作:いのかしら

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第22話 確実に

 

 

『大洗女子学園学園都市、市民議会選挙速報

大洗学園フォーラム、過半数獲得か。角谷会長の送った「刺客」も多数当選確実』

 

「おおおおおおおお!」

 

「いよっしゃぁぁぁ!」

 

画面の一番上に現れた文字に、歓喜が応じた

 

そしてネット上にはすぐに開票状況および当選確実の情報が出ていた

 

大洗学園フォーラム 347

新大洗クラブ 129

職人連合組合 40

人民による大洗 39

学生自治権党 18

無所属 102

 

未確定 125

 

「よーしよしよし」

 

その画面を覗き込んだ松本ちゃんも満足げだ。この議席獲得数で未確定が分け与えられれば、フォーラムは過半数獲得だ。旧町内会系の離反しそうな奴も切ったからちょいと無所属が思ったよりかは増えそうだが、何よりクラブが退潮しているのが効いたな

 

「まだ未確定があるから確定じゃないぞ」

 

まだ慢心を避ける言葉は出るが、黒板に貼り付けた候補者一覧にはどんどん名前の上に赤丸が付けられていく。そしてそれが10人くらいまとまって壇上に上がり、周りからの万歳三唱に合わせて頭を下げる

 

「普通一科高校2年12組組高林町江さん、当選確実!」

 

「水産科高校1年2組大船渡霞さん、当選確実!」

 

「普通一科中学3年7組永田咲希さん、当選確実!」

 

「ばんざーい!ばんざーい!ばんざーい!」

 

クラスによっては刺客と旧フォーラムの無所属が張り合う形になっているようだ。二番手に食い込む形もしっかりできているし、二番手や落選だと予想していたところで優勢なところもあるようだ

 

「中一の情勢はどう?」

 

「無所属が他学年より多めなのは避けられませんでした。しかし小学校の伝手を使わせて中一を少々取り込んだだけあり、例年より政党への得票が多く、フォーラムが議席を多く獲得できそうです」

 

学園の危機を知りながら入ったもの達。即座に廃校からの放逐とはなりたくないか

 

「市民議員の方は?」

 

「公正会を取り込んだのが功を奏しましたね。確定で10議席です。残り30議席以上未確定ですからいい感じですが、情勢についてはそれ以上はなんとも……」

 

よしよし

 

「市民議員の方の混乱は?」

 

「町議会の延長として選管も同様の処置で処理したようです。開票開始も3ヶ所全てで開始されてます!」

 

大成功、だろうね。今のところは

 

 

 

 

翌日早朝、ついに全ての確認作業が終了した。各クラス、各選挙区での各候補の得票数が決定され、選挙管理委員会より正式な当選者、落選者の発表がなされた

 

 

無所属 123

 

人民による大洗 51

 

職人連合組合 46

 

学生自治権党 29

 

新大洗クラブ 149

 

 

 

そして

 

大洗学園フォーラム 402

 

 

思ったよりギリギリであったが、大洗学園フォーラム、単独過半数獲得である

 

「やりましたね、角谷会長」

 

一晩をここの教室で過ごしていて、片付けを急ピッチで進める中、白石ちゃんが話を向けてきた

 

「一応、ね。問題はこの402人が完全に一致しているか」

 

「大丈夫だとは思いますよ。こうして結果としても出てきたわけですし。刺客の対戦成績も15勝3敗13分。少なくとも角谷会長の方針が妨害されることはないかと」

 

「だけど数人離反されたら単独過半数はあっという間におしまいだ。動きは注視してよ」

 

「了解です」

 

私の指示に了解です、か。本当にできるとは思っていなかったが、やっと……フォーラムは私に従った

 

 

だが世の中そうもうまく回らないもので、良いことがあれば悪いこともある。寝不足のせいかあまり食欲もないので眠気覚ましに栄養ドリンクを流し込みながら、昼休みも生徒会長室でここ一週間のちょっと溜まった書類に印鑑を押していた。それを初めて間も無く、かーしまがいきなり飛び込んできた

 

「会長!」

 

「なんだかーしま、そんな大声で。一旦落ち着け」

 

こーいう時、かーしまはまず一度落ち着かせればだいたいまともに話してくれる

 

「は、はい。申し訳ありません。とりあえずこちらをご覧いただければお分かりになるかと……」

 

そう言って手持ちの紙を書類を避けて机の上に置いた

 

「ん?これは……」

 

 

「これはどういうことだ?」

 

「どうしてこうなるかねぇ……」

 

昼休み。今日が月曜日なんで必修選択科目の希望の提出は今日だ。そして彼女はその日の朝、ちゃんと提出してきた

 

ハッキリ言って西住ちゃんがこの内容を提出するのは想定済みだ。経緯を考えればある意味当然とすら言える。だが問題は彼女にオマケが二人ついてきたことだ

入り口で呼び出したのは西住ちゃんだけだから二人の立ち入りは認めない、と言ったようだが、その制止も聞かずズカズカと踏み入ってきたらしい

 

名前は五十鈴華と武部沙織。普通科の高校二年生で、西住ちゃんと同じクラスだ。五十鈴という子が黒髪、武部という子は茶髪だ。入ってきて顔を見て思い出したが、私たちが教室に入った時に西住ちゃんの両脇にいたな、そういえば

 

「すみません……私、戦車道はできません……」

 

出来る出来ないではない。やってもらわねばならないのだ

 

「貴様は私たちからの話は聞いていなかったのか?できないわけがないだろう」

 

「みほはやらないって言ってるのよ!」

 

「強制するのが生徒会のやり方なのですか!」

 

ウザいね、この二人。私たちの邪魔をするか

 

「そんなこと言っていいのかな〜。そんなこと言っていると、三人ともこの学校にいられなくなっちゃうよ〜」

 

間違いない。西住ちゃんがいないということは、戦車道は烏合の集だ。優勝なんて夢のまた夢。そしたら学園は廃校だ。三人ともこの学園には通えなくなる

もっとも、その意味でこの三人は捉えていないだろうけど

 

「脅しですか……」

 

「脅しではない。会長は常に最善の方法を言っていらっしゃるだけだ」

 

「ねね、やった方がいいと思うよ。会長もやるならそんなこと言わないからさ。これ以上面倒なことにならないうちに……」

 

物腰柔らかく小山が加勢する。さて、木刀の後に洗濯バサミだ。キツイがマシに思えてくるだろう?

 

「やらせること自体が間違いなのよ!」

 

「そこに生徒会が介入する道理はありません!」

 

抵抗しているのは周り二人だね。核心部は揺らいでいるな。さて、どうするか。もう一押し何かあればいいな

廃校の事情は……伝えたら尚更やらないね。だからパス。今から風紀委員を呼んで二人を追い出すか

それだね。私の言っていることが勘違いのまま進むようにしようか。彼女らには悪いが、これが私の役割なんでね

 

取り巻きの対応は二人に任せ、私は机の下のケータイから園ちゃんにブラインドタッチでメールを送る。内容はそのまま生徒会長室の不届き者を追い出せだ

 

そのメールの送信ボタンに指をかけた

 

 

その時だった

 

「あのっ!」

 

奥のこの問題の中心が、取り巻きの手を両手それぞれで繋ぎながら、久しぶりに声をあげた

 

何だろうか。結果それでもやらないと言い出すんだろ

 

そう思っていたし、もう親指に力を入れていた

 

「私、戦車道、やります!」

 

だからこの言葉が耳に入った途端、私を含め周りの全員が一瞬呆気にとられた

 

「ええええっ!」

 

その中でも反応が早かったのが武部という子である。私もそれでことの進展を理解し、笑顔でうなづいた

 

こうして、道はできた。やると決まれば話は早い。頼むよと一言と紙の書き直しと前の紙をシュレッダーにかければ全て済むし、普通に返した。そしてついでと取り巻きの二人も希望を戦車道に変えていった。人はいるだけ損はない

 

 

三人を返して少しして、園ちゃんに続いておかっぱ数人が生徒会長室に突入してきた

 

「……あれ?」

 

だがこの部屋にいるのは、干し芋を食べている私だけだ。かーしまも小山もそれぞれの仕事に当たっている

 

「角谷会長……これはどういうことかしら?」

 

「いや〜ごめんね。さっきまで不届き者は居たんだけどさ、もうそうなくなっちゃったから返しちゃったんだよね」

 

「……はぁ」

 

その通りなのだから致し方ない

 

「でもここにそのまま来てもらったからには要件が一つあってね。ちょっといいかい?」

 

「……何かしら」

 

相手がいなければ連れ出す仕事はない。捕獲用の棒を置いて園ちゃんはこっちに来た

 

彼女に二枚の紙を手渡す

 

「二人……ウチの学生ね」

 

「その二人の背後関係、漁ってくれない?」

 

「……理由は?」

 

「……可能性の話だけど、国、文科省とつながっているかもしれない」

 

自分の学園の生徒を疑う真似だ。だが……疑って何もないなら良し、何かあったら見つけた方が良しだ

 

「文科省と……廃校を進めようとしているところね」

 

「そう。彼らからしたら私たちが戦車道で何かしら実績を残したら問題になるだろう?」

 

「そうね。実績の度合いにもよるけど、本格的に廃校にしようとするなら問題になるでしょうね。実績を出したのに何でだ、と」

 

「世論が動く。私だって戦車道を誇りだけのために立ち上げたわけじゃない」

 

「実績の可能性を広げるためね。あれだけ廃校回避というなら、理由はそれしかないわ」

 

「その実績のためには、彼女が必要だった」

 

ここで紙をもう一枚

 

「西住みほ……黒森峰からの転校生で、現在普通一科の高二……私立から公立だし、時期も時期とは変な転入生ね」

 

「私が呼んだんだよ。戦車道の強化のためにね。だけど彼女は戦車道をやりたがらないだろうとは思ってた」

 

「……あの話の不届き者って彼女らのことかしら?」

 

「結論を言えばそう。西住ちゃんに加勢して戦車道をやらせないように言って、ついさっきまでここに来てた」

 

「……その二人と西住ちゃんの個人的な繋がりの線は?」

 

「クラスが一緒とはいえ、西住ちゃんがその二人と会ってから学校に来る日は何回あった?」

 

「始業式にレクリエーション、そして金曜日と今日……多く見ても4回ね」

 

「それだけで来る?」

 

可能性はある。だがそれがない可能性もまた然り

 

「……あの二人が西住さんの背中を押してやらせないように仕向けた、と」

 

「そう見てる。もともとやりたくなかった西住ちゃんはその二人によって一旦は戦車道をやらないと決めた。だけど生徒会としてはそれは困る。だから呼び出して何とか説得したよ。その二人は邪魔ばっかしてきたけど」

 

「そういうことね……」

 

「西住ちゃんが戦車道をやらないことでメリットがあるのは誰か。一つは西住流だ」

 

「西住流……戦車道の流派で、この紙によるとその次期家元が彼女の母、と」

 

「そう。西住ちゃんの姉が今西住流の後継者だ。西住流がその姉ちゃんの地位を絶対のものにするために西住ちゃんの経験値を削ごうとする。考えられない話じゃない」

 

「ふむ……探るだけ探ってみるかしら」

 

「その五十鈴って子は今度は華道の五十鈴流の後継者だ。華道と戦車道。伝統ある流派の家元同士、伝手があってもおかしくない。でも私はこちらの可能性は弱いと思うけどね」

 

ま、去年の夏の西住ちゃんのやった事とそれに対する西住流と黒森峰の対応を考えればね

 

「それを調べるならその線ね。もう一つは文科省が彼女らを使っていると」

 

「そう。西住ちゃんに戦車道履修を拒否させて、それをサポートしてウチらに拒否を認めさせる。現にその直前までわざわざ西住ちゃんの手を繋いで来てるわけだしね」

 

「考えられなくはないわね」

 

「そして気になるのが、西住ちゃんが履修を決めた後、二人も戦車道履修に変えた事なんだ。どういうことか推測つくかい?」

 

「……最悪の場合だと、戦車道の授業を荒らす、または試合の本番で味方を混乱させるような事をする。そこら辺が目的の可能性もあると」

 

「仮に文科省の策ならね。人数はいるだけ損はないし、来る人を拒否する表向きの理由が今はないから受け入れたけど、監視と背後は洗っといて」

 

「わかったわ。でも、もう二度とこんな煩わしい手段は使わないでちょうだい」

 

「わかってるって」

 

さて、黒と出るか白と出るか。それは分からない。疑って調べさせるなら、私も私でちょっと声だけかけてみようか

 

 

その日の夜、私は辻氏に一本のメールを入れた

 

『あなたの敵に警戒されたし』

 

と一言だけだけど。もっとも向こうにとっちゃ余計なお世話かもしれないが

 

 


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