そして春休み。宿題も特にないので、私が当たるべきは一つ
選挙対策である
今回から私が通した選挙改革案、『生徒議会基本条例改正案』に基づき、生徒議会が市民議会へと名を改め、学園内部のみならず都市でも選挙戦が展開される。選挙管理委員会も慣れぬ仕事に追われている。この選挙の成功如何も私の実績に含まれる
ルールとしては日本の選挙法と同様だ。だが何せいわゆる市民議員の数が数だ。これまで都市全体で行っていた選挙での候補者は、多くても15人、つまり大洗町議会選挙だ
それが今回選挙区は分けられているとはいえ定数は50人、立候補者は100人近い。議会を金曜日の夜にするとかしたのが功を奏している
もっとも今は町内会がバックについた議員が多い。町内会は無理矢理な廃校回避には若干懐疑的な節がある。廃校、退艦となるなら早めに話を決めておいてほしい、それが本音のようだ。要するに廃校を回避して仕舞えば問題ない
これだけの数のポスター、パネル、幟、拡声器。準備するだけでも大変だ。そしてこの宣伝、政党をバックにした議員が政党名を呼ぶことは、結果として各教室を選挙区とした選挙にも影響する。学生は学園艦に住んでるわけだしね
すなわち各党この都市での選挙活動に手を抜くわけにはいかない。そしてその時有利なのは、元々都市民との関係の強い公正会を取り込み、開校以来の歴史の中で選挙戦の経験を積み、議会第一党で資金力のある大洗フォーラムなのである
私も入学式、始業式以降3日間に渡る選挙戦では遊説にも行くし、応援演説にも入る。その間に別の仕事もあるけどね
そしてこの選挙戦にて、私は禁じ手の一つを発動しようとしていた
「ということで竹谷町長。市民議会選にて私と大洗フォーラムへの公認をいただきたい」
「我が党としても長年にわたり大洗町政を支えてこられた竹谷町長の公認を頂ければ、都市内での影響は計り知れません。こちらとしても都市内での町長及び近い町議会議員への支援はお約束します」
大洗町政と大洗女子学園市民議会の結託。これまで都市の自治の独立を宣言してきている以上、飛び地扱いとはいえ町政とは距離を取るのがしきたりだった。しかし学園存続は学園都市、大洗町ともに必要なことだ。そしてその方針を決めたのは生徒による政党。生徒の自治は乱していない
「悪くない」
皮の椅子に深く腰掛け、足を組んで話を聞いていた竹谷町長から聞けたのは、まずはそれだけだ
「角谷くんが色々と改革を進めているのは聞いているし、学園存続の為にも角谷くんと私たちは手を組むべきだ。戦車道再興も支持しているし、その試合会場としてこの大洗の町の登録を進めている」
「なら……」
「だが、フォーラムと組むメリットはあるのか?予算案の時に造反が出てガタガタに見えるのだが。そんな不安定なところに私を支持している議員を支持されると、逆にその不安定性が移って来かねん」
つまり自分の力だけで通せる。必要以上の繋がりはいらない、と
「それに必需品への補助金政策。あれも必要とは思えん。必要だから既に文房具屋とコンビニは進出しているし、そこらの間の競争で値段も本来は地上と大して変わらん。そこに補助金を出してさらに押し下げることに意味はあるのか?」
「ですから、この学園に来る学生の出自、生活環境は多様です。それらを問わず勉学を続けられる環境を提供する。それはこの都市が公立の学園都市であり、その与党である限り取るべき日本共通の善であると思案します」
白石ちゃんがハッキリと言い切った
「補助金額相当の引き下げをせず、差額分を取り込んで経営を保っている零細もあるという。そういうところはむしろ市民の学費、税金を恣意的に使っているとは言えんか?そういう店があるというのはこちらは把握済みだ。ただそちらの自治の意向を受けてこうして勧告だけに留めているがね」
「もちろん販売状況に関する精査は入れております。仮にそのようなことをしている店があるとしても、彼らもこの都市に住む住民です。そのような利用を止めるなら我が校としてこれ以上口を出すことではないかと」
あまり触れて深掘りして欲しくないんだよな、そこは。うん……
「こちらもそれを認めている政党だから不安だ、という意見もあるし、何より最近まで議会の1/3すら取れていなかった。それを市民の代表として町長の私が公認するのは無理がないか?」
「現在は1/3を超えております。そして得票率そのものは決して低くありません。今回の角谷会長と組むことにより、得票率の増加も見込めますし、市民議員は此方に近いものもいます。今よりは格段に議席数を増やせると見込んでおりますが」
「それはそちらの想定でしかないだろう?選挙は水物だ。結局開票結果が出るまで誰も結果は知らない。君たちだって選挙速報とかのニュースとかを見てる時に、当初の予想と違う議員が当選してるのを見るだろう」
フォーラムは都市の自治の独立を主張し、時に町からの要請にも反して政策を実行してきた。その距離感は私がいたところで拭えるものでもない。つまるところフォーラムが信頼されてないわけだ
私との関係だけなら一年だけだ。来年以降万が一政権与党が変わる事態になっても、政党と繋がってなければ新しい生徒会長支持に簡単に乗り換えられる
めんどいなら、妥協するだけだ
「それなら、この形ならどうです?」
一枚のメモ用紙を我々の間にある机に置いて、簡単に大きく四角形を描いた
「これを選挙ポスターだと思ってください。まず候補者の写真を載せて……その右下に私の写真と私が推薦していることを書きます」
「ふむ、普通だな」
「そして『私の写真の下に』竹谷町長推薦を書きます。つまり竹谷町長が推薦しているのは私、その体裁を取るならいかがです?」
来年以降万が一があるなら、向こうは生徒会長の写真と政党名を変えて別で作ればいい。フォーラムと町長の仲立ちが私、となれば向こうにも受け入れやすいと思う
「……だめだ。今回の選挙でそれは認めん」
ううむ、手厳しいな。やはりフォーラムを絡めるのは厳しくなるのか……
その後も交渉は進めてみたが、先ほどの案が拒絶された以上、フォーラムのポスターに町長の名前を載せるのは許されない。そうじゃないなら、この選挙での意味はない
それなら、もう一つの禁じ手を使って勝ち筋を作るのみだ
4月5日、始業式及び入学式。午前に始業式、午後に入学式の日程が取られる。今年度も無事倍率は1.03と辛うじて1を超えていた。正式に不合格を出した人数は全学科合わせて92人しかいない。もともとは1.4くらいあったのだが、廃校の話を受けて結局辞めるという人が多く出たのだ
そして今回入学している人の中にも、一年生のうちでより良い成績を取ることで廃校後の割り当てでさらに上を目指そうとしている者もいるだろう
だがその願いは挫かねばなるまい。私は彼女らに6年間で多くのことを学び、感じ、そして表現していってください、と挨拶した。親御さんもいる前でだ。彼らも巻き込んでやるしかない
私も今日から高校3年生。泣いても笑っても最後の一年になる。そしてそれは猛烈な誹謗中傷から幕を開けた
「この戦いは大洗女子学園、この足元にある学園艦を守るのか、捨てるのか、それを本当に選ぶものでございます!あちらの〇〇は学園の誇りを取り戻すことに反対し、廃校準備校指定についても、受け入れ及び退艦へ準備せよと言ってやがるのでございます!
この愛校精神への反逆!設立以降の伝統の放棄を堂々と宣う者に、学園都市の未来を託してはなりません!廃校回避学園都市の維持はなされるべきであり、この危機を目の前にして、我々は都市を挙げて団結して立ち向かわねばならないのです!それが廃校準備校指定に対する非難決議を真に実行することなのです!
口では最早止まらない。やらねば、やらねばならないのです!
どうか大洗学園フォーラムの◻︎◻︎!◻︎◻︎に清き一票をお願いいたします!」
「皆さんも考えてみてください!期限は来年なのです!一年後には国からここから出ねばならないと通達を受けているのです!最早それは眼前の事実であります!
角谷会長は廃校回避廃校回避と壊れたレコードのように繰り返しておりますが、果たしてそんなことをひっくり返せるのですか!
国と争い、戦車道とやらに誇りだからなんだと金を注ぎ込み、そして乱して乱しまくった挙句のうのうと来年卒業しようとしてる!あの軽々しい口に騙されてはなりません!
無所属の〇〇、〇〇に清きでも汚なきでも構いません!あなたの一票をよろしくお願い致します!」
「事ここに至って頼るべきはどこか!それは偉大なる同志のいるプラウダ学園にございます!我が校が生き残るには、国との対立は避けられぬことは皆さんも承知のはずです!ならばこの国の暴虐には学園都市で力を合わせ対峙するほかありません!
ならばその盟主たるのは、学園都市最大規模にして国への抵抗を主張するプラウダ学園以外にないのでございます!そしてその各都市共和発展の指針に向け、我々も足並みを揃える時が来たのでございます!
どうか人民による大洗の議員候補に投票をよろしくお願いします!」
「民主主義は堅持されるべきでございます!このままフォーラムに安定議席を渡してしまっては、その先は角谷政権独裁の道でございます!そしてその先にあるのは学園都市の経済拡大に目を向けないフォーラムの方針の完全な履行です
仮に廃校を回避できても、それではまた同じことの繰り返しでしかありません!必ずや、その不安定性によってトドメを刺されるでしょう!
それは止めねばならない!企業を呼び、産業育成を為して始めて、この大洗女子学園学園都市は未来まで安定するのでございます!
どうか新大洗クラブ、新大洗クラブに清き一票をお願いします!」
「こんな選挙は無駄だ!こんな選挙は滅ぼせ!政治に頼ったってなんっにも変わりはしないんだよ!」
「え〜、全世界学園都市経済共同体とは……唯一神△△の名において……その威光の下に全ての学園都市を参画させ……」
後半はどうだっていい。ここで出てきた無所属議員、ついこの前まではフォーラムの議員だったのだ。ならばその彼女を非難している彼女は?
私が送り込んだ刺客だ
白石ちゃんに近い人が要職を、それも選挙対策課を抑えていたのが効いた。党に対する造反を理由に、予算案に反対した議員の公認を取り消したのだ。そして党員からアンケートを取って刺客となる候補を決めていった
内部分裂そのものだが、今なら勝てる。これで勝つのだ。学園都市は廃校回避に向けて一枚岩にならねばならない