転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?   作:西園寺卓也

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第47話 城塞都市を調査しよう

城塞都市フェルベーンまでの道程は<高速飛翔(フライハイ)>ではなくローガに乗って大移動した。ローガ達狼牙族六十一匹が全力疾走!滅茶苦茶驚かれたね、街道で。

絶対魔物の群れがフェルベーンまで侵攻したって後でいろんなギルドに情報が上がるだろうな。ナイセー、スマン。

 

「な、なんだお前ら!敵襲か!だが、その程度では城塞都市フェルベーンは落とせんぞ!」

 

城塞都市フェルベーンに到着した俺たち。

城壁にある町入口と思われる門で衛兵たちが十人以上、ズラリと並んでいた。まあ、さすが城塞都市フェルベーンだ。今も五十人以上の人たちが入門手続きを待って並んでいる。

 

「緊急の使者なり!ソレナリーニの町代官ナイセー殿より火急の要件にてコルーナ辺境伯まで手紙を届けに来た!至急対応されたし!」

 

大声を出して伝える。何か侍っぽくてカッコイイ?

 

「なんだと!門番長を呼んで来い!」

 

なかなか訓練された衛兵たちだ。顔の見えないローブという怪しい俺、狼牙族を引き連れている怪しい俺、大量のヒヨコたちは・・・あ、先に町中を調査に行かせたわ。だから今いないし。後はイリーナか。うん、俺怪しい以外に説明のしようがないわ。

自分で言ってて悲しくなるな。

 

「どうした!」

 

門番長らしきガタイのいい衛兵が門から走ってくる。

 

「はっ!この者がソレナリーニの町代官ナイセー殿よりコルーナ辺境伯様宛に火急の要件とのことで、手紙を預かって来たとのことです!」

 

「ふむ、では確認しよう。手紙を見せてくれるか」

 

俺は懐を探る振りをして亜空間圧縮収納から代官印にて封印された手紙を取り出す。

こういう場合、魔道具の封印具で封をすると、対応する魔道具で開封しないと手紙が燃えて灰になってしまうらしい。異世界恐るべし。

 

「あいよ」

 

「こ、これは確かにソレナリーニの町代官印だ。間違いない。火急との事であれば、通ってよい。但しお主は代理の者だな?」

 

「そうだ、ナイセー殿に依頼された冒険者だ」

 

「では入門手続きだけ行ってもらう。こっちへ来てくれ」

 

人々が並んでいる門の横。今は閉ざされたより大きな門を守る衛兵の元へ案内される。

 

「この魔道具にギルドカードと使役獣のペンダントを当ててくれ。これで町に入ったという記録が残る。もちろんどの門から町を出てもいいが、必ずカードをチェックしてもらってくれよ」

 

なるほど、これで町の内外の人の流れをチェックできるのか。最もカードを偽造されたりすればダメだろうけどな。

 

「わかった」

 

「それでは気を付けて行ってくれ。使役獣が多いから問題を起こさないようにな。後コルーナ辺境伯様の邸宅はこの大通りを真正面に進んでいった先の広場から左へ向かった方向にある。町がデカいからな。距離があるから、分からなければ都度衛兵に尋ねてくれ」

 

「了解、親切にありがとうよ」

 

「ああ、それじゃ」

 

そう言って俺はローガ達を引き連れて町の中へ入って行く。

 

「・・・あんな使役獣をたくさん率いるテイマーが火急の要件でナイセー殿の代わりに・・・。何かヤバイことが起こらなければいいが」

 

門番長は嫌な予感に襲われるのだった。

 

 

 

 

「さて、町に入ったは良いが、とりあえずコルーナ辺境伯の元に向かえばいいか、それとも少し町の情報を探ってからの方がいいか・・・」

 

「ヤーベ、どうしたのだ?」

 

ローガに乗ったまま、町に入った大通りで立ち止まり考えに耽っていた俺にイリーナが声を掛ける。

 

「ああ、すぐコルーナ辺境伯の元に向かう方が良いか、少し町の情報を調べてから向かった方が良いかと思ってな」

 

「なるほど、それでは大きな町でもあるし、向かいながら情報を仕入れようではないか」

 

「おおっ! ポンコツイリーナとは思えぬ回答!」

 

「ナニカイッタカ?」

 

「イイエ、ナニモ?」

 

そう言うわけで大通りをテクテクとローガに跨って歩いていく。

それにしても、相当大きな町だが、活気がイマイチないな。

商店もいくつか閉まっているし。

 

ちょっと開いている店を覗いて見るか。

 

「はいよ、まいど」

 

イマイチ元気のない親父があいさつした。

 

「ここは八百屋か。野菜の種類が豊富だな」

 

「こんなもん、今日は少ない方ですよ。持ってきてくれる農家の親父さんが風邪で寝込んだようでね。ここ二~三日入りが悪いんですよ」

 

「風邪ね・・・、そういや親父さんもあんまり顔色良くないようだけど?」

 

「そうなんだよね、俺もちょっと風邪気味なのか、疲れが溜まったのか、少し体がだるくてね・・・」

 

おいおい、まさかだよな?

 

「調子悪いなら医者へ行った方がいいぞ」

 

「医者ってなんだい?」

 

「えっ!?」

 

医者って通じねーのか!? ヤベちゃんヤッベー!・・・程でもねーか。八百屋の親父さんとの会話だしな。

 

「いつもは体の調子が悪くなったらどうしてるんだ?」

 

「教会にお布施をすれは<癒し(ヒール)>を掛けてもらえるよ。それで体力が回復できる。ケガなんかも治してもらえるんだ。後は金が無い時は町の薬屋か、治療院があるが、そっちはあまりアテにはなんねーからな・・・」

 

「治療院があるのか。何でアテにならないんだ?」

 

「結局教会に<癒し(ヒール)>のお布施代金が払えない連中が行くからな・・・。薬草を煎じてくれたりして多少はマシになるみたいだが、劇的な回復は望めないからね・・・」

 

そりゃそうだろうね。現代医学のイメージがある俺は劇的瞬間回復なんて逆に信じられませんけどね・・・。

それにしても、ついに来たぜラノベのテンプレ! 教会での<癒し(ヒール)>。

相場がどれくらいかは知らんが、悪徳神父が暴利を貪っているか、美しいシスターが薄給で<癒し(ヒール)>をかけまくっているか、基本はどちらかだ。※矢部氏の個人的見解となります。

 

所謂魔法が全く使えない(精霊魔法は自由に操っているが、精霊たちに力を借りているので自分の能力だという認識が無い)俺からすると<癒し(ヒール)>は憧れの的でもあるな。最も神様を信仰しろって言われたら100%無理だけどな!

そんなわけで俺には回復魔法の習得はまず不可能ということで、出来ればイリーナにマスターしてもらいたいのだが。

ちらっと横を見る。

・・・無理だろうなぁ。

 

ぎゅぎゅぎゅ!

 

「ほわあっ!」

 

イリーナさん、だから手のカタチが変わりますって!

ちなみにローガに跨っている俺だが、今は俺の前に横座りでイリーナが乗っている。

でもって、俺の腰(?)に右手を回しているのだ。これはかの有名なお姫様と遠乗りバージョンでは!?

ただ、イリーナだしな、うん。

 

『ぴよよー!(ボス!左手の裏通りに人がたくさん集まっています!)』

 

「そうなんだ、ちょっと様子を見て来るか」

 

俺はヒヨコの案内で裏通りに入って行った。

 

 

 

裏通りの一角、小さめの石作りの建物に人の行列が出来ていた。

 

「何だ?」

 

よく見ると、「ボーンテアック診療所」と書かれている。

建物の中を覗こうとすると、「おい、並べよ!」と文句を言われた。

 

「あ、俺は患者じゃないから。ちょっと話が聞きたいだけ」

 

そう言って中に入る。

すると、

 

「ああ!もうどうしたらいいんだ!みんながみんな同じ症状で調子が悪いと言ってくる。この症状はアレ(・・)に似ているが、そんなはずないし・・・。ああ、薬草がもう在庫切れだ!」

 

「あるよ」

 

そう言って亜空間圧縮収納から基本的な薬草を出して渡してやる。

薬草にもいろいろあるが、今出したのは奇跡の泉近くで取れたもので、比較的珍しくないが俺が奇跡の泉で水を撒いていたので非常に効果が高いものだ。

 

「おお、これはありがたい。早速追加で調合を・・・ああ、水も切れた。裏の井戸から汲んで来なきゃ!」

 

「あるよ」

 

そう言って俺は近くのヤカンにそっと触手を伸ばして水をじょろじょろ出してやる。もちろん奇跡の泉産だ。効果は抜群だ。

 

「何と!それは助かる。早速対応しよう」

 

そう言って、薬草と水で飲み薬的な物を作り、並んでいる患者に一口ずつ飲ませて行く。

三十分以上かかって行列をさばいた時には、男はぐったりしていた。

 

「大変だったな」

 

「ああそうだね・・・って、キミは誰だい?」

 

今頃気づいたのか、呑気な返事をする男。

 

「聞きたいことがあって来た。俺はヤーベ。こっちはイリーナだ。外の狼牙達は俺の使役獣だ」

 

「ボクはボーンテアックって言います。この診療所の所長です・・・ってボクしかいませんけどね。で、聞きたいこととは?」

 

「この調子悪そうな人はいつごろから多発している?」

 

「う~ん、ここ数日急激に増えたね。ちょっと前から体がダルイとか、熱がある、とか、風邪みたいな症状を訴える人はいたんだけど・・・」

 

「さっき、この症状は「アレ」って言ってたけど、アレって?」

 

「う~ん、実は信じられないかもしれないけど、今患者で来ている人たちの多くはポイズンウォータードレイクの毒による中毒症状に似てる気がするんだ」

 

「ポイズンウォータードレイクの毒だと!」

 

「わ、ビックリした」

 

ボーンテアックは椅子からひっくり返りそうになっていた。

線の細い優男のイメージ通りのひ弱さだな。

 

「うん、今来た多くの患者の症状はポイズンウォータードレイクの毒による中毒症状だと思えるんだ。風邪に似てるんだけど、重くなると目のクマ、手の震えなども出るから」

 

「ちなみにだけど、教会でお金を払えば<癒し(ヒール)>が受けられるって聞いたんだけど、この症状は改善されると思うか?」

 

俺は疑問だったことを聞く。

 

「<癒し(ヒール)>だけではダメだと思うね。体力は多少回復しても原因の毒を取り除かないと」

 

「毒を消すポーションとか、魔法は無いのか?」

 

「魔法は<解毒(ディスポイズン)>があるんだけど、毒が溜まっている部位が分からないと魔法の効果が薄いんだ。そして、このポイズンウォータードレイクの毒による中毒症状はどこに毒が溜まっているのかわかっていないんだ。だから結構適当に辺りを付けて<解毒(ディスポイズン)>を乱発すると治る場合も通常はあるんだけど、このポイズンウォータードレイクの毒を魔法で治したって記録は無いんだよ」

 

「毒消しのポーションは?」

 

「カルノレッセの実を絞った果汁が特効薬として知られているけど、珍しい実でね。通常はまず手に入らないんだ。干したものを粉末にした粉薬も効果があるけど、果汁の方が即効性があるね」

 

「それ以外で解毒できないのか?」

 

「実際の毒があれば、その毒そのものを使って効果を中和するような解毒剤を作れると思うんだが、さっきも話したようにポイズンウォータードレイクの毒自体が非常に珍しいものだからね・・・」

 

「あるよ」

 

と言って俺は亜空間圧縮収納から悪党から取り上げた毒の瓶を取り出す。

 

「うそっ!あるの?何で?」

 

「まあ、いろいろとあってな。俺には何の役にも立たない毒だが、アンタならこれで人を救えるんだろ?ならやるよ。解毒剤製作は任せるよ」

 

「ああ、わかった!なんとか製作してみるよ」

 

にっこり笑って毒の瓶を握りしめるボーンテアック。

 

「あ、毒足りなければまだいっぱいあるから」

 

「何で!?」

 

とりあえず返事をせずに診療所を出る。

それにしても、ポイズンウォータードレイクの毒による中毒症状・・・。致死率が高い上に、僅か3gという分量での致死量だ。非常に少量で死に至る毒を、僅かばかり使用して少なくとも何日か摂取させた。しかも比較的広範囲で多くの人間に・・・。

 

「あっ!」

 

俺は診療所にダッシュで戻る。

 

「ボーンテアック!」

 

「わあっ!びっくりした。何だ、ヤーベさんか、どうしたんです?」

 

机に向かっていたボーンテアックがこちらを振り向いて再度の訪問について尋ねた。

 

「お前自身は調子悪くないのか!?」

 

「ああ、私ですか、私は別に・・・」

 

「お前、水はどこから手に入れている?」

 

「水なら・・・自分の診療所の裏に井戸がありますから、そこで」

 

「自分の敷地内の井戸で、自分専用なのか?」

 

「ええ、そうですけど・・・って、まさか!」

 

「そのまさかの可能性が高いが、まだ町の連中には言わないほうがいい。何かわかったら知らせに来るから、お前は解毒剤頼むぞ!」

 

そう言って再度診療所から飛び出していく。

 

「彼は一体何者なんでしょうか・・・」

 

ボーンテアックの呟きは俺には聞こえなかった。

 




今後とも「まさスラ」応援よろしくお願いします!

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