転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?   作:西園寺卓也

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第82話 敵陣の真っただ中で槍を振り回すだけの簡単なお仕事です、と説得しよう

「せ・・・千五百匹ものオークの群れを相手に、お前の使役獣だけで戦うと言うのか・・・?」

 

「まあね、俺も支援するけど」

 

「し・・・支援するという程度で何とかなるものなのか・・・?」

 

「まあ、何とかするんだけどね」

 

カイゼル髭は開いた口が塞がらないようだ。

(もはやギルドマスターとも呼んでいない)

 

『おで、大して強くないだよ。多分オークの群れに突撃したら討ち死にだで』

 

「大丈夫大丈夫、敵陣の真っただ中に入って槍振り回しているだけで英雄になれる簡単なお仕事です」

 

『それ、絶対簡単なお仕事ではないだで』

 

「何かチート貰ってないの?チート」

 

『そんなの全然ないだよ。気が付いたらオークだっただで』

 

「友よ!」

 

がばっと両手で握手する。

 

「どちらにしても、すぐに冒険者に招集を・・・」

 

『ボス!部下より念話通信が入っております』

 

「どうした?」

 

ローガの頭の上で敬礼しているヒヨコ隊長を見る。

 

『すでに町の西門近くまでオークの軍勢千匹が集結中です。森から飛び出て西門に接敵するのは約二時間後程度と予測されます』

 

「えっ!? もう二時間後には千匹が西門に攻めて来るの!?」

 

「な、なんじゃとお!?」

 

カイゼル髭がひっくり返りそうになる。

 

「早くね?」

 

『おでが脱走したのがバレただかな?』

 

「それで早くなったとも思えんが。というか、そんなに近くだと、町の衛兵とか見つけられないのか?」

 

俺はふと疑問に思ってカイゼル髭を見る。

 

「商業都市バーレールの周りはかなり開発や整備が進んでおる。魔物の襲撃など、散発的なもので、大規模な魔物に対する対策はほとんど検討されておらん」

 

「わかった、すぐ対応準備をしよう。西門に俺とこの愛と正義のオーク騎士「赤カブト」を配置する。その他狼牙族を三十匹、逃げるオークを狩るために準備させよう。このローガは部下の四天王を引き連れて精鋭五百匹を殲滅させよう」

 

「いや・・・そんなことが可能なのか・・・?」

 

「もちろん可能だが、心配なら町の門辺りに冒険者を集めてもいいぞ。でも邪魔しないでね。

危ないから」

 

ぬけぬけと危ないなどと宣う俺にカイゼル髭がピクピクする。

 

「オーク一匹に付き通常の倍で金貨一枚、千五百匹なら全て討伐すれば金貨千五百枚の褒賞だ。それ以外に町への被害が無ければボーナスも出す」

 

「おお、太っ腹ですな」

 

「こちらは町の門を固め、防御準備を行うが、お前たちは町の外に出るんだな?」

 

「もちろん、では早速準備に取り掛かろう。行こうか」

 

そう言ってゲルドンとローガを引き連れて部屋を後にしようとする。

 

「依頼受理のためにギルドカードを受付で提出してくれ」

 

「了解!」

 

 

 

ローブの男とオークと巨大な狼牙が出て行った部屋。

 

「・・・あの男、役に立つのか・・・?」

 

「ギルドマスターどうしましょう?」

 

ギルド嬢に問われてカイゼル髭を引っ張りながら思案するギルドマスター。

 

「ギルド内にいる冒険者たちに西門に魔物の襲撃の可能性を伝えて、西門警備に参加するだけで日当銀貨五枚と伝えてくれ。それから、あの男の情報を洗ってくれ。出て来た資料は全て俺のところへ持ってきてくれ」

 

「わかりました」

 

 

とギルド嬢が出て行ったのだが、すぐ戻って来た。

手には紙が一枚だけ。

 

「どうした?」

 

「こ、これを見てください!」

 

「何だ?」

 

ギルドマスターはギルド嬢の持ってきた紙を見る。

それはヤーベの冒険者登録情報だった。

 

「な、何だこれは・・・!?」

 

大魔導士だ、調教師テイマーだ、使役獣が六十一匹だ、それはまだいい。

 

「え・・・Fランク!! それも一度もギルドの依頼受理を行っておらんとは!」

 

何なのだ?まったく実績ゼロの男だ。それがああも自信たっぷりに千五百匹ものオークを対処すると言う。

 

ふと見れば、情報欄に追記があった。

 

ソレナリーニの町冒険者ギルドの印が押してあり、特Aのサインが入っていた。

 

「ソレナリーニの町ギルドマスターのゾリア殿が・・・?」

 

このサインは、当該冒険者に特段の考慮があり、その実力を追記できるものだ。

 

「特Aとは・・・」

 

一度の依頼も受理してない男が、なぜか頼りになりそうな気がしてきたのだった。

 

 

 

「親父、大至急この真っ赤な全身鎧フルプレートを売ってくれ」

 

「ああっ?コイツはこの店で一番高いぜ、大丈夫か? 何たって軽量化の魔法に、魔法抵抗力上昇、耐火、耐雷、耐寒まで付いてるんだからな」

 

「で、いくらよ」

 

「金貨で五百枚だ」

 

「あいよ」

 

「うおっ!?」

 

いきなり金貨五百枚の袋を親父に渡したのであまりの重さに取り落とす。

ちょうど五百枚でよかった。五百枚ずつで袋詰めしてたからな。

 

「おおお、おいいい! いきなり全額渡すなよ!」

 

「急いでいるんだ。大至急このオークのゲルドンに合わせて微調整してくれ」

 

「はああっ!? このオークに着せるのか? ・・・ってなんでオークがここに!?」

 

「俺の使役獣なんだよ。それより時間無いから大至急頼む。三十分で仕上げてね。ゲルドン着せてもらって調整済ませてくれ。俺は武器仕入れてくる」

 

『こんな真っ赤な鎧着ても、三倍のスピードで動けるわけじゃないだで』

 

「そんなどこぞのロボットアニメみたいな能力期待してないから。また後でな」

 

「え、行っちゃうの!? このオーク大丈夫だよね?ホントに?」

 

店主が焦って聞いてくる。

 

「大丈夫。嫌なことしなければ怒らないから。後、話しかければ言葉分かるから。喋れないけど」

 

そう言って俺は大至急武器屋へ行く。

 

 

 

『こんなモンだか?』

 

真っ赤な全身鎧フルプレートを着込んで、俺が買ってきた三メートル近いハルバードを持たせる。

 

「いいね!完璧だ。何処からどう見ても愛と正義の騎士だ」

 

『いや、中身はオークだで』

 

「ゲルドン、君は真面目な転生者だ。偶々オークになっただけだ。気にするな」

 

『いや、オークは気にするだでよ』

 

「まあまあ、早速英雄になりに行くとするか。ローガ!」

 

『ははっ!』

 

「四天王を引き連れて五百匹のオークを殲滅せよ。出来れば一撃で首を落とし、体へのダメージを最小限に狩り取れ。俺の出張ボディを預ける。仕留めたオークは全て回収せよ」

 

『ははっ!!』

 

ピゥ―――――!

 

ローガの口笛に六十匹の狼牙達が旅館の厩舎から飛び出て集結する。大通りを走って来たので、多分後で怒られる可能性大だ。だが、今は時間が惜しい。

 

「一緒に西門から出るから、出たら町沿いに北門まで移動し、そこから北の森あたりまで移動して森の中で敵を殲滅せよ。街道まで出て来る前に仕留めるんだぞ」

 

『お任せください』

 

「ヒヨコ達に索敵させてくれ。ヒヨコ隊長、二手に分けてサポート頼む」

 

『了解です』

 

「じゃあ行こうか」

 

『そういや、おでまだ名前を聞いてなかっただよ』

 

「おおっ?そういやそうだ。俺はヤーベだ。よろしくな」

 

『ヤーベの事を何て読んだらいいだか?使役してもらってるから、マスターとかだべか?』

 

「いや、同じ転生者同士じゃないか、ヤーベでいい、ゲルドン」

 

『ゲルドンって、段々気に入ってきただよ』

 

俺たちは笑って握手した。

 

 

 

俺たちは町の外に布陣した。

ただし、俺は指示を出した後、町の外壁の一角に昇っている。

 

『本当に大丈夫なんだべか?おで、強くないだよ?』

 

「大丈夫大丈夫、敵陣の真っただ中に入って槍振り回しているだけで英雄になれる簡単なお仕事です」

 

『それ、さっきも聞いただでな』

 

「さあ、迎え撃とうか」

 

ぽつんとゲルドンを門から離れたところに配置。狼牙達を周りに散らして配置している。

彼らとは念話で会話できる距離を保っている。

 

『ボス!オークの軍勢が森から出ます!』

 

ヒヨコの報告があった後、オークが森から飛び出て来る。

 

「「「ブモモーーーー!!」」」

 

門を守る衛兵や多少集まって来た冒険者たちが驚愕の叫び声をあげる。

 

「ば、ばかなっ!何だあの数は!」

「ホントに出たー!」

「信じられん!」

 

『ヤーベ!来ただよ、本当に大丈夫だか?』

 

ハルバードを構えながら足が若干プルッているゲルドン。

 

さあ、新ネタで援護しようか。

 

久々にローブの中でデローンMr.Ⅱになる。

そして、両腕の中である形を作り出して行く。

それは、まるで狙撃銃。

 

「<スライム的狙撃(スライフル)>」

 

 

パーン! パーン! パーン!

 

 

狙いすましたオークの脳天をぶち抜く鉄の弾丸。

 

ちなみにこの鉄の弾丸、サリーナに鉄のインゴッドから大量に作ってもらったものだ。サリーナは暇なときにコツコツ作ってくれていたので、結構な弾丸が亜空間圧縮収納に保管されている。スライム細胞で作ったスナイプ用のライフルは一応銃身部にライフリングマークを入れるイメージで製作している。加圧した魔力で発射するのだが、やはり弾丸はジャイロ回転で飛ばさないとまっすぐ行かないだろうし。

 

ゲルドンに近寄るオークを片っ端から狙撃して行く。

 

『すごいだでな、どんどんオークが倒れていくだよ』

 

「一応ハルバードで仕留めているようにちゃんと振りまわしてね」

 

『わかっただよ』

 

パーン! パーン! パーン!

 

魔力の加圧による弾丸の発射のため、発射音が甲高いな。

だが、非常に精度よく当たる。

発射動力が魔力の圧縮爆発に寄るものだが、実際的に着弾するのは鉄の弾丸のため、これは物理攻撃となる。

まあ、オーク相手なら物理攻撃だろうと魔法攻撃だろうと関係ないだろうけどな。

 

『なんだか、おでが倒している気分になってきただよ』

 

「それはよかった」

 

近寄るオークをハルバードでなぎ倒しているように見えるゲルドン。実際はほとんど狙撃で倒しているけど。

 

オークたちが組織立って隊列を組んで攻めてこないので、処理が非常にしやすいな。

この分ならずっと狙撃しているだけで終わるだろう。

 

「本命はあっちかな・・・」

 

俺は北門の方を見た。

 

 

 

『グッグッグ・・・、人間ノ町ヲ滅ボシ、オークノ王国ヲ作ルノダ!』

『『『グオオオオ!』』』

 

非常にイカツイ鎧、斧や槍を持ったオークよりもずっと大きい肉体。

ここに集まるのはオークジェネラルなどの上位種であり、それらを纏めるのはオークキングであった。

 

『ほう、オークごときも上位種となると多少の知恵が回ると見える。会話が出来るようになるとはな』

 

ローガはオークキングを珍しい生き物を見るような目で見ていた。

 

「グガガ・・・ナンダキサマ!」

 

『何だと言われてもな、お前らからすれば、死神と言ったところか?』

 

『ハッ!狼風情ガ、身ノ程ヲ知レ!』

 

巨大な槍を構え突進してくるオークキング。

 

だがしかし、

 

一閃牙(いっせんが)

 

 

ズルリ

 

 

オークキングの首が落ちる。

 

『グオオ!?バ、バカナ!』

 

側近のオークジェネラルが驚愕する。

 

『掃討せよ!連中の首を落とせ。一匹たりとも逃がすなよ!』

 

『『『ははっ!』』』

 

瞬時に分かれて飛び掛かる狼牙達。四天王が率いる精鋭たちがこちらに配置されたのだ。

その戦闘時間はほんのわずかなものであった。

 

『確か・・・ボスの話ではオークはうまい肉だという事だが・・・』

 

刈り取られた首を見ながら、ローガは思う。

 

『上位種ならもっとうまいといいのだが』

 

ローガはぜひボスに焼いてもらおうとお願いを決めるのであった。

 




今後とも「まさスラ」応援よろしくお願いします!

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