作:いのかしら

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第26話 K

 

 

こうして大洗女子学園の久しぶりの試合は一定の成功をおさめた。まず大きいのは、大洗がベスト4に入り得る聖グロという強豪相手に健闘できたという事実だ。優勝からは一歩遅れをとっているとはいえ、ウチらはガチのかき集め。西住ちゃんという頭がいたから、というのが大きいとはいえ、それでも健闘は健闘だ

 

フォーラムの白石ちゃんはこの結果に対し即座にそれを讃える声明を発表。こちらに対しては戦車道の存続を学園廃校回避の唯一の手段として認め、その育成に貢献するということを内密に伝えてきた

これにより表立って戦車道を奨励することが可能になった

 

そして町からの反応も上々だ。町を会場にすることで観光利益の増大はある一定は見込めることが判明し、連盟からの補償金が出る以上町からはそこまで大きな支出も必要ないとのことで、今後も受け入れていく方針を示した。再建できる業者が見つかれば、という問題こそあるが、概ね良い感じだ

ウチらが多少なりとも市街地を巻き込んだおかげで、沿岸部まで建設予定の道路の予定地も掃けたみたいだし。ま、巻き込みが足りないって話もあったけど、そもそも5vs5だったのだ。それ以上はうさぎさんチームでもとっちめて言ってくれ

 

 

そして戦車道のチーム内でもこの敗北は大きな意味を持った。これによりチームの指揮はかーしまから西住ちゃんに完全に移行された。練習の指揮こそかーしまがとるけど。優勝までの技量が足りてないことが示された以上、実践的にやっていくしかないのだ

6/8に可決された戦車道への追加予算案もこの短期間の上での奮闘を評価されて可決。新規車輌の購入とまではいかずとも、当面の弾薬、燃料の確保に腐心する必要はなくなった

それにより砲撃、行軍に関する訓練を重ね、一定の技量には達してきた。自主練の許可と各員の積極的な利用もそれを後押ししている

あと朝練始める方針を固めた。一人死にかけている人がいるけど全体と優勝のためだ。気にするな

 

 

6/22、『学園都市内公共交通育成基幹条例』が大洗学園フォーラム、新大洗クラブなどの賛成で可決。将来的な都市内の通学、通勤用の公共交通を通すことを目標とすることを示すだけの条例だ。中身はない

一応方針は考えてある。学園間の南北を縦断しつつ周遊するバスだ。だがその性質上定期利用が大多数を占めてしまうため、収益性に課題が残る。果たして学園を残してもこの条件を受け入れてくれる業者があるものかね

 

こちらの試算だと終始トントン。しかもラッシュ時に毎時6本計算でだ。何千人と通学する生徒を支えることすら厳しい上に、人件費だけで重くのしかかる。他のルートに車輌を回せなかったりするのも痛い。これでもどこかのバス会社に受け入れさせるなら、学園から補助金を出すなども検討しなければなるまい

 

結局はカネの話に戻っちゃうんだよね

 

 

ま、まずは今だ。大きいのはサンダースとの伝手。私は6/9〜10に一泊二日でサンダースへの旅に出た

それもまぁ豪快だったよ。距離は近くなってたとはいえ、ウチのヘリポートに招待用のヘリを回して来たんだから。私は自分で行くとは言ってたんだけど、向こうが聞かなかった

この世の人間は話を聞かない奴が多いね

 

ヘリで運ばれること50分。これは日帰りもできるかな、と思っていた頃に、眼下には聖グロよりもひと回りでかい学園艦を見つけた。サンダース大学学園艦である

甲板もビッグ、校舎もビッグ、建物の類もとにかくビッグ。なんでもデカけりゃいいというのは母港の佐世保の米軍からでも引き継いだのかね

 

そしてだだっ広いヘリポートの一つに着陸した。というか大型機すら余裕で飛ばせる空港あるし、ここ。いやー、経済力もダンチダンチ

さらに迎えの車で走ること20分、校舎についたわけではなく、ヘリポートと一体化した空港を出るのにそれだけかかる。艦橋まではさらに20分だ

さらにそこのエレベーターを登って、やっとこさ辿り着いたのである

 

と、ここまでで一苦労終えた頃に、私はなんとかサンダース大学の高校生徒会長と学校法人の理事の一人に面会する運びとなった

だがそこの部屋も広いのなんの。これ教室ですか?と尋ねたら、

 

『こんな狭い部屋は我が校にはそんなにないよ』

 

と返されてしまった

いや、あれよ。大は小を兼ねるにも程があるよ

 

「この度はこうしてお会いできる機会を設けていただき、誠にありがとうございます」

 

「いえいえ、民主主義を掲げる学園との友好はこちらとしても設けておきたいですから」

 

こちらの握手に応えてくださったのは、向こうの生徒会長の取手満氏、男だ。ここはウチらと違い、女子校というわけではないからね

彼はウチのクラブに近い市民共和党の出身だが、かといって私を冷遇したりはしないらしい

 

「それに大洗は戦車道を導入したそうじゃないか。そうしたら我々は同じ競技を愛する仲間だろう」

 

その奥に座ったままの方は大学理事の一人、夏村重則氏だ。こうして学園間の調停に赴く人が多い方だと丘珠ちゃんに聞いた

 

「その通りです。今後も生徒間の交流など繋がりを拡大していきたいですね」

 

「将来的にはそうしていきたいですよね」

 

将来的、か。まぁ流石にサンダースならある程度把握しているだろうな

 

 

こちらの歓待は気分の悪いものではなかった。お互いの研究事業がどうたらこうたらといった話から、将来的に目指す市内交通の運営と介入度合いについての話、そして軽く戦車道にも触れ、おまけ程度に生徒の自治についての意見交換もした。将来的に民主主義的学生自治を支持する共同声明を出してもいいかなという流れになった

役には立ったが、唯一目が点になりかけたのが、この会議の席で出された飲み物がお茶でも水でもなく、カップ一杯のコ◯コーラだったところだろう

 

「あ、セブン◯ップの方がお好みでしたかな?」

 

そういうことではない

 

嫌いじゃないからいいのだが、なんとも言い難い光景ではあった。カップめっちゃでかいし。1Lくらいあるんじゃないのか、これ……

 

 

話もぼちぼち進んできたところで、この部屋に立ち入ってくる人が一人

 

「ハーイ、ミッツ!そちらが前に言ってたお客さん?」

 

金髪の長身で目も黒くない。ここにいる人の大半は日本人だと聞くが、人というのは見た目によらないらしい

 

「君か……こっちは大事な会談中なんだが」

 

「ということはその子がアンジーね!」

 

「話を聞いてくれ」

 

向こうの学校自体に言いたいが、その中でも特別、か

 

「でも見た感じ話はだいたい終わってるんでしょ?」

 

「いやまぁそうだが……」

 

「だったら大洗とは戦車道で戦うかもしれないんだし、私がマイスクールを案内してあげるわ!」

 

戦車道関係者か

 

「取手くん。君もこのあと忙しいだろうし、戦車道絡みなら彼女の方が適任なのも確かだろう。ここからはケイくんに任してもいいんじゃないか?」

 

ケイ。彼女が前に聞いた隊長か

 

「……わかりました。それじゃケイ、角谷氏は君に任せるが、くれぐれも無礼なことをしたり我が校に不利益になるようなことをしないでくれたまえよ」

 

「オフコースよ!それじゃアンジー、こっち来て!」

 

返事も聞かずにケイ氏は私の腕を引っ張って部屋の外へ連れ出していった

 

 

また長いエレベーターを降りていくと、下で車に乗せられた。車輪がえらく大きなバギーだ。ほら、あの障害物とかを軽々超えていきそうなアレ。私物かね

 

「この車は?」

 

「戦車の見廻り用をレンタルしたのよ!」

 

それでこれかいな

 

「それにしても、いきなり私を面白い呼び方するんだね。ケイさん」

 

「ケイでノープロブレムよ。ウチだと肩書き以外での敬語は殆ど使われないわ!せいぜいMr.かMs.くらいね」

 

つまり私が話していた二人は、この学園だと例外らしい

 

「んじゃMs.ケイかい?」

 

「Ms.もいらないわ。同じスチューデントでしょ?」

 

「確かにね。それにしても、上下関係がないのかい?」

 

「あるにはあるわ。ティーチャーとスチューデントぐらいはね。あとはプレジデントくらいかしら」

 

逆にそれがなけりゃ学校と呼べるのか謎なんだが

 

「それもまたそれで面白いかもねぇ……」

 

「だったら短期交換留学生にでもなったらいいじゃない」

 

「ウチとサンダースの間にそれに関する協定がないのさ。それに……」

 

「それに?」

 

「この学校は私の体じゃ受け止めるにはデカ過ぎるよ」

 

炭酸で膨れた腹をさすりながら、冗談のような本心を語った

 

 

そんなこんなで飛ばしてしばらくすると、校舎の裏手らしきとこに着く。許可証がいるとかそういう次元ではなく、他の車と並走して校舎の中へ入っていく

 

走ってさらに3分。案内されたのは緑の巨大な倉庫だった

 

「ここは?」

 

「戦車の車庫よ!」

 

車庫なら何輌入ってんのだろうね。ウチの赤レンガの倉庫20個分すら上回るだろうね。近くには洗車用らしき設備もあるし、その奥はもう練習場のようだ。サンダースのだからだだっ広いんだろうな……

 

 

中はもう想定した通り。両側にズラっと並んだ緑色の戦車が首を揃えていた。100輌は間違いなく超えていると思う

 

「……すごい数だ」

 

「そうでしょう、アンジー。サンダースは戦車の総数500輌くらい、ここの他にもいくつか倉庫があるわ」

 

500……ウチの100倍、か

 

「ここは2軍用の倉庫。補欠用ね」

 

「こりゃすごいね……これだけあったら管理が大変じゃないかい?」

 

「そうね。基本はシャーマンで揃えてあるけど、式典用とか予備用の車輌とかは把握しきれてないのよね」

 

これだけあり、人員を割いているのだ。管理しているところがしっかりしてねばならないのだろうが……弾薬、燃料なども桁違いだろうし厳しいのだろうな

 

そして彼女は、ケイはこのサンダース大学付属の戦車道という組織をどの程度掌握しきれているのだろうか。サンダースの様子も見る限り、各車輌の自主性を重じているのかもしれん。付け入る隙があるならそこになるのだろう

 

「あ、隊長。お客様ですか?」

 

「イェス!よくやっておくのよ!」

 

「イェス、マム!」

 

……慕われているようだね。

 

「それじゃアンジー、1軍の倉庫を見せてあげるわ!」

 

……マジで?ウチらなんなら敵だよ?

 

「ハリアップ!」

 

ハリアップじゃないよ。いいのそれ

 

 

そもそも倉庫の素材の質が違うし、車輌もめっちゃ砲身長いのがいるし、なんだったら端の方に現代戦車いたし。1軍の倉庫は思っていた以上に質が高かった

車輌の数こそ限られているものの、磨かれてピカピカだし設備はウチと比べたら桁違いに整ってるし、奥にはシャワールームが一人一人専用のがあって、そのさらに奥はプロテインのサーバーがあって飲み放題なんだとか

えげつねぇ……マネーイズパワーか……

 

「……さすがはサンダースだね。戦車道にこれだけの力を注ぎ込めるところは他にはないよ」

 

「それが強さよ。2軍、3軍もそうだし、1軍内でも常に大会に出るためのレギュラー争いがあるわ。競って競って上に来たものにどんどん機会を与える。それがウチよ」

 

その競争に勝ったこともまた、自身として強みになっていくのだろう。そして技術自体も高まると

 

……勝てんのかな。いや、勝つしかないか。虎視眈々と隙を狙い、突くしかない

 

隙となるのは、その競争の弊害だ。競争でメンバーが頻繁に入れ替わる、ということは団結という点に関しては弱い。レギュラー一人落とさないと下の選手は出れないわけだし。サンダースの各車輌が自主性高いと踏む要因もそこ

その点は規律重視の黒森峰との違いだな。あと向こうは車輌の質、ってのもあるけど

 

次の日はサンダースの学園艦にある半導体工場と高校の校舎とを見学。前者は休日で稼働してなかったけど、サンダースは水の浄化設備の質を高め、輸送も行うことで半導体産業に食い込み、利益の上がる構造を採っている

最低賃金を独自設定して長崎県のよりかなり高くしても回っているのは、こうした地場産業の存在が大きいんだろうね

ウチの将来を見る上でも参考になるね

 

 


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