諫めた騎士団長のトロア様を殺してしまうとは・・・。挙句国を救ってやるから、女をもっと連れて来いとは・・・。どうして女神はあんなクズに勇者としての能力をお与えになったのか・・・」

 

 

 

レオナルドは考えを振り払うように頭を振った。

 

 

 

「フフフ・・・クズならクズで使いようはあるというものです。ヤツは女さえ与えておけばある程度言う事を聞く。うまくコントロールしてやれば、あの戦闘力は大帝国にも対抗できるはずだ。ガーデンバール王国なぞ、あの男一人で王都を落とせるだろう。尤も美人と名高い王太子の妻である王太子妃は蹂躙されてボロボロになってしまうだろうがな」

 

 

 

女に見境なく、コントロールの難しい勇者をラードスリブ王国に留守番させ、今回の進軍は自分でコントロールする。留守番の対価は国内の美人を招集、数名をあてがってある。そして、ガーデンバール王国から美人を連れて帰る事。

 

何と言っても今回は合従軍を纏めることが出来た。

 

王都ログリアを落とすのは連中に任せ、我々は悠々とログリアの地を踏めばいい。

 

我々が到着する前に手に入れた物は全て自由にして良いというのが合従軍を纏める際に出した条件だ。物欲が強いバドル三国の連中は嬉々として王都攻めを行うだろう。

 

 

 

「王都攻めはバドル三国の合従軍が対応する。勇者のような強大な戦力は必要ない。王族を悉く捕らえ処刑し、人員を刷新してガーデンバール王国を傘下に収めれば大帝国に対抗できるだけではない、その間に入っているバドル三国も結局は我らの傘下に入らざるを得ない。

 

 

 

「奴ら、目の前にぶら下げたエサにあっさり食いついたが、自分で自分たちの首を絞めている事に気づかぬとは・・・哀れな事よ」

 

 

 

行軍はポルポタの丘を越え、平野に差し掛かる。

 

順調なら後五~六日で王都ログリアに到着するだろう。

 

 

 

「それにしても・・・伝令が全く来ませんねぇ」

 

 

 

バドル三国のどこからも伝令が来ない。

 

 

 

「はあ・・・略奪に精を出すのは勝手ですが・・・やる事はやって頂けないですかねぇ。これだから野蛮人どもは・・・」

 

 

 

明らかにバドル三国の兵たちを見下すような発言をして溜息を吐くレオナルド。

 

 

 

その苛立ちが通じたわけではないだろうが、王都ログリアの方面から騎馬が1騎やって来た。

 

 

 

「ラードスリブ王国が黒衣の宰相、レオナルド殿が率いる軍で間違いないだろうか?」

 

 

 

やって来た騎馬は女騎士であった。

 

 

 

「そうですが」

 

 

 

レオナルドの返事を聞いた女騎士は下馬すると、片膝をついた。

 

 

 

「バドルシア軍、副官を務めますソネットと申します。セガール将軍より言伝を預かって参りました。攻城戦の状況を報告に行くようにと」

 

 

 

頭を垂れたまま、ソネットと名乗った女騎士が口上を述べる。

 

 

 

「ご苦労様です。それでは報告を伺いましょう」

 

 

 

「はっ!王都ログリアでの攻城戦は時間のかかっているものの順調に進んでおります。黒衣の宰相殿が到着される頃には制圧が終わっている事でしょう」

 

 

 

「それは重畳。ああ、王族の男子は生かして捕らえておいてくださいよ。それ以外は合従軍の約束通り、早い者勝ちで結構です」

 

 

 

「ははっ!それではそのように将軍に伝えさせていただきます」

 

 

 

そう言って副官と名乗った女騎士は再び騎乗すると踵を返して走り出した。

 

 

 

「フフフ・・・全ては計画通りですね」

 

 

 

だが、この時、バドルシア軍の副官であるソネットが伝令に来たという違和感にレオナルドは気づくことが出来なかった。普段であれば黒衣の宰相と呼ばれるほどの冴えを持つレオナルドならば違和感に気づいたであろう。

 

だが、今は自分の立てた計略が自分の思い描いたとおりに進んでいる事で、完全に油断したと言えよう。

 

 

 

「王女姉妹が失踪した際はこのラードスリブ王国も終わったかと思いましたが・・・」

 

 

 

レオナルドは澄み渡った青空を見上げる。

 

 

 

「ラードスリブ王国はこの私の手で大陸最強の国にのし上げてやる」

 

 

 

端整な顔を歪めるようにレオナルドは笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・は?」

 

 

 

レオナルドの思考は完全に停止した。

 

一体何が起こっている?何がどうなっている?

 

あの女騎士は王都ログリアの攻略は順調だと言っていたではないか。

 

 

 

だが、現実は無常だった。

 

 

 

王都ログリアの王城どころか、王都の防壁すら傷一つついていない。

 

1万五千の軍をまっすぐ王都ログリアに向けて進めてきたレオナルドだが、

 

今は王都の左右に展開された敵軍に挟まれるような形となっている。

 

それぞれが約1万5千の軍勢のようで、純粋にこちらの倍の軍が展開されているということだ。つまりはガーデンバール王国のほぼ全軍という事。

 

 

 

「が・・・合従軍は一体どうなったというのだ・・・」

 

 

 

今回の合従軍は電撃的速度を持って王都ログリアに攻め込むことが最大の目的だった。

 

そのための戦略を指示したのだ。つまり、今展開されている敵軍3万と合従軍が戦を行ってお互いがそれぞれ大幅に消耗しているはずだった。

 

それが、合従軍の姿はどこにも見えず、ガーデンバール王国側の軍勢は丸々3万がてんかいされている。

 

 

 

「さ、宰相様、どういたしましょう・・・左右の軍勢が一気に攻めて来たら、我々は壊滅ですぞ・・・」

 

 

 

如何にも気弱な男がレオナルドに声を掛ける。

 

この男、これでも騎士団長の座についている。殺されてしまった前騎士団長のトロアの代わりに着任したのだが、所謂勇者の腰ぎんちゃくといった感じの男であった。

 

 

 

「一体、何が起こったのだ・・・」

 

 

 

レオナルドはまるで判断が付かなかった。

 

その時、左右の軍ではなく、正面の王都ログリアから騎馬が数騎やって来た。

 

見れば、バドル三国の各将軍が縛られて連れて来られていた。

 

 

 

「なっ・・・」

 

 

 

レオナルドは絶句する。少なくとも合従軍を担った三国の将軍たちが悉く捕らえられているのだ。

 

 

 

「ラードスリブ王国が黒衣の宰相、レオナルド・カルバドリー殿とお見受けする」

 

 

 

よく見れば先頭の騎馬は馬ではなく、大きな狼であった。

 

その狼を守る様に、さらに4頭の狼がいる。

 

声を掛けてきたのは先頭の狼に跨った男であった。

 

 

 

「此度のラードスリブ王国が仕掛けてきた戦、どのような形で納めるのが望ましいか、話し合いを持ちたいと思うが、いかがかな?」

 

 

 

一際大きな狼に跨った男・・・ヤーベは不敵な笑みを浮かべて問いかけるのだった。

 

 

 

 




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