転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!? 作:西園寺卓也
「急げ!奴が来る前に何としても準備を整えろ!」
黒いマントを翻し、漆黒の服を纏う男が声を上げる。
黒衣の宰相レオナルド・カルバドリーはヤーベが来るまでの間にすべての準備を整えなければならなかった。
完全に出し抜かれた。
自分の張り巡らせた策略は全て見抜かれ打ち破られた。
あの男がもっと非道であったり、戦争に傾いている男であれば、この首は今頃戦場に転がっていただろう。
「ヤーベ・フォン・スライム・・・!」
手に持つ指揮棒が強く握られ軋む。
「この屈辱・・・絶対に晴らす!」
そこへ兵士が大きな声をかけてきた。
「宰相様! 例のモノが王都より届きました!」
「よし! 間に合ったか! 大至急弓隊を配置して展開しろ!」
「ははっ!」
部下に指示し終わるとふう、と一息吐くレオナルド。
「くくっ・・・」
自然と笑みがこぼれる。
レオナルドはヤーベという男を自分と同じ「軍師」タイプだと判断していた。
その腕っぷしは大したことないものの自分と同じ魔法系のスキルを持つ男だろうと。
だからこそ王都から大量に取り寄せた。
ラードスリブ王国が誇る最先端の魔導具、「魔法探知隠微シート」である。
「ポルポタの丘後方に弓兵部隊を潜ませろ! 三千の弓兵全てだ! 魔法石も用意しろ! 火矢を放てるようにな! ただし、合図があるまで魔法探知隠微のシートから絶対に出るな! 気取られるぞ!」
「ははっ!」
「くくっ・・・これで奴の<
レオナルドは端正な顔を大きくゆがめ、引きつるように笑った。
煮え湯を飲まされた憎き相手、ヤーベ・フォン・スライムをハチの巣にすることができる。
だた1つ、残念なことは、
だが、それも些末な事だとレオナルドは己を納得させる。
「殺せる時には必ず殺す・・・。敵に二度目のチャンスを与えては、自分の命が危なくなる」
くしくもヤーベ自身が大切な身内を守るために自分に言い聞かせたこと。
それとほぼ寸分たがわず同じ事をこの男も自分に言い聞かせていた。
「我らの倍の兵力で囲んでおきながら、停戦協議などと戯けた事を抜かしやがって・・・。この甘さを地獄で悔いるがいい!」
その目にどす黒い復讐の炎をたぎらせ。レオナルドはポルポタの丘頂上から王都ログリアの方向をにらみつけた。
明日にでも到着するであろうヤーベの存在を感じながら。
斥候の情報では、約定通りわずかな騎士と狼を数匹連れて来ているだけとのことだった。
あの男は本気でレオナルドの命を見逃し、レオナルドとの口約束を守ったのだ。
「くくっ・・・」
再び右頬を引きつらせるように口角を上げ、笑うレオナルド。
「さあ、やってこい・・・お前のその甘さをすべて否定してやる・・・」
「もう少しでポルポタの丘だな」
俺は独り言のようにつぶやく。
『ははっ! すでに前方に大きく見えております丘がポルポタの丘になります』
俺のつぶやきに答えてくれたのは肩近くに飛んでいたヒヨコ隊長だった。
「予定通りだな」
『ははっ!』
「後は・・・あの男がこの後どう動くかだけだな」
『一応、レオパルドとクルセーダーの二部隊をこの丘周りに展開しております。それ以外はご指示通り王都ログリアに』
「ああ、アイツが大人しく国に帰ってくれればいいんだけどね・・・」
俺はため息をつきながら丘へと歩みを進めていった。
「よう!
元気だったかい? 停戦協議にやってきたよ~」
俺はことさら明るく声をかけてみる。
ポルポタの丘の頂上は白い幕が張られ、陣ができていた。
なんだろう、ちょっと戦国時代みたい。
俺は狼から降りると、天幕に近づく。
「お待ちしておりました。こちらへご案内いたします」
騎士の一人が俺に声をかけてきた。
案内についていき陣幕の中に入る。狼と俺についてきた騎士たちも天幕近くまでやってきた。
「これはこれは、スライム卿とお呼びすればいいのかな? お約束通り少数の手勢で来ていただき感謝する」
「なんのなんの、呼び方はご自由に。これから両国の和平に向けて話し合いを行うわけですからな、まずはお互いを信頼することから始めませんとな」
ものすごくニコニコして俺は話しかける。
「くくっ・・・くっくっく・・・」
だが、黒衣の宰相レオナルド・カルバドリーは笑いをかみ殺しているようだ。
「あーっはっはっは! お前本気か!? バカなのか!? 斥候からの報告を聞いたときは耳を疑ったぞ!? 俺の戦略を見事破っておきながら、こうもバカだとは!」
耐えられない、そういった表情で大笑いを始めるレオナルド。
「なんだ? どういうことだ?」
「はっはっは、俺は忙しい身なんだ。お前のようなバカを相手にしている時間は惜しい」
そう吐き捨てると右手をサッと上げる。
ばさりと周りの天幕が落ち、魔力感知隠微シートを跳ね上げて弓兵たちが立ち上がる。
ずらりと矢をつがえこちらに狙いを定めていた。
「まさか・・・貴様! 約束をたがえる気か!」
「ぶわぁ~っはっは! これだから愚か者は! 我々は戦争をしているのだぞ!? 約束? 信頼? まさに負け犬の戯言よな!」
愉悦の表情を浮かべ笑い続けるレオナルド。
「貴様っ・・・俺が命を救ってやったことを忘れたか!」
「命を救う・・・? はははははっ! 人を殺す覚悟を持たぬ愚か者が戦場に立つな!!」
いきり立ち席をけ飛ばすように立ち上がると、右手を振り下ろす。
「討てぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
その瞬間三千からの弓兵が矢を放つ。
ドスドスドス!!
あっという間に俺の体に突き刺さる無数の矢。
俺の後ろにいた狼たちや騎士たちにも容赦なく矢が突き刺さる。
ドサリ。
俺はその場に倒れた。
「火矢を放て! 消し炭にして死体すら残すな!!」
俺だけでなく、狼たちや騎士たちの体にも火矢が放たれ、燃え上がる。
「はーっはっは! 愚か者の末路など、このようなものよ!」
黒衣の宰相レオナルド・カルバドリーは一際大きく高笑いすると、黒いマントを翻した。
「急げ! すぐに出立するぞ!
そう言ってレオナルドは騎士の一人が連れてきた馬に乗る。
「まあいい、更地になったとしても、一から再建すればいいだけのことだ・・・何なら俺が王にでもなるか!」
「それは剛毅ですな!ぜひその暁には私に大将軍の位を・・・」
馬を引いてきた騎士は、レオナルドが率いてきた軍勢のトップ、将軍の地位にいた。
レオナルドの意図を組んで動くだけの腰巾着ではあったのだが。
「まああの勇者のことだ。男どもは皆殺しだろうが、女たちは生きているだろう・・・まともかどうかは知らんがな」
そう言うとレオナルドは馬の横腹に蹴りを入れ、ポルポタの丘を下り始めた。
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