転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!? 作:西園寺卓也
「こ・・・これは一体どういうことですか・・・?」
ラードスリブ王国、黒衣の宰相レオナルド・カルバドリーは現状が全く理解できなかった。
なぜ、合従軍として進軍したバドル三国の軍隊が全く姿を見せていないのか?
なぜ、すでに合従軍の三将軍が全て捕らえられているのか?
なぜ、合従軍が無力化されているのに、ガーデンバール王国の戦力が全く衰えていないのか?
バドル三国の連中に裏切られたのか?まさか?自分が嵌められたなんてことはあり得ない。一体何が起こっている・・・。
「随分と混乱しているようだが、こちらはお前が落ち着くまで待ってやる義理はない」
堂々と言葉をぶつけてやる。
「貴方は一体何者です!」
「俺か? 俺はバルバロイ王国にて伯爵位を預かるヤーベ・フォン・スライムだ。故あってガーデンバール王国に助太刀することになった」
「助太刀だと・・・! バルバロイ王国の伯爵が・・・!?」
驚愕の表情を浮かべるレオナルド・カルバドリー。
自分の計画に全く俺のことが入っていなかっただろうからな。
「悪いがそれほど暇じゃない。お前に選べる選択肢は二つだけ」
そう言って俺は右手を突き出し、ピースサインで選択肢が2つだとアピールする。
「・・・それは?」
「一つは一応お前がラードスリブ王国の宰相ということで、顔を立ててやるからラードスリブ王国からの侵略戦争において、停戦条件の確定とそちら側からの賠償内容を検討するものだ」
「・・・もう一つは?」
レオナルドの顔が険しくなる。
まあそうか。顔を立ててやるから戦争を停止して攻めてきたことを見逃す代わりに賠償金をよこせ、と言っているのだからな。
「当然、ここでお前が死ぬことだ」
「・・・・・・!」
すでに敵軍の倍に相当する兵力を左右に展開している。
最悪、敵側が突撃してくれば、左右の軍を突っ込ませてすりつぶす。
多少被害が出るだろうが、王都ログリアへの影響はないだろう。
「随分な物言いですな。こちらの軍が一点突破で王都を攻め落とせないとでも?」
いかにも余裕ありますという表情を作ってハハン、みたいな態度をとってくるレオナルドだが、滑稽なんだよ。
「ならばやってみるがいい。その内政官を務めるような貧弱な連中で攻め落とせるものならばな」
「なっ!?」
「どうせ貴様は合従軍でガーデンバール王国の兵力を削りきる戦略だったんだろうが。ラードスリブ王国の本拠地はある程度主力を残しておかなければ、最悪ロズ・ゴルディア大帝国が攻めてきたときに対処できないからな」
「ぐっ!」
レオナルドの端正な顔がゆがむ。
俺にそのものズバリを指摘されて悔しいのだろう。
結局ヤツが後詰で編成した軍は比較的自分の言うことを聞くもやし系の兵士たち。古参の歴戦の兵たちはラードスリブ王国の王都防衛のために残しているはずだ。
合従軍としてバドル三国の兵士たちに分捕り品は全て取ったもの勝ちとエサをぶら下げ、ガーデンバール王国の軍と激突してもらう。自分たちは落とされた王都ログリアに悠々乗り込んで国を支配すればいい、そう考えていただろうからな。
「さあ、どうするのかね? 我々はこのまま一戦構えても全く問題はないが?」
できる限り圧力をかけて、ヤツの思考を狭めたいが。
「バドル三国の兵士たちはどうしたのですか?」
「それに答える義理はない」
「バドルシアの副官が伝令に一度来ましたが、それも貴方の差し金ですか?」
「それも答える必要性を認めない」
コイツは基本的に頭がいいヤツだからな。できる限り情報は与えないに限る。
しばらくお互い無言が続いた後、レオナルドが口を開いた。
「わかりました。停戦の条件を打ち合わせ致しましょう」
肩をすくめて、参ったといわんばかりに両手を上に向ける。
「そうか。それでは王都内へ案内しよう。そちらの護衛は何名希望だ?」
「そうは参りません。王都ログリアはもとより、この場所でも話し合いは不可能です」
引きつれる供の数を聞いたところ、まさかの協議拒否。どういうつもりだ、コイツ?
「どういう意味だ?」
「まさか、これだけの軍勢で回りを囲んで停戦条件を結ばせるわけではありませんよね?王都に入るなんて、自殺行為と同じですし」
嫌らしい笑みを浮かべて宣うレオナルド。
「ははっ、戦わずしてすでに敗軍の将たる貴殿に、そんな選択肢があるとでも?」
俺は強気に出てみるが、どうやら何か確定めいたものをつかんでいるのか、強気な姿勢を崩さないレオナルド。
「そうですね、ポルポタの丘あたりで停戦協議はいかがですか? 私も軍の大半は自国へ返しましょう。お互い話し合いにそれほどの軍勢など不要でしょう?」
チッ!いつの間にか手綱を向こうにもっていかれ気味だ。
「面倒臭いな。もう討ち取って後顧の憂いを断つ方が早いか」
「どうぞご自由に。我々は軍を引き返させていただきます。貴方に戦う意思のない軍を後ろから卑怯にも襲い掛かるような真似ができるのならばどうぞ」
そう言って手綱を引き、馬を反転させた。
「・・・チッ!」
心の舌打ちだけでは収まらず、口に出ちまった。
あのヤロー、俺が人殺しをなるべくしたくないというのを見破りやがった。
やっぱり、生きて三将軍を連れてきたのは失敗だったか。
だが、合従軍を無力化した証拠を一目で突きつけるためには三将軍を表に出す以外になかった。最も効果が高かったのは打ち首にして三人の首を転がすことだったろうが、さすがにためらわれたし、あの連中はうまく回せばバドル三国自体が東の国へのけん制になる。
その上で圧倒的優位な位置から総攻撃をかけずに停戦条件の打ち合わせを選択肢にしてやった。つまりは殺さずにうまく落としどころを探っているという事に感づかれたわけだ。
別に感づかれてもよかった。これで自分の命が助かると安堵してくれるなら。
だが、ヤツは不敵に顔を歪めるようにニヤついた。
何か考えているはずだ。面倒な事にならなきゃいいがな・・・。
「クソがっ!!」
野営の天幕の中。黒衣の宰相レオナルド・カルバドリーは荒れまくっていた。
「あのヤーベという男・・・この俺をコケにしやがって!」
レオナルドはチラリと横を見る。天幕内でお茶の用意をしていた女中と目が合う。
「ヒッ!」
レオナルドは女中を乱暴に引き倒すと、馬乗りになり女中の顔を殴り続けた。
「お、お許しを・・・!」
ゴッ! ガッ! ゴスッ!
やがてピクピクとけいれんしながら反応しなくなると、やっと女中から馬乗りをやめて立ち上がった。
「誰か、このゴミを片付けろ!」
ほかの女中が腰を抜かして震える中、兵士が殴られて意識のない女中を天幕からまるで死体を運ぶように引きずっていった。
「ヤーベとやら・・・この屈辱必ず晴らしてやるっ!」
黒衣の宰相レオナルドはまさしくどす黒い炎を目に宿してヤーベへの復讐を誓うのだった。
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