転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?   作:西園寺卓也

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第76話 暗殺者「フカシのナツ」から身を守ろう

ソラリーの町の一番大きな宿が取れなかったらしく、少し込み入った裏通りのホテルに宿泊となった。

 

「ヤーベ殿、なんだか手違いなのか一番大きな宿が取れなかったようだ。だが、この宿もなかなか味があるらしいぞ?」

 

そう言ってフェンベルク卿が自ら宿へ案内してくれる。

もちろんその先には案内人と騎士もいるが。

 

その後の夕食もそれなりにおいしかったのだが、特に特筆するべきことも無かった。

俺はその後、明日から王家直轄領に入って移動するのでゆっくり休むようイリーナとサリーナに伝えて早めに自分も休むと言って部屋に戻る。

そして一人部屋に入って窓から外を見る。

 

込み入った路地。屋根伝いにいろいろな建物が見える。

今までの大通りに面した大きな宿ではなく、路地裏の中規模な宿。

何故か大通りの宿は予約が取れなかったという。

このソラリーの町は王都を目指す主要街道沿いにある。

悪魔の塔に寄ったため北側ルートになり、日程にずれがあるとはいえ、元々ソラリーの町は宿泊予定だったはずだ。

 

「・・・・・・」

 

ぴりぴりした感じがする。

俺を邪魔だと思う連中が果たしているのか。

悪魔の塔で襲って来た魔術師は自害した。だが、その黒幕は帰って来ない魔術師をそのままにしておくだろうか? すでに俺が悪魔王ガルアードを倒したと情報を得ているのではないか? ならば、王都で王への謁見が叶うのは黒幕にとっては具合の悪い事ではないのか?

 

もし、俺が敵だったら。

 

「暗殺だろうな・・・」

 

それも、このタルバリ領内で。

王都近く、この先王家直轄領ともなれば、暗殺が簡単でないうえに、実際に暗殺が成功した場合の捜査が厳しい事が予測される。何せ王が会いたいと呼んだ客を直轄領内で暗殺されれば王家の面目は丸つぶれだろう。逆に王家の権威を落とすと言う意味ではあるかもしれないが、今はそれよりもより確実な暗殺を狙うだろう。

そう、王家直轄領内に入る前のタルバリ領内での暗殺。

そしてこのソラリーの町は王家直轄領に入る手前にある最後の町なのだ。

 

狙うなら、この町以外にない。

 

俺はローブを着たまま、部屋の中央に立つ。

 

すでに<気配感知>及び<魔力感知>で屋根の上の不審人物を捕らえている。

後はいつ来るかだけだ。

 

そう言っている間に、窓の横まで来る不審者。

そして、窓を開けて入ってくる。

ちなみに俺は窓に背を向けている状態でただ部屋の中央に立っているだけだ。

ヘタすると俺の方が不審者っぽい。

 

 

 

「ヤーベだね・・・?お命頂戴?」

 

「何で疑問形!?」

 

一撃受けてから絡め捕るつもりで背中を見せていたのに、ツッコミを入れるために振り返ってしまった。

 

見れば、どこからどう見ても忍者である。そう、忍者である。

大事な事だから二度言った。

この異世界で忍者? どうも女の子っぽいからくノ一かもしれない。

自分の事を拙者といい、忍と宣う輩かもしれない。

 

「で、ヤーベ?」

 

「すげー気さくに声かけてくれるけど、不法侵入だからね?」

 

「この世界は法律が甘いから大丈夫・・・」

 

「!!」

 

コイツ・・・今、何て言った!? 

この世界は法律が甘い・・・・・・・・・・!?

 

「お前・・・転生者か・・・?」

 

「むっ・・・、そういうお前も・・・?」

 

「俺は・・・わからん。そうだと思うが・・・」

 

「それはそれとして、ヤーベお命頂戴」

 

「何で?何でぇ!? 今転生者って、すげー大事な話してるよね?よね?」

 

「う~ん、依頼? ヤーベの首は大金」

 

「ガッデム!いつの間にやら賞金首に!?」

 

「そんなわけでお命頂戴」

 

「ちょっと待て、まだ俺は君の名前も聞いてないぞ」

 

「・・・? 暗殺者は名乗らないのが普通」

 

少し真面目になって答える忍者少女。

 

「でも転生者なら、同じ地球から来てるんだろ? 名前くらい知りたいじゃないか」

 

「ならば名乗ろう」

 

「おお、頼む」

 

「我が名は『フカシのナツ』」

 

「はいっ? フカシのナツ?」

 

「そう。ナツさんは凄腕の暗殺者。『フカシ』はこの姿を見ることが出来ないほどのスピードを誇る「不可視」と私に狙われたら絶対死を免れない「不可死」、そしてトークでは盛りまくってフカシまくってるから「フカシ」」

 

「謝れ!「1〇年ニート」の坂東〇郎大先生に謝れ!」

 

俺は激怒した。ちなみに1の隣はゼロではなく伏せ時の〇になります、あしからず!

 

「ちょっと何言ってるのかわからない」

 

「嘘つけ!」

 

コイツ、絶対ラノベファンだろ!

まるっきり俺と同じ時代から転生して来ている可能性が高い。

とすると、いろいろ聞いてみたいのだが、俺の首を取ると言ってるこの忍者少女の能力が全く不明だ。俺と違ってチート能力を貰っているとすると、想像を絶する理不尽な攻撃があってもおかしくない。何としてもコミュニケーションを取って情報交換せねば。

 

「あり〇れ・・・最高だったなぁ。白〇良大先生の作品また読みたいなー」

 

「うふふ・・・ユ〇様サイコー・・・私も憧れる・・・」

 

「転〇ラ・・・最高だよなぁ。伏〇大先生の作品また読みたいぜー」

 

「うふふ・・・やっぱり転ス〇はシ〇ンが神・・・私も料理でビビらせる」

 

「いや、それダメなヤツじゃね?」

 

「八〇って、それは〇いでしょうも最高」

 

「ああ、Y.〇大先生の作品だな。実に読み応えのあるいい作品だ。俺だったら八男ってだけでもう心が折れているだろう」

 

「ふふふ・・・ヤーベは根性なしと見た。大魔力があっても使いきれないタイプ」

 

クスクスと笑う忍者少女。

 

「ほっとけ・・・って。おまえ絶対転生者じゃねーか! しかも俺と同じ日本でしかも同じ時代だろ!平成何年から転生してきた!」

 

そう言って忍者少女の両肩を掴んで揺する。

 

「ひょわわっ!?」

 

「北千住のラノベ大魔王を舐めるなよ! 悪役令嬢転生物だって網羅してるんだからな!」

 

「むうっ・・・ヤーベ・・・出来る!」

 

「どうしたんだヤーベ!大丈夫か!?」

「大丈夫ですか?」

「何を騒いでいるんだヤーベ殿」

「ヤーベ様一体どうされたのですか?」

 

見ればノックもせずに部屋に踏み込んできたイリーナ、サリーナ、フェンベルク卿、ルシーナちゃん。

そして俺は小柄な忍者少女の両肩を掴んで揺さぶっている的な。

 

「ヤヤヤ、ヤーベ・・・」

「まさか・・・」

「むうっ!幼気な少女を連れ込んで!」

「イケナイことを!?」

 

他の三人はともかく、ルシーナちゃんひどいよ。何がいけないことだっての。

 

「暗殺者は幼気な少女と言わないでしょ」

 

俺は溜息を吐きながら忍者少女を放す。警戒だけは怠れないがな。

 

「暗殺者!?」

 

イリーナが驚く。

 

「むうっ!?」

 

フェンベルク卿が腰に手をかけて剣が無い事に気づく。おいおい。

 

「とりあえず・・・ヤーベ、お命頂戴」

 

「だから、とりあえずで命を取るな! 暗殺、ダメ!絶対!」

 

「脱法ドラッグならOK?」

 

「いいわけねーだろ!」

 

「ヤーベは我儘・・・ならどうしたらいい?」

 

どうしたらいいって俺に聞くのかよ。

てか、このなっちゃん、若干というかだいぶおかしい。転生者とはいえ、こんな簡単に暗殺者として知らん人間を殺せるものか?

転生時の障害の可能性・・・? いや、暗殺者として生きてきて、途中で記憶が蘇った感じか?

 

「ナツは気づいたらこの世界に居たのか?」

 

「ううん。前世でだいぶ可哀そうに死んだからこの世界に転生してあげるって言われた」

 

「誰に?」

 

「神様」

 

いるんか!やっぱり!神様!俺の時には姿見せなかったくせに!

 

「ヤーベは神様に会ってない?」

 

「会ってねーよ!気づいたらこの世界だったんだよ!」

 

「カワイソー」

 

「絶対同情してないよね!?」

 

「うん」

 

コイツ、嫌いだ。

 

「で、神様に会ってどうしたのよ?」

 

「元気に生きて行きたいって言ったら、今の姿のままいろんな能力をくれた。チートウッハウハ」

 

「ぐおおおおおお!! ちくしょーーーーーー!! うらやましぃぃぃぃぃ!!」

 

俺は慟哭した。

 

「ヤーベ!どうした!何だ、敵の精神魔法か?」

「ヤーベ様しっかり、この気付け薬で正気に戻ってください!」

 

何か知らんが苦い物を無理矢理二人に飲まされる。

 

「ペッペッ」

 

「こら、ヤーベ、出してはいかん」

 

イリーナが俺の口を押える。扱いが酷い。

 

「ヤーベはチート貰ってない? 残念な人なんだ」

 

「ほっとけ!」

 

「そんなわけで、お命頂戴」

 

「意味不明!」

 

「ヤーベを殺させはしないぞ!」

 

そう言って俺をかばうように立つイリーナ。

気持ちは嬉しいが足がぷるぷるしてますよ?

 

「で、確か俺の首は賞金が掛かってるって言ってたよな?」

 

「そう・・・ヤーベの首でウッハウハ」

 

「いくらだ?」

 

「何と金貨百枚。ウッハウハ」

 

「そうか、ならこれでどうだ?」

 

そう言って亜空間圧縮収納から金貨百枚が入った袋を二つ取り出す。

 

ドシャリ!

 

「全部で金貨二百枚。俺の味方になってくれたら倍の金貨をやろうじゃないか」

 

「おおー、ヤーベは成功した商人? チートも無しに」

 

「だからほっとけ!」

 

チート無し無しってエグるなよな!心では泣いているんだぞ!

 

「とりあえず金貨二百枚はウッハウハ。だからヤーベの味方をする」

 

そう言って金貨の袋を担ぐ忍者少女。

 

「で、誰だ?俺の暗殺をお前に依頼したヤツは?」

 

「暗殺者集団『黒騎士ダークナイト』の首領カイザーゼル。私にヤーベの姿絵を見せて、この宿に泊まってるのも教えた。首を取ってくれば金貨百枚と交換だって」

 

物騒な話だね、やだやだ。

 

「それで? 失敗したらやばいのか? 他の暗殺者は?」

 

「私はどの組織にも属さない一匹狼・・・。たまたま酒場で話をした時に儲け話として聞いただけ」

 

「たまたまで人の命狙わないでくれます!?」

 

「だから、依頼として受けたわけじゃない。そんな話があるって聞いただけ」

 

それじゃ、成功すれば儲けもの、的な感じじゃないか。その割にこの宿の情報は掴んでいる・・・。

殺すのが目的じゃないのか、情報を探るためなのか。

 

「で、金貨二百枚で俺の味方になったなっちゃんはこれからどうするんだ?」

 

俺は「フカシのナツ」に聞いてみる。

 

「とりあえずヤーベの味方になったから、ヤーベは襲わない。後、王都でカワイイ部屋を借りて、綺麗な家具を買っておいしい物を食べる」

 

「金貨二百枚で悠々自適な生活送る気マンマンじゃねーか! 味方ならもっと働いてくれよ!」

 

「・・・ナツはフリーランスなので、特に情報を持ち合わせない」

 

「持ってないなら取って来て!」

 

「うーん、管轄外。それじゃ」

 

そう言って窓から飛び出て屋根伝いに走って行く。

 

「あ、逃げた」

 

味方って言ったくせに金貨二百枚持ち逃げしやがった。

・・・もう少しラノベの話、したかったな・・・

 




今後とも「まさスラ」応援よろしくお願いします!

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