作:井の頭線通勤快速

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第12話 下から上

 

 

船舶科

 

大洗のヨハネスブルグとか呼ばれる艦底から艦橋の上まで、という上下に幅広く住む者たちである。そしてその位置はそのまま、彼らの立ち位置と話の通じやすさを物語る

 

艦底側は自分たちで金を稼いで、さらにその金を奪うべく抗争している。一方で艦橋側は既にあるローテーションの下、日々8時間働いて6時間学校行って学費をチャラにしている

 

学園艦がなくなることで一番被害を受けるのもここである。学費がタダな分船舶科はどこも定員近いし、そもそも定員多くしてないから廃校になったとして彼らがそのまま転校先の船舶科に転がり込める保証はない

 

てな訳で廃校がらみになれば話を通しやすいところだ。だがそれを伝えていない現状で丸め込むとなると……

 

「労働時間短縮だよな」

 

「そうね。それが早いはず」

 

「けど今までできてない」

 

その理由は単純だ。頭の数が足りないのだ。頭数はいるんだがな

 

船舶科は8時間3ローテで働いている。これを6時間4ローテにすると、艦長や航海士、通信士、機関長、機関士など専門職ももう1ローテ分用意する必要があるが、はっきり言ってそこら辺は中学の頃から勉強しまくって資格試験を突破した者達しかいない。一朝一夕で増やせるものではないし、数を増やそうとしたって応募者数が増えるものでもない

 

というより本当にそれがやすやすと出来る船舶科に来るような人は、だいたい他の私立や名門校に行く。大洗に来ている時点である程度は察せるレベルなのだ

 

艦底が出来てしまうのも、船舶科に多く必要なのが海技士資格を持った専門職であるのが大きい。専門職を配置した上で部員としてその部下を配置している

が、かといってそんなに部下を増やしすぎると管理不能になる。残りは職なしのあぶれ者にならざるを得ないから、というのがある

かといってそこの枠を不用意に縮小すると、学園の退潮を見せつけることになってしまう。技術的な省力化などを提示できれば別なのだが、もともと教育局からも船舶科削減は避けるようにとある

候補に入っている中で、表向きはそれに逆らうわけにはいかない

 

「……将来的な改革案の実行で呑ませられないかな?」

 

「厳しいんじゃない?今の生徒にはメリットがなくなるんだし」

 

「そこだよね……」

 

有権者は利己的だ。結局自分たちに利益がなければ、こちらの求めるようには動かない

 

「……艦底にいるメンツの中で技能ある奴とか混じってたりしないかな?」

 

「いないんじゃない?じゃなかったら上で雇われてるでしょ」

 

「それも……そうか」

 

……まぁ、薄く期待するか

 

「なんだったら桃ちゃんに行かせたら?」

 

「かーしまにか……そうだな。可能性が僅かだとしても、探りを入れるだけなら悪くはない」

 

「それにしても、私のあの被服科の案は、将来的なら通るかね?」

 

「向こうが対応可能ならね。現場経験つけさせる、とか言えば悪い話にはならないと思うけど。学費も休み期間だけなら普通科より少し安くしたくらいにはできるだろうし。それが労働の対価として、となるなら、船舶科の先例もあるから普通科の反発もほぼないよ」

 

「あとは……企業次第で航路が決められる可能性か……」

 

「そこら辺は割り切らないと金が手に入らないよ」

 

「そうだねぇ……」

 

こうしてみると地場産業に政治が左右されるのがよくわかるものだ。叛かれて町から出て行かれる方が損害がでかい

 

「難しいけど……私たちの後に、禍根は残したくない」

 

「それはそうだね」

 

そこに同意が得られるなら、もう心配や不安はない

 

「だから……やるか、小山」

 

「やろうよ、杏」

 

突き進もう

 

 

 

ということでまず艦底の確認だ。かーしまを呼び出してお銀のところに行かせる。地下に資格持っている奴が転がっているのかの確認だ。かーしまの家の事情も考えて、使う金は仕事だからと機密費扱いにした

機密費の中身は公開する義務はしばらくないし、公開されても痛くも痒くも無い。必要なことだし、艦底に関してはもう風紀委員が喧伝してるから、そのこと絡みだなんだと言えば反論できまい

 

かーしまなら向こうでも顔なじみだから、護衛なしでも何とかなる。逆にかーしまが襲われるとかなれば、お銀派相手なら手を切るような事態だし、お銀派以外ならその派ごと壊滅させる

もっとも前者を取ると艦底は乱世に逆戻りだから、できればやりたく無いがね。そしたらお銀派が厳しくなるのも向こうは知ってるはずだし

 

なんだか金王朝を思い出すが、向こうは束になってもモンゴルみたいに甲板には侵攻できない。流石に人口比と風紀委員を舐めてもらっちゃ困る。なんなら自警団を編成してもいい。向こうの陣地の艦底だとキツかったけど、こちらの陣地なら負ける道理はない

 

 

そんなこんなでかーしまを送り込んだ結果、いるにはいる、となった。資格持ちでも3ローテの枠的にあぶれているものがちらほらいるようで、そういうのは派閥の参謀役とかを担っていることが多いらしい

ただ、もう1ローテ組める分の資格保有者がいるかは分からない、とのことだった。上もいざという時の代役で補佐役付けてたりするしね。そこを取ってくるわけにはいかないし

 

となると、各派閥に分かれていることになる。あとは上にいる余りも取り込めはするだろう。問題は……

 

「その参謀を各派が放出することに応じるか、だね」

 

「はい。壁はそこになるかと」

 

既に艦底ではそれなりに良い暮らしをしているであろう彼らが、果たして上で働くのに応じるか、もあるが、何よりそれを派閥に認めさせる必要があった。参謀とかなったらトップの腹心だったりするだろうしね

 

「……かーしま」

 

「はい」

 

「お銀は動かせそう?」

 

「……断固反対、までとはいかないでしょうが、厳しいかと思います。それなりに艦底側にメリットがないと……」

 

「艦底に……メリット、ねぇ」

 

そもそも存在しないに越したことはない艦底だ。我々にはメリットがない。なのに向こうに利を与えねばならないとなると……

 

「風紀委員か」

 

「ですね。やはり下手に妥協して反発するとしたらそこかと」

 

風紀委員会にとって艦底は何度も鎮圧しようとした仇敵。それによって損害も受けてる。仮に艦底にメリット、例えば各派を公認しようとするとかなれば、何かしら反発してくるのは想像に難くない

 

「……そういえば、お銀派の参謀役って誰だっけ?」

 

「は、壊血病のロイヤル、とかいう奴です」

 

「壊血病ねぇ……なかなか海賊にしちゃ縁起の悪い」

 

「他も竜巻とかサルガッソーとかなので負けず劣らずかと」

 

「そうかい。で、どんな奴なの?」

 

「はい、それがですね、こいつなかなかの荒くれ者ですよ。参謀役なのに他派との抗争に自分から突入したりとかは聞きますし。頭はキレますが、何より見た目からして……」

 

「ふぅん……」

 

見た目は大した問題じゃない。だが現状に不満が溜まってそうな感じかな

 

「そういえばお銀派って他に頭のいい奴っているの?」

 

「下の学年には何人かいるみたいですね。そのロイヤルが目をつけて引っ張ってきた奴らで派閥内の雑務等を回しているようです。今のお銀派を支えているのは間違いなく彼女らでしょうね」

 

なかなか官僚肌みたいだね。ということは、お銀派の実情についてもよく知っていそうだ

 

「……いけるね。そこからだ。そこからならきっと艦底側はいける」

 

「は、はぁ……」

 

「かーしま、このロイヤルって奴と話せる場所、とれるな?お銀派の幹部に知れないような場所で」

 

「お銀派の幹部にも、ですか……厳しいでしょうが、やってみます。ですが流石に向こうも上には出てこないでしょうから、艦底のどこかで私が同席する形になるかと……」

 

「オッケー。それでよろしく!あ、干し芋あげる」

 

「いりません」

 

いっちゃったか。貰えるものは貰っときゃいいのに、変に気を使う節があるんだよな。かーしま

 

 


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