「はぁ?戦車道設置のための予算?」
白石ちゃんを中心としたフォーラム幹部層の前でその事実を伝えたが、予想通りそんなすぐに首を縦に降る気配はなかった
「戦車の新規調達はなしとかこれでも妥協した上での予算案なんだけどね」
「いやいや、廃校が来年までなのは存じてますけど、それで戦車道をやるかはまた別問題でしょう。ただでさえOG会の組織化から各派ともに予算の拡大を見込んでいるんですから」
「んなことするわけないじゃん。大幅に削りはしないけど、増やしもしないよ」
当たり前だ。予算の総規模が増えただけで、なにもしてない奴らの予算を増やしてやらねばならぬ道理はない
「しかし……これで纏められるかはなんとも言えませんな。いくら角谷会長の案とはいえこれほどの額を一つのもの、戦車道に投入するとなれば、市民の不満に繋がりますよ
フォーラムとしましても角谷会長と手を結んでいる以上、その人気低下はこっちの支持にも直結します。いくら角谷会長の案とはいえ、そのようなことに手を出したくないのも事実なのです」
「……これが廃校回避のための唯一の手段だとしても?」
「それを説明できますか?我々相手ではなく、市民相手に」
説明ね……戦車道やっていると告知したら、西住ちゃんが敬遠する可能性もある。4月に大々的に発表するまで、校外には漏れぬように進めたい
おまけにこれで廃校回避を決めているとなれば、もっと良い条件をつけろ、現状あるもので話を進めろ、などと反発が起きるのは必至。この学園艦で焼き討ちされたらたまらないし、単なる学園の誇りの再興の程で進めねばならない。治安悪化は文科省に十分なほどの隙を与えるしね
「それと引き換えとなりますと、議員の中に造反しようとする者も出てきましょう。会長のおかげもあり我が党は現在党勢の拡大が進みましたが、それはあまりにも急に、です。内実はモザイクもびっくりの寄せ集め。崩壊の動きが出れば、簡単に元どおりになってしまうでしょう」
「だけどこれを通さず、去年と同様の予算案を可決したところで、我が校はジリ貧だよ?なんなら君達の存在意義だってなくなる。そもそもの議会はおろか、学園すら無くなるんだからね」
「かといってこの船に乗っかるかは話が別です。船舶科絡みは普通科でも関心ある内容でしたし、そこまで纏めるのに苦労はしませんでしたが、これほどのものとなりますと」
「だったらさ、議会は回避のための実効的な策を立ててくれるのかい?廃校回避の方針は議会で決まったろ?その換えがない限り、生徒会が立てたこれを使うしかないと思うけどね
予算がなきゃやれるもんもやれないし、来年度予算は今年度中に成立させなきゃならんでしょ?来年度末までだ。今決めなきゃいつ決めるっていうのさ」
そんなものあるわけない。お上の命令だ。お上に直接会って交渉し、譲歩を引き出してくるような奇跡を起こせる人間でもない限り無理だろう。私ですらレールに乗ってやっとここまで来ているのに
「……仮にこの方針が認められたとして、実際に廃校回避できるのはどのくらいの確率だとお考えで?」
「……10%」
「ですよね」
「もないね」
そんなにあるもんでもない
「だって相手になるのがプラウダとか黒森峰とかだよ。そしてベスト4は固定化されているような世界だ。そのまんまじゃ勝ち目ないよ」
「……貴女ならこの案件を出してくる以上、そのまんまで挑むつもりはないのでは?」
まだ分かってるか
「一人助っ人呼んでる。彼女は半ば強制的にやらせるつもりだけど、そこの訴えが来ても無視するよう風紀委員に手配済み」
「……戦車道の大会っていつでしたっけ?」
「7月から8月だね。場所もコロコロ変えるから移動がめんどくさいんだよね〜。もういつもおんなじ場所でやってくれれば良いのに」
「なるほど。結構早いですし、決断するなら今でも遅いということは分かりました。確かに他に考えづらいのも事実ですが、一旦のタイムリミットは5月末……でしょうね」
「ほう」
「そこまでに強豪を撃破し得る力を得ているか証明しなければ、その先の優勝など夢物語でしかなくなってしまいます。そこまでにこちらでもより確率の高い方策はなんとか立ててきますので、その段階で戦車道が使えなければ乗り換える。それなら多少は譲歩の余地がありましょう。この案だと夏に負けたらそのまま廃校以外の道も無くなりますしね」
「ということは……練習試合かな」
「それを少なくとも強豪の一角とは言えるところを相手に、です」
作ってたった一月強で張り合え。なかなか無茶な注文だが、向こうの言う通りそうでもしないと優勝なんて狙いようもない
「それでも予算案を作らざるを得ない以上、交渉は難航しますね。予算委員会でも立ち上げて野党と話を通しておくにしても、そもそもの戦車道を曲げられない以上妥協は困難かと」
「党内も厳しい?」
「さきほどの代案提示で当面は凌げます、多分。角谷会長に抵抗しながら話を進めるなんてのも事ここに至っては意味を成しません、と言えれば私も気が楽なのですが……件のモザイク状況ですからね
この先を巡る党内の議論は未だ紛糾したままです。挙げ句の果てにはもはや大規模な抵抗は起こさず、むしろ国の廃校作業に積極的に協力して廃校後の混乱をできる限り抑え込もうとする輩もいるほどで……
まだ元々海の民だった者が角谷会長に協力する意志を見せているのが救いですかね」
「……その国に協力しようなんて輩はどのくらいいるのさ?」
「議員の中でもある程度の数です。が、私がこうして幹部の前で話せているように、私の代の人事の際に主だった役職からは外してあります」
「ふーん……」
どこかでそこらへんを切っておきたいね。学園存続のための挙市一致を成り立たせるためにも。最悪野党も取り込んでの大連立とかでもいい。とにかくその面々がいながら現状の議会で議案を通さなきゃいけないのか……
「備品は艦上の戦車ショップを使ってそこ経由にしておきたいんだよね……地場産業育成を名目にさ」
「……それって値段向こうに釣り上げられません?窓口を絞らせるとこちらから文句は言えなくなります。それに一業種優遇となると他の反発は避けられませんよ?」
「ウチの生徒会の交渉術をなめてもらっちゃ困るよ。少なくとも定価にはするさ。じゃなきゃこの予算の範囲内にならないよ」
「それと……戦車の数ですが、現状では概算でしかありません。正式な数はわからないのですか?」
「最低1輌しか今は分からないけど、資料を遡れば5輌は確実。多くあれば12輌は掻き集められそうだね」
「20輌には満たないと」
「残念ながらね。それだけあればまだマシだったろうになぁ。数だけでも決勝で対等に戦えるし」
「……幹部会議で持ち込むだけ持ち込んでみましょう」
つれないねぇ。決算はちょっと詰めてきても良いんだけどさ、予算はこれで通してもらわないと
何か秘策ないもんかね……
「どうしたもんだと思う?」
「いや、それを私どもに尋ねてきます?」
こうして人と会うことぐらいしかできることがないのだ
「干し芋食べる?」
「あ、いただきます。けど……それを頼みに来ますか……」
お茶はこの前辻氏から送ってもらった淹れ方を参考に、クラブの党本部の給湯室を借りた。干し芋にも合うので私も時々やってみている
「だってさー、この先考えるに言っといても良いじゃん。それでさ、上手く行かなそうなら頼れるものは頼ってみるもんでしょ」
「それで直接貴女が尋ねてきます?貴女と組むフォーラムとは不倶戴天の敵であるウチに」
鴨崎新大洗クラブ党首、目の前にいる彼女の名前と肩書きだ