作:井の頭線通勤快速

1 / 31
最終章第2話見たので始めていきます

そんなに長くならない予定


第1話 虎ノ門

 

 

2012年

 

水戸から2時間近く、特急を使ったとはいえそこそこ長い旅だった。

正月休みも早々に打ち切り、三が日を除いた残りの数日のうちのいくらかを、こうして冷たい風の吹きすさぶ中で仕事に割かねばならない。面倒だとは思うが、それでも重要かつ私の根本をなす話だ

 

「こんな急に、しかもわざわざ学園艦教育局からの話とは……一体なんでしょう?」

 

お供のかーしまの反応はもっともだ。基本的にお上から話があるときは大概県を通る。ウチの学校県立だからな。そのさらに上、日本中の学園艦を統括する教育局からくるのはせいぜい通達程度だ

それが直接だ、しかも私らを東京まで来させて。ただ事ではない、とは理解しているはず

 

「さぁね〜。まぁいいじゃん、向こう負担で東京来れるんだから」

 

ちなみに特急料金分もくれるそうだから、お言葉に甘えた。なかなかに優雅で気分が良かったが、これも前述の事実を補強しているだろう。ここまで待遇がいいのは何かこちらにとって都合の悪いことを教える代わりだろうと。特に学園の昨今の環境を理解している彼女らなら当然か

 

「しかし……なかなか慣れないですね」

 

出口がどこかも分からずに外に出てきたが、高い高いビルが所狭しと並び、曇りに曇った灰色の空が見えるのは逆さにのぞいた漏斗の如く先の一部のみ

 

「それにしても……こう歩いてて首疲れないのでしょうか」

 

小山がしきりに首を回す

 

「そりゃ私たちがここに住んでないからさ」

 

「学園の建物で見上げるなら艦橋くらいですしね」

 

「街に出てもマリンタワーくらいかな」

 

出口を出てしばらく、Wikipediaで確認した時に見た、白地に鉄道のレールが縦に伸びたえらく高い建物を見つけた。

文部科学省、1府12省庁の一つに数えられるに相応しい大規模なものであった。これからを思うとこの二本の黒帯が門の両脇の柱として立ちふさがって見える

 

「だ……大丈夫なんですか?こんなリッパな建物に」

 

「入るっきゃないじゃん。実際に呼び出されてるんだし」

 

 

二人の前で案内の紙をヒラヒラさせると、半ば観念したように私の半歩後ろからついてきた

因みに一応制服である。即ち学生の正装。一応問題はないはずだ。それとも大洗の町でスーツを買ってきた方が良かったかな。

ニュースで見かける縦に並んだ金の文字を見据えつつ、足を踏み込んだ。向こうが指定した5分前だ

 

 

中で名乗ると、すぐに若手の男性の案内が付いた。単なる地方の下部組織のトップにすぎないとはいえ、それなりの対応はしてくれるらしい。

一応学生証を見せて確認を取られてから、中のカーペットまで引かれたやけにしっかりした通路を辿った先、一つの応接室の前まで連れてこられた

 

「辻局長、茨城県立大洗女子学園生徒会会長、角谷杏様がご到着です」

 

「入りなさい」

 

なかなかに高圧的だが、それもその通り。私たちからしたら上の上にあたる人だし、何より身分的には大臣、事務次官の次に並ぶ一人だ。身分が違うと言って間違いない

 

「失礼いたします」

 

中は結構広い。そして奥の方に男が一人

 

「ようこそ、角谷さん。そちらのお二方も合わせてそちらに腰をおかけください」

 

私たちに示されたのは、彼の正面にあるなかなかに立派な革のソファーだ

 

「おい、彼女らにお茶を」

 

「はっ」

 

案内の男は何処かに消えた

 

「いや、面倒でしたでしょう」

 

お茶が来るまで無言かと思いきや、向こうから話しが始められた

 

「何がでしょう?」

 

「ここまで来ていただくのが、です。そちらはまだまだ冬休み期間ですし、茨城には何度か行ったことがありますが、近いようで遠いですからな」

 

「いえいえ、そんなことはございません」

 

まずは談笑でその場を緩めるか。ありがたいな、横の二人が肩が張り詰めてて見てられんし

 

「しかし2年後ぐらいに東海道線と繋がるかも、という話は聞いてますが」

 

「その件ですか。それが実現すれば丸の内方向との接続が変わる。通勤などで大きな変化がありそうですね」

 

「学園都市としても注目に値しますか」

 

「そうですね。卒業生には都内へ通勤する人もいますし、物流面が変われば大洗へ持ち込める物資の量も変わり得ます」

 

「物流といえば……大洗港は厳しそうですね」

 

「……はい。土砂の取り除きが出来なければ入港は厳しいとのこと」

 

「参りましたね……大洗は首都近辺で数少ない学園艦の入港可能な場の一つです。早期に復旧したいところ。しかし復興のメインは東北と福島に当てられてますからね……」

 

「ですよね。メディアの報道もそちらが主軸になっていますし」

 

「そうなると予算が回ってこないんですよ。ただでさえお上が必死こいて引き締めやっているもので」

 

「ですがこちらとしては大洗は母港。早期の復旧、少なくとも我々クラスは入港可能になるよう願います」

 

「……まぁ……はい、努力はしましょうか。どちらかというと国交省に持ち込む案件ですが、ウチも絡みますので」

 

「失礼します」

 

話しているうちに茶が我々の前に運ばれてきた。口をつけたがそこそこ温かく、美味い。客としての待遇ではある。

まだ雑談か?私は構わないが、これ以上引き延ばされると緊張で精神的に追い詰められたかーしまが動き出しそうで困るのだが

 

「なかなか……いいお茶ですね」

 

「そうですかね?正直安物なのですが」

 

「なら、あの方の淹れ方がよろしいのかと」

 

「なら後で彼に伝えておきましょう」

 

もう一口飲んだが、やはり結構飲みやすい上に美味い。

まぁ横の二人はそれどころではないらしい。この先への不安が募りに募って山積みになっている。結局雑談に入ってこなければ、ほぐれるものもほぐれないだろうに

 

「……そら、二人もなんか尋ねてみなよ。こんなお偉いさん、社会科見学に来ても会えるもんじゃないよ?」

 

「いえ……」

 

「そのようなことは……」

 

「つれないねぇ」

 

全く、固くなってばかりじゃ何もできん。ちぃとは気を楽に持って生きりゃいいのに、とは思うが、きっと二人には無理な話だ。ただ本題が何か、そこに全ての神経が結わえつけられている。そんなに固くなってたら、できる交渉もできなくなっちまうよ

 

「ということであと2杯くらいお茶を飲みたかったところですけど、申し訳ありませんが本題に入って頂けませんか」

 

「せっかちですねぇ……」

 

「そちらもお暇ではないと思いまして」

 

「私としてはもうちょいと『仕事』したかったのですが……淑女の願いを無碍にする趣味はないですから」

 

私は実は、この学園艦教育局長と面会するのは2度目である。こうやって余裕を持って話せる要因の一つはそこにある。

だがもう一つ、私はこの場にある中でこの落ち着きを、他の二人と比べ格段に保てる理由がある

 

私は、彼がこれから私たちに告げること、それとそれに対してどうするべきか、もうすでに知っている

 


 ▲ページの一番上に飛ぶ
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。