転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?   作:西園寺卓也

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第38話 お代官サマーに意見を具申しよう

「ま、間違いないのか!」

 

ゾリアの顔が一層険しくなる。それ以上険しくなると怖すぎるからそのあたりに留めてもらいたい。

 

「間違いないのか?」

 

『はい。多分人間の馬も飛ばして走ってましたから、そのうち人間からの情報も来ると思われます』

 

「そうなんだ。人間の馬も走ってたっていうから、衛兵からの情報もそのうち来るだろうってさ」

 

「そうか、とりあえず無事にこっちへ逃げてきてるんだな」

 

少しホッとした様子で腰を落ち着けるゾリア。

 

「それで、規模はどのくらいなのです?」

 

代官のナイセーがさらなる情報の確認を希望する。

 

「で、どのくらいの規模だ? そいつらはどこへ向かってる?」

 

『はい・・・この目で見て来たのですが・・・』

 

「んん? ヒヨコ隊長が言い淀むって、珍しいな。どうした?」

 

不穏な空気を感じ取り、ゾリアとナイセーが真剣な表情を向ける。

 

『その数、約一万』

 

「いっ、一万!」

 

さすがに俺も想定外の数字に声が裏返る。

普通、こういった場合、数百とかがいいところでないかい?

 

「「なんだと!!」」

 

ゾリアとナイセーが一斉に立ち上がる。

 

「い、一万って言ったか! それって魔物が一万匹ってことか!」

 

俺のローブを引っ掴んで揺すりまくるゾリア。苦しくないけどやめてほしい。

 

「ま、魔物が、一万の魔物が迷宮から溢れたというのですか・・・」

 

ナイセーも信じられないと言った表情で座り直す。

 

「それで、どこへ向かっている?」

 

ヒヨコ隊長に確認する。

 

『はい、一万の魔物は真っ直ぐここへ向かっております』

 

「真っ直ぐここへ来るってか!?」

 

俺は天を仰ぐ。

この町が迷宮から一番近いからそうだとは思ったけどさ!

一糸乱れぬ勢いでここへ向かって来るって。

少しは寄り道したらいいのに・・・、イカン、他へ向かわれても困るか。

 

「なんだと・・・! 一万の魔物がこの町へ真っ直ぐ向かって来るってのか!」

 

だから、ゾリアよ。俺のローブを引っ張るなっての。

 

「ゾリア殿。この町の衛兵は約1000人、そのうち約半数を町中の警備、巡回に当てています。基本的に外への防備を担当するのは約500人しかいません。もちろん休みや交代を無視しての事ですがね」

 

両指を組んで両肘を膝に付き、考え込む代官ナイセー。

ナイセーの頭の中はこの町をどうやって守り切るか、その戦略を練っているのだろうか。

 

「ナイセー殿。冒険者ギルドの強制依頼命令が発動できるのはCランク以上の冒険者に限る。現在Cランクパーティ<呪島の解放者>の連中がケガで動けない。その他となると、同じCランクパーティでも<路傍の探究者>と<彷徨う旅人>の2パーティしかいないんだ」

 

「・・・どちらも戦闘を生業としているとは思えないパーティ名だな」

 

俺は若干呆れ気味に確認する。

 

「そうなんだよ、どっちも探索と素材収集などで実績を積み上げている連中でな。魔物退治ももちろん対応できるから総合ランクでCまでランクアップしているのは間違いないんだが、真っ向戦闘には向かない奴らなんだよな」

 

「Dランク以下の連中は強制じゃないんだ?」

 

「ああ、そうだ。Dランク以下は強制ではない。あくまで自主的にギルドの緊急依頼に対応してもらうことになる」

 

「それで、Dランク以下の冒険者たちはどれくらいいるんです?」

 

「・・・100人前後だろうな。それも依頼を受けてもらうのが前提でだが」

 

ナイセーの問いにゾリアは苦渋の表情で答える。

 

「目一杯集めても1000人防衛に回せるかどうか・・・。それで約10倍の魔物に対峙せねばならないのですね」

 

「ああ、もはや外壁頼みでしかないがな。とにかく弓矢を集めて準備を始めないと、もう時間がない」

 

 

そこへ、衛兵が飛び込んでくる。

 

「め、迷宮の魔物が氾濫しました!」

 

衛兵の報告が入るが、ここにいる全員がすでに<迷宮氾濫(スタンピード)>の事実を認識している。

 

「それで、規模は?」

 

代官のナイセーが必要情報の確認を行う。

 

「そ、それが・・・いきなり迷宮から魔物が溢れ出し、大量に真っ直ぐこちらに向かって来ましたので、正確な規模は・・・」

 

あたふたと答える衛兵。

 

「あなた以外で規模の確認を行っている者は?」

 

「交代員と詰めていた者が私を含めて六人おりましたが、私はこの氾濫の情報をいち早くお伝えすべく戻ってまいりましたので・・・」

 

「わかりました。下がって休んでください。他の者が戻りましたら至急冒険者ギルドへ連絡を寄越すよう伝えてください」

 

「わかりました」

 

そう言って部屋を出て行く衛兵。

 

「・・・俺たちはツイているのかもな・・・。ヤーベがいてくれたから正確な情報が得られた」

 

「そうですね。その事については僥倖という他ないでしょう」

 

あら、存外にお褒めの言葉を頂いてしまったな。

 

「俺の情報も当てになる精度かどうかわからんぞ?」

 

俺はおちゃらけ気味に努めて明るく言ってみる。

 

「今さらそんな謙遜いるかよ」

 

「いかに正確な情報が命綱となるか・・・。衛兵たちだけでは、一万の氾濫だと気づけず、普通の対処で何とかなるかと勘違いしかねませんでしたね」

 

「まったくだ」

 

「ヤーベ殿様様ですよ。それよりこれから第一級緊急警報を発令します。全衛兵を招集、一般市民は自宅待機の戒厳令を含みます。それから私の代官邸より、このギルドを対策本部としたいのですが、いかがですか?」

 

「ああ、いいぜ。協力しよう」

 

二人が協議を進めて行くのでこちらも情報を精査しよう。

 

「ヒヨコ隊長、魔物の分類は?」

 

『はっ! 先頭にゴブリンの集団で約4000。その後にオークの集団でこちらも同じく約4000です。4000の集団は100匹単位でまとまっており、ほぼ直線的に向かって来ております。残りの2000にはオーガ、トロールのような大型魔物の他、ジャイアントエイプのような野獣系の魔物も混じっております』

 

「そうか、大きく扇型に広がっていないのだな?」

 

『はい、真っ直ぐな陣形となっております・・・尤も奴らが陣形を守っている認識があるかどうかは不明ですが』

 

「ふむ、直線の陣形で真っ直ぐ突っ込んで来る・・・ね」

 

頭の中で戦略を練る。

 

「とりあえず間に合わなくても王都に救援を・・・」

 

「ちょっとまった」

 

俺は立ち上がる。

 

「どうした?」

 

ゾリアが問いかけてくる。ナイセーも俺を見ている。

 

「提案があるんだが・・・聞くか?」

 

ニヤリと笑って伝える俺・・・もちろんローブで表情は見えないだろうが。

 

「もちろん・・・この危機的状況を回避できるすべがあるのであれば、何を持っても聞かせて頂きますが・・・」

 

ナイセーが若干藁にもすがりたい的な目で俺を見る。

 

「俺の手勢だけで打って出る」

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

ゾリアとナイセーは無言で見合わせてから、

 

「「えええーーー!!!」」

 

ハモッて驚いた。

では俺の作戦を具申するとしようか。

 

 




今後とも「まさスラ」応援よろしくお願いします!

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