転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!? 作:西園寺卓也
自分以外に転生者がいる。
この事実は俺にかなりの衝撃を与えた。
考えなかったわけではない。
だが、自分がスライムだったこともあり、あまりそのことに意識を向ける余裕も無かった。
この世界で自分以外に転生者がいると分かった以上、転生者が敵になればかなりの脅威となる。そして、なっちゃんが言っていたように、チート能力を得ている可能性が高いのだ。
そうなればもはやチートが羨ましいなどと言っている場合ではない。
チート能力を持った転生者との戦いを想定した対策を練らなければならないのだ。
「尤も、どれくらいいるのかにもよるけどな・・・」
独り言のように呟く。
転生者が「迷い人」のようなイメージで決して珍しくないレベルの存在であればチート能力の情報を得やすいだろう。だが、今まで立ち寄った町ではそのような情報は皆無だった。
それは「転生者」が相当稀な存在であるか、その存在がほとんど知られていないか、国の上層部が秘匿しているかであると思われる。
今のところ「ナツ」以外の転生者がいるかどうかはわからないし、「ナツ」にしても、何とかコミュニケーションを取る事によって戦闘は回避できた。その代わり「ナツ」のチート能力は把握できずじまいとなっている。
「ヤーベ、どうした? もうすぐ王家直轄領最初の町バリエッタに着くようだぞ」
頭の中で情報整理に追われていた俺をイリーナが現実に引き戻してくれる。
時間的には昼過ぎ、と言ったところだろう。バリエッタの町で一泊して明日の朝また王都に向けて出発することになる。
王家直轄領に入ったので、冒険者ギルドに顔を出してギルド証を提示しておく必要がある。領を移動したら冒険者ギルドでギルド証を出しておくように言われていたのだ。
タルバリ領ではすっかり忘れていたが。
王家直轄領のバリエッタの町でも貴族は専用の門から待たずに町へ入れる。
便利なものだが、往来が多いのか町への入門待ちが相当列を作っていた。
少し気が引けるな。
例によってこの町で一番良い宿を抑えてあるとのことで馬車は直接宿の前まで移動する。
コルーナ辺境伯家のみんなは宿でゆっくり休むようだが、俺は挨拶を済ませると冒険者ギルドへ出かけることにする。イリーナがついて来るが、例の如くサリーナは錬金術ギルドに出向くと言って別行動になった。
「ヒヨコ隊長、部下にいつも通りサリーナの護衛を、ローガ達は宿で待て」
『ははっ』
『ボス、ギルドは使役獣や馬車用の馬を休ませる厩舎があります。我々もぜひ同行させてください』
「だが、みんなで行くと目立って仕方がないし」
『では、我だけでもお供致しましょう』
『あ、キタネェ!』
『リーダーばっかり!』
『そうだそうだ』
次々わふわふと文句を言い出す狼牙達。
『やかましい!』
シンッ!
一瞬にして静まる狼牙達。四天王を含む。
『ささっ、ボス参りましょう!』
ニコニコしながら催促するローガ。
「いや、ここまでシュンとされたら連れて行かんわけにもいくまい。全員ついて来ていいから、きちんと並んで来いよ?」
『さすがボスだ!』
『よっ!大将カッコイイ!』
『一生ついて行くでやんす!』
次々ほめたたえる狼牙達。
『仕方のない奴らだ。ボスに恥をかかせない様に列を乱すなよ!きちんとついてこい』
『『『わふっ!』』』
そんなわけでまた俺とイリーナの後ろに狼牙達が61匹もついて来ることとなった。
「うおっ!? なんだあれ?」
「使役獣?」
「整然と並んでるって、ありえるのか?」
「あり得るから目の前を歩いているんだろうよ」
「すげー!」
完全に注目の的だ。
「お、良い匂いだ。ローガ食べるか?」
『わふっ!(ぜひ!)』
十件以上並んでいる屋台を次々覗いては買いまくった。
何せ山のように買っても六十一匹の狼牙達の食欲はハンパない。
次々に屋台で買った食べ物を食い尽くしていく。
「ヤーベ、ワイルド・ボアのスラ・スタイルだぞ!一緒に食べよう!」
俺様考案のスラ・スタイルが王家直轄領でも流行っているのか・・・。
マジで名前しくじったな。
「アースバードの唐揚げも追加しよう」
『イリーナ殿!我にもアースバードの唐揚げを!』
「ローガもアースバードの唐揚げ食べるのか? もっと注文するか」
・・・イリーナも普通にローガとコミュニケーションを取ってるな。まあいいけど。
その後三十分以上屋台の前で食べまくって多くの屋台を売り切れに追い込んだ。
カランカラン
冒険者ギルドの扉を開けると、一斉にこちらを見る人々。
白ローブとポンコツ女剣士は珍しいですかね?
受付カウンターでギルド証を提示する。
「これから王都へ向かうので一応王家直轄領内での登録を頼む」
「了解しました。登録させて頂きます。そちらの方もご提示ください」
美人受付嬢は淡々と業務を処理する。
「た、大変だ!北のバハーナ村でダークパイソンが出た!」
「な、何ですって!?」
ちょうど俺たちにギルド証を返した受付嬢はすぐに奥の部屋へ行った。ギルドマスターに連絡を入れに行ったのだろう。
「ダークパイソン・・・とんでもねぇ魔物が出たな・・・。下手すりゃバハーナ村は・・・」
「おいおい、不吉なこと言うなよ」
「だが、ダークパイソンなんて大物、この辺の冒険者パーティじゃ討伐できねーだろ、王都の騎士団でもなけりゃ」
「だから騎士団への討伐要請が出るんじゃないか?」
冒険者ギルドの中は騒然となっている。
それほどの敵なのか、ダークパイソンって。
俺は冒険者ギルドを出ると、ビシッとお座りしているローガ達の元へ行く。
「ローガ、ダークパイソンって手ごわい敵か?」
『ダークパイソンですか? 魔素を取り込み巨大化したヘビですな。大きく育つと二十メートルを超える個体も出るようですが、我らからすればよい栄養源ですな』
わふわふと笑いながら答えるローガ。頼もしいね。
「北のバハーナ村近くでダークパイソンが出たようだ。どれくらいの規模かわからんが、仕留めて来れるか?」
『容易い事です。出来れば例の回収用出張ボスを付けて頂けると助かります』
「任せておけ」
そう言ってローガの頭に手をかざす。
そして手のひらから触手を伸ばし、手のひらサイズのティアドロップ型スライムを作ると千切ってローガの頭に乗せる。
「亜空間圧縮収納機能付きの出張俺様ボディだ。獲物を狩ったら放り込んでおいてくれ」
『了解です! 出張ボスを預からせて頂きます』
「気を付けて行ってこい」
と言っても町から出るのは<
出張俺様ボディは、ローガ達が狩りに行くときに付ける俺の一部だ。千切った俺は自由に動いたりしないが、千切る前にスライム細胞に「亜空間圧縮収納起動」と命令しておけば、俺から切り離してもどんどん亜空間圧縮収納へ物を放り込むことが出来る。これでローガ達の狩りに俺自身がついて行かなくても亜空間圧縮収納に獲物を放り込めるため狩りの効率がすさまじく上がった。
『ボス、ダークパイソンを狩って参りましたら、ぜひともまた、ボスの手料理で「蒲焼」を食べたいのですが・・・』
チラッと横目で俺を見るローガ。
「ああ、いいぞ。たくさん作って腹いっぱい食べさせてやるさ」
『ありがたき幸せ! お前達気合を入れるぞ!』
『『『おおっ!』』』
「ヒヨコ隊長。部下を何名かつけてやってくれ」
『了解しました』
まあ、ローガ達に任せておけば大丈夫だろう。
ダークパイソンの蒲焼・・・おいしいといいけど。
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