転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!? 作:西園寺卓也
迫りくる魔物は約八千。
土煙が濛々と見えて来ている。
こちらは謎の大魔導士とFランクポンコツ冒険者とゾリア。
「あれ、やばくね?」
ゾリアはローガ達狼牙族が戦力の中心だとばかり思っていたのだが、なんとヤーベはカソの村急襲の報を聞いて全戦力をカソの村救援に送ってしまった。
「えーっと、俺たちだけになってしまったが・・・」
ゾリアがポリポリとほっぺを掻く。
「そうだな」
特に感情を込めず回答する俺。
「目の前には濛々と土煙が見えるな」
ゾリアが指を指しながら言う。
「そうだな」
特に感情を込めず回答する俺。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
しばし沈黙。
「・・・おまーふっざけんなよ! 使役獣全部他へやっちまってお前だけじゃねーか!どーすんだ?どーすんのよ!死んじまう!死んじまうぞ!」
急に暴走するゾリア。
俺の胸倉を掴んで揺すりまくる。
ゾリアほどの男でも取り乱すんだな。
「あー、みんな元気?」
「はあっ?」
俺の呑気な声にゾリアがキレ気味に反応するが、
「はーい、元気だよっ!」
「元気ですわ~」
「元気です、お兄さん」
「あたいの出番だなっ!」
四大精霊のみなさん元気で何より。
シルフィーよ、いつの間に俺はお兄さん? 後フレイアよ、今回お前の出番はないぞ。
ゾリアは俺の胸倉から手を放してポカーンとしている。
「ヤーベ、大変な事になったね!」
ニコニコしながらボクッ娘の水の精霊ウィンティアが話しかけてくる。
大変な事と言いながら、メッチャ笑顔じゃないっすか。
「ヤーベの実力なら心配いらないもーん」
ぴょんと肩に座って頭をポンポンしてくれるウィンティア。
「ああっ!お兄さんには私がポンポンしたかったのに~」
風の精霊シルフィーはほっぺを膨らませて抗議する。
「あらあら、ヤーベとはとっても仲良しね~」
土の精霊ベルヒアねーさんは今日もあらあらうふふモードだ。
「さあヤーベ、俺の力を貸してやるぜ!敵を殲滅するぞ!」
炎の精霊フレイアよ、心の中のセリフだがお前の出番はない(二度目)。
「おおっ!精霊がいたか!これで何とかなるのか!ヤーベ!」
急に元気になるゾリア。現金なもんだ。
「まあ、何とかするけど。ちょっと派手な能力を使う。ゾリアが俺を見て何を思うかはわからんが、町を守るためにはこれしかない」
「・・・何をするんだ?」
「ちょっと能力で大幅に姿が変わる。だいぶ気持ち悪くなるかもしれん」
「ヤーベ、心配するな。お前がどんな姿になろうと、俺たちは友達だ。永遠にな!」
・・・いつお前と俺が友達になった? まあいいけど。
「まずはウィンティア、力を貸してくれ。念のためにみんなを守る力を」
「いいよ~、ボクの力をおにーさんに注ぐから、受け取って!」
「<
透明な薄い水の膜がイリーナ、ゾリアを纏う。
「次にシルフィー、力を貸してくれ。この先魔物の軍勢に他の生き物が混じっていないか確認したい。殲滅する際に巻き込まれて犠牲者が出ないようにね」
「了解! さあ、私の力を注ぐわ、お兄さん。精霊魔法を使ってね!」
ニッコリ微笑んでくるシルフィー。
・・・妹、ありかも。
「<
優しい風が俺を吹き抜けて行く。
大勢の魔物たちが向かって来るのが風の間隔の中に伝わってくる。
「ヒヨコたちの報告通りだ。逃げ遅れて巻き込まれている人間や他の種族もいないな」
よし!これが確認できればもう問題ない。
後は打ち漏らしや拡散さえ防ぐことが出来れば安心だ。
「ベルヒアねーさん、今度はねーさんの力が借りたい。いいか?」
急に後ろからギュッと抱きついてくるベルヒア。
「・・・いいわ、あたしの力、みーんなヤーベに貸してあげる。そのかわり、後で・・・ね?」
ベルヒアねーさん!後で!後で・・・ねってなんすか!ねって!
そんなキャラでしたっけ?
「・・・女はいつでも不思議を纏うものよ? さあ、私の力を注ぐわよ」
「<
ズガガガガガガッ!
俺たちの場所から左右に五メートル程度を空けるように土壁がそそり立っていく。
ハの字の様に斜めに切り立った高さ三メートル程度の壁を出現させた俺はその空いた空間、いわば漏斗の出口部分に陣取る。
ついに魔物がその姿を現す。
「ギギャーーーーー!!」
ああ、ゴブリン語わからなくてよかった。「お前ら殺すゴブ」とか「うまそう、食ってやるゴブ」とか言われたらゲンナリするところだわ。
「ちっ、本当に大丈夫なんだろうな、ヤーベ?」
背中の剣を抜き、一応構えるゾリア。
一方微動だにしないイリーナ。
・・・イリーナ生きてるよね?大丈夫だよね?
「ねえねえ、どうするのヤーベ?」
ボクッ娘ウィンティアが興味津々といった感じで聞いてくる。
「あまりに魔物の数が多いんでね。焼いたり切ったりして風や水や土に悪い影響が出ても
いけないかなーと思うんで、みんな吸収します」
「わおっ! 取り込むんだ・・・おにーさんのパワー増大だねっ!」
ウィンティアよ、ついに君もおにーさんになってしまったね。
「ひっさびさに
ちょっと可愛く言ってみる。
「はっはっは、心配するなヤーベ、お前が暴走したら俺が責任もって丸焼きにしてやる!」
「どこにも安心できる要素ねーよ!?」
フレイアは相変わらずだな。だか今回お前の出番はない(三回目)。
「変身!スライムボディエクストラ!」
一応、変身!って言ってからローブを脱ぎ去る。
その姿はデローンMr.Ⅱだ。
「全開!
ムリムリムリムリッ!
伸ばした触手がまるでマッチョな男の太腕のようにボコボコと膨らんだかと思うと、本体ボディよりも大きくなっていく。
そして<
スライム細胞への命令は一つ。
「触れたものを取り込み、消化せよ」
どんどんとスライム細胞を増殖させていく。増殖したスライム細胞は俺のような形をせず、ただボコボコと粘体をくねらせる様に大きくなっていく。色だけは本体の俺と同じグリーンだけど。
まあ、見る人が見れば気持ち悪いと言えるだろう。
「わー、すっごいねおにーさん。これからどーなるの? ボク期待しちゃうな!」
ワクワクしまくって聞いてくるウィンティア。何を期待してるんですかね?
俺無双するつもりではありますが、あんまりヒーローっぽくないっすよ?
「みんな、ボコボコ増殖させたスライムには絶対触るなよ。取り込まれて消化されるぞ」
「キャー!お兄さんと一体に?」
シルフィー、それダメなヤツだから。ヤンでるヤツだからね?
一緒に居たかったらいつでもいるから、一体はダメだからね? ダメ、一体!
「ヤーベ殿、来たぞ!」
イリーナが叫ぶ。ついに接敵した魔物軍団。だが、先頭のゴブリンたちが俺が仕掛けたスライム細胞に触ると状況が一変する。
「ギョエェェェッ!」
至る所で叫び声が溢れる。次々とスライム細胞に取り込まれていくゴブリンたち。
取り込まれて大きくなったスライム細胞が後ろから押し寄せる新たなゴブリンたちを次々飲み込んで消化してゆく。
「こ、これは・・・。だから、直線的に向かって来るなら策がある・・・と言ったのか」
ゾリアが信じられないといった表情で呟く。
目の前の光景は、次々と大きな網が張ってあるのに気が付かず真っ直ぐ泳いでくる魚を捕獲するが如し。
後ろからどんどん猪突猛進してくるのだ。勝手に増殖したスライム細胞にぶつかって取り込まれてゆく。
ぶつかって左右に散らばる連中が出ても<
そしてゴブリンがオークに変わった。
「ブモーーーーー!!」
あ、やっぱりオークはぶもーなのね。なんかブモーってミノタウロスのような牛のイメージもあるけど。
まあ、オークに変わったところで、俺はやることに変わりない。
というか、増殖させたスライム細胞は取り込んで消化せよという命令1点のみを繰り返しているため、魔物を消化してエネルギーに変えて行くたびに勝手にどんどん大きくなっていく。だから俺は最初の一手の後は、ぼーっと見ているだけだ。
「ヤベェ・・・このまま約八千の魔物を完封するのか? ありがてぇがナイセーになんて説明すりゃいいんだ?」
頭を抱えだすゾリア。
町が無傷で助かるんだ。そのくらいはうまく働いてくれ。
そしてついにオーガやトロールと言った大型の魔物が見えた。
<
二メートルだったら顔を出されてるよ。
どっかのマンガみたいに壁の上から巨人に顔を出されるのって結構なトラウマになりそうだもんな。
こちらも綺麗さっぱり吸収させてもらおう。
ドオンッ!
「チッ!圧がすごいな! みんな!下がれ!」
オーガの突進力が想像以上に強力だった。
オーク程度なら増力したスライム細胞がそのぷよぷよボディで受け止めて包み込んで高速吸収して行ったのだが、オーガの第一陣を受け止めた後、吸収し切る前に第二陣、第三陣の突撃を受け、スライムボディが第一陣のオーガごと押される。土壁がきしむ。
「よっしゃー、俺の出番だな!燃やし尽くすぞ!ヤーベ!」
フレイアが右肩をぐるぐる回してアピールしてくる。
だがフレイアよ、今回君の出番はない(四回目)。
増殖させて魔物を吸収させまくったスライム細胞は当然の如く俺の触手が元になっているため、俺という本体と接続されたままだ。
つまり、ゴブリンから初めてすでに六千以上の魔物を吸収し切っているという事。
つまりは圧倒的エネルギーをすでに俺は得ているのだ。
ドンッ!
「さらに倍!」
増殖した吸収消化用スライム細胞を一気に二倍に膨れ上がらせる。
俺のセリフがクイズ・ダー〇ーを思い起こさせるのは元々二十八歳だった俺の年齢からすれば些か古いか。まあクイズ好きだから、良いよね。
一気に倍にしたスライム細胞は縦に飛び掛かる様に増殖させたため、第二陣、第三陣のオーガ、トロールの上空から降り注ぐ様に包み込んでいく。
「ギョギャーーーー!」
「グモモモモー」
「ギャーーース!」
・・・ちょっと怪鳥みたいな叫び声も聞こえたが、まあ気にしない事にしよう。
そして<
「ははは・・・、やった、やっちまったよ。八千の魔物を完封だぜ!こっちは被害ゼロだ。チクショー、こんなのSランク冒険者でもできやしねぇぜ!数の暴力ってな、どうにもならん時も実際はあるもんなのに・・・、ヤーベ、おめぇすごすぎっぞ!」
「ゾリア、落ち着け。言葉遣いが戦闘民族みたいになってるぞ」
「おおっ? 変だったか?」
「ああ、とにかく落ち着け。これで<
「ああ、それがあったか・・・」
急にテンションがダダ下がるゾリア。
「いや、どっちかってーと、お前の仕事はそれが本番のはずだが?」
「いや、お前、こんなすげーもん見せられて、何の説明も出来ねーんだぞ!? 本当に英雄にならなくていいのかよ? Sランク冒険者への推薦だって夢じゃねーぞ?」
「いや、そんなメンドーな立場はいらん。今後ともFランクでよろしく」
「こんなFランクがいるか!」
「なんと言われようと上げる気はない。試験も受けないぞ」
「ギルドマスター権限で上げてやるわ!ふはははは!」
「悪の総督みたいに笑ってんじゃねーよ!」
「わー、すごいねおにーさん。ところであのぽよぽよを通り越してぶよぶよした巨大化おにーさんの一部はどうするの?」
おっと、ゾリアとの無駄話ですっかり忘れていたが、取り込み消化の命令中なスライム細胞を放っておくと危ないから。もちろん回収です。
「そりゃ!」
ギュォォォォン!
本体に一気に吸収されるスライムボディ、おかげで本体がものすごく巨大化した。優に3mを超えている。土壁よりも高い。土壁から覗く巨大スライム・・・トラウマ必死ですな。
「ヤ、ヤーベ殿・・・その、ヤーベ殿はそんなに大きくなってしまったのか・・・? それでは私などは・・・私などは・・・」
なんかぶつくさ呟いているイリーナ。でっかくなっちゃったから聞き取りづらいわ。
もちろんこんな巨大ロボットみたいにでっかくなったままじゃ町の屋台も楽しめない。
俺様はぐるぐるエネルギーという名の魔力を使って細胞を圧縮していく。
シュルシュルシュル~。
「お待たせ。で、何か言った?」
いつもの大きさに戻ってイリーナの前に立つ。
「ヤ・・・ヤーベ!!」
なんだかいきなり泣き出して縋り付いて来るイリーナ。
どこにこんな感動の再開?みたいなフラグがあったのだろう? 全然気づかなかったけど。
「たくさんの魔物が来るのに、町を守るために一人で戦うって・・・心配したのだぞ! それにでっかくなっちゃって、もしかしたらもうイリーナはいらないって言われるかもしれないと思ったら急に不安になって・・・」
心配かけたのは悪いと思うが・・・、もともとイリーナいるって言ってない気がするけど、それを指摘するのは野暮ですかね!?
「まあ、なんだ。心配かけてゴメンな? でももう大丈夫だ。俺もイリーナも、町もな」
「ヤーベェ!」
泣きながらぎゅうぎゅう抱きついてくるイリーナ。
これをメンドクサイなんて言ったらダメなんでしょうね? なんだがいつもの「クッオカ」の方が処理しやすい気がしてくるのはどうしてでしょうね!?
「ねえねえ、ヤーベ? ローガ達が心配だし、そろそろカソの村へ様子を見に行った方がいいんじゃない?」
あっと、ベルヒアねーさんナイスツッコミ!そうだよ、ローガ達に任せたカソの村の方も様子を見に行かなきゃ。
まあ、ローガ達はぶっちぎりで強いからな。ゴブリンやオークが何匹いようとも全然心配してないんだが。
ヒヨコからの報告が来てないから、向こうの戦闘が終わってはいないんだろうけど。
「よし、カソの村へ行こうか」
そして、呆然と立ち尽くす一人。
「で、出番無かった・・・」
炎の精霊、フレイアであった。
今後とも「まさスラ」応援よろしくお願いします!