そして蝶野氏が来る時が来た。皆も自動車部経由で追加で貰った説明書を元に、少しずつ乗り方、撃ち方などを見様見真似で進められる程度にはなってきた頃だった。流石に先生呼んでんのに戦車に乗れない、砲弾撃てないじゃ話にならないしね
私は干し芋食べるだけで何もしていないけど
で、件の彼女なのだが、なんでも空から直接来るとか言ってきた。ウチの校舎の近くに大型のヘリポートはないですよ、とは伝えたのだが、問題ないわとの一言だった
結論、問題あった
普通に問題あった
空から降ってきた自衛隊の10式は、学園長の宝物のフェラーリを粉砕しながら駐車場に着陸してきたのだ。しかも跳ね飛ばした後にご丁寧に轢き潰してまで
その時は豪快だねぇ、で済ませた私だが、流石に後で自衛隊に賠償請求しておいた
そしてまぁ連盟が彼女を送ってきたのもよくわかる。だってみんなに指導した事っていったらドーンと撃ってバーンと撃破すればいい、それだけだ。何言ってんだ?分かるわけないじゃん
それに撃破率120%って何だよ。残り20%何を撃破したんだよ……審判車輌か?という、豪快すぎてネジが数本飛んでる人間だったのだ。ただものではない、というのに間違いはないんだけどさ
で、やったのは紅白戦。というか全員敵、生き残った者が勝ちというバトルロワイヤルだったのだ。わかりやすいし、車輌も奇数だから単純な紅白戦にはできないので妥当ではある
弾薬消費が気になるが、せっかく教官もいるしまぁいいか。金を恐れて学園がなくなるんじゃ意味がないし
会場は隣の練習場。蝶野氏は上の見張り台から観戦なさるようだ
彼女の合図とともにグラウンドに向かわされて、訳もわからぬままに試合開始となった
試合は試合だが、これで勝つためにやることは一つだろう
西住ちゃんをぶっ潰す
残り4輌で手を組んでIV号を袋叩きにする。私は西住ちゃんの強さを聞きまくっていたからそう他に提案すると、蝶野さんが挨拶の時に西住ちゃんを持ち上げてたからか残り3輌も二つ返事で乗ってきた
個人では勝てない、ならば包囲網で叩くのみよ
私は正直楽観的だった。西住ちゃんがいるとはいえ、4人中1人だけだ。残り3人は素人同然。平均を考えれば勝てない戦ではない、そう踏んでいた
しかし森で仕掛けた同時奇襲は突破され、橋の上でIII突が命中させて足止めしたはいいものの、そこから体勢を戻されてからの4輌での突撃はぜーんぶあっという間に撃破された。かーしまにも撃たせたけど外したね
西住ちゃんは装填手だって聞いてたんだけど、これは車長変わったかな。だとしたら砲手は誰だ?あの橋の上で動いてないとはいえ、一発も外さずに4連発当てるとはなかなかの腕だ
それと当てられた後の復帰も見事だったな。あのIV号に乗っているメンバー、思ったよりもヤバいんじゃないの……
その練習で西住ちゃんの腕を目の当たりにした私たちだが、蝶野氏は練習の最後に単にグッジョブベリーナイスとかいう訳のわかんないことを言って帰っていった。やはり面倒な人間に適当に押し付けてった仕事だったというのはそんなに間違った理解でもなさそうだ
さてその日の燃料消費量と砲弾消費量を計算している中で、かーしまが蝶野氏から戦車道の指導法について学んだと知った
直談判したらウチの現状についてなども結構正直に話してくれたらしい。1輌1輌の問題点なども結構詳細に纏められてた。私はさらっとだけ読んで二人に渡したけど
正直も何もまずは動かし方と撃ち方の基本とかからで、そこからどのようにレベルアップし、そのレベルアップの段階に合わせてどのように練習も質を高めていくべきか。そんな将来像に関しても教えてくださったそうな
一応あの教官からだから、試しにメモった紙をコピーして西住ちゃんに見せてみた。要するに本当に合っているのか現場を経験した人に教えてもらいに行ったのだ
そしたらほぼそのままでいいだろう、とのことだった。黒森峰で取り入れているものと同様なものも実際にあるらしい。あの黒森峰もやっているなら、と私はこの先も練習はかーしまに一任すると決めた
あの教官、見ているところは見ているんだな。我々も戦車道を利用する以上、そっちに伝手はあるに越したことはない。今後も連絡取れたら取ってみるか
そこから仲間も一人増えた中で、皆の多少なりとも練習への対応は変わった。西住ちゃんの強さを目の当たりにしたがゆえに、自分たちも横に並ぶに不足のないようにしなくてはならない。そういうムードをかーしまが他の車長に伝えて説得していった
西住ちゃんは転校生だったけど、この場じゃ車輌の垣根さえ越えればほぼ初対面。その中で西住ちゃんが受け入れられていたのがここで効いていた
戦車道の視界はまだマシになってきた。このまま全体が引き上げられれば、聖グロとも少しはまともに戦えるだろう
5月11日、『学内情報教育環境整備条例』を大洗学園フォーラム、学生自治権党の賛成により可決。また改革の意志を示すものの一つだ
将来的にウチらも電子機器を使って授業するとか、プログラミングとかを授業に取り入れるとかは可能性あるからね。その下準備を早めに進めることを取り決めた条例だ。もっとも環境整備する金もないけど
その翌々週の5月25日には『教員学生連携研究支援条例』をフォーラムと一部無所属の賛成多数で可決。今度は辻さんから聞いた深海魚養殖研究の拡充をサンプルに、今後も教員と生徒の連携による学術研究に対する生徒会からの支援を決めたものだ。これはウチの金の割り当てだけでできるから、今からでも何とかならなくもないしね
こうして法案をバンバン市民議会に提出できているのは、総合局の人数減らせた分を学園課学園事務局の人員に回せたのが大きい。だいたいフォーラムとのやり取りは私が付けば通せるしね。これが選挙の力
そしてこの内容も市民向けに校内宣伝局から流している。それで仕事をしている様を見せることが市民を一番安心させるのだ
それと今後競合と当たる中で、外交面から探りを入れていきたいね。こちらはバックグラウンドとかそういう立派なものではなく、単にお茶友達の延長くらいでいいのだが
伝手があるとすればクラブからサンダースと人民からプラウダ、か。黒森峰は元々いた西住ちゃんがいるからいいとして、あと他は……当たったら考えればいいか
ということでクラブの鴨崎ちゃん、ではなくその後を継いだ丘珠ちゃんを呼び出した。内部から造反を生んだだけでなく選挙で惨敗したから、党内から弾劾くらったんだってさ
一応合意の継承は済んでるから、戦車道についてや将来的な指針に関しては問題ない。だが私に協力するかは別だ
「ということでさ、サンダースのどっかと伝手ない?」
「表立って協力できるわけないですよ」
「いやいや、別に誰かに引き合わせてくれればいいさ。戦車道での繋がりをちょいと作りたいだけだし
そこに繋がりがあった方が今後の外交有利になるし、直近なら試合で相手の思考を読みやすくなる」
「だとしたら……それは貴女も同様では?」
「私は戦車道の実務にはほとんど関与してないからね。私からわかることなんてないさ。名目も学園都市同士の交流。そこで向こうが漏らせばメリットは大きいさ」
「ふむ。我々としても我が校とサンダースの関係が親密になるのは悪い話ではありませんし、最近の我が党との関係を見れば我々から話を斡旋するというのも的外れではありませんね……
現地に行くことなく連絡の仲介なら持ちましょう。生徒会長と学園長の近くならなんとかなります。それで戦車道……となると、ケイ氏ですか」
「ケイ?」
「戦車道の隊長さんですね。あまり詳しくは存じませんが、快活な方というのは間違いないようです」
「ふーん……じゃあその生徒会長と学園長に私から出向いて会えるようにしてもらっていい?」
「承知です」
戦車道の練習も進み、何とか質を少しずつ高めていっている中で、各車輌のチーム名が付いた。私たちはカメさんチームだそうな。ま、私がグータラしている様からってのもあるのかな?
他のチームもアヒルさんだのウサギさんだの名前がついていったので、車輌の名前で呼び合ってた時よりも少し車輌間の壁が低くなった気もするね
そして月末、5月27日,学園艦は少々の航海を経て、再び母港の大洗の近くまで来た。もっともまだ接岸はできないんだけど
そしてその脇にはウチよりも数倍大きな学園艦がピッタリとつけていた
聖グロリアーナ女学院だ
大きさも人口も比べ物にならない。おまけにその生徒の学力面での質と文化面から経済力も段違いだ。私立のお嬢様学校故に学費を高めにしても文句でないし、その分戦車道にも金を割ける。近年ベスト4に入っているのは、単に戦車道が強いからだけではないのだ
だからウチは将来的には無理なのだ。戦車道キチの黒森峰みたいになってでも勝ち続けるのは不可能だろう
私は戦車の運搬や審判団の招待などの手続きをかーしまと小山などの生徒会の者に任せ、私は先に朝早くから町役場へと赴いた
竹谷氏も試合会場に近いこの町役場を離れて北の方に向かうので、その車に同乗する形となる。名目上は場所を借りたことへの感謝だ
試合開始は午前10時。終わり時間に制限はないが、互いに5輌同士で戦うので殲滅戦とはいえそこまで長期戦にはならないだろう。こちらは体力強化の面ではまだまだだ。夏に向けてやらねばならないだろうが、現状では太刀打ちできない
「朝早くからすまないね、角谷くん」
「いえ、そのお言葉は私の方からお伝えするべきかと」
「なぁにこの町を試合会場になるのは考えていた通りじゃないか。これで区画整理もやりやするなるぞ。観光需要も湧くし」
「その需要はどんなものなんですか?」
「東京からも多少はあるだろうが、水戸からの観光が大きいだろうな。町民を連れて来れるからこちら次第で動員人数も水増しできるし、そしたれその人数を徹底的に喧伝できる。首都圏で沿岸でできる試合会場として今後売り込んでもいいな」
「房総地域との競争になりますが、北から来る船相手なら悪くないかもしれませんね。だとすれば私たちは市街地を巻き込むようにすればいいわけですね」
「そうしてくれた方がいい。なぁに試合会場内だ。遠慮はいらんよ。しかし市街戦は連盟嫌うようだな。今回も5対5だから許してくださったという面があるし」
「連盟としても補償金もタダではすまないでしょうしね」
そう。私たちは市街地に向かい、そしてそこで試合をしなくてはならない。そうした方が町にとって利益なのだからやるしかない
だから私はかーしまがだした作戦案を認める方向に会議で話を進めた。西住ちゃんが言ってきたことに関しては話の流れの中で有耶無耶にした。一応言わせたのは私だけど。ただしかーしまがそこでブチ切れたのはあれはかーしまの素だ
ま、お陰で西住ちゃんが萎縮して話を進めやすくなったのはその通りだ。そしてあとは、かーしまの作戦が失敗した後、市街地に誘導できるかどうか……そこで対外的な西住ちゃんの腕を見せてもらおうか
「しかしまぁ、君らにとっても重要なんだろう?この試合は」
「……この段階で命運がかかっていると言われても過言ではない程度には、ですが」
「はっはっは、結構重大じゃないか。だったら私たちも本腰入れて応援せねばならんよなぁ」
「こちらとしてもありがたい限りです」
試合会場をここにしたのには、我々としても大きなメリットがある。我々には私みたいな大洗の町出身の者が多いし、寄港できないとはいえ結構な頻度で大洗の沖合には乗り付ける。町の中を知る者が多いのだ
市街戦ならその効果は高い。だから竹谷氏との取引抜きにしても、市街戦に持ち込むメリットは大きいのだ
そしてこの試合は結果を残さねばならない。フォーラムが戦車道を支持してくれているのは、それが学園を残す最善の道だと理解したからだ。だがここで惨敗なんて喫すれば最善とは思わなくなってしまう
完全に私から離反するとは思えないが、少なくとも他の案を出してきたりするだろう。私はそちらにも時間を割かれることになってしまう
会場にはすでに一部町民が避難を開始しており、パブリックビューイング用のでっかい電光掲示板も用意されて、連盟の人が接続と表示をしきりに確認していた
誘導する風紀委員の姿を確認したら私の案内は終わりだ。私は一つ目の戦場に赴かねばならない
竹谷氏に奮闘を祈願された後、先程の車に乗り中心街の西部にある台地に向かう。そこから試合が始まるのだ
だが救いなのはこの試合は戦いぶり次第というところか。まだ負けてもセーフなんだよね
勝つのは厳しいだろうけど、負けるために戦う気はないよ