転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!? 作:西園寺卓也
準備を済ませ、ナイセーの準備した馬車に乗り込むとする。
俺様自身は全く用意するものが無い。イリーナに選んでもらったローブと魔導士の杖を持つ。
「ヤーベ、王都に行っちゃうのか?」
ずっと話を聞いていたカンタが聞いてくる。チコちゃんはもう目に涙を溜めている。
「ああ、名誉な事かどうかはしらんが、王様が俺を呼んでるらしいからな」
肩を竦めて両手を広げる、外人アハーン風で答える。
「それってすっげーことだよな? ホントはもっと喜んで見送らなきゃいけないんだよな・・・」
カンタが少し俯く。チコちゃんもカンタの服の裾を握っている。
そんな二人の頭をワシワシとしてやる。
「王都で山のようなお土産を買って来てやるからな! 楽しみに待ってろよ~」
努めて明るく伝える。
「ああっ! 楽しみに待ってるからな! 絶対帰って来てくれよ!」
「うん、待ってる!」
さらに二人の頭をワシワシしながら抱きしめる。
「当然帰って来るよ! 帰ってきたらこのマイホームでバーベキューパーティだ!」
「待ってる!待ってるぞ!」
「早く帰って来てね!」
涙を拭きながら送り出してくれる2人。
いい子達だな。
「さて、行くか」
ふとイリーナを見ると、とんでもない量のリュックを背負っていた。リュックの上にはあのテントまで丸めて鎮座しているではないか。
「イリーナ、我々は王家の要請で王都に呼ばれているんだ。道中はナイセーの手配によりコルーナ辺境伯家の案内で連れて行ってもらえる。そんなわけで、まずテントはいらないぞ」
「ええっ!? だが、馬車でも一日で町や村まで到着しないだろう?」
「それもナイセーの方で手配していると思うよ? そうだろ?」
「そうですね、そのあたりは御心配なさらずとも大丈夫ですよ」
ニコニコしながら説明するナイセー。
逆にものすごく逞しいな、イリーナは。
「そ、そうなのか・・・」
そう言って巨大リュックを背負ったまま二階の部屋に戻ろうとして、階段の幅より長いテントぶつけて転んでいる。ふっ、どうかしているぜ、イリーナ。
「イリーナ、一応替えの服をたくさん持ってくるといい。ソレナリーニの町で一緒に服を買ったやつでいいんじゃないか?」
「あ、そうだな!ヤーベに選んでもらった大事な服だからな、全部持ってくるぞ!」
そう言って階段を勢いよく上がって行く。
いつでも元気だな、イリーナは。
「サリーナは準備OKなのか?」
「うん、ボクの着替えはこのバッグに入ってるし、お婆ちゃんにお小遣いもらったからね」
ニカッと笑うボクっ娘サリーナ。八重歯がかわいいな。
「そうか、万全だな」
それにしても、イリーナにルシーナ、そしてサリーナ。
俺はナのつく女性に縁があるのだろうか?
今後、ナのつく女性にあったら意識してしまいそうだ。
「ヤーベお待たせ! ヤーベに買ってもらった服は全部持ってきたぞ!」
そう言って服と一緒に買ったボストンバッグに入れて準備してきていた。
ボストンバッグをポンポンするイリーナ。
「そうか、じゃあ出発しよう」
「それでは馬車に案内しますよ」
ナイセーの案内で馬車に乗り込む。俺とイリーナ、それにサリーナさんだ。
「それでは行って来るよ」
馬車の窓から手を振ってみる。
「早く帰って来いよ!」
「神殿はお任せくだされ!」
「お土産待ってるぞ~!」
村長を始めとしたみんなの温かい言葉に、俺は出来るだけ早く帰って来ようと心に刻むのだった。
途中一泊してソレナリーニの町に到着した一行。
道中はローガ達の軍団を引き連れて馬車が数台繋がっていく。
途中のテントはめっちゃ豪華だった。
イリーナが超喜んでいたが、俺とイリーナとサリーナが同衾することもどうかと言うことで、別のテントが用意されていた。
・・・寂しくなんかないんだからね!
このソレナリーニの町で一日休憩して、明日の朝出発。
なぜか城塞都市フェルベーンでは三日間も休憩するらしい。
その後のルートと予定はフェルベーンで教えてくれるとのことだ。
なかなか徹底しているな。
ソレナリーニの町で一番いい宿に部屋を取ってもらっている。
イリーナとサリーナには少し仲良くなってもらおうと、お小遣いを渡して着替えや洋服を買いに行かせた。
そして俺は冒険者ギルドに一人でやって来た。
ゾリアへの挨拶と副ギルドマスターのサリーナ・・・
「サリーナァァァァ!?」
冒険者ギルドに入ってカウンターにたどり着く前、急に思い出してしまった。
ザイーデル婆さんの孫娘もサリーナと名乗った。
だが、このソレナリーニの町冒険者ギルドの副ギルドマスターも確かサリーナと言ったはずだ。ラノベの小説を呼んでも、名前が被るってほとんど見た事ないぞ。そりゃそうだよな、被ったらわかりにくいわ。でも現実世界はそうはいかないのは当然だ。同じ名前何て、ざらにある。
「ど、どうしたのですか!?」
奥の扉が勢いよく開いて副ギルドマスターのサリーナとギルドマスターのゾリアが飛び出してくる。そりゃそうか、ギルド内でいきなり副ギルドマスターの名前を絶叫したんだ。
驚かれても当然か。
「ヤーベさん!?」
叫んだのが俺だと気が付いてサリーナが近くまで来る。
「ヤーベじゃねぇか、しばらくだな。お前とんでもない事ばっかやってんな」
笑いながら俺の肩をバシバシ叩いてくるゾリア。
「ヤーベさん私の名前を叫んでいましたけど、どうしたのですか?」
副ギルドマスターのサリーナは問いかけてくる。
「ああ、すまないサリーナ。実は今王都まで一緒に旅をしている仲間に、イリーナともう一人、サリーナという女性がいてね」
「まあ、私と同じ名前なのですか?」
「そうなんだ、それで副ギルドマスターである君もサリーナだったと思い出して、思わずびっくりして叫んでしまったんだ」
てへへ!ってな感じでぽりぽり頭を掻く。
「それでは私の名前を忘れていて、ギルドに着いてから思い出されたのですか」
ちょっとほっぺをぷっくりさせるサリーナ。なかなかに魅力的だ。
「いや、悪気はないんだけどね。なぜか、俺に気を寄せてくれる娘達がみんな名前の終わりに「ナ」が付いていてね、つい気になっちゃってね」
「まあ、では私もヤーベ殿に狙われてしまいますね?」
そう言って悪戯っぽく笑うサリーナ。
「あ、コラッ!ギルド職員をナンパするなよ。サリーナはやらんぞ!サリーナが居なくなると俺が困る」
急にゾリアがサリーナの前に出て文句を言う。
「俺はともかく、サリーナの恋路を邪魔するようなパワハラ上司は訴えた方がいいぞ、サリーナ」
「ふふっ!そうですね、あまりにひどいようならそうしましょうか?」
笑いながら応じるサリーナ。
「だれがパワハラか! 大体オメー何しに来たんだよ? 王都に向かってる途中だろ?」
「やっぱその情報伝わってるのね」
「そりゃそうだぜ。『城塞都市フェルベーンの奇跡』ってもっぱらの話題だぜ。派手にやったもんだな。殲滅以外に怪我人の回復も出来るとは恐れいったぜ」
「たまたまだよ」
「それで王様からの呼び出しだろ? もう英雄まっしぐらだな。否が応でも」
「マジで勘弁だからな・・・本当に」
「諦めて観念しろって。Sランク冒険者にでもなっとけよ。で、この町いつ出発するんだ?」
「誰がなるか! 一応出発は明日の朝だ。お小遣い補充のためにこの前買い取りお願いした魔獣の分の金額を受け取りに来たんだよ。ついでにまた新しい魔獣の買い取りもよろしく」
「よろしくは良いけど、この前みたいなマンティコアとかマジでやめてくれよ? ランク高すぎて処理に困るぜ、いくら辺境だからってフェルベーンまで金額処理の申告するのは、めんどくせーんだからな?」
「あー、そう言う事言うわけね。ならいいよ、フェルベーンに直接買い取りに出しに行くし。ソレナリーニの町のギルド実績にならなくても俺は困らないもんねー」
「あ、テメー汚いぞ!」
「今のはギルドマスターが悪いのですよ! 手続きが面倒だからとランクの高い魔獣を持ってくるななどと、ヤーベ殿に愛想をつかれても仕方のない発言ですよ!」
ぷりぷりと怒るサリーナ。それはそうだろう。上級の魔物を卸してくれる存在をお断りって言ったら、ギルドの実績ポイントが稼げなくなるだろうしな。
「ラム、前回のヤーベ殿の買い取り金額を用意してください。それから倉庫を開けてもらって、今回の魔獣の受け取り受理もお願いします」
「了解しました」
そう言って受付嬢のラムちゃんが金額を用意してくれる。
じゃらりと金貨の入った袋を受け取る。
王都の土産を買う軍資金が調達できた。
カンタやチコちゃんの期待を裏切るわけにはいかんしな。
倉庫に移動して魔獣を引き渡していく。
「今回もたっぷり持ってきてんなぁ」
ゾリアが呆れ気味に言う。
「ですが、ヤーベ様のおかげで、フェルベーンにも十分に魔獣の素材を供給出来て大変助かっております。今後ともよろしくお願い致します」
そう言って丁寧にお辞儀する副ギルドマスターのサリーナ。
彼女の丁寧な対応にまたこのギルドに来たくなる。
ゾリアだけならもう潰れてるだろうな。
「王都に行ったらお土産買って来いよな!」
「王都でのお話、聞かせてくださいね」
二人に見送られ、冒険者ギルドを後にする。
ゾリアの土産は捨て置くとしても、帰りにサリーナさんにお土産話と、一緒に旅しているサリーナの引き合わせもしてみようか。
そんな事を考えながらホテルに帰った。
今後とも「まさスラ」応援よろしくお願いします!