作:井の頭線通勤快速

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第16話 憤り

 

 

3学期始まってすぐの、私が正式に生徒会長に就任してから初めての生徒議会は憤りに震えていた

 

「事前通達なしに来年度廃校は急すぎるではないか!」

 

「もう今年度の受験の願書を受け取っているんだぞ!来年廃校にしろと言いつつ、試験だけはやれというのか!今年の受験生に再来年度以降に関してはどう説明すればいい!」

 

「なぜ我々なのだ!そして正式な理由の説明も我が校独特のものではない!艦内治安は最近安定させたし、運営状況だって決して悪いわけじゃない!」

 

「この場がなくなって、町の住民にはどうしろというのか!勝手に出て行けというつもりか!」

 

「誰がどのような権限でそんなことを決められるというのだ!こちらで住宅の手配などあと1年で足りると思っているのか!」

 

最初の議会で出した廃校準備校への指定への非難決議は全会一致で可決。廃校阻止方針およびその際の大洗町、茨城県への協力要請も難なく通過した

 

大洗町からは即座に協力するとの返書が届いた。だがこれで何かしら効果があるわけではない。何もない。生き残りたいなら、我々が具体的な策を打ち出していくだけだ

 

 

そしてこの危機は好機だ。学園の危機、これは挙市一致を創り出すにはこれ以上の機会はない。私は再度白石、小沢、明石に来てもらった

 

「……やはり組めないかい?」

 

「我が党としてもここまで危機的である以上、今後も存続するべく改革の意志は示さねばならない、と今回提出された改革案の双方に賛成する動きが加速しています。我が党の全面的な賛成は確実です」

 

白石ちゃんもサポートに回ってくれるが、やはり二人がなかなか縦に首を振らない

 

「我が党は相応予算の上での軽減なら結構賛同できるんですが、やはり強硬派の存在を抜きには語れません。それともう一つ、部分介入経済に関しては懐疑的な議員がそこそこいるんですよ」

 

部分介入経済。生徒に必要なもの、たとえば教科書、本、筆記用具、ノートなどには販売しているところに学園予算から補助金を出している。その分生徒には安く手に入るという算法だ

 

「被服科、農業科にも生徒会から援助はされていますが、普通科がメインにされているとの論調は根強く残っています。そうなると自分たちが普通科より多く払っている学費が、結局普通科のための援助に回っているという話になってしまいます

これは研修制度とは関係ないところです。この案で手を打つようなものでもありません」

 

「その系統の主張をしている議員は、仮にフォーラムと合流とかなったら……」

 

「まず間違いなく反発してクラブに流れますね。合わせたら恐らく……1/3は覚悟したほうがよろしいかと」

 

「ま、検討だけでもしておいてくれよ」

 

職人連合はそこそこ数に含めないほうがよさそうだ。それだけ離脱が出れば他もそう易々とは来るまい。全体的な流れというのはそれだけ恐ろしいのだ

 

「海の民としてはほぼ問題ないと思います。やはり将来的とはいえ労働時間の削減に生徒会が務めるを示している。これだけでも大きいです」

 

「艦底の人材あってだけどね。何より教員募集の関係上来年も無理だ。早くて再来年からだね。しかも船員は後回しだ」

 

「それでもそこに手を繋げたのは大きいです。我々だけではどうにもならないので。部分介入経済に関しても、自分たちは学費をタダにしてもらった上で物価が安くなっているので、現状でも大きな反発はありませんね

我々としても職場が、それと引き換えとはいえ無償で学べる場がなくなっては困るので、ここを残せるなら可能な限り手は打ちたいと思います」

 

「法整備に関して通過すれば参加してくれるとのことでいいかな?」

 

「はい。我が海の民はこの学園廃校の危機に対し、角谷さんがその回避を願うなら大洗学園フォーラムとともに協力していきましょう」

 

「当たり前じゃん。私は学園都市の民に選ばれたんだよ?その母体を無くそうとするわけないじゃないか」

 

「もちろん、党の中からそちらの行動に関しては監視を続けますよ。結果が伴って欲しいですからね、こちらからしても」

 

「そこまで話が分かってくれれば十分だよ。じゃ、それぞれよろしくね」

 

 

 

さて、これで次の選挙大勝すれば、私の議会での地盤はかなり固まってくる。街での選挙活動と称して小学校6年生も狙っておきたいところだが、果たしてうまくいくかな?

この危機を前にフォーラムも私とべったりしすぎるのは危険だ、とは言いづらくなってきているだろうな。私のやった改革という実績がある限り

 

「小山ー」

 

「な……どうしました?会長」

 

小山は私の正式な就任を機に呼び方と喋り方をまるっきり変えた。別にそれまで支え合ってきたんだからそんなに囚われなくても、とは伝えたのだが、上の者がより上の者に敬意を払わねば下の者は敬意を表しない、と突っぱねてきた。なかなか頑固だよね、かーしまもそうだけどさ

 

「ちょっと業務の終わりで悪いけどさ、みんな集めてくんない?」

 

「かしこまりました」

 

小山にはもう伝えてある。もう、それ以外ないのだ。ここのメンバーとして最低一年近く勤め上げてきている者なら、そのことはよーく理解できているはずだ

前々からグダグダ思っているように、ウチには強みがないのだ。他校に勝てる武器がないのだ。ならば一縷の望みをかけて武装する他ない

 

流石に急に呼んだからね。艦橋だから易々とブンヤは近寄ってこないだろうし、盗聴関係は対策済みだから問題ないだろうが、話が話だ。予測させない形にしたい。集まるまで10分以上かかることだって、それを考えれば致し方のないことだ

 

さて私が正式に生徒会長になった中で、こうして全員の前で訓示を行うのは初めてだ。就任挨拶はしたが、仲間は全くもって変わらないので流れ作業だったしね

 

「みんな、仕事している間に手を止めてしまってすまない。だが先日学園艦教育局より伝えられた廃校準備校への指定は皆存じていると思う。私もこの乱暴な決定に怒りに震えているよ

私はこの都市の市民に、この学園の学生に支持されて選ばれたこの都市の代表だ。その仕事を全うするのが当然であり、その場であるこの大洗女子学園学園艦を残すためなら、手段を選ぶつもりはないさ」

 

「おおっ!」

 

ここで働く者たちからなら、同意を得ることなんて容易い

 

「そして私はこの学園都市を残すための、僅かだけどれっきとした可能性をつかむことに成功した!」

 

「おおおっ!」

 

国に抵抗する。それもそこに支えられている学園都市が。ある意味一種の絶望であったはずだ。親から放棄された赤子でしかなかった

 

だからこそ、これは何にも勝る、辿るべき道だ

 

「か、会長!そ、そんな方法が本当にあるのですか!」

 

「ある!」

 

「それはいったい……」

 

「戦車道だ!我が校にかつて繁栄をもたらしたあの戦車道で、勝つんだ。優勝するんだ」

 

戦車道。急だろう。そうだろう

 

だがこれしかないのだ!

 

「し、しかし……現状我が校に戦車道はありません。それで期限は来年。おまけに我が校に戦車を揃える金などありません。如何なさるおつもりでしょうか?」

 

「この学園艦に戦車はあるからそれで戦う!そして今年は伝で助っ人を呼んだ!それらで勝つ!そして我が校の全てを、今年は戦車道に注ぎ込むんだ、私自身を含めて

ここまでしてもかなり厳しいことはわかっている。相手になるのはあのサンダースとか黒森峰、プラウダだ。それらを撃破するのは至難の業に違いない」

 

なんども言うが、本当にその通りだ。財力、人材、その全てを鑑みても大洗は勝てん。こうして廃校回避の道ででもない限り、やらないでおくべきなのだ

 

「だけどこれしかないんだ!他に全国に名を広げて勝てるものは、そして期限の来年に間に合うものは、我が校にはない。今あるもののどれかに注ぎ込んだら、逆に他から総スカンをくらう。だったら、私たちの手で握れるものを作ったほうがいい」

 

「ううむ……」

 

「そしてこれは、ただ戦車道の大会で勝つためだけじゃない。必要とあらば……」

 

間を置いた。私もあまりやりたくはない。が、やる意志は持たねばならないだろう

 

「……戦車道、風紀委員とともに、学園艦に籠城し、たとえ公認が得られずとも学園存続に全力を尽くす」

 

「なっ……」

 

要するに、国相手に戦争だ。ハナから勝ち目はないし、だったらやる意味もあるまい。それによって相手に損害が出ないならね

 

「我が校は守り抜く、なんとしても。それがこの伝統とともに、幾多の関係の中で繋がってきた大洗女子学園を受け継いだものの責任だ。そう信じている。戦車の砲火力は大きな抑止力になり得るはず

ただしこれは本当の本当に最終手段だ。そうならないようにしたい。だから……頼む!今年一年だけでいい!学園の持つものを戦車道に注ぎ込んで欲しい!」

 

「それしかなさそうですね」

 

即座に同調したのは学園課の私の後任、田川ちゃんだ。雰囲気的に纏まるか読めないときは同調して話を持っていきやすくしたい、と伝えてある

 

「学園課で部活動の状況は監視していますが、これから来年までに全国区での名を残せるものはございません。その上で予算についてはがめついとこばかり。選挙対策の上でもあまり敵に回したくないのが実情です

ですがこの戦車道、選択必修科目になるとの理解でよろしいですか?」

 

「そうなるね」

 

「授業が相手なら部活の予算なぞ恐るるに足りません」

 

「しかし、それ抜きにしても財源は如何なさいますので?他の学科の補助金は削れませんし、この廃校が傍目からは不可避になっている中で金を貸す阿呆はいないでしょう」

 

「戦車道を始めれば、戦車道連盟から補助金が出る。あとはもう一つ、去年のうちに成立したのがあっただろう?」

 

これらを足したところでそうそう成り立つものではない。が、多少は心の安定を保つ材料になるだろう

 

「……OG会の組織化と寄付金上納、ですか」

 

「そうだ。学園の危機の中でかつての誇りを持ち上げる。それだけでも金を集める理由になる!そして……あとは実績待ちだね」

 

「いきなり自転車操業になりそうですね……こりゃ大変だ」

 

「だが今年中に最大の実績を出さなきゃならないんだ。途中でも勝たなきゃやっていけないさ。最後になるけど、そもそも戦車道が始められるようにならなきゃ話にならない

そこから苦労をかけるけど、学園を守るため、そして次代に繋いでいくためだ。頼む、協力して欲しい……」

 

命令で動かすこともできよう。しかしそれではいけないのだ。真に皆の心が一つの方向を向かねば、成り立たぬ

 

「廃校となれば……どうなるんでしょうか」

 

「皆バラバラになるだろうね。ウチが小規模な方とはいえ、今からこれまで過ごした環境が違う3万人まるっと受け入れるとこなんてあるわけない。いくつかの学園都市に分散させる形になる。おまけに期間も1年だ。最悪受け入れ準備が整うまで地上で滞留かもね」

 

「そんなのお断りだ!この学園都市を放棄なぞ考えられない!」

 

「ウチらにも自治権がある!国にここまで命令されて、学生の運命を左右されて黙っていられますか!」

 

「やりましょう、会長!」

 

「大洗女子学園万歳!」

 

「角谷会長万歳!」

 

「大洗に自由を!」

 

動いた。生徒会の流れがきた

 

「ありがとう!私は諦めない、私は挫けない、私は立ち止まらない!大洗女子学園で選ばれた者として、最後まで戦おう!」

 

「おおーっ!」

 

これでやっと基盤である。4月に西住ちゃんが来たタイミングで始められなければ、なんら意味がないし、そこが始め得るタイムリミットだろう。なにせ大会は7月だ。これ以上遅くはできない


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