転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?   作:西園寺卓也

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第75話 「史上最強のFランク」なんて称号は謹んでお返ししよう

『ボス、少々よろしいでしょうか?』

 

馬車に乗って出発しようとした俺をローガが呼び止める。

 

「どうした?」

 

『はっ! 今の一撃でイモムシどもがこんがり焼けていい匂いを放っておりまして・・・。お許しいただけるのであれば、我ら狼牙族でイモムシを食べて来ようかと』

 

「えっ!? イモムシ食べるの?」

 

『ええ、なかなか栄養価の高い魔物です』

 

「そ、そうか・・・。別に止めないし。ダメってことは無いぞ。どうせ馬車の方が遅いんだ。ゆっくり食事してくるといい。ヒヨコたちにも声を掛けてやってくれ。・・・食べるかどうか知らんけど」

 

『ははっ! 皆の者!ボスのお許しが出たぞ! 腹いっぱい食べるがいい!』

 

『イヤーッホー!』

『動けなくなるまで食ってやるぜ!』

『バカかお前? 動けなくなったらボスの後を追えねーだろ』

『そりゃそうだ!』

『出してもらえる食事はすげーうまいんだが、量がなぁ』

『バカ! それは言いっこなしだろ! ボスの肩身が狭くなったらどうするんだ!』

『おっといけねぇ』

 

 

なんだか随分と楽しそうだ。

そして、コルーナ辺境伯家のくれるゴハンはとてもおいしいらしいが

狼牙族にとっては量が少ないらしい。

 

そういや今まで泉の畔では食事をあいつらに任せっきりだったからな。

こうして規則正しく移動すると自由に狩りにも行けないか。

・・・どこかの村に宿泊するなら、夕方から夜にかけて村の外で自由に狩りに行かせてやる方がいいかもしれないな。

 

「フェンベルク卿。騎士の1名を先にソラリーの町に先振れとして派遣します。宿の手配は連絡が伝わっていると思いますが、冒険者ギルドにこの事を連絡しておきます」

 

「わかった」

 

「あ、冒険者ギルドに行くなら、仕留めた魔物の解体とか自由にしていいからって伝えておいてくれる?」

 

俺はコルーナ辺境伯の部下の騎士を呼び止めて伝える。

 

「はっ! と、いいますか、良いのですか? 手数料や引き取り手間賃を払っても十分に買い取り額がありそうですが?」

 

「いいのいいの、それくらいは冒険者ギルドにプラスになればそれで。だいたい、ウチのローガ達がイモムシ食べに行っちゃったから、イモムシは残らないかもしれないしね」

 

「了解しました」

 

そう言って馬を掛ける騎士の一人。

先行してソラリーの町へ出発した。

 

「コルーナ辺境伯家の騎士たちは優秀だね」

「そうだろう!」

 

コルーナ辺境伯がドヤ顔だったが、それも仕方ないと思う程の人材が揃っているようだ。

 

 

 

馬車はソラリーの町入口に着いた。

 

例の如く、入口は一般から外れた貴族専用の門を通る。

フェンベルク卿が馬車の窓から顔を出し、胸元から例の短剣を出すとすぐ町への入門が許される。

 

俺は町に入ると同時に<気配感知>及び<魔力感知>を発動させる。これらは精霊魔術でも何でもなく、泉の畔で俺が一人でぷるぷるしていた時に身に着けたものだ。ぐるぐるエネルギーを高めてなんとかいろんな情報が取れる様になったのは嬉しかった。まあ、慣れるまで何度エネルギー枯渇で気を失ったか知れないけどな。

 

実に嫌な予感がする。

何事も無ければいいが・・・。

 

ちなみに結構大きな町だ。今までの村レベルではない。

そんなわけで気配は元より魔力もそれなりに感じられる。

情報としてはかなり雑多でごちゃついている。

泉の畔での使用時とはまるで違う。

必要な情報をより分けられるようにトレーニングが必要のようだ。

 

ローガ達もイモムシをたらふく食べたのか、腹回りがポッコリしている連中もいたが、町に入る前には合流している。

そんなわけで、とりあえずホテルにチェックインする。

時間は夕方に差し掛かろうかと言ったところだろう。

夕食までまだ時間があるとのことだったので冒険者ギルドに向かうことにした。

 

 

 

カランコロン。

 

うーん、いつも思うが、冒険者ギルドの扉はなぜカランコロンと音を立てるのか。

そっと入ってチラ見したくても、モロバレするではないか。

ちなみにここに来たのは俺とイリーナだけだ。

サリーナは途中の休憩時などにローガの部下と森へ薬草取りに出かけたりしており、錬金術ギルドに薬草を卸しに行くとのことだった。

 

冒険者ギルドも広く薬草採取の依頼を取り扱っているが、錬金術ギルドはやはり専門的な薬草を集中して買い取りしているらしい。しかも錬金術ギルドに所属していると買い取り額がアップするらしい。

そんなわけでヒヨコ隊長の部下とローガの部下に協力してもらって、頻繁に森の中へ薬草採取に出かけていた。

サリーナのお小遣いもアップすること間違いなしだろう。

 

と言うわけで、みんながなぜかこちらを見ている中、ギルドのカウンターの方へ行く。

 

「・・・ご用件を承ります」

 

なんとなく緊張した感じの受付嬢が声を掛けてくれる。

 

「えっと・・・少々伺いたいのだが、この辺りでグロウ・キャタピラーやギール・ホーネットが集団で出たりするのは珍しい事か?」

 

「・・・! あ、あの・・・お名前をお伺いしても?」

 

「んっ? ヤーベと言うが」

 

「ヤーベ様・・・! あ、あの・・・冒険者ギルドの身分証はお持ちだったりしませんでしょうか?」

 

「ん? ああ、あるぞ・・・ゾリアに作ってもらったからな。えっと・・・」

 

そんなん最近使わなかったから亜空間圧縮収納へ放り込んであるよ!

コルーナ辺境伯家の馬車で移動してから町に入る時に身分証チェック一回も無いし。

ローブの内側をゴソゴソ弄るフリをして亜空間圧縮収納からギルドの身分証を取り出す。

 

「ほい」

 

「拝見します・・・エ、Fランク!?」

 

んん? そう言えば、俺はギルドの身分証を作ってから一度も依頼を受けてないな。狩った魔物は買い取りに出しているが。なんか仕事さぼってる役立たずみたいで居心地が悪いな。今度どこかで依頼をこなすか。

・・・ランクが上がらない程度に。

 

「ヤーベ様はFランクなのですか・・・!? すみません、依頼達成内容を照合させて頂きます・・・、え!? 受注依頼件数ゼロ!? い、一度もギルドの依頼を受理されておられないのですか・・・?」

 

「ああ、そうかも。ソレナリーニの町で活動し始めた時は、個人的に狩った魔物の買い取りをお願いしていただけだし。あ、ギルドマスターのゾリアに協力したことはあるぞ。でもギルドの依頼を受理した感じではないな。話し合いだったし」

 

「ええ、ギルドマスターと話し合いで仕事!? 一体どういう・・・、すみません、ギルドマスターを呼びますので少々お待ちください」

 

そう言って受付嬢は奥へ行ってしまう。

魔物の情報が欲しかっただけなのだが・・・。

それにしても、冒険者ギルドの身分証を作ってから一度もギルドの依頼を受けていないとは俺もぬかったものだ。ラノベの物語にもよく出てくる冒険者ギルドだが、依頼を受けずに実績を積まないとギルドの身分証を剥奪する、なんて場合もあるようだし。ルールをよく聞いておくべきだったな。ゾリアじゃ役に立たないだろうから、副ギルドマスターのサリーナさんにいろいろ教えて貰おう。そのためには王都でお土産も買わねば。ゾリアにはいらないな。

 

「どうぞ、こちらへ」

 

そう言って先ほどの受付嬢が奥の部屋へ案内してくれる。

ふう、またギルドマスターとトークする羽目になるのか。

ここのギルドマスターが筋肉ダルマみたいな脳筋じゃないことを祈るばかりだ。

 

「失礼します。ヤーベ様をお連れしました」

 

「うむ、こちらへ」

 

声がする方を見れば、白髪でこれまた真っ白な長い髭を蓄えた老人が座っていた。この老人が冒険者ギルドのギルドマスターだとすれば、結構イメージと違ったな。まるで魔術師ギルドのギルドマスターと言った方がしっくりくる。

 

「まあ、掛けたまえ」

 

「失礼します」

 

俺とイリーナはそう言って白髪の老人の対面にあるソファーに腰かける。

 

「君が噂のヤーベ殿か。会えて何よりだよ」

 

「噂?」

 

「うむ、しばらく前にコルーナ辺境伯家の騎士様がこちらに見えられての。グロウ・キャタピラーとギール・ホーネットの群れを殲滅したとの連絡を貰っての」

 

「ああ、それで」

 

「うむ。コルーナ辺境伯家の賓客が対応してくれて、一撃で殲滅したとね。最初何の冗談かと思ったのじゃが、コルーナ辺境伯家の騎士として、誓って冗談でも嘘でもない、と断言をされての」

 

「そりゃまた剛毅な騎士様ですな・・・」

 

そんなに気合入れてもらわなくてもよかったんですけどね。

 

「しかも、素材が必要ならば自由に持って行ってよいという話じゃったから、二度驚いたわい。自分で魔物を倒しておいて素材いらないなんて、そんな冒険者どこにもいませんわな」

 

ホッホッホと笑うギルドマスター。

むむむ、この老人出来る。ホッホッホと笑う老人は人生経験豊富と相場が決まっているのだ。

(矢部氏の個人的見解です)

 

「それで、あのイモムシやハチはよく出るのか?」

 

「うむ、単独ではちらほら見られるので、Cランクパーティの討伐対象になっておるよ」

 

「たまには出るんだな」

 

「だが、今回のような大規模の群れというのはほとんど聞いたことが無いレベルじゃな。ギール・ホーネットが巣を作って大群となった時の駆除作戦は冒険者25名に町の警備兵も10名参加、駆除用の薬やら松明やら事前準備を万全に行っていったにも関わらず3名の死者と多くの負傷者が出たのじゃ。なんとか巣を駆除できたので町には被害が出なかったのが幸いじゃったな」

 

「それほど危険なのか。そういや俺が仕留めたハチもどこかに巣があったのかな?」

 

「可能性が無いわけでもないが、もしかしたらグロウ・キャタピラーの突進に巣が壊されて巻き込まれた可能性の方が高いかもしれんの」

 

「なるほど・・・そういう事もあるのか」

 

さすがギルドマスター、見識が深いな。

 

「グロウ・キャタピラーは普段はそれほど動かず、土の中を掘り返したりしているので、自然には都合がよい魔物じゃ。だが、集団で集まった際に、何かの拍子で暴走するととんでもないスピードで移動し始め、その間にある物を全てなぎ倒してしまう・・・。この町にグロウ・キャタピラーの集団が突っ込んできたら大惨事じゃったな。そう言う意味でも大変感謝しておるよ」

 

「偶々通りかかっただけだ。気にしなくてもいいよ」

 

「・・・普通なら、依頼が無くてもとんでもない危機を回避できたのだから報奨金を寄越せとギルドに怒鳴り込んできても良いほどの成果なのじゃがな・・・」

 

「ヤーベはそんな礼儀知らずの連中とは違う。世のため人のために自らの力を振るうヒーローなのだ!」

 

イリーナが立ち上がって力説する。

 

「違います」

 

「えっ!? 違うのか!?」

 

涙目になって俺を見るイリーナ。そりゃ違うよ。

 

「イリーナよ。俺は世のため人のために力を振るうヒーローなんかではないよ」

 

「そんなっ! そんなことはないぞ!ヤーベ! ソレナリーニの町でも城塞都市フェルベーンでも事前にテロ行為の犯罪者を捕まえたじゃないか! フェルベーンで苦しんでいる病気の人たちを回復させてあげたじゃないか! フィレオンティーナだって無償で助けてあげて、悪魔王ガルアードだって倒したじゃないか! なのに何のお礼も受け取っていないじゃないか!」

 

イリーナよ。力説してくれるのは嬉しいのだが、いろいろと内緒にしておかなければならないような事までぶちまけるのはどうかと思うぞ。

 

「な、なんじゃと・・・悪魔王ガルアードを倒した・・・!?」

 

ほら、ヤバイ反応だ。

 

「それに、城塞都市フェルベーンの奇跡は、もしやお主たちか・・・?」

 

ほら、バレなくてもいいものまでバレる。

 

「ヤーベがヒーローでなくてなんだというんだっ!」

 

涙目になったまま力説を続けるイリーナ。

ほんと、こんな俺をここまで買ってくれると照れるじゃないか。

 

「なあ、イリーナ」

 

「なんだ?」

 

「俺はイリーナのヒーローかもしれない。でもね、世のため人のために頑張ってるとは思ってないよ。俺は利己的なんだ。申し訳ないが、顔も知らぬ誰かのためにこの命を投げ出すつもりもない。偶々居合わせた俺がその騒動を治めたに過ぎない。偶々俺が居合わせて討伐したに過ぎない。それはあくまで結果だよ、イリーナ」

 

「う・・・」

 

「俺はね、さっきも言ったが利己的なんだ。俺と俺の大事な人たちを常に優先する。だから、知らない町の人々とイリーナを天秤にかけるなら、俺はイリーナを取る」

 

ボッと顔を真っ赤にするイリーナ。

何千、何万の人々の命よりもお前を優先する、そう言われたのだ。

 

「ほら、俺は全然ヒーローじゃないだろ? たまたまやったことが人々の役に立ってただけの事さ。報奨金だってくれるなら貰うけど、いちいちこちらから言うのも面倒なだけさ。何せそれほど俺たちの暮らしはお金が無くても困らないだろ?」

 

泉の畔での生活を想定してますけどね。これが王都で家でも買おうってなったらどれだけ冒険者ギルドで依頼をこなさにゃならん事か。

 

顔を真っ赤にしながら、すとんとソファーに座るイリーナ。

両手で顔を覆う。

 

「だけど・・・ヤーベは私のヒーローだ・・・」

 

両手で顔を覆ったまま呟くように言うイリーナ。

 

「ホッホッホ、仲良きことは美しきかな、かのう」

 

ギルドマスターのジーサマが笑う。

 

「まさにヤーベ殿は史上最強のFランク冒険者じゃな!」

 

「むっ!さすがギルドマスター!素晴らしい表現だ!」

 

「恥ずかしいからやめてください」

 

イリーナよ、変な称号に乗るんじゃないよ。

 

「しかし、冒険者ギルドに登録してFランクの身分証を受け取っておきながら、一度たりともギルドの依頼を受理せず、未曽有の危機にその辣腕を振るう・・・。やはり史上最強のFランク冒険者じゃの」

 

「うむうむ!その通りだ!さすがギルドマスター話が分かる!」

 

「いいか、広めるなよ!絶対そんな呼び名広めるなよ!」

 

押すなよ押すなよ、じゃないからね!

マジで言ってるから。史上最強とかマジで恥ずかしいから!

 

「キャ----!」

 

「なんだ?」

 

女性の悲鳴が聞こえたのでギルドマスターと俺が部屋から飛び出す。

 

「何じゃ! どうした!」

 

「そ、外に・・・外に狼牙の群れが!」

 

「なんじゃと!」

 

え・・・?狼牙の群れ?

 

「どういう事じゃ!」

 

そう言ってギルドを飛び出すギルドマスター。

そこには・・・

 

ババーン!

 

総勢六十一匹の狼牙達がずらりと並んできちんとお座りしている。

 

「こ、これは・・・」

 

「あ、ウチの使役獣たちです」

 

そう言えば、ホテル出てからイリーナと二人で歩いて来たけど、ローガ達に特に指示出してなかったな。てっきりホテルの庭でゴロゴロ寛いでるとばっかり思っていたのだが。

 

「お前達、ついて来ていたのか」

 

『ははっ! ボスがホテルから出て歩いて行くのが見えましたので、護衛にと思いまして』

 

「だからって全員来るかね?」

 

『初めての町ですし、部下も全員ボスのそばがいいと言うので・・・』

 

「そう言われると文句も言えんが」

 

「こ、この子達・・・ヤーベ様の使役獣なのですか?」

 

ギルドの受付嬢たちが我先にと出てくる。

 

「そうだよ」

 

「さ、触っても・・・?」

 

「もちろん大丈夫だよ。嫌がるようなことをしなければ大人しいよ」

 

「「「キャーーーー!」」」

 

四、五人ほどの受付嬢たちがローガ達にダイブするようにモフモフしまくる。

 

『おおっと、なぜに我らがこんなに人気なのでしょうか?』

 

「さあ、毛並みがよくて触り心地がいいんじゃないか?」

 

『そう言われると悪い気はしませんな』

 

わふわふ言いながら大勢の狼牙達がモフモフされている。それを見た通りすがりの人や子供たちも次々寄って来て狼牙達をモフり出す。

 

「う~む、これは商売で一儲けできそうな人気だな」

 

「いや、史上最強のFランク冒険者なんじゃし、そんな小金を稼ぐような商売せんでも・・・」

 

「いや、それこそそんな呼び名マジで広めないでよね!?」

 

変なところで変なフラグが舞い込んで来たよ・・・。

 




今後とも「まさスラ」応援よろしくお願いします!

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