転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!? 作:西園寺卓也
その1.ソレナリーニの町冒険者ギルド 副ギルドマスターサリーナの場合
「・・・ああ・・・モフモフ・・・」
サリーナが書類を持ったまま、カウンターの裏でぼーっと立っていた。
「サリーナさん? サリーナさん!」
カウンターの人気ナンバーワンギルド受付嬢ラムが副ギルドマスターであるサリーナを呼ぶ。
「はっ!?」
「どうしたんです? ぼーっとして。最近おかしいですよ?」
ラムが心配したように、最近のサリーナは心ここにあらず、と言った感じで仕事に手が付いていないようだった。
「・・・いえ、何でもありません」
そう言って仕事に戻るサリーナ。
だか、またしばらくすると、書類を手にぼーっとしだす。
サリーナがぼへーっとしている表情が可愛いと今冒険者たちの間で密かにサリーナブームが来ていた。人気受付嬢のラムとしては、死活問題になるのではと無意味な不安を抱えていた。
「ああ、ローガちゃんをモフモフしたい・・・」
ヤーベさんがこのギルドに通ってくれていた時は、外にローガちゃんが必ずお座りして待っていてくれた。最初は見たことも無い大きな狼牙に驚いていた職員たちも、私がローガちゃんのモフモフの素晴らしさを教えてあげると、食べ物をあげたりして仲良くなりにローガちゃんの元へ集まって来た。みんなにモフモフされるローガちゃんもちょっと大変そうだけど嬉しそうでもあったし。だけど、最初にローガちゃんのモフモフの素晴らしさに気づいたのはこの私ですからね!そこは譲りませんからね!
そう言えば、ヤーベさんの取り巻きの女性は、全て名前に「-ナ」と最後にナが入っているみたいでした。もしかして、ヤーベさん私の事意識して・・・。もしヤーベさんと結婚したら、毎日ローガちゃんをモフモフし放題なのでは!?
あ、いけないいけない、結婚をそんな打算で決めてしまっては・・・でも、それもいいかも!
その2.タルバーンの町 <
「はぁ・・・」
ここはタルバーン冒険者ギルドの中。
パティはテーブルに両肘をついて両手を顎に乗せて溜息を吐いた。
あの時、足を取られて転んだ時。振り返ったその視界には恐るべきキラーアントの群れが迫っていた。
「あの時、絶対死んでた・・・」
そう、あの時、キラーアントの群れが目の前に迫って、自分は殺される寸前だった。
だが、一瞬。
「<
地中から白く美しい柱が何本も突き出て来て、目の前に迫っていたキラーアントの群れを吹き飛ばした。
そして、目の前にふらりと現れた白いローブの人物。
不思議な人だった。金色の刺繍が入った真っ白なローブ。
きっとどこかの教会の偉い神官さんだと思ったけど、あんな強力な魔法見たことないし。
「大丈夫か?」
とても優しく、染み渡るような声がした。
「は・・・はい、大丈夫です」
その言葉を伝えるだけで精一杯だった。
「そうか、それはよかった」
そう言ってその人は赤い宝玉の嵌った杖を振りかざした。
「<
信じられない光景だった。
私たちパーティを壊滅寸前まで追いやったキラーアントの群れ。
私の矢もリゲンの剣もポーラ姉の短剣もソーンの火魔法だって全くダメージを与えることが出来なかった。
それが、一瞬。
流砂に巻かれて飲み込まれていくキラーアントの群れ。
そして目の前には一匹もいなくなった。
その人はこちらを振り返り、にっこり笑ってくれた気がした。
「パティ!大丈夫か?」
その人にお礼を言うことなく、魔法使いのソーンが私を助け起こそうと手を貸してくる。
リーダーのリゲンがやって来てその人と何か話をしてる。
でも、私は驚き過ぎて、声も出ない。何を話しているのか聞こえもしない。
そして、その人は行ってしまう。
私、まだありがとうってお礼言ってないのに。
「はぁぁ・・・」
私はまた溜息を吐いた。
「なーに、溜息ばっかり吐いちゃって」
「ポーラ姉・・・」
ポーラは実の姉ではないが、冒険者の先輩として私と仲良くしてくれた。
このパーティに誘ってくれたのもポーラだった。
親しみを込めて私はポーラ姉と呼んでいる。
「待ち人来たらずって感じね」
完全に見透かされて慌てて顔をそむける。
「リゲンもお礼がしたいから冒険者ギルドに寄ってくれって言っていたけど・・・。あの人コルーナ辺境伯様と王都に向かう途中で助けてくれたでしょ。だから冒険者ギルドに顔を出しているほど暇じゃないのかもね。命を救ってもらっておいて、お礼も出来ないなんて寂しいけど」
その通りだと思う。そんな不義理したくない。
「惚れるのは仕方ないと思うけど、あまり思いつめないほうがいいわよ? お貴族様の賓客なんて身分違いもいいとこだし」
ポーラ姉が突然そんな事を言い出す。
「そ、そんなんじゃ・・・。ただ、私はお礼をちゃんと言えなかったから・・・」
きっと今の私は顔が赤い。
ポーラ姉の目を見ることは出来ない。
私は目を逸らしたまま俯いて話す。
「残念だけど、さっき馬車で王都に向けて出発しちゃったみたいよ?」
「ウソ!?」
がばっと体を起こしてポーラ姉の顔を見る。
「アンタにくびったけのソーンの奴が仕入れて来た情報だから間違いないと思うよ。アイツ、あの人が馬車で出立して行ったのを見たって言った時、心底安心してたから。アンタを取られちゃうんじゃないかってビビッてたしね」
悪戯っぽく笑うポーラ姉。
・・・そんなんじゃない、と思いたい。
あんなすごい人に私が釣り合うなんて思ってもいない。
でも、ちゃんと・・・お礼は伝えたい。
「うん! きっと・・・また会える気がする」
いつまでも落ち込んではいられない。次会う時、助けてもらった命を無駄にしてないって、胸を張って言いたいから。
「頑張らなくっちゃ!」
パティは元気よく前を向いた。
その3.タルバーンの町 フィレオンティーナ嬢の場合
「はぁぁ・・・」
悪魔の塔からの帰り。わたくしはタルバリ伯爵の馬車に乗せて頂き、タルバーンの町へ向かっている。
・・・王都について行きたかったな。
「とにかく、屋敷でゆっくり休んでくれ。システィーナもずっと心配していたんだ。だいたい君の屋敷は賊に襲われて半壊しているぞ」
「え、そうなんですの?」
初耳ですわ。ドーンとか、バリバリッとか派手な音はしてましたけど。
お家を壊されて誘拐されていたとは。どうせならもっと静かに誘拐して頂ければよかったのに。それにしても誘拐された時わたくしはどのようにして運ばれたのかしら。
きっとヤーベ様の腕の中のような全てをゆだねて安心できるようなぬくもりは少なくともなかったのでしょうけど。
「ああ、直さないととても住めないよ。しばらくは我が屋敷に逗留するといい」
「いえ、システィーナに挨拶したらすぐに王都に出立する準備をしますのでお気遣いなく。それに、もうタルバーンの自宅は直さなくても結構ですわ。土地が必要であれば売りに出してくださいまし」
タルバリ伯爵のご厚意は嬉しいが、今のわたくしには無用のものだ。
「いやいや、自宅直さないで土地も売るってどういうことなんだ?」
「わたくしはヤーベ様について行くと決めましたので。多分タルバーンの町の自宅にはもう戻らなくなるでしょうし。必要な荷物を纏めたら王都に出発いたしますわ」
「おいおい、そんなに急がなくてもいいだろう? 何を慌てているんだ?」
「慌てますとも! ヤーベ様の隣に立てるチャンスは、今を逃すともうありえない、そうわたくしのカンが告げていますの」
そう!わたくしのカンが告げております。
ヤーベ様の隣に立てるチャンスは今を逃してはもう無いと。
王都でヤーベ様には何かがある。その何かが過ぎてしまえば、きっとわたくしはヤーベ様のお傍にいるチャンスを失ってしまうのだろう。そんな気がしているのです。
「フィレオンティーナ。君には今まで数多くの男たちが求婚してきた。貴族の長男、次男も多くいたし、一番格式が高かったのはプレジャー公爵家の次男からの求婚だったな。君はそれらを全て袖にしてきた。それが、今になってあのヤーベと言う男にはどういうわけか心を許しているようだ。第三夫人なんて言った時には腰を抜かしそうになったぞ。公爵家の次男の求婚を断った人物が、傑物とはいえ、爵位も持たぬ平民の第三夫人になどと」
タルバリ伯爵が驚いたなどと言っていますが、わたくしからすれば、何も驚くようなことなどありません。例え公爵家の次男だろうと、他の貴族の息子だろうと当人たちに魅力が無かっただけの事。
「君は命を救われたばかりだ。少し時間が経てば気持ちも落ち着くんじゃないか?」
タルバリ伯爵が見当違いの事ばかりをおっしゃられる。
タルバリ伯爵は元々腕の良い冒険者であったと聞きます。
だからこそ、その近くで見たヤーベ様のお力をもっと認識されてもいいはずなのですが・・・。
伯爵生活が長くなってカンが鈍られたのかしら。
「傑物」などと言う一言で済ませられるような器ではないと言うのに。
今叙爵されていないことなど、ヤーベ様を語るにおいて何の価値も持ち合わせないことがわからないのでしょうか?
王に謁見すれば、きっと王は叙爵を申し出るでしょう。
尤も、ヤーベ様はきっとお受けにならないでしょうが。
「はぁぁ・・・」
何度目かの溜息が出ます。
とにかく、大至急出立の準備を纏めなくては。
馬車を仕立てて、自宅の荷物と自分の財産を纏めて・・・。
あ、後護衛を雇いませんと。王都までの道程は魔物の危険は少ないですが、盗賊が出ないとも限りませんし・・・。冒険者ギルドで王都までの護衛をうまく雇えるといいのですが。
王都に行きたがる冒険者パーティ、見つかるかしら?
今後とも「まさスラ」応援よろしくお願いします!