転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?   作:西園寺卓也

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第85話 ゲルドンの事情を聞いてみよう

『で、ヤーベ殿はスライムだと言う事だっただが』

 

「うむ、ほら。この通り」

 

俺はローブを脱いでデローンMr.Ⅱ体型を取る。

そして両手代わりの触手を二本出す。

 

『こりゃあ魂消ただな。本当にスライムだべな』

 

「だろ? 何もわからないまま森の中で目を覚ましたんだよ。本当に最初はどうしようかと思ったよ」

 

ここは王都まで後一日と迫った宿場町。王都に一番近いせいか、村というよりは町に近い。人の往来も多く、活気のある町であった。

すでに夜の帳は落ち、コルーナ辺境伯家のみんなやイリーナやサリーナは宿の自室で休んでいるだろう。

だが、俺とゲルドンは宿の俺の部屋に集まっていた。

ゲルドンは真っ赤な鎧を脱いで楽な格好になっている。

 

「まあ、飲もうよ」

 

そう言ってゲルドンに酒を注ぐ。

コップはベルヒアに作ってもらったものではなく、この村の木彫りの工芸品のような大き目のマグカップのようなものを買って来た。

ちなみにゲルドンと御揃いのサイズだ。竜っぽい彫り物のデザインと、虎のようなデザインと、分けてある。ちなみにゲルドンが虎デザインを使用している。

 

『この酒、うまいだな。生きてるときはあまり酒を飲まなかっただよ』

 

「いや、今も生きてるから・・・。なんて言えばいいんだろうな。前世? それとも地球時代?」

 

『前世っていうと、やっぱり死んだだかなぁ』

 

「実は俺もわからないんだ。気が付いたらこの世界にいたからな。だから、もしかしたら過労死して転生してきたのかもしれないし、意識だけ来てて、地球に体が残ってるかもしれないけど」

 

『地球に体が残ってたら、それはそれで困るだな』

 

「確かに。誰も意識ない体なんて管理してくれないだろうしね」

 

酒を飲みながら、前世? 地球時代? からこの世界へ来た時の情報を交換し合う。

 

「この酒、商業都市バーレールで買って来たんだ。英雄と飲み交わす酒だから、良い物をって言ったらこの酒を出してくれたんだ。試飲したら飲みやすくておいしいから決めて来たよ。まだたくさんあるからどんどん飲んでくれ」

 

『それはありがたいだが、おでを酔わせてもなーんも楽しくないだで』

 

馬鹿野郎、お前酔わせたからって楽しい事なんてあるかっ!

 

「そりゃそうかもしれんが、男同士バカ話に花を咲かせて、酒とツマミでつぶれるのもたまには悪くないだろ」

 

『そう聞くと、最高な贅沢だでな。この前までオークの集団で最悪な状況だっただけに、天国のような話だで』

 

「まあ、野郎同士での盛り上がりに飽きたら、こっそりお姉ちゃんがいる夜の店にでも行くか」

 

『マ、マジだべか! ヤーベ殿はそういう店にもう行っただか!?』

 

「おいおい、えらく食いつくな。この世界に来てからはそんな店一度も言ってないよ。なんてったって、町に繰り出せるようになるまでだいぶ時間かかったからな。だってスライムなんだぜ。見つかったら速攻で経験値の元だ」

 

『確かに、それは否めないだで』

 

お互いに深い溜息を吐く。

 

『どうせなら、もっと強いモンスターに転生出来たら良かっただベなぁ』

 

ゲルドンは酒を煽りながらそんなことを呟く。

 

「そうか? オークは確かにアレだが、急にドラゴンだのマンティコアだのグリフォンだのになっても持て余しそうだしな。まだ人型だから、鎧で何とかなってる側面もあると思うぞ?」

 

俺はドラゴンになってしまった想像をしてみる。

・・・狩られる運命しか見えない。

 

『確かに。ドラゴンでも人型に変身できないと辛いだでな』

 

「ところで、ゲルドンは地球では何て名前だったんだ?」

 

『おでは、田中道春(たなかみちはる)って言うだよ』

 

「俺は矢部裕樹(やべひろき)だ」

 

『だで、ヤーベって名前だか?』

 

「そう。最初に会った村の子供にそう名乗っちゃったから、もうそれで通してる」

 

『だども、あまり地球時代の名前は意味無いだな。おではヤーベに付けてもらったゲルドンって名前気に入っただよ』

 

「それは良かった。でも何で俺たち魔物に転生したんだろうな? 普通に人間に転生してチート貰ってるヤツだっているのに」

 

『いるだか!? 他に転生者が』

 

ゲルドンが驚いてコップの中身を零しそうになる。

 

「ああ、一人会ってる。尤も、俺を殺しに来たくノ一だったけどな。そいつもラノベファンだったんだが、見た目がちっこい美少女だった。しかも神様に会って、チートを貰ってウッハウハらしい」

 

『なんだべそれ!滅茶苦茶うらやましいでねえか!』

 

とりあえず俺を殺しに来たことはスルーするらしい。

 

「そうなんだよ、すげー羨ましい! 何で俺たちだけ魔物に転生したんだろうなぁ? ゲルドン何か心当たりでもある?」

 

取りあえず何の気無しにゲルドンに話を振ったのだが、

 

『恥ずかしい話だで、実はおで、東京の大学に出て来た時にラノベにハマっただが、女騎士がオークに凌辱される話が大好きで大好きで』

 

トンデモない情報が出て来てしまった。

 

「・・・ゲルドン、その性癖はあまり推奨できないが。まあ、物語を楽しむのは誰にでもある権利だからいいけれども」

 

『おで、全然モテないだで、オークはこんな綺麗でおっぱい大きい女騎士といっぱいエッチなコトできるでなーっと思ったら、オークになりたいとか思ってただよ』

 

「・・・はいっ? オークになりたいと思ってたの!?」

 

『まあ、そのラノベ呼んでた時は、だで』

 

濃いラノベ呼んでんだな~、ゲルドン。それってノクターンのヤツだよね?

・・・もちろん俺も楽しんでましたが、なにか?

 

「あれ? ちょっと待てよ? じゃあゲルドン、オークになりたいと言う願いが叶って転生してきたって事か!?」

 

『実際オークなんてとんでも無いもんだべな』

 

「そりゃ現実は地獄だろーよ・・・」

 

俺は、これほど希望が叶って悲しい現実を見たことがないわ・・・。

 

『だいたい、オークだから女騎士にモテてるわけではないだで』

 

「そこから!? それ、読んでりゃわかる当たり前の話だからね?」

 

『だいぶ妄想が膨らんでしまっただべな』

 

「それもだいぶ間違った方に膨らんだと思うよ・・・」

 

ゲルドンのオーク転生が、もしたまたまオークになりたいと強く思った時期だったとしたら。

 

前提として、地球時代の自分が急死したとして、俺はたまたまスライムになりたいと思っていたのだろうか? いや、ないな。どれだけ転〇ラが神ラノベだとしても、大ファンだとしても、スライムになりたいと考えたことはないな。うん、無い気がする。

 

・・・となると、俺は何故スライムになったんだろう?

 

やはりわからない。ゲルドンがオークをたまたま望んでしまった時に転生してしまった可能性はあるが、俺は一度もスライムになりたいなんて思ったことはないからな。

 

「ヤーベ殿は、スライムになって女の子の服だけ溶かしていろいろしたいとか思ってしまっただべか?」

 

・・・ゲルドンよ。君は俺の中でスーパームッツリマンに変身した。

俺は決してゲルドンには染まるまいと固く誓うのだった。

 




今後とも「まさスラ」応援よろしくお願いします!

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