転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?   作:西園寺卓也

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第80話 まさかの転生者PARTⅡを乗り切ろう

朝――――

 

寝起きは複雑だった。

昨日の夜のヒヨコたちの情報報告・・・

救援依頼が増えたばかりか、自分でマイホームの事を神殿などと宣ってしまう疲れっぷりだった。

そのうえ、ヒヨコ隊長自身は例のカッシーナ王女様のところにまた言ったらしく、何とか助けてあげたいと熱く語る。

 

『いっそここから飛び降りたら鳥みたいになれるかなぁ、なんて言うんですよ! 自殺、ダメ!絶対!って思い留まらせるの大変だったんですから!』

 

などと言われても、困る。

 

だが、良い情報もあった。というか実際は無かったのだが。

 

どういうことかというと、俺が王都でほとんど話題になっていなかったのだ。

 

コルーナ辺境伯の話では、王様直々に俺に会いたいと言う話で、謁見のために王家より呼ばれているという流れだったはず。

王城などで、「どこの馬の骨が来るんだ!」みたいな反応があったらヤダなって思っていたのだが、ヒヨコ軍団の情報ではそのような反応は拾えなかったのだ。

また、王都バーロンに集まる貴族たちの中でも特に俺を敵視してくるような情報は得られなかったらしい。

 

・・・ただ、最近のヒヨコたちの反応から、情報の精度に不安が無いわけでもないけど。

 

 

 

そんなわけで、朝食を食べながら今日一日休みのため、町を回って買い物でもしてこようかと思っている。

 

「イリーナ、サリーナ、今日の予定はどうなってる?」

 

一緒に朝食を取っていたイリーナとサリーナに聞いてみる。

 

「う・・・ヤーベと買い物に行きたいのだが・・・、午前中はサリーナとちょっと二人だけで買い物に行きたいのだが・・・」

「ええ」

 

二人して出かけると言う。珍しい。

 

「そうか、では午前中は俺一人で店を回ってくるとしよう」

 

「う・・・すまないヤーベ、午後はぜひ一緒に回ろう」

 

「ああ、かまわないよ」

 

「そうか」

 

イリーナはホッとした表情になる。

それにしても女性二人で買い物か。

 

『ヒヨコ隊長、聞こえるか』

 

『はっ!』

 

『イリーナたちを護衛せよ』

 

『ははっ!』

 

『風牙にも伝えておく。建物の影や屋根から見張る様に』

 

『お任せください』

 

これで何かあっても大丈夫だろう。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「さてさて・・・」

 

この商業都市バーレールはあらゆる物が集まるとも言われている。

ある意味では王都よりも物が行き来している場所らしい。

うまくハマればいい物が安く買える。

そう言えは鉄の剣も悪魔王ガルアードとの戦いでへし折れてしまったままだ。

何かしらの武器を調達せねばならないな。

 

だいぶ人通りが多い。

そんなわけで、俺の隣にはローガがヒヨコ隊長を頭に乗せてついて来ているのみだ。

他の連中は宿の厩舎で大人しく留守番だ。

・・・だいぶローガに怨嗟の遠吠えが響いていたが。ちょっと近所迷惑になるから遠吠えは控えようか。

 

宿が明日出発の西門に近かったので町の散策を後回しにして、西門周辺から歩いてみることにした。

 

だが、西門まで来て、門周りの露天商を覗こうとした時だ。

 

「緊急事態だ!ギルドへの報告のため緊急対応願う!」

 

けたたましい声が聞こえる。

 

何やら、緊急事態のようだ。

 

『どうしたのですかね?ボス』

 

「さあな、邪魔にならない様に避けるとしよう」

 

ローガと共に道端の方へ寄る。

 

町へ入るために並んでいる人の間から、血だらけの冒険者たちが入って来た。

 

「早くギルドへ報告を・・・」

 

足を引きずる様に大通りを向かう冒険者たち。衛兵が声を掛ける。

 

「何があった!?」

 

「北の森でオークの集団に出くわした!その数千匹近い大部隊だ!」

 

「な、なんだとっ!?」

 

何やらオークの大群が北の森にいるようだ。

 

『どうします?』

 

ローガが俺を見る。

 

「どうもしないよ。俺たちの出番はないかな」

 

『ほう、珍しいですな。てっきりボスの事ですから、我らにオークを狩りに行けと言われるかと。我らとしましては特に問題ない相手ですが』

 

「お前たちの実力なら問題ないだろうけどね。我々の力が必要かどうかはわからないからね」

 

『そういうものですか』

 

ローガは少し釈然としないようだったが、ボスである俺に何か言うつもりは無いようだった。

 

『部下に確認に行かせますか?』

 

一応ヒヨコ隊長が俺に確認してくれる。

 

「そうだな、情報があるに越したことは無い。頼む」

 

『ははっ!』

 

情報収取はヒヨコ軍団に任せておくとしよう。早速念話で部下に指示を出しているようだ。

 

さて、露天商を覗くとしよう。

 

お、しぼりたてドリンク、うまそう。

 

「新鮮なサークァーシーを絞った果実水だ!目が覚めるよ!」

 

「一杯貰おう」

 

「毎度!」

 

お、爽やかな酸味で目が覚めるね。

 

「うまいね、これ」

 

「北の森で取れる実でね。この辺では比較的ポピュラーさ」

 

「ふーん」

 

金を払って店主と少し雑談した俺は、他の露店もゆっくり見て回ろうとしたのだが、

 

「オークだ!オークが出たぞ!」

 

「え、もう?」

 

俺はローガと顔を見合わせる。

とりあえず西門から外を覗いて見る。

 

「オークは一匹だけだ!弓矢を持ってこい!」

「槍は構えておけよ!」

「おう!」

 

町の西門を警備する衛兵たちが十人程槍を構えていた。

 

『まってくれだよ!おで、悪いオークじゃないだよ!』

 

「ブフォッ!」

 

吹いた。豪快にサークァーシーの果実水を吹いた。

 

『悪いオークたちがこの町を狙ってるだよ!おでは教えに来ただよ』

 

そう言っていきなり土下座するオーク。

 

「なんだ、ブヒブヒ言っているぞ!」

「早く殺せ!」

 

衛兵たちが殺気立つ。そりゃそうか。

 

「何でヤツの言葉が分かるんだろう?」

 

『え?ボスはあのオークの言葉が分かるんですか!?』

 

ローガが驚いた表情で俺を見る。

 

「ああ、何でかわからんが、理解できる。なんでだろう?」

 

『嘘じゃないだよ!信じてけれ!』

 

土下座しながら顔を上げて身振り手振りでアピールするが、オークがブヒブヒ言いているようにしか見えない。

 

「ちょっと待ってくれ」

 

俺は衛兵たちに声を掛ける。

 

「何だお前は!」

 

殺気立った衛兵が振り返る。

 

「俺は冒険者なんだが、実は<調教師(テイマー)>ってやつでね。どうもそのオーク、他のオークの大群が攻めてくるから気を付けろって言ってるみたいなんだ」

 

そう言って冒険者ギルドのギルド登録証を見せる。見せるだけで渡さない。じろじろ見られるとFランクの下っ端ってバレるから。今はローガがいるから、すごい<調教師(テイマー)>って信用してもらいやすい。

 

「ほ、本当か!?」

 

「ああ、さっき大けがした冒険者が来てたろ?オークの軍勢が攻めて来るって話とも合致する。俺ならあのオークから情報を引き出せる、任せてくれ」

 

「お、おお、そんなすごい狼を使役してるんなら、さぞ凄腕の<調教師(テイマー)>なんだろうな。任せていいか?」

 

「任せてくれ」

 

そう言ってローガを連れてオークの元へ向かう。

 

『聞いてくれだよ!悪いオークがこの町を攻めようとしているだよ!』

 

「そう言うお前は悪いオークじゃないよって事でいいか?」

 

『・・・おでの喋ってる言葉がわかるだか!?』

 

「ああ、何でかわかるぞ」

 

『ありがたいだ!悪いオークがこの町を攻めようとしてるだ。なんだか悪い魔導士に唆されたみたいで、いろんな集落のオークが集まってしまっただよ』

 

「悪い魔導士ね・・・」

 

ヤな予感しかしない。

 

『おで、こんなナリだけど、人間と戦いたくないだよ。人を殺すとか、女の人を襲うとかとんでもないだ』

 

「オク蔵君はどうして人間と戦いたくないのかね?」

 

『オク蔵・・・ってなんだべ?』

 

「あ、名前を付けてみたんだが気に入らなかった?」

 

『名前だべか? 一応自分でつけて名乗っている名前はあるだが・・・』

 

「え?お前達名前つけてるの?」

 

『いや、他のオークは「コロスオーク!」とか「ヤルオーク!」とか「ハラヘッタオーク!」とかくらいしかコミュニケーション取れないだよ』

 

「じゃあ名前とかいらねーだろ!」

 

『でも、今みたいに人間とコミュニケーション出来る時が来るかもしれないって思って、その時にオークだとまずいと思っただよ』

 

「で、何て名乗ってるんだ?」

 

『ゲ〇ドって名乗ってるだよ』

 

「ダメだろ!!」

 

『ええっ!? ダメだか? おでが読んだ大好きなラノベ小説に出て来たとても強いオークの名前だで。おでも勇気と力が欲しくてそう名乗ってるだが』

 

「ダメだろ!方々で怒られるわ!・・・って、ちょっと待て!お前、今何て言った!?」

 

俺は驚愕の表情を浮かべながら聞いた。

 

『え? 大好きなラノベ小説に出て来たとても強いオークの名前を名乗っただよ』

 

「それ、オークじゃなくて、オークジェネラルじゃねーの? それともオークロードの方?」

 

『え、あ・・・まさか!おめも転〇ラ知ってるだか!』

 

「おおよ・・・だから最初オク蔵って呼んだんだよ」

 

『それはゴブ蔵でないだか?それはゴブリンだべ』

 

「だからオークの君にはオク蔵と呼んだんじゃないか」

 

『微妙に言いにくいべ・・・』

 

変なところで落ち込む転生オーク(?)。

とにかく、転生者ならばこのオーク、打ち取られるわけにはいかない。

何より、俺と同じラノベファンのようだ。

ここは助け合い精神をフルドライヴさせる場面だろう。

 

俺は懐から使役獣の首輪を取り出す。

 

「すまんが、俺の<調教師(テイマー)>としての能力でお前を使役したって事にして、お前の安全を図りたい。それでもいいか?」

 

『話が分かってもらえるだけでも感激だで。おではそれでいいだよ』

 

「スマンな」

 

そう言ってオク蔵の首に使役獣の首輪を取り付ける。

 

ソレナリーニの町で錬金術師のランデルからいくつか予備として購入していたのだ。町なら貰えるはずだが、村だったり、とりあえず先に取り付けたい状況もあり得るかと思ったんだが、役になったな。

 

「おーい、このオークは俺の使役獣として支配下に入った。もう大丈夫だ!それより、さっきの大けがしていた冒険者の情報と合わせて、大至急冒険者ギルドで情報整理したいが、いいか!」

 

「ああ、分かった!先に冒険者ギルドに報告を入れる。お前もそのまま向かってくれ!それで、大丈夫なんだろうな?そのオーク」

 

「大丈夫だ。何たって俺は凄腕の<調教師(テイマー)>だからな」

 

親指をビッと立ててアピールする。

 

『お、おめは凄腕の<調教師(テイマー)>だっただか』

 

感心したように俺を見るオク蔵。

 

「ううん、嘘。何たって俺はFランク冒険者だし」

 

そう言ってぴらぴらとギルド証を見せる。

 

『ええっ!? うそだか? でもそんなすごい大きな狼を従えてるだでな?』

 

「まあね。ところでオク蔵君」

 

『できれば、ゲ〇ドがいいだが・・・』

 

「それはダメだ。方々から怒られる可能性がある。せめてゲルドンで」

 

『・・・まあ、それでいいだよ。使役してもらう立場だし、あまり我儘言えないべ』

 

・・・それにしても、オークの転生者・・・。

俺だったら心が折れているかもしれん。

俺、初めてスライムに転生してよかったって思ったよ・・・。

 





今後とも「まさスラ」応援よろしくお願いします!

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