転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!? 作:西園寺卓也
俺の名はローガ。
敬愛するボスからつけて頂いた名だ。
俺は狼牙族のボスだったのだが、ヤーベ様にコテンパンにのされたので、俺はヤーベ様をボスと呼んで配下に付くことにした。
今から考えると狼牙族のリーダーである俺に「ローガ」と名付けて頂いたのは些か安直な気がしてきたのだが・・・、あまり敬愛するボスに文句を言う事は失礼だろう。
それにいつも「ローガ」と気さくに呼んで頂けるのだ。何の不満も無い。
これが「アレキサンダー」とか長かったりすると、気さくに呼びにくくなってしまう。
俺たちは今、ボスの指示に従い、バハーナ村近くに出たダークパイソンを狩るために高速移動中だ。ボスの配下になる前の俺たちならば、こんな速いスピードで移動できなかったし、すぐ疲れてしまったりしているだろう。それに、ダークパイソンは魔素を吸収して大型化する魔物だ。場合によっては俺たちでは勝てないほど巨大化している可能性もあったかも知れない。
だが、ボスの配下になった後、俺たちは非常に強くなっている。
異常ともいえる強さかもしれない。
ちなみに俺はコイツらの中でも一番強いけどな。
今の俺たちならダークパイソンなど、おいしい獲物だ。
人間の決めたランクでは俺たちはCランクに分類されるらしい。
ちなみに以前泉の畔から北の山奥へ狩りに出かけた時にマンティコアというのを仕留めた。
ライオンの体に尻尾が毒蛇という厄介なヤツだったが、結構あっさり仕留めることが出来た。人間の決めたランクではBランクらしい。一対一で仕留めたから、少なくともその時点でBランクを倒せるだけの力があったことになる。
ボスの配下になってからそんなに時間が経っていたわけではないのだが。
そのころに比べると、さらに俺たちの力は増しているのだ。
それに、増したのは戦闘力だけではない。
いろいろな物事の理解力も増している。
元々人間の言葉など聞いても理解できなかったのだが、最初ボスからは念話で会話して頂く事によってコミュニケーションを取る事が出来た。その後ボスが念話を使わなくても喋っておられる内容を理解する事が出来るようになった。そして今は人間たちの会話は基本的に全てわかるようになった。
もちろんこちらからの会話を理解してくれるのはボスだけだが。
俺の体は大けがした部分をボスの体の一部で補ってもらうことによって命をつなぎとめてもらった。だから、俺の体にはボスの一部が宿っていると思っている。それが俺にとてつもない進化をもたらしているのでは、と考えている。
ヒヨコ隊長も同じく大けがをボスの体の一部で補ってもらい生きながらえたと言う。
ヒヨコたちの戦闘力や情報収集力もかなり異常なレベルだろう。
やはりボスの体の一部を頂いた俺たちは特別であり、その配下達にも影響があるという事だろうか。
もしかしたらボスの近くにいるだけでも進化のパワーを得ているのかもしれない。
今やボスの嫁を公言するイリーナ嬢も初めて会った時はトンデモないポンコツだと思ったのだが、今はボスの左手を握り潰す勢いだ。ボスの痛がり様は尋常じゃない。いつの間にそんなパワーを身に着けたのだろうか。やはりボスのそばにいる恩恵と考えるのが妥当だろう。
四天王の三匹もそうだ。風牙、雷牙、氷牙、この三匹は魔法を使う事は出来なかった。そんな力を身に着けたのはボスの配下になってからだ。
ちなみに、俺は奴らの魔法をすべて使うことが出来る。
尤もそんな魔法使う必要もないし、そんな相手もいないだろうがな。
『ボス!もう少しで多分バハーナ村です』
『馬鹿野郎!誰がボスだ!リーダーと呼べ!』
俺たちのボスはヤーベ様以外にいない。俺は群れのボスではなく、今はリーダーだ。
『すいませんリーダー、村には入れませんよね?』
『ああ、ボスがいないと、俺たちは使役獣としての保護を受けられん。討伐に向かって来る可能性がある』
『では、ダークパイソンの居場所はどうやって調査します?』
『プロに任せる』
『プロ?』
『ヒヨコ達だ』
『なるほど』
今回は高速移動と言っても全力で移動してきたわけではない。ヒヨコたちの飛行速度に無理が無いよう合わせている。
『ダークパイソンの調査に出ます。見つけ次第連絡します』
『頼む。だが獲物はダークパイソンだけではない。俺たちも森に入る。ダークパイソンの情報は逐一伝えてくれ』
『了解!』
ヒヨコたちが森に散っていく。
『さ、俺たちも森に向かうぞ。狩る獲物は遠慮するな。出張ボスが亜空間圧縮収納で全て受け取って下さる』
『『『ははっ!』』』
・・・・・・
「いない・・・」
私は嫌な予感がした。
大きなヘビが森で発見され、村長から森へ入るのを禁止されている。
だが、大事な娘二人がいない。
「ミカ・・・ミク・・・」
夫は三年前に森で魔物に襲われて帰らぬ人となった。それ以来、私はバハーナ村でいろいろな雑務をこなしてはお金を稼ぎ、娘二人を育てて来た。
今日は私の誕生日。
ちょうど一年前、森の泉近くまで娘二人と花を摘みに言った覚えがある。
「まさか、あの子達、去年の事を覚えていて、今度は自分たちだけで・・・」
私へのサプライズプレゼント。とても嬉しいのだが、今はあまりにタイミングが悪い。
森に巨大な魔物が潜んでいるのだ。
「探しに行かなきゃ・・・!」
・・・・・・
「ミクちゃん、この花だったかなー?」
「きっとそうだよ、この花もキレイだよー」
「ミクちゃんお花いっぱいだねー」
「ミカちゃんもいっぱい摘んだねー」
二人の姉妹はとても嬉しそうに野花を摘んで花束にしていた。
去年お母さんと一緒に摘んだ花たち。
今年はお母さんの誕生日に私たちで摘んできた野花をプレゼントする。
二人の姉妹は大好きなお母さんに喜んで貰いたかったのだ。
「グルルルル・・・」
だが、そんな二人の姉妹の想いを引き裂くかのような唸り声が聞こえる。
森の奥から巨大なクマが現れた。その体調はゆうに3mを超えている。
「キャア!」
「わあっ!」
二人の姉妹は驚いて腰を抜かしてしまうが、花束だけはしっかりと手から離さずギュッと握りしめていた。
「ミカ!ミク!」
そこへ母親が二人の娘を見つけて走り寄ってくる。
「「ママッ!」」
母親が二人を庇うように覆い被さる。
だが、熊は怯むことなくゆっくりと近づいてくる。
「こ、このクマ・・・!」
赤毛の大きな熊は右目を怪我したのか、傷になって片目であった。
夫が殺された魔物の大きな熊。仲間の狩人を逃がすために殿を務め、一矢報いた右目の傷。間違いない、夫を殺して食べた赤毛の熊!
だが、自分には何の武器も無い。
夫の敵に自分も娘も殺されなくちゃならないの・・・!
そんな運命なんて!
母親は娘たちを抱きしめながら悔しくて泣いた。
「ガアアーーーー!!」
にっくきクマが咆哮を上げる。
「!!」
母親は一秒でも長く、強く、娘二人を抱きしめた。
だが、その時、
『やかましいっ!』
ドオオン!
すぐ近くで起こるすさまじい地響きと土煙。
土煙が納まると、巨大な赤毛熊の頭を地面にめり込ませている大きな狼がいた。
『フンッ! こんな弱そうな人間を襲うとは、実に根性なしの熊だな』
今まさに親子三人をその牙に掛けようとしていた赤毛の熊はローガの前足の一撃で地面に頭をめり込ませられた。
『ボス、こいつぁブラッディ・ベアの異常種じゃないですかい?』
『誰がボスだ!』
『あ、すいやせんリーダー。でもリーダーメッチャ強いっスよね。ブラッディ・ベアはキラー・グリスリーの上位種でBランク、その異常種となれば実質Aランクですぜ』
『はん、こんな弱虫熊モノの数ではないわ』
『リーダー、ハンパないっスね』
「な、何・・・?何なの?」
いつの間にか大きな狼たちに囲まれている。
その中でひと際大きな狼が、あの夫の敵だった赤毛熊を前足で踏みつけている。。
「ガアアーーー!!」
『おっ?』
ブラッディ・ベアがローガの前足を跳ね上げ、立ち上がり魔力を放出する。
「きゃう!」
「わあっ!」
その魔力風に二人の姉妹が叫び声をあげる。
だが、その魔力風がすぐに止んだ。
よく見ると母娘三人を守る様に大きな狼が立っていた。
『高々これっぽっちの魔力を放出して何を粋がっているんだかな』
コキコキと首を動かす大きな狼。
『もう少し下がっているといい』
振り返った大きな狼は前足をスイッと振る仕草をする。後ろへ下がれと言っているようだ。
「ミカ、ミク、こっちへ!」
何とか体を動かし少し離れる。
「ガアアーーー!」
巨大な赤毛熊が大きな狼に飛び掛かった。
大きな狼は右前足を後ろに大きく引いた。
『やはり単なる獣だな。さっきから同じ叫び声しか上げぬとは』
そう呟き溜息を吐く。
『
ザンッ!
飛び掛かった赤毛熊の首が宙を舞う。
首を失った赤毛熊は血を吹き出しながら倒れた。
『フッ!誰にケンカを売ったか地獄で反省するといい』
「この熊が夫を・・・」
落ちた首を睨みつける。
そして、涙が止まらないまま、拳を握って首だけになった頭を殴る。
「「ママ?」」
「この熊さえいなければ!いなければあの人は・・・!」
『どうしたんですかね?この人間。リーダーが仕留めた熊の頭殴って』
『どうやらこの熊に自分の連れ合いを殺されたようだな。相当恨みがあるようだ』
『でも、ボスの命令で狩りに来ているんですし、獲物は持って帰るんですよね?』
『・・・いや、ボスの命令はダークパイソンの討伐だ。ブラッディ・ベアは含まれていない』
『じゃあ?』
ふと見ると大きな狼が真っ直ぐ私を見つめていた。
よく見れば狼に囲まれている。どう考えても夫の敵の熊が仕留められた事に喜んでいられる場合ではなかった。
「ああ・・・」
再び二人を抱きしめる。
なんとか、できれば、見逃して欲しい。
『女よ』
「!?」
狼が話しかけて来たような気がした。
『お前はその娘たちの母親なのだろう? 夫を殺された無念はわからぬでもないが、今はその二人の娘のために前を向いて生きて行かねばならぬのだろう? ならば過去の憎しみに捕らわれている場合ではあるまい』
「・・・・・・」
『まあ、けじめは必要だろう。この獲物は譲ってやろう。恨みともども食べ尽くしてやるがいい』
狼が何か言いながらニカッと笑った気がした。
私は夢を見ているのだろうか?それとも神の化身が狼になった姿でも見ているのか。
『お前達。その熊の頭と体、村まで引きずっていけ』
『『『ははっ!』』』
大きな狼が二人の娘の襟首を口に含んだ。
「な、何するの!」
思わず大きな声を出してしまった。
だが、大きな狼は首を回し、娘たちを自分の背中へ放り上げる。
「わ~!」
「ふさふさだぁ!」
二人の娘が大きな狼の背中で大喜びしている。
なんだ、この狼は娘たちに危害を加えるつもりはなく、背中に乗せてくれたのだ。
『お前も乗るがいい。村まで送ってやろう。通常ならば我の背中に乗れるのはボスだけなのだがな』
大きな狼が伏せのような恰好をしてくれる。目線で「特別だぞ!」と言っているように感じる。
「ママ!早く乗って!」
「狼さん、ふかふかなんだよー!」
ドキドキする。こんな大きな狼の背中に乗って大丈夫なのだろうか・・・。
良く見れば他の狼たちが赤毛熊の体を村の方へ引きずって行く。
頭も咥えて運んでいく。
まさか、村へ仕留めた獲物を運んでくれると言うの?
「狼さん、あの赤毛の熊、村に運んでくれるの?」
『うむ、お前の夫の敵なのだろう? 肉は食べて、毛皮は鞣して住居に敷いてしまえ』
大きな狼がわふわふと何かを言いながら笑う。
「私に吹っ切れって言ってくれるの・・・?」
その首に手を当ててみる。フカフカの毛。ふと気が付く。この狼さん、首輪をしている。
誰かの使役獣なんだ。
だからこんなに頭が良いのか・・・。
「ありがとう、狼さん。いつか、あなたのご主人様にもお礼を言わせてね?」
私は大きな狼さんの背中に乗る。
大きな狼さんはゆっくり村へと歩き出した。
「わ~、高~い!」
「気持ちいい~」
「よかったわね、ミカ、ミク。後で大きな狼さんにたくさんありがとうってお礼を言おうね」
「「うんっ!」」
『はっはっは、お礼など不要よ。大したことはしておらん』
わふわふと笑っているような狼さん。
夫の敵の熊に私も大事な娘たちも殺される直前だった。
それを救ってくれた、大きな大きな優しい狼さん。
夫の敵を討ってくれた狼さん。
その獲物をくれるっぽい狼さん。
疲れた私たちを村まで運んでくれる狼さん。
なんて、ステキなんだろう。こんな奇跡、本当にあるんだ。
「ママ、お誕生日おめでとう!」
「一生懸命二人で摘んだんだよ!」
二人の姉妹がそれぞれの花を母親にプレゼントする。
「ミカ!ミク!」
本当は厳しく叱るつもりだった。
内緒で村を出るなんて許せることじゃないと思っていた。
でも、叱れなかった。狼さんに貰ったたくさんの奇跡と優しさは、この娘達にも分けてやらないといけないと思ったのだ。
「二人ともありがとう。とても、とても綺麗よ・・・」
二人に貰った花束を握りしめ、止まらない涙を拭う事も忘れ、二人を抱きしめた。
『家族は仲良くあるのが一番よ』
大きな優しい狼さんはわふわふと笑っていた。
今後とも「まさスラ」応援よろしくお願いします!