作:井の頭線通勤快速

15 / 61
第15話 不成

 

 

 

そして時期は冬休みまで秒読みに入っていた。学園艦も北上し、大洗の港の近くまで帰ろうとしている。だが今年の私にまともな冬休みは訪れないらしい

 

「そんなわけで君たちさ、フォーラムを手を組まない?」

 

「うーん……」

 

この会議室には私と田川ちゃん。そして3党の党首が集っていた

 

一人目はこの冬から正式に代表になった、大洗学園フォーラム代表、白石。二人目は海の民党首の小沢。そして最後は職人連合組合代表の明石。つまり私は、この3党に合同を持ちかけているのだ

 

「船舶科には今後の4ローテ制導入に協力させたから、今後法整備して進めるなら、手を組んだ方が得じゃない?労働時間削減は君らの宿願でしょ?」

 

「それはそうですが……」

 

フォーラムとしては願っても無いチャンスだろう。ここの二つを正式に取り込めれば議席総数は370近くなる。あとの数名取り込めば念願の議会過半数だ

 

「職人連合も船舶科ほど重くないですが、この就労システムを認めたら学費も普通科より下になりますし、そうなったら反発する理屈はないのでは?」

 

田川ちゃんは職人連合に調整を仕掛ける

 

「うーむ……」

 

職人連合はまだ案件が確定してないからわかる。だが艦長代表から合意を得ている中で海の民はなぜ呑まないのか

 

「まぁ、そこのお二方が首を縦に振られないのは、我が党がこの案に賛成するか分からないから、でしょうね」

 

「珍しいね。フォーラムもこの二つはすり合わせた方がいいかい?」

 

「被服科の方はおそらく党内でも反発はないと思います。もっともこちらは被服科教員陣との調整が必要でしょうし、相手企業との合意が成り立たなければ動きようがありませんが。しかし……船舶科のものに関しましては、なんとも言えません」

 

「……労働時間短縮で学費相応の業務をしているのかの疑問かい?」

 

「そうですね……現行この制度で成立させてきた以上、労働時間削減で同等の価値があるのか。一部の者は総計負担を元手に反対するかと」

 

「何を馬鹿な。既に8時間業務をほぼこなしているのですぞ!休日なども考慮すればむしろ地上の正規労働者より労働時間が長いと言われているのに、何をためらうことがあるですか!」

 

とりあえず小沢ちゃんはこっちに付いてくれるようだ

 

「勉強とか休息を増やして欲しいから、私としても賛成してくれるようお願いするけどね」

 

「それと、船舶科教員陣はこれを受けて拡充するので?」

 

「4ローテにするし拡充はするよ。14〜15名の追加を見込んでるけど」

 

「……現状のウチで人数維持はともかく、その数の新規教員を引っ張ってこれますかな?タダでさえ副担任導入で教員需要が増し、一方でその給与と残業から資格試験は前年割れ続きと聞きますよ?」

 

「その教員陣からも授業寝る奴サボる奴が多すぎるって苦情来てんだよね。ハッキリ言って休ませた方が生産性は高まりそうだけど

艦底も何とか今は鎮めているけど、今後も維持できるかは保証できないし、そこの奴らを引き上げて力を弱めるためにも、少なくとも将来的な方針にはした方がいいでしょ」

 

「人員を拡大したとして、給与は?」

 

「最悪債券発行も視野に入れてるよ。人が足りないなら給与を上げるしかない」

 

「……すみません。一度持ち帰らせてもらえませんか?」

 

ぐぬぬ。面倒な

これはあれか。党の内部に反発はあるし、私とあまりべったりしたくない気持ちが働くがゆえか

 

「……今年中に返事を頼むよ」

 

「分かりました。何らかの返事は致しましょう」

 

「じゃ、資料渡しとくからよろしく」

 

はぁ、めんどくさい。が、そもそもの仕事がこんなことばっかりだったから、別に疲れるわけじゃない

 

「いやぁ、すまんねお二方。わざわざ来てもらったのに」

 

「いえ、我々としては船舶科の幹部層も一定の支持をしている以上、その案件に賛成しましょう。しかし……フォーラムとの完全なる合流となりますと、反発するものが出るのは必至かと、というのが正直なところです」

 

ここもか。今後も公正会みたいなパターンは出てくるわけね

 

「じゃあさ、合流までとはいかなくても、この案件を他と調整して通すからさ、そしたら今年の予算案認めてくんない?」

 

「……すみませんが持ち帰ります」

 

「また今年中ね」

 

感触は悪くない。とりあえず戦車道やる目処を立てるのが優先だ

 

「んで、被服科の件だけどさ、はっきり言ってどう見てる?」

 

最後は明石ちゃん

 

「……ウチがCやDランクだったらまだやりようはあるんだが……」

 

「ランク?」

 

「最低賃金のさ。ここは大洗町の飛び地だから、最低賃金もBランクになる。だからもっと安い他の地方所属の学園都市より賃金競争で不利だ。被服科を働かせるならそこの分は保証せにゃ無理だぞ」

 

「うーん…だろうね。もちろんその分現状からの学費から引くよ。東京周辺への回航も増やしてそこへの売り込みの優位性をメリットにするとかもあるしね。母港が大洗だからそこまで手間じゃないし。その点でなら他には静岡の学園都市くらいしかか張り合うところはないよ」

 

「相手企業は?」

 

「国経由で信用あるとこにするつもり。もっともどこが来るかはわかんないけどね」

 

「……なら妥協の余地はありそうだが、この案件は被服科のみだ。農業科、栄養科、水産科出身議員相手は何とも言えんな。さらに来年度予算への完全同調はかなり難しいと言っていい」

 

「まぁ、補助金増額は厳しいしね……減額はしないとは思うけど」

 

「棄権か賛成か、なら可能性ありかね。こればっかりは党で方針決めても実際は反対する、なんてのもあり得るから断定はできん」

 

「まぁ、基本方針は賛同してもらえるでいいかい?」

 

「フォーラムを取り込んで学費負担削減に動くなら、ここら辺が妥協案になるだろう……とは考えている。だが党内にも完全対等を騙る強硬派がいるからな……全員賛成は無理と考えて欲しい」

 

難しいが、難しいということはやればできないこともない、ということだ。ならばやっていくしかない

 

 

 

そして新学期の始まる直前、件の少女の転入依頼が来た。辻氏から聞いたところだと、辻氏からも口添えをしたらしい。黒森峰からも内々に感謝された

だが黒森峰ほどの学園が我が校が廃校候補になっていることを知らないということもないだろう。だから西住ちゃんも完全に手放す気は無いはずだ。ウチが廃校になった時期を目処に呼び戻す気だろう

一度放出せざるを得ないが、校内の雰囲気が落ち着くのを待ち次第取り返したいのが本音のはずだ

 

返さないがな

 

ともかくも土台はできた。あとは上を建物を誘導するだけだ

 

 

私は東京への出発準備をしつつ年末を迎えたのだが、白石ちゃんに

 

『もちろんだけどさ、春の議会選挙は全面協力するよ。校外の演説とかもどんどんやるよ!予定があったら教えてね』

 

と伝えると、年末ギリギリにだけどOKサインが出た。やはり小山とかが言っている通り私が支持率高いのは結構使えるようだ

だがこの支持率も秋の空。簡単に移ろいゆくもの。繫ぎ止めるにはカバン、カンバン、ジバン除けば実績しかないのが政治だ。そして私はこの都市出身というわけでもないし、実家はただのペンキ屋だ。そのどれもない

 

予算に関しては幹部層との話をせねばならないだろうが、海の民が賛成に回れば改選後の議会でフォーラムから造反が出ても過半数を狙えると踏んでる

 

しかし来年からは市民議員も登場する。議員定数は50と全体の800からしたらそこまでの割合ではないが、そこは元公正会ルートと町内会支持でフォーラムがかなり固めている。学園都市を10地区に分けて各5人選出の大選挙区制だが、それでも35は取れるというのがフォーラムの選挙対策委員会の読みだ。私もどんどん春は出張るべきだろう

 

実を言えば今回の二つはこれを糧に2党を取り込めれば最善だったけど、議案を出すことそのものも大きな目的だった

この二つの方針を記した法案が可決されれば、少なくとも海の民は存在意義を失う。一方で否決されれば、海の民の実行力のなさを示すようなもの。彼らの宿願だしね。職人連合も響くかな

 

そうなれば支持は実行力のあるところにまとまる。学園でなら圧倒的支持のある私と、私を推薦したフォーラム。こうして確実に『挙市一致』への体制を固めていく。学園内では過半数は取れずとも、何とか今以上の優位を確保したいところだね

 

もっともこれが出されてフォーラムが明確に反対するのは、船舶科支持層から総スカンを食らうし、普通科でも船舶科働き過ぎ問題は何かと騒がれてたから、なかなか厳しいものだと思うけどね。というかクラブも賛成するかもしれん。ま、そうなったらそうなったで

 

……ちょいと予算規模追加してクラブ誘う、って無理か。流石に現状の予算から拡大する力はない。だって私たちはこの冬休み終わったら

 

 

廃校を正式に通告されてるんだから

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
Twitterで読了報告する
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。