作:井の頭線通勤快速

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第14話 一人の少女と反発

 

 

そしてそれと同時に、我が校はある一人の少女に触手を伸ばした。とはいえ案内書を黒森峰経由で送っただけだが。黒森峰ほどの有力校なら我々みたいなちっこいとこは気にも留めているまい。心付けとともに手紙と一緒にお送りしておいたし

 

ウチは今のところは戦車道をやると公表するどころか、やることすら決まってないからな

 

このことを辻氏に伝えたら、

『私からも伝えておきましょう』

とのことだ。きっとうまく行くだろう

 

 

西住みほ。今の所彼女を呼ぶのは学園内で孤立していると掴んでいる戦車道をやっているところぐらいだろう。それを彼女は断るはずだ。状況を考えれば当たり前だな

だから戦車道をやってない私たちからの誘いは目立つはず。普通戦車道をやってないところからしたら、本来わざわざ個別で誘う価値はないんだから

仮に彼女が来たとしても、彼女の思いとは裏腹にその才能は逃さないがな。なんとも言えない話しだが、我々としても政治家としてやるべきことをやっていかねばならないからね

 

やむを得ないさ

 

 

そんな話もあったが、ともかくメインの話は結構トントン拍子に進んでくれた。ロイヤルがお銀やその側近を相対的にはむしろ勢力の拡大になる、と説得し、まずはお銀派がこの案を呑んだ。そしてロイヤルと他一級資格持ち1名を指名してきた

そうとなれば各派も人員を出すことを拒否することがそう簡単にできなくなる。お銀派に近い派はこれに同調せざるを得ないし、反発しているところも強制的にやられるのは嫌がる。そして強制的にやられたら実力的に勝ち目はない、というわけだ

 

そしてロイヤルが話していたように、思ったより資格持ちは多く、なんとか1級資格を持つ人は必要最低限揃うことが判明した。もっとも長きに渡る艦底暮らしで資格を取り消されている人が多く、その人たち再度試験を受けないとならない上に、次の代になれば人員そのものがかなりカツカツだ

だがともかくも4ローテ制にする下地は整った。だがここで思わぬところから反対が来た

 

「何で向井の奴を艦長に加えなきゃいけないんですか!」

 

「あの艦底の奴らでローテを組む?船舶科は学園艦の運行を通じて、この都市の全ての民の命を預かる存在ですよ!あんな奴らに任せられるわけないじゃないですか!」

 

他の艦長を中心とした船舶科そのものである

前に4ローテ制にしないか、という話を流した時の感触は悪くなかったのだが、そのメンバーが艦底出身で揃えるとなった途端、他3ローテの艦長がまず生徒会室に駆け込んできた

 

「向井の性格をご存知なのですか!あいつ勝手に学園艦の運行方針改竄するわ、私たちの同意もなしに重要データ放棄するわ、迷惑が人間の皮を被ったような人間ですよ!あんな奴そもそも艦長の一員にしたくはありません!」

 

「というか艦底で酒ざんまいタバコざんまい暴力ざんまいの奴らを上にあげる!冗談じゃないです!」

 

こんな感じで結局一緒に働きたくないんだ、という感情論が強かったが、

 

「艦底の者たちで組を編成したとして、彼らが真っ当に仕事を完遂するかは、私共としても保証しかねるところです」

 

艦長代表の大橋ちゃんのこの発言から、私たちもしても断る、彼らを何としても受け入れろ、とは言えなくなってしまった

 

「角谷課長が遂行されていることが我々に大きな利をもたらす事は承知しております。がしかし、彼女らは能力面のみならず、性格面も考慮して船員から外されているのです

能力面では十分だとしても、性格的に職務の遂行に適切とされていない者が、拗ねて艦底に向かう場合もあるのです。残念ながら彼女らだけで現行の我々と同等の仕事ができるとは思えませんね」

 

「そうかい……艦底メンバーだけじゃ無理と」

 

まぁ、上で雇われてないということはそういうこともあるってことだよな

 

「じゃあさ、君たちの休憩時間を2時間に伸ばすからさ、その隙間を埋める人材を下から確保して混ぜるのはどうだい?下の奴らにもある程度能力のある人材がいるのは疑いないんだからさ」

 

「ふむ……」

 

仕事しながら勉強だ。休憩は長いに越したことはなかろう。それを長きにわたって経験してきている艦長なら尚更だ

 

「それにさ、就労時間が良くなれば、募集できる人材の質も高まる。おまけに就労短くした分勉強や休息に回せる時間が増えた方がさ、成績上がって大洗女子学園そのものの質を高められる、ってなったら、学園艦、学園都市の存続に繋がるだろ?上につくものとして基盤は整えてもいいんじゃないかい?」

 

「……部員までなら、考えましょう」

 

「そこより上は無理かい」

 

「船員としての登用は、私がここで首を縦に振っても、他のメンバーが納得しますまい」

 

「じゃあさ、今回はそれでいいから、今後4ローテ制移行に向けて準備を進めることは了承してもらえるかい?」

 

「わかりました。今の高校生で艦底にいる者が上がってくるのは厳しいでしょうが、その後の体制変更に向けての協力はしましょう」

 

その内容なら何とか合意を取り付けた。結局艦底から出てくる者たちは部員になったし、彼らからの反発もあった。だが結局全員働くわけじゃなく一部は予備に回ったりすることや、もともと再度資格を取り直すことから時間が必要であること。そして今後艦底からの段階的な重要ポジションへの抜擢を認めさせ、事なきを得ようとしていたところだった

 

 

最後の関門の一つ、そのための話し相手がおかっぱのこの人である

 

「艦底の各派を公認する?冗談よね?」

 

「マジメな話さ」

 

園みどり子。次期風紀委員長が内定している者である。実際に艦底への鎮圧作戦にも同行したことがあるだけに、なかなか厄介そうだ

 

「あのね。授業はサボる、酒は飲む、タバコは吸う、環境を悪化させる、それで挙げ句の果てに暴行騒ぎ。ウチの学校がこんな状況にあるのを認めろっていうの?」

 

「そこまでじゃないさ。単に派閥の勢力図に関して現状維持を認めるだけさ。そこら辺の規制は風紀委員がやりたきゃやればいい」

 

「でもその極悪非道の根源は派閥そのものなわけでしょ?あそこからアイツらを追い出さない限り、止められないわよ?」

 

「かといって今まで追い出せてないわけだろう?しかも風紀委員も毎回10人単位の負傷者を出しながら、だ。果たして次また鎮圧作戦を行うとして、どのくらいの士気で取り組めるのかな〜?」

 

これに対してそんな訳ない、とは言えないよなぁ。何せ彼女らはその名前上武装には限界があるけど、向こうは瓶や鉄パイプ、ガラの悪いところだと糞尿の入った袋とかで抵抗してくるんだ。そしてそれは風紀委員内には出回っている話だ。そんな地獄に誰が好き好んで行くよ?

 

「艦底での風紀委員の行動は認める。でも、艦底運営は基本各派の協力のもと行うよ」

 

「……武装強化を要求しても議会だ議会だで通らないんでしょうし……」

 

「まず間違いなくフォーラムが反対するね。そもそも甲板の人間にしちゃ艦底はそこまで身近じゃないさ。これ以上ははっきり言って無理だよ」

 

「はぁ……」

 

ここらがきっと限界なんだ

 

「それにさ、ソド子は知ってるか」

 

「園みどり子よ。何をよ?」

 

「山崎さん家での話」

 

顔色変わったね。覚えてたか

 

「ああ、あの話ね。覚えてるわ」

 

「あの話に関してなんだけどさ、まだ正式通知が来た訳じゃないけど、ほぼ確実にタイムリミットが迫ってる」

 

「まぁ、昨今の事情を見る限り全く有り得ない話じゃないとは思ってたけど、本当……なのね」

 

「私としては、できるだけ回避を狙っていくつもり。だけどその為の交渉とかの時に艦底は問題になりかねない」

 

「だとしたらガツンと抑え込んだ方がいいんじゃないの?」

 

「いや、そこには不必要な労力を割きたくない。変な行動を起こさないように安定化させるのが吉だろうね。やむを得ないけど、それが最善かつ問題をこれ以上大きくしない道だよ」

 

「……生徒会の方針は理解したわ。艦底に関しては監視は続けるけど、基本その方針に乗っかりましょう」

 

「助かるよ」

 

公認した結果調子に乗らないよう、監視の継続はプラスか。呑んでくれてありがたい

 

「それとさ」

 

「どうしたのかしら?」

 

「このさ、山崎さんの話、今後正式通知が来た時も隠匿ってできる?」

 

「隠匿……って、誰相手によ」

 

「市民全員」

 

「は?」

 

ですよねー

 

「無理に決まってんでしょ?新聞やテレビは私たちに介入できる余地はないし、何より学園艦の外に出られたらそこからの情報の統制なんて不可能よ。要するに国から正式に告知されたら、止めようがないってこと」

 

「まぁ、そりゃそうか」

 

「だからハッキリ言えば、そのもの自体の隠匿は不可能ね。それの交渉する気で、その内容を伏せるくらいならなんとかなるかもしれないけど……3万人全員を監視する訳にはいかないし、なんらかの原因で漏れたとしても責任は取れないわ」

 

「じゃ、そこら辺のことまでなら協力してもらえると」

 

「理由は?」

 

「内部の不必要な混乱の回避、だね。退艦の準備を進められてて、仮に回避できた時の責任は背負うつもりさ」

 

実際にそうだ。今回の話は結局無理で来年度末で廃校、というのが一番よくある話だ。避けたいが可能性の話としては逃れられないし、それを非難できる筋合いじゃない。都市の民だって生活しているのだ

 

「回避って……何かするの?」

 

「条件を取り付けてもらうとか、かね。交渉して」

 

もっとも条件も知ってるんだけどね

 

「……まぁわかったわ。こちらで協力できる内容なら、手を携えていきましょう。私たち風紀委員会が風紀を維持する場所を守るために」

 

その存在意義を向こうが信じている限り、私は彼女らより優位に立てる

 

「今後ともよろしく頼むよ」

 

それを使ってでも、彼女らの手綱は握っておかねばならない。学園都市の治安、艦底に対する存在感、そしていざ反抗されたら生徒会で対処できない唯一の存在

もっとも最後に関しては向こうは分かってないのが救いだが、この関係もまた今の所崩すべきじゃないのだ

 


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