転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?   作:西園寺卓也

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第64話 突然の魔物急襲もさらりと片付けてみよう

「ふうっ・・・長いようで長いな」

「ヤーベ、一体何を言っているのだ?」

 

王都に向かう馬車旅が長いようでやっぱり長いのでつい愚痴っぽくなってしまう。

それをイリーナに咎められてしまった。

 

「はっはっは、王都は遠いなって話さ」

 

もう少しでタルバリ領最大の町タルバーンに到着する。

まあ、もう少しと言っても馬車の速度だ。後三~四時間くらいはかかるだろう。

城塞都市フェルベーンを出発して数日。

コルーナ辺境伯領の村で二度宿泊した。

何故かフェンベルク卿だけでなく、奥方とルシーナちゃんも一緒に王都に向かっている。コルーナ辺境伯家の一番いい馬車らしい。三人に俺、イリーナ、そしてサリーナの六人が乗っても少し余裕がある。最大八人くらい乗れそうだ。

 

サリーナは俺が城塞都市フェルベーンで心が死にかかっていた(教会を回っていた)頃、ずっと錬金ギルドに行っていたらしい。錬金術師でもあるサリーナは錬金ギルドの会員であり、会員は錬金ギルドの支部で飛込でも仕事が出来るらしい。回復ポーションの製作など、いつでも人手不足とのことだ。一日半ほど働いて金貨二枚も稼いだとドヤ顔だった。

俺が金貨二千枚を寄付したことは知らないらしい。なんてったって錬金ギルドにこもりきりでアルバイトしてたんだもんな。

・・・自分で稼ぐことは大事だ、うん。

 

 

 

 

 

「フェンベルク卿!左手の森よりキラーアントの群れが出現しました!その数三十以上!」

 

「なんだと!」

 

護衛の騎士が馬車に馬を寄せ、報告してくる。

 

「キラーアント?」

 

「ヤーベ殿は知らぬか? かなり硬い外骨格を持ち、武器や魔法が聞きにくい魔物だ。強力な顎で何でも齧る獰猛な連中なんだ。三十以上・・・厳しいな、迂回できるか?」

 

「難しいかと。すでに五~六人の冒険者パーティが追われているようです。その連中が仕留められたらこちらへ向かって来るでしょう。位置関係からタルバーンへ向かう事は出来ません。危険すぎます。ここは騎士団で食い止めます、フェンベルク卿は手前の村まで大至急引き返してください!」

 

そう言って護衛騎士を纏めようとする男。なかなか有望そうなやつだ。

 

「旦那様、どういたしましょう?」

 

執事さんが聞いてくる。この人もコルーナ辺境伯家に仕えて長いんだろうな。こんな時でも落ち着いて対処できている。コルーナ辺境伯家・・・イイじゃないか。

 

「お父様・・・」

「貴方・・・」

 

「くっ・・・」

 

奥さんとルシーナちゃんがフェンベルク卿の顔を心配そうに見つめる。

フェンベルク卿の表情からすると、護衛騎士が十名いてもキラーアントの群れ三十匹以上は厳しいと言う事か。

 

「護衛騎士たちではキラーアントの群れを殲滅するのは難しいか?」

 

「・・・うむ・・・多分誰も生き残れまい」

 

険しい顔つきで眉を顰めるフェンベルク卿。

 

「そうか、ならば俺が出よう」

 

「ヤーベ殿!」

「危険ですヤーベ様!」

 

フェンベルク卿とルシーナちゃんが止めてくれるが、冒険者パーティもピンチらしいしな。

 

「イリーナ、行って来る」

 

「気を付けるのだぞ、ヤーベ」

 

「ああ」

 

言うが早いか、馬車の扉を開けると外へ躍り出る。

 

「<高速飛翔(フライハイ)>」

 

俺はシルフィーの力を借りて矢の如く空を舞い冒険者パーティを救いに向かった。

 

 

 

 

 

「ダメだ!魔力が尽きた!」

「走れ!タルバーンへ走るんだ!」

「どれだけあると思ってるんだ!」

「ならここで死ぬか?死にたくなければ走れ!」

 

男たちが喚きながら街道に向かって走って来る。

六名の冒険者グループみたいだ。

二名が女性、弓を背負った少女っぽいレンジャーみたいな子と、お姉さまみたいなシーフ。

後男四人(雑)

その後ろをとてつもない勢いで追いかけてくるキラーアントの群れ。これはトラウマになりそうな勢いだな。

 

さて、助けるとしよう。

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

「きゃうっ!」

 

軽装の弓を持った女の子が転んでしまう。

 

「パティ!」

 

後ろで若い男が叫ぶが、パティと呼ばれた少女の目の前にはもうキラーアントが迫っていた。

 

「あ・・・」

 

少女は確実な死を予感した。

 

「<石柱散華(ライジングストーン)>」

 

いきなり放たれる魔力の本流!

 

目の前のキラーアントたちをいきなり地面から石の槍だか柱だかわからないものが突き出て吹き飛ばした。

 

少女の前にふわりと降り立つ白いローブの人物。

 

「大丈夫か?」

 

とても優しく、染み渡るような声。

 

「は・・・はい、大丈夫です」

 

「そうか、それはよかった」

 

そう言って赤い宝玉の嵌った杖を振りかざす。

 

「残りも片付けるか。ベルヒア!力を貸してくれ」

 

『あら、私ばかりご指名してくれるの?うれしくてサービスしちゃうわ』

 

妖艶な雰囲気を醸し出して背中から抱きついてくるベルヒアねーさん。ちなみに今は他の冒険者たちがいるので、誰にでも見える様に顕著していない。俺だけが分かるのだ。

 

「サービスはまた今度で・・・行くよ!<永久流砂(サンドヴォーテックス)>!」

 

キラーアントたちの足元が流砂と化し、渦を巻き始める。

暴れるキラーアントたちも足元がアリジゴクのような流砂になってしまっては身動きが取れなくなる。そしてキラーアントは流砂の渦に飲まれて消えて行く。

 

「ギギッ! ギギ・・・ギィィ・・・」

 

そしてキラーアントの鳴き声も止んで静寂が戻る。

 

『ふふっ・・・ヤーベちゃんは私の力をあまねく使える様になってるわ・・・ス・テ・キ』

「ベルヒアねーさん、褒めて頂くのはありがたいですが、色っぽすぎます」

 

流砂の渦を止めて、大地に戻す。そしてキラーアントの群れは一匹もいなくなった。

 

パティと呼ばれた少女は、キラーアントの群れが消えた辺りを見た後、俺の方を見て目を丸くしていた。

呆然とした他の冒険者メンバーだったが、助けてもらったことに気が付き、こちらに向かってきた。

 

「パティ!大丈夫か?」

 

若い魔術師風の男が俺を無視してパティに駆け寄り助け起こそうとしている。

ふっ、若いな。

 

「すまねえ、助かった。アンタとんでもない魔術師なんだな。あのキラーアントの群れを一撃で仕留めちまうなんて」

 

冒険者グループのリーダーらしき男が話しかけて来た。

 

「こちとらチートなしで地道にやってるんで、魔法くらいは大まじめに取り組んでます」

 

「いや、ちょっと何言ってるかわからないんだが・・・」

 

「そっちの怪我は?」

 

「いや、大したことはない。おかげで助かったよ。それにしても・・・惜しかったな」

 

「何が惜しかったんだ?」

 

「いや、命が助かったから文句はねえんだが、あのキラーアント、すげえ買い取りが高いんだよ。外骨格は硬い上に非常に軽くて、槍や鎧に重宝されていてな」

 

冒険者グループのリーダーらしき男が残念がる。

 

「何!?そうなのか! しまった、危機回避を優先して素材の確保を忘れてたな。それは惜しい事をした」

 

「いや、アンタの判断は正しいぜ。俺たちもアンタがいなかったらパーティーが壊滅していたかもしれないんだ。こっちの魔術師が放った炎の呪文は全く効果を上げなかったし、俺の剣もこのざまだ」

 

素材を高く買い取ってもらえると聞いて心底残念な雰囲気を出してしまったからだろう、冒険者グループのリーダーらしき男が俺の判断は正しいと言いながら自分の剣を見せて来た。

 

「・・・根元からぽっきり折れているな」

 

「ああ、本当にヤバかった。助かったよ。普通なら助かったお礼をしなくてはならんのだが、何分今は手持ちも碌になくてな」

 

「ああ、気にするなよ。キラーアントが高値で売れるって情報で十分だ。次は根こそぎ狩り尽くしてギルドに山積みにしてやるか!」

 

わっはっはと笑う俺に、苦笑いを浮かべる男。俺なら本当にやりかねないとでも思ったかな?

 

「俺はリゲンってんだ。タルバーンの冒険者ギルドに所属するCランクパーティ<五つ星(ファイブスター)>のリーダーをやってる。タルバーンに着いたら冒険者ギルドにぜひ寄って俺たちを訪ねてくれ。うまい店があるんだ。助けてもらったお礼におごるぜ」

 

「お、そりゃありがたいが、結構拘束されている身でな。時間が取れれば挨拶に行くが、あまり気にしないでくれ」

 

「・・・そういや、超豪華な馬車から出て来たな、アンタ。あれは?」

 

「ああ、あれはコルーナ辺境伯家の馬車だよ。当人も乗ってるけど」

 

「げぇ!」

「ウソッ!」

「アンタお貴族様かよ!」

 

冒険者仲間がそろいもそろって驚きやがる。

そりゃ俺だって偉そうに見えないことは承知しているし、大体貴族じゃないのは合っているしな。

 

「いや、俺は貴族じゃないよ。ただ、客として招かれてるだけ」

 

「いや、辺境伯様に招かれる客って一体・・・」

 

実際は王様に招かれてるんですけどね!

言うとまた問題になりそうだし。

 

「ヤーベ、もう片付いたか? フェンベルク卿が問題なければ出発したいそうだぞ」

 

「わかった、じゃあ行こう。それじゃあな」

 

俺は軽く手を振って馬車に戻る。

 

「ふぁー、とんでもない奴に命を助けてもらったらしいなぁ」

 

リゲンはただただ去っていくローブの男を感心するほかなかった。

 

そしてパティは去っていくヤーベの背中を見ながら一言も発する事が出来なかった。

 




今後とも「まさスラ」応援よろしくお願いします!

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