転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?   作:西園寺卓也

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第57話 初来客は丁寧に対応しよう

ローガが俺に「来客」と告げる。

ローガが来客と告げる以上、正式に俺への客だろう。

カソの村の村人が参拝に来ているのとは違うということだ。

そう言えば馬車の音と馬の嘶きも聞こえた。

どうやらマジで来客らしい。

誰が来たのかまったく想像できないけどな。

 

「ヤーベ!」

「スライムさん!」

 

「おおっ!? カンタにチコちゃんじゃないか」

 

二人は走って来たかと思うと俺に抱きつく。

 

「二人とも元気にしてたか?」

 

「ああっ!ヤーベのくれた水ですっかりかーちゃんも俺たちもすっげー元気になったぞ!」

「スライムさんありがとう!」

 

「それは良かった。それで? ローガが客として案内したのはお前達か?」

 

馬車で来ていると思われるので、絶対違うと思ったが、せっかくなので聞いてみた。

 

「俺たちは客を案内してきただけなんだ。ヤーベの住処に案内すればお駄賃くれるって言うんだぜ!」

 

うん、カンタよ。お駄賃で俺様の個人情報を売り飛ばすのはどうかと思うぞ?

だが、来客が身分ある者なら逆にお手伝いは誉れある仕事にもなるか。

で、誰が来たんだろう?

 

「ご無沙汰しております、ヤーベ殿」

 

そう言って姿を見せたのはソレナリーニの町代官のナイセーであった。

 

「ナイセー殿ではないですか。こちらへ帰る際にはご挨拶に寄りましたので、ご無沙汰という程間が開いた気はしておりませんよ」

 

「そう言って頂けると恐縮ですが。時にヤーベ殿はその姿が真の姿になるのですかな?」

 

あ、いけね。ナイセーやゾリアと会っている時はローブ着てたよね。今はマッパだよ。

 

「人間の姿ももちろん取れますがね。この姿が一番楽なのも事実なのですよ」

 

もうどう言い訳していいのかわからんけど。こうなったら精霊で押し通すか?

 

「そうなのですね。尤も<迷宮氾濫(スタンピード)>制圧何てことを成し遂げてしまうヤーベ殿ですからね。どのような事があっても不思議ではないのかもしれませんね」

 

そう言ってナイセーが苦笑する。

 

「そう言ってもらえるとありがたいがね」

 

「そう言えば、口調も多少違いますね」

 

「ローブの時はお気楽キャラでやらせてもらってましたよ。ゾリアにもある程度あのような喋り方が接しやすいかと思いましてね」

 

元々は地球で四年も社会人やってたんだ。当たり前だが礼節も一通り身についてはいる。

だが、冒険者ギルドで舐められない様に、という意識が強すぎたか、ゾリアとの会話はほとんどタメ口なんだよな。元々ゾリアが偉そうでむっとしたのもあるが。

 

「そうですか、それならばある程度安心できるというものです」

 

ナイセーは少しホッとしたような表情を浮かべる。

 

「何がです?」

 

「王城での王との謁見です」

 

「・・・はあっ!?」

 

「ヤーベ殿がそう言った権力に取り込まれぬよう振る舞っておられるのも、組織に属すのを良しとしないのも十分に理解しているつもりではおります。しかしながら城塞都市フェルベーンで起きたテロ事件の詳細を王都に説明せぬわけにもいかず、その説明におきましては私の主でもありますフェンベルク・フォン・コルーナ辺境伯様よりヤーベ殿の活躍をこれでもかと盛りに盛って報告がされてしまいましたので・・・」

 

「何してくれちゃってるのフェンベルク卿!」

 

「すでに『城塞都市フェルベーンの奇跡』として、千人以上の重篤な患者を救った英雄がヤーベ殿であることも、テロ集団を根こそぎ捕まえたのがヤーベ殿の使役獣である事も報告されてしまっております」

 

「Oh・・・」

 

俺は天を仰ぐ。

 

「何やらかしてくれちゃってるのあの人・・・」

 

「私の<迷宮氾濫(スタンピード)>制圧報告にて、ヤーベ殿の存在を隠して報告した書面が到着する前に『城塞都市フェルベーンの奇跡』を起こされてしまいましたからな。後から届いた<迷宮氾濫(スタンピード)>制圧報告書も、「これあれだ、ヤーベ殿の仕業だろ」とすぐ看破されたらしいです。速攻領主邸に呼び戻されましたよ」

 

ナイセーは苦笑を通り越して呆れ気味に話す。

 

「しかも国王に自分の賓客であると堂々と申し上げたそうです」

 

「いつ俺がコルーナ辺境伯家の賓客になったよ!?」

 

「まったくその通りなのですが」

 

プンスカ怒る俺にナイセーが実にその通りだと告げる。

 

「正面から突破できない場合、外堀から埋めるタイプでして」

 

「実に迷惑!」

 

「今回、ルシーナお嬢様の命をお救い頂いたこと、ルーベンゲルグ伯爵令嬢を伴ったことでコルーナ辺境伯様もヤーベ殿を完全に特別な人物として認識してしまっております」

 

「人助けして迷惑被るのってとってもやるせないし」

 

たっぷりと溜め息を吐き、肩(?)を落とす。

 

「心中はお察しいたしますが、ここまで来ればヤーベ殿に悪い話ばかりではないかもしれませんよ」

 

「ん? どういうこと?」

 

「実際問題、すでにコルーナ辺境伯家の賓客として王都に連絡が伝わっております。その上で<迷宮氾濫(スタンピード)>制圧者として、また『城塞都市フェルベーンの奇跡』の立役者としてのヤーベ殿に王自らが会いたいと使いをコルーナ辺境伯家へ出されました。これは「コルーナ辺境伯家の賓客を王城へ招く」という形を取っておりますので、これが完了するまではどの勢力もヤーベ殿に手を出すことはコルーナ辺境伯家に敵対するのと同じこととなります」

 

「俺は期せずしてコルーナ辺境伯家の後ろ盾を得てしまったわけね」

 

「そうです。何せルシーナ嬢の命の恩人であり、『城塞都市フェルベーンの奇跡』を起こしたヤーベ殿はコルーナ辺境伯家にとってもこれ以上ない恩人でありましょう」

 

「まあ、それはいーんだけどさ」

 

「それが良くはないのが貴族社会というものなのです。これほど多大な恩を受けておきながらまったく恩に報いないとなれば、それこそコルーナ辺境伯家の名に傷がつきます」

 

「大層なものだな」

 

「その上で王の謁見が叶えば、王自らも褒美の打診がありましょう。王自ら家臣取り立てなどはさすがにないと思いますので、恩賞を何かしら頂いて、その上でソレナリーニの町を拠点としたフリーの冒険者を続ける旨伝えれば、とりあえずは収まるのではないかと」

 

「教会とか、追っかけて来ないかね?」

 

城塞都市フェルベーンで散々追い回された記憶が蘇る。

ふと隣を見ればなぜか薄い掛布団を纏ったままのイリーナが目に涙を溜めている。

ああ、フェルベーンでの記憶はトラウマなのね!?ゴメンネ!

 

「イリーナ、今回は大丈夫だから、ね!」

 

「う、う、う・・・ヤーベェ・・・」

 

涙をこぼさないギリギリで踏ん張るイリーナ。

 

「せっかく王様に呼ばれたんだから、王都見学でもするか。それに、イリーナのおウチによってご両親にも挨拶しないとね! きっと心配しているぞ?」

 

「ふえっ!? り、り、両親に挨拶・・・!? ウン、おウチかえりゅ」

 

急に真っ赤になって語尾が怪しくなるイリーナ。泣かれるよりマシか。

イリーナは俺の体にぺったりとくっついてくる。

 

「仲睦まじいようで何よりです。それにコルーナ辺境伯家の後ろ盾だけでなく、王様のお墨付きに、ルーベンゲルグ伯爵家の後ろ盾となれば、王国内でもおいそれとヤーベ殿に手を出してくる輩は減りましょう」

 

「そうだといいけどね、どこにでも空気読めないヤツがいるから」

 

「否定は出来ませんね」

 

俺とナイセーは苦笑した。

 

「アンタ、王都へ行くのかい?」

 

「そう言う事になりそうだな」

 

ザイーデル婆さんに俺は返事をする。

 

「じゃあ、このサリーナも一緒に連れて行っておくれ」

 

「「えっ!?」」

 

俺とサリーナは同時に驚く。

 

「サリーナも驚いているじゃないか」

 

「この子にはこの辺境の村々しか見せてやれてないからね。できれば若いうちに王都にもいかせてやりたいのさ。遠いから女の一人旅なんてとてもじゃないけどさせられないが、アンタと一緒に行けるなら安心じゃないか」

 

ニヤリと笑うザイーデル婆さん。

そりゃ女の一人旅なんて危険でさせられないわな。

・・・よくイリーナは一人でカソの村近くまで来たな。ある意味感心するわ。

 

「遊びに行くんじゃないんだがね」

 

俺は肩を竦める。ローブだからわからんかもしれんけど。

 

「別に王城まで一緒じゃなくてもいいさ。その間は宿にでも待たせておけばいい。帰ってくるんだろ?ここに」

 

再びニヤリと笑うザイーデル婆さん。ちっ食えないバーサマだ。

 

「後生だよ。頼まれちゃくれないかね?」

 

ぺこりと頭を下げるザイーデル婆さん。

周りで村長や若い衆が「ば、ばかな!あのバーサンが頭を下げるとは・・・」と絶句しているところを見ると、よほど珍しい事らしい。それに、サリーナは俺のためでもあるんだろう。サリーナを再びザイーデル婆さんの元へ返す、それはすなわちこの泉の畔に帰って来るって事だ。俺が王都での引き抜きや誘惑に負けてサリーナを放り出さないと分かって頼んでやがる。仮に王都に残る選択をしても、誰かにサリーナを預けて返すような真似をしないだろうということだろう。例え王都に残ると選択しても、一度はここへ戻ってみんなに挨拶できるように。

 

「まあ、良いさ。王都は俺も初めてなんだ。案内は出来ないがね。一緒に行く分には面倒見るよ」

 

「そうかい!恩にきるよ」

 

破顔するザイーデル婆さん、しわっくちゃだな、おい。

 

「サリーナ、その目で王都を見て勉強しておいで」

「お婆ちゃん・・・ありがとう」

「一緒に居ればチャンスも増える、頑張るんだよ」

「お、お婆ちゃん・・・、うん、ボク頑張るよ!」

 

顔を赤らめるサリーナ。何を頑張るというのだろうか?

そして剣呑な雰囲気を出し始めるイリーナ。君、人の布団巻き付けてるけど、寝間着のままなんですね!?

 

「こちらの用意した馬車に乗って移動頂けますから、ヤーベ殿にイリーナ殿、もう一人くらいは乗れますから、大丈夫ですよ」

 

「ナイセー殿が用意した馬車で行くのか?」

 

ローガに乗ってさっさと向かえばいいかと思っていたのだが。

 

「そうです。今回は王家の要請をコルーナ辺境伯家でお受けした形となっております。私共でヤーベ殿を王都までお連れするのも使命の一つです」

 

「そうなんだ」

 

「それに、超高速で移動されますと、王家からの要請から到着までが短縮され過ぎて、またヤーベ殿の能力に関するトラブルの元になるかと・・・」

 

「そりゃそうか。で、ローガ達もみんな連れて行っていいのか?」

 

一応軍団で移動してもいいか確認しておく。

 

「もちろん大丈夫です。移動中の食事もすべてこちらで負担いたします。使役獣の分も含めてです」

 

「太っ腹ですな」

 

「王家からの要請を受けてヤーベ殿をお連れするのですからね。当然の事です。道中の宿もいいところを抑えておりますよ」

 

ふー、至れり尽くせりだね。行かないと言う選択肢はないだろう。ちょうどいい、イリーナのご両親に挨拶も必要だと思っていたし、一度家族の元に返して安心頂かねばならないとも思っていたしな。

 

「いつ出発する?」

 

「出来ればすぐにでも」

 

早えーな!

 

「ではすぐに準備してくるとするか。村長、せっかく建ててもらったマイホームだが、またしばらく留守になってしまうみたいだ」

 

「はっはっは、精霊様はもうすでに国の英雄ですからな。それも致し方ありますまい。神殿は村の者で清掃して管理しておきますよ」

 

「はっはっは、頼むね、俺のマイホーム・・・・・!」

 

「お前達、常に神殿の前に二名で立つようにせよ。一日交替で二人組を作って対応するとするか。その他二名ほど女性の清掃担当を決めるとするか」

 

「村長・・・頼むね、俺のマ・イ・ホ・ー・ム!!」

 

村長の両肩を掴み顔をギリまで近づけて伝える。

 

「おおっ!? お任せください、ピカピカに保ちますぞ!」

 

伝わったか・・・、さて。

 

「ナイセー殿、城塞都市フェルベーンでの対応は・・・もちろんうまくやって頂けるのですよね?」

 

前回の様に神官どもが押しかけて来るのは勘弁だし、おパンツ騒動なんてぶり返されたらイリーナの円らな瞳のダムが速攻決壊してしまう。

 

「え、ええ・・・たぶん・・・大丈夫・・・ですかねぇ?」

 

「何故に疑問形!?」

 

不安しかねぇ!!

 




今後とも「まさスラ」応援よろしくお願いします!

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