転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?   作:西園寺卓也

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第279話 絶体絶命の大ピンチでも最後まであきらめずに戦おう

 

黄金に輝く鎧に、白く光る剣を肩に担ぐように構える男。

 

白長洲(しろながす)久志羅(くじら)と名乗ったこの男は自分を勇者と呼んだ。

 

 

 

「勇者・・・この男が勇者だと?」

 

「いつから人類の希望である勇者様は強姦魔になり下がったのでしょうか?」

 

 

 

イリーナが顔をしかめながらつぶやく。

 

カッシーナが辛辣な言葉を投げかける。

 

 

 

「ゆ、勇者が我が国に攻めて来ただと・・・?」

 

「一体どういうことなのでしょうか・・・?」

 

 

 

セルジア国王とセルシオ王太子は勇者が攻めて来たことに驚きを隠せない。

 

 

 

「ギャハハハハ! この世は勇者様である俺!白長洲しろながす久志羅くじら様が自由にできるんだよ! この国は俺様がもらった! 王族は悉く処刑する! 女だけは俺の性奴隷として飼ってやるけどなぁ!」

 

 

 

そう言って下品に笑う勇者白長洲。

 

 

 

「勇者とは、人類の守護者であり、世界が暗雲に包まれようとする時、暗闇を切り裂くためにこの世に現れるといいますわ。だが、この男は自分が世界を暗雲に包み込もうとするがごとし、ですわ」

 

「勇者どころか、ただの悪党ですわね」

 

 

 

フィレオンティーナとルシーナが勇者を睨む。

 

 

 

「はっ!うるせーよ! 文句があるならかかってこいや! 俺は白長洲(しろながす)久志羅(くじら)! 世界最強の勇者だ! この世の中は全て俺のものなんだよ!」

 

 

 

そういうと肩に乗せていた大剣を振りかぶる。

 

 

 

「はははっ! 股開くならさっさとしろよぉ!<勇者の波動(ブレイブウェーブ)>!!」 

 

 

 

連続で振り回す大剣から鋭い衝撃波が放たれる。

 

 

 

『風壁牙!』

 

 

 

ガキィィィン!

 

 

 

空気の壁に阻まれるように衝撃波が派手な音を立てた。

 

 

 

『お下がりください!奥方様!』

 

 

 

バルコニーより飛び込んで衝撃波を防御したのは狼牙族の四天王が一頭、風牙であった。

 

 

 

「風牙か! 助かった!」

 

 

 

なぜか狼牙族と意思疎通ができるイリーナは風牙が助けに来てくれたことに気づく。

 

 

 

『イリーナ様! 王都に現れた四匹の巨大な化け物はローガ様と他の四天王が対応しております! 早くここからお逃げください!』

 

 

 

「わかった!国王様から早くこの場を脱出してください!」

 

 

 

イリーナの指示にセルジア国王たちがおぼつかない足で後ろに下がろうとする。

 

 

 

「おいおい、どこに行くんだぁ? <断頭の一撃(ギロチンカッター)>!」

 

 

 

唐竹割のようなひと振りで発する今までよりも巨大な衝撃波がイリーナたちを襲う。

 

 

 

『重壁牙!』

 

 

 

風牙の左右から小型の竜巻が発生し、正面で重なるように合わさると空間に圧力がかかる。

 

 

 

グギャァァァン!

 

 

 

勇者が放つ衝撃波の一撃を受けきる風牙。

 

 

 

『乱走牙!』

 

 

 

お返しとばかり、風牙が前足を連続で振るい、空気を切り裂く真空波を放つ。

 

 

 

キャキャキャゥゥゥゥン!

 

 

 

だが、鎧の効果なのか、勇者に届く前にはじかれ、甲高い音を立てる。

 

 

 

『チッ!』

 

 

 

風牙は毒づいた。

 

自身の大技となると、大きな竜巻を生んだりと、風のスキルは周りに影響の出るものが多い。イリーナたちを背後に守りながらの戦闘は風牙の戦闘力を大幅に制限した。

 

 

 

「ははっ!イヌっころが邪魔すんじゃねーよ!」

 

 

 

『クッ!<風の弾丸(ウィンドパレット)>!』

 

 

 

踏み込んで来る勇者を威嚇すべく、高速で風の弾丸を放つ風牙。

 

だが、勇者は全く止まらない。

 

先ほどの乱走牙で放った真空波と同じく、鎧に阻まれ全くダメージを与えられない。

 

 

 

「吹き飛べ! このイヌっころがぁ!」

 

 

 

『クッ・・・<重壁牙>!』

 

 

 

だが、圧倒的速さで踏み込んで大剣を振るう勇者の一撃に<重壁牙>の空気を圧縮する防御壁の生成が間に合わない。

 

 

 

『ガハァァァァァ!!』

 

 

 

右から左へ横一線の一撃が風牙を襲い、壁まで吹き飛ばされる。

 

壁にたたきつけられ、さらに壁を破壊してがれきに埋まる風牙。

 

 

 

「風牙!」

 

 

 

イリーナが壁に叩きつけられた風牙を心配してそちらに顔を向ける。

 

 

 

「おいおい、イヌっころを心配してるヒマがあるのかぁ?」

 

 

 

すでにイリーナの目の前には勇者白長洲が剣を構えていた。

 

 

 

「ハッ! とりあえず手足くれーでカンベンしてやるよ!」

 

 

 

再び勇者が剣を上段に構える。

 

 

 

「<雷撃弾(ライトニングショット)!>」

 

 

 

バチバチバチッ!

 

 

 

イリーナのすぐ後ろから放たれた雷撃弾に勇者が押され後ずさった。

 

 

 

「ハッ! なかなかやるじゃねーかよ」

 

 

 

パリパリと電撃の余韻が残る手をプラプラさせる勇者。

 

余裕を見せる勇者に対してフィレオンティーナの表情は険しくなる。

 

 

 

風牙と同じでフィレオンティーナの雷撃系呪文は広範囲に影響がわたることが多い。

 

そのため、周りを巻き込まずに勇者だけを高火力で叩く呪文が用意できないのだ。しかもこの場ではだれも勇者と接近戦をこなせない。長い詠唱を必要とする強力な呪文を放つことができない。

 

 

 

「おらおらぁ!どうしたその程度かぁ!」

 

 

 

再び大剣を振り下ろす勇者の一刀!

 

 

 

「くっ・・・雷よ!わが手に纏え!<雷撃剣(ライトニングソード)>!」

 

 

 

呪文を唱えたフィレオンティーナの右腕に雷が纏うように集まり、バチバチとスパークしながら剣の形を作り上げる。

 

 

 

ガシィィィン!

 

 

 

「うぐぅ!」

 

 

 

「おっほー! コイツ受け止めやがった! この俺様が聖剣エクスカリバーで放つ一撃をよぉ!」

 

 

 

受け止めたフィレオンティーナの右腕に凄まじい衝撃が走る。一撃受け止めただけで骨が砕けているかもしれなかった。

 

 

 

「せ・・・聖剣エクスカリバー!? 魔王を倒すことができる三振りの聖剣の内の1本のはず!」

 

「そ、そんな剣を人に向けるなんで・・・」

 

 

 

魔王討伐という人類を守護すべき戦力を自国に向けられてセルジア国王とセルシオ王太子は体が震え、その場に再び崩れ落ちる。

 

 

 

「(ぐっ・・・とんでもない衝撃・・・。だけど、少しでも時間を稼がないと・・・!)」

 

 

 

ダメージを受けた右腕をそれでも振り上げようとするフィレオンティーナ。

 

 

 

「くっ・・・! やらせはせん!」

 

「みんなで力を合わせないと!」

 

「何としても止めなくちゃ!」

 

「こんな時こそお役に立たねば!」

 

 

 

イリーナが触手で応戦、ルシーナも死神の鎌を構える。

 

サリーナが錬金ハンマーを担ぎ、新顔であるロザリーナは自慢の竜槍を突きつける。

 

ちなみにリーナとアナスタシアはコーデリア王女たちを保護すべく、別の部屋で脱出の準備を進めているため、この場にはいない。逆に言えば、この場にいるヤーベの奥さんズ全員が勇者に対抗すべく、武器を向けた。

 

しかし、その気概をあざ笑うかのように勇者が聖剣を振りかぶる。

 

 

 

「ハッ!吹っ飛べ!<勇者の旋風(ブレイブトルネード)>!」

 

 

 

勇者が放つ横薙ぎの一閃から竜巻のような衝撃波が襲い掛かる。

 

 

 

「「「キャァァァァ!」」」

 

 

 

吹き飛ばされ、壁に叩きるけられるイリーナたち。

 

唯一、<雷撃剣(ライトニングソード)>を振るい、衝撃を相殺したフィレオンティーナだけが、その場で膝をつき息を切らせていた。

 

 

 

「さ~て、そろそろ味見タイムといくかぁ!」

 

 

 

舌なめずりをしながら聖剣エクスカリバーを肩に担ぐ勇者。

 

 

 

「い、行かせはしませんわ!」

 

 

 

再び立ち上がり<雷撃剣(ライトニングソード)>を振るうフィレオンティーナ。

 

 

 

「あらよっ!」

 

 

 

何とか立ち上がり、それでも勇者を行かせまいと立ちふさがったフィレオンティーナの右腕を切り飛ばす白長洲。

 

 

 

「かはぁ!」

 

 

 

右肩からバッサリと切り落とされ、フィレオンティーナの右腕がキリキリと宙を舞う。

 

ドサリと落ちた右腕は<雷撃剣(ライトニングソード)>の効果が失われ、普通の腕に戻っていた。

 

そして右肩から血を噴出させるフィレオンティーナ。

 

 

 

「フィレオンティーナさん!」

 

 

 

アンリ枢機卿が駆け寄ろうとするが、護衛の騎士たちに押しとどめられる。

 

 

 

「フィ・・・フィレオンティーナ・・・」

 

 

 

ルシーナ達はダメージが大きいのか気を失ったまま動かない中、イリーナだけは意識があり、叩きつけられて破壊した壁の瓦礫から這い出てくる。叩きつけられて内臓にダメージを受けたのか、口から血を流しながらそれでも四つん這いでフィレオンティーナの元へ行こうとするイリーナ。

 

 

 

だが、それよりも早く白長洲は聖剣を頭上に掲げた。

 

フィレオンティーナは右肩を左手で抑え、何とか少しでも血が流れ出るのを抑えようとしていた。

 

 

 

「ハッ・・・この期に及んでまだ命乞いしねーとは、お前よっぽどバカなんだな?」

 

 

 

あざけわらうようにフィレオンティーナを見下ろす白長洲。

 

 

 

「フッ・・・あなたごときに命乞いなどする必要はありませんわ」

 

 

 

脂汗を流しながらそれでも勇者白長洲をにらみ返すフィレオンティーナ。

 

 

「八・・・いいねぇ! 気のつぇーオンナは嫌いじゃねーよ。そういうオンナが泣き叫びながら許しを乞うようになるのが最高にイイんだよなぁ」

 

 

 

「ゲスが・・・」

 

 

 

愉悦の表情を浮かべる白長洲に吐き捨てるようにつぶやくフィレオンティーナ。

 

 

 

「ハハッ・・・とりあえずダルマにでもなれやッッッ!!」

 

 

 

聖剣を振り下ろす白長洲。

 

その瞬間まで決して目をつぶることなくにらみ続けるフィレオンティーナ。

 

 

 

「ヤーベェェェェェェェェェェェェ!!!」

 

 

 

イリーナのヤーベを呼ぶ絶叫が木霊したその瞬間―――――

 

 

 

ガシッ!

 

 

 

ガクンッ!

 

 

 

いきなり白長洲の右手首が捕まれ、振り下ろそうとした右腕がピクリとも動かなくなり、体が前に崩れかける。

 

 

 

「な、なんだぁ!?」

 

 

 

勇者白長洲が後ろを振り返った。

 

 

 

「やってくれたな・・・このクソ野郎が・・・」

 

 

 

ミシミシミシッ!

 

 

 

「ぐああっ!」

 

 

 

その右手をつかんで締め上げていた人物。

 

とてつもない魔力が渦巻き、赤いスパークを放ちながら凄まじい形相で勇者白長洲を睨みつける男。

 

 

 

「だ、旦那様・・・」

 

 

 

脂汗を流し、苦しそうな表情だったフィレオンティーナが、その全てを救われたようなとびっきりの笑顔を見せる。

 

 

 

そこには、誰もが心の底から待ち望んだ存在、ヤーベが姿を現していた。

 

 




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