作:いのかしら

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第21話 批判的精神

 

 

 

私も遊説に立ったりする日々が続く。朝は学校に先に来てから荷物を置いて学校の前で演説。授業を受け終礼をダッシュで抜け出してタスキをかけ、通学路の帰り道に立つ。それが終わったら今度は自転車に乗って町巡りだ

車は一台借りるのが精一杯だったようで、日中から選挙活動ができる市民議員の支援を優先する。私も合流したら車の上に立ってまたまた演説だ。それを夜8時、制限時間のギリギリまで続けるのだ

 

市民からの反応は悪くない。そこは市民議員の創設がいい感じに働いているのだろう。ここで働いている人たちからの支持はほぼ完璧に近い

そして帰りがけの生徒の反応は、市民ほどではないがある程度ある。もっとも私の演説なんて式典関連で見飽きて聞き飽きている、といった風に通り過ぎる生徒も多いけどね

 

 

そしてそんな最中、2日目の放課後では必修選択科目の追加科目、戦車道のガイダンスが行われた。読み上げ担当は小山だから、私は生徒の反応を見ながら干し芋をつまむ

 

「戦車道……それは健全な婦女子を育成し、世に役立つ人物を送り出す為の、伝統的なスポーツです。乙女の目指すべきは自己鍛錬と相手への敬意、そして照準器の先に見据えた己の心なのです……」

 

この資料は生徒会で作ったもので、戦車道連盟にも協力してもらったものだ。なんか参考になるものはないか、とお願いしたところ、ちょっと前に作った宣伝用のビデオを送ってきたので、内容を削って初心者が見たらめっちゃくっちゃ伝統のあるまともなスポーツに見えるようにした

現実?西住流と島田流って名前が付いてて、かつ西住ちゃんみたいな存在が生まれる世界だ

 

なぁに、嘘はついてないよ、嘘は。仮にそんなスポーツなんだと思ったら、君たちの知識不足と騙されるだけの解釈する力の無さを恨むがいい。むしろ批判的精神を養った方がいいんじゃないかい?

現実を知ったところで単位と引き換えなら手を切るのはそうやすやすとはいかないさ。戦車道を履修している人を減らすわけにはいかないからね

そしておまけに小山からは遅刻見逃しとか食堂優待券、単位数爆高を含む戦車道履修のボーナスを通達した。そしたら本当に分かりやすいね。場の空気がパアッとこちらに傾いた。一人暮らしの人も多いから、その人たちにとっちゃ食費が抑えられるだけでもメリットは大きいしね。そしてこっちに流れてくるのさ

 

 

その後必修選択科目の紙が高校の各クラスに配られた。無論戦車道だけ一番でっかくしてある。いかにもこれにチェックを入れろ、といった感じだ

そして次の日の休み時間、まだ期限は来てないからおそらく科目を決めてはいるまい。そこら辺は優柔不断なところがあると黒森峰からの説明にもあったしね。西住ちゃんのいる普通科2年の教室に小山とかーしまを連れて向かう

 

「なぁ、かーしま」

 

「どうしました?」

 

「抜かるなよ」

 

「は、はい」

 

役割は分担済み。かーしまはその見た目と背の高さ、そして口調で西住ちゃんを直接威圧する役目だ。それを実行する場に立ち入る。中には生徒が多くおり、私を見て口々に小声で話している。誰に、何の用か。主にそんなことのようだ

そして目的の人は、2人ほどの他の少女と話しながら、その真ん中にいた

 

「やぁ、西住ちゃ〜ん」

 

「は、はい!」

 

「ちょっと廊下に来てもらおうか」

 

 

「あ、あの、一体何の……」

 

「必修選択科目なんだけどさ、戦車道、やってくんない?」

 

 

 

念押しはそれで済ませて2日後の4月8日、選挙の投開票日だ。だが学生も午前中だけ学校に来てクラスごとに投票を行っていく

 

そして一般投票も並行して行われ、体育館には朝から箱の中身を覗こうとする人たちが並び、投票が行われていった。私もクラスで投票を済ませた

 

 

19時50分、私は白石ちゃんらフォーラムの政権幹部、そして公認候補者らとともに、校内の大教室を借りてテレビをつけていた。茨城には県営放送はないのだが、代わりにNHK水戸放送局が開票結果を速報してくれる。何かしらの動物番組が流れているが、明日になって何の動物についてやっていたかを覚えているものはいるまい

 

「……どう見てる?」

 

「感触は悪くありません。他の党が地盤とするところでも、2番手には結構食い込めている印象です」

 

隣にいるのは選挙対策課の松本ちゃんだ。今回の刺客の選抜、擁立に協力してくれている白石ちゃんの腹心だ。こういうところを廃校回避派で占められているのは大きなプラスだ

 

「あとは……クラス両議席確保がどれだけできるかと、市民議員の数次第だね……」

 

「クラブの戦車道支持派と合わされば過半数は容易でしょう。しかし問題は……」

 

「フォーラムの単独過半数」

 

「そこに関しては何とも言えない状況です。複数擁立したばかりに、そこに割ってクラブや人民とかが入ってくる可能性もあります。話は分かっていますが、その弊害だけはどうにも……」

 

「人民ねぇ……」

 

革命派が党の議会での躍進により勢いを失ってくれればまだマシかな

 

単独過半数。それがあればこの先かなり楽になるし、総合局は生徒会一の閑職になるだろう

 

「プラウダがウチに手を伸ばしてくるとは思えませんし、そこまで気にしなくてよろしいのでは?」

 

「でも一応ね……国との争いが消耗戦と化してきそうなら、ちょっと警戒がいるかもね」

 

「なるほど。クラブを通じてサンダースがなんたらという話も聞きませんし、大丈夫だとは思いますけどね」

 

「角谷会長!」

 

そんな話の最中、奥の扉を開けるが早いがこちらにダッシュで駆け寄りつつ口を挟んで来たのは、新聞部の王とかいった子である

 

「新聞部の王大河です。間も無く開票開始となりますが、ご自身としてこの選挙、どのように考えていらっしゃいますか?」

 

「私の生徒会長としての行政の1/4における評価であるも考えております。アメリカの大統領の評価も最初の一年が肝と申しますし

この結果が廃校回避を志向することへの市民、学生の皆様方の判断だと受け止める所存です」

 

「ありがとうございます。松本選挙対策課課長。この選挙における目標などは設定なさっておられるのですか?」

 

「そうですね。フォーラムは廃校回避を目標にされる角谷会長をサポートする立場におりますゆえ、それを支えられるメンバーにて過半数を目指しております。その後は学園都市行政の改革および適切な遂行に力を尽くしてまいります」

 

「ありがとうございます。以上、大洗学園フォーラムの幹部の皆様のおられる505教室よりお伝えいたしました!」

 

そしてサッと後ろに下がっていった。待つのは彼女らも同じ、20時である

 

 

「30秒前……」

 

時間が近づいてくると、どこからかカウントダウンが始まる。楽しみであり、不安である時が徐々に近づいてくる

 

「20秒前……」

 

私の道が正義となるか。それが市民によって示される時だ。やるべきことはやった。だがそれでも不安と恐怖は拭いきれない

 

「10秒前、9、8、7、6、」

 

むしろ早く来て欲しい気持ちすらある

 

「5、4、3、2、」

 

私の頬を、汗がつたう

 

「1、0!」

 

『NHKニュース速報』

 

まずはそれの存在を伝える音と点滅からだ。唾を飲み込む

 

 

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