作:いのかしら

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第27話 36

 

 

 

 

……と思っていた相手といきなり当たるとは、思いもしなかったよ

 

埼玉スーパーアリーナでの高校生戦車道全国大会の抽選式。そこの壇上で西住ちゃんが引いたのは8番。んで、そこの左枠はもうすでに埋まってた

 

サンダース大学付属

 

7番にはその文字がしっかりと埋められていた

 

いやぁ……さ、ありえない話じゃないよ。初戦からサンダース、プラウダ、聖グロ、黒森峰と当たるってのは

 

んだけどさぁ、実際あたって見るとヤバイって思うよね、ほんとさ

 

それに初戦でまだ車輌数の制限が10輌と少ないとはいえ、こちらは5輌。まず勝ち目はないだろう。席の奥からはもう歓声が上がっているしね。勝ち確ってやつ

 

……こうなるんだったら車輌まで詳しく見ておくべきだったかな。いや、私詳しくないから無理か

 

「……小山、かーしま」

 

「それでも会長、勝つしかありませんよ」

 

「……わかっているさ」

 

 

そして下の枠が埋まっていく流れの中で、私たちがこの先当たるであろう学園も見えてきた

 

まずはサンダース。次いでマジノかアンツィオ。そしてその次は……多分プラウダだろう

 

その先は……聖グロか黒森峰。優勝するにはこれらに全勝するしかないってわけか……

 

ま、ベスト4に食い込む時点でその4つのどこかは撃破しているかされているかしてないといけないんだし、こんなものか……現状5輌しかないのを考えれば、準決勝とかでいきなり15輌持った強豪とぶつかるよりはマシなのかな。それにしても、数さえあればなぁ

 

 

数は足りねえ経験値はねぇ、そしたら練習するしかないってことで、まもなく朝練を導入した。西住ちゃんが戦車借りたいって言うから、公道走ってもいい許可を出した。そしたら空砲ぶっ放して帰ってくるとは思わなかったね。経験者はそうも大胆になるものなのかな?

 

この前の聖グロ戦の失敗に基づき、まず隊列関係と砲撃という基礎的なところから固め直していく。あとは弱点を突けるかな、本番次第か

また件の教官も呼んで少なくとも皆着実にレベルアップしているし、レベルアップしようとする意思を見せていることもプラスだ

 

 

同時に参加に向けての準備も整えていく。まずはユニフォーム、こっちで言うパンツァージャケットの制作だ。各々採寸した上で制作してもらい、売った。これを作ってもらったのも大洗の地元の服屋だ。私とも面識がある店である

 

あとは試合開始地への航路変更。最初こそ自衛隊の演習地らしいけど、こっから先は決勝までルーレットで場所を決めるらしい。しかもそこに72時間以内に移動しないと不戦敗だ

というか場所をテキトーに決めるとかマジでやめて欲しい。ウチに航路を左右するものが特にないから今はいいけど、将来的に企業誘致したら寄港地次第では大きく不利になる

 

やはり戦車道は将来的に無くさざるを得ないだろう。西住ちゃんがやめてしばらくしたら負け始めて、世論としてもやめる流れになるかな

 

 

そして6/30。前日の議会対応を済ませた私も合流し、開会式の行われる自衛隊の北富士演習場に移動した。車輌の移動手続きやメンバーの案内はかーしまに丸投げして、私だけ後でバスでやってきて合流だ。いやー、小田原から遠いのなんの

 

なんかポンポンと音の鳴る玉が上がって児玉会長の手短な話があって、ここに第74回全国高校生戦車道大会の開会が宣言された

私たちにとっては最後の命綱だ。手繰っても手繰っても持ってこれるとは限らない。だがそれを止めるという選択肢は残されていない

 

 

私たちの初戦はサンダース。とりあえずまた正式に戦う前に挨拶に行こうとしたが、整備している間に向こうからやってきた

 

「整備終わったかー!」

 

「はーい!」

 

「完了しました!」

 

「それじゃ、試合開始まで待機!」

 

「あ、砲弾忘れてたー!」

 

こっちはこんな間抜けなんだけどね

 

「それでよくのこのこ全国大会に出てきたものね」

 

間違いじゃないんだよなぁ、背景に事情さえなければ

 

かーしまが軽くキレ気味に返すと、なんでも試合前の交流を兼ねて食事でもどうかと来たらしい。腹は減っては戦はできぬ。乗るのも損ではあるまい

 

「あぁ〜、良いねぇ」

 

しかしまぁ……資金力だよね。シャワー用の車輌に販売者の数々、おまけにヘアサロンまで。ここまであったらそりゃ士気も上がるし、ある程度観客も受け入れてるから営業利益も上がり、観客との距離感も詰めやすい

金の力という反発を言うほど食らっていない理由はそれもあるし、なにより優勝してねぇからだね。逆を言えば優勝してない戦車道にここまで資金を注ぎ込める、という証左でもあるわけだけど

これより黒森峰強いんだよなぁ……

 

「ハァイ、アンジー」

 

「やぁやぁケイ。お招きどうも」

 

「なんでも好きなもの食べてって!」

 

「OK OK、おケイだけに」

 

「ハハッ、ナイスジョークね!」

 

こんなんでそこまで大爆笑してくれるなら、こっちもやった甲斐があるものさ

 

 

この最中、ケイはウチの秋山ちゃんに詰め寄っていた。なんかオッドボールとか読んでたけど、話は聞こえないが雰囲気から見てそんなに悪いことじゃないようだ

あとからケイに確認をとると、どうやら秋山ちゃんがサンダースに潜入してきたらしい。なんつーことしてくれてんねん、すんませんと謝ったが、向こうはルール違反ではないし、ウチはいつでもオープンだからここからはフェアプレイでいきましょ、と笑って謝ってくれた

この数の差でフェアも何もあるか、とも思ったが、口に出す気はない。だったらスパイ天国なんだろうなとは思ったけどね

 

いずれにせよ、西住ちゃんが向こうの陣容を把握できているのはこっちにとって大きなプラスだ

 

 

「それでは、大洗女子学園対サンダース大学付属の、試合を開始する」

 

でっかいモニターの下で、ケイと握手を交わす

 

「よろしく」

 

「ああ」

 

さて、どうやって叩くか。そこに私がどこまで関わるかな

というかそれより早めに戻らないといけないのだが。遠いわ

 

 

「サンダース付属の戦車は攻守共に私たちより上ですが、落ち着いて戦いましょう。機動性を生かして常に動き続け敵を分散させ、III突の前に引き摺り込んでください」

 

「おー!」

 

ここら辺は西住ちゃんが組んだ通り。もう文句を言う輩はいない。意思統一ができているのは強みかね

 

さて、午後1時。試合開始の時間だ。審判のホイッスルが鳴り響く

 

「ウサギさんチームは右方向の偵察をお願いします。アヒルさんチームは左方向を。カバさんと我々あんこうは、カメさんを守りつつ前進します」

 

「あのチーム名はなんとかならんかったのか……」

 

「いーじゃん、可愛くて」

 

かーしまがごちるが、そんな程度で士気に繋がるなら儲け物だ。なによりウチらは西住ちゃん頼み。彼女の言うことをある程度は受け入れないとね。嫌われたら終いだ

 

この試合、というか戦車道大会では、練習試合での殲滅戦とは異なり、フラッグ戦というルールが導入されている。よーするにウチなら私の車輌がやられたら負けってわけだ。学園の未来と私が一心同体ってわけだね

これがあるから逆転を狙いやすい。とはいえそれは殲滅戦に比べればの話だ。その一輌を向こうも守ろうとするから、そうなれば数で勝るサンダースが有利であるのは変わらない

 

ま、ウチらはなんとか自前で身を守るしかないかな

 

「パンツァー、フォー!」

 

 

森林地帯から出発した大洗だったが、早速戦況は芳しく無さそうだ。偵察に向かったウサギさんに敵は9輌、つまりフラッグ以外全車輌をこちらに差し向けてきたのだ

このピンチに西住ちゃんは自らを含めた救援を差し向け、包囲網を突破してなんとか救出に成功した

こちらは1輌の損失での影響がどうしても大きくなる。被害なしで切り抜けられたのは大きいだろう

 

 

しかしまぁ話を聞いてみると、なんとサンダースの奴ら通信を傍受しているらしい。確かに遠くを眺めてみると、それらしき気球が上がっている。何がフェアプレイだこのこんちくしょう。気付かなきゃ負けてたに違いない

 

さて、これがあのケイの発案とは、私にはどーにも思えないんだよね。かといって他のメンバーを知ってるわけじゃないから、誰がやったかなんてわかるはずもないけどさ

 

西住ちゃんはこれを逆手に取り、高所から敵の様子を俯瞰しつつ陽動に乗せられているフリをした。アヒルさんに丸太を引っ張らせて土煙を上げさせ、それを大部隊の撤退に見せかけるとは演技派だねぇ

 

そして敵さんがノコノコと分散したところで、フラッグの護衛を各個撃破。残ったフラッグをアヒルさんで釣り出して追いかけ回す、というフラッグ戦における理想系を作り上げたってわけだ

 

無線を陽動で使いながらどうやって連携を取ってたかって?ケータイのメールさ。武部ちゃんがめっちゃすげぇスピードでメール送りまくってるんだと

 

 

とはいえウチらの技量だとそれからが怪しいんだよね。相手も逃げるから、必然的に行進間射撃になる。それを当てるのは上級者ですら厳しいと西住ちゃんから聞いたし、実際相手だけでなく自車輌の移動も計算に入れなきゃならないから難しい

 

追いかけるにしても向こうも打ってくるから場所を下手にバラさないために砲撃は控えるし、ルートも稜線を利用して隠れながらになるしね

 

「柚、遅れるな」

 

「わかってるよ、桃ちゃん」

 

「頑張れー」

 

かーしまの口に干し芋を一枚突っ込んだ

 

 

それに手間取っている間に、西住ちゃんの策で引き離したサンダースの本隊が追いついてくるのは止むを得なかった。それまで最後尾にいたウチらはウサギさん、アヒルさんを壁にする形となった

かーしまは後ろに放ったが、距離はあるしかーしまの腕では当たるわけがない。当たったところで正面からじゃ穴も開かないだろうしね

 

「桃ちゃん、当たってない」

 

「うるさい!」

 

「壮絶な撃ち合いだねぇ」

 

私がどうこうできるものじゃないね

 

 

だがその追撃してくる奴らの中に、その行進間射撃を難なく行ってくる化け物がいたのだ

ウチらを囲むように守っていたウサギさんチーム、アヒルさんチームはやられた。撃ってきたのはやたらにでかいファイアフライとかいうものらしい。蛍なのに強すぎるって

 

そしてウチらの後ろの壁が消えた以上、カバさんを守りにつけざるを得ない。III突は前にしか打てないから、正面火力は半減どころかそれ以上に落ちる

 

そう、脱落。この試合始まって初めての。しかも公式戦での、だ。優勢があっただけに学園云々がなくとも勝ちたいという思いはあるだろう。しかしそれを満たすには状況は良くない

 

不安

 

ウチのかーしま含め生き残った車輌に充満したのは、それだ

 

敵の砲撃、履帯近くを這い、車体を掠るそれは尚更助長してくるだろう

 

私は介入するか?いや、今の私の立ち位置じゃ無理だな

 

「落ち着いてください!」

 

……お?

 

「落ち着いて攻撃を続けてください。敵も走りながら撃ってきます。フラッグ車を叩くことに集中してください

今がチャンスなんです!当てさえすれば勝つんです!諦めたら……負けなんです!」

 

西住ちゃん……よう言うた!それでこそ隊長だ

 

「諦めたら……負け」

 

「いやもう無理だよ柚ちゃーん!」

 

この……ま、いっか。頭でも撫でてやろう

 

 

そして正面のあんこうはここから離脱。どうやら丘の上から狙う気らしい。ウチらの正面が、空いた

 

「あ、に、西住!何してる!」

 

「ここは任せよーよ、かーしま」

 

「しかし……」

 

「きっと何か考えがあるんだよ」

 

敵フラッグは蛇行して逃げてるからか、向こうからこちらの正面が空いたのは見えてないらしい。相変わらず逃避中だ。だったら後ろを壁に任せている以上、やることは一つ

 

「このまま走って逃げてれば良いよ」

 

 

試合は、あんこうが無事敵フラッグを撃破して終わった

 

ここに大洗女子学園はサンダース大学付属からの勝利を勝ち取ったのである

 

放心状態のかーしまを乗せながら、ウチらはゆったりと帰還する

 

「へへっ〜、ブイ」

 

西住ちゃん、良くやってくれた

 

その証にしては、このブイサインは軽すぎるかな?

 

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