作:いのかしら

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第28話 次への

 

 

 

 

試合終了後、ケイは西住ちゃんと話してさっさと戻っていった。何を話していたのかと聞くと、ちょっと疑問を解決してもらったのだという。ま、いっか。こっちから話したいことは彼女より上の人間につないでもらったほうがやりやすそうだしね

彼女は多分、仲間とみなせば信じ、動く。さてどうしたもんかな

 

それはともかく、サンダースへの勝利。これのインパクトは大きい

戦車道をよく知らずとも、サンダースがとんでもなくマンモス校で資金力があると知らない人は少ない。そこに勝ったとなれば学園都市内でも戦車道許容ムードは否応なく高まるんだな。校舎にも垂幕ぶら下げたし

 

実際戦車道支援を名目に立ち上げた寄附金もサンダース戦勝利で一気に増額した。今なら数輌なら車輌を発掘したとしても十分に動かせるようになってる。安定財源とするには弱いけど、補助的なら十分だ

 

そして政治側も反応する。白石ちゃんも真っ先に反応したし、丘珠ちゃんも双方の健闘を称えた。一応サンダースにも顔を立てた形だ。学園全体での受け入れムードを示すのにもちょうどいいね

竹谷氏も称賛して下さった。ただ、辻氏からは連絡はない。それくらいやってもらわねば、ということなのだろうか

 

だがあまり良くない話もある。これを機に有力校が本格的に我々を警戒し始めているようだ。当然っちゃ当然だけどね。連盟理事校の一つなわけだし、そこに勝ったとなれば警戒感を持つだろう

プラウダ、黒森峰も例外ではない。黒森峰は西住ちゃん送ったことは知っているから、もともとあっただろうけどね

それでも勝つしかないし、みんなの練習への集中度合いも大きく変化はない。西住ちゃんへの負担集中だけ避ければ、当面はうまく回るだろう

 

 

「今の戦力で、2回戦勝てるかなぁ……」

 

「絶対勝たねばならんのだ」

 

生徒会室で語られるのも今はまだそっちがメインだしね

 

「2回戦はアンツィオ高校です」

 

「ノリと勢いだけは、あるからねぇ〜」

 

そう。次に当たるのはアンツィオ高校。栃木の学校だけど海がないから、静岡県清水を母港としている。資金力はサンダースやプラウダより遥かに劣り、ウチらよりかはマシというレベルである

観光業がメインだったかな?産業は。日本のローマとかローマよりローマとか呼ばれてるね。ローマがゲシュタルト崩壊しそう

 

調べたけど、戦車道においてはウチと経緯が近いんだよね。東海で中学時代戦車道の名選手として馳せていた安斎千代美を、学園長直々に奨学金を出してスカウト。一時期は部員が彼女含め3人しかいなかった戦車道を立て直させたんだそうな。スカウトしてほぼゼロから立ち上げさせたところとか結構似てるよね

その後戦車道大会で一回戦通過を10何年かぶりで達成。それと都市内でのパフォーマンスが成功しているお陰で、一定の発言力を有するにまで至るんだって

 

ここまで持っていった安斎、うーん厄介そうだ。同じ世代も少ないだろうから、下を簡単に統率しきれるだろうしね。ノリと勢いだけ、と言われるけど、そのノリと勢いを統率できてるんだろうからなかなかのもんだと思うよ

だけどやはり資金力に劣る以上、戦車の質はウチと同じか下手したらそれ以下だ。この先を考えても一番勝ちやすい相手なのは間違いない。かといって油断して良いわけじゃないけどさ

 

 

「西住ちゃ〜ん。チームもいい感じにまとまってきたじゃないの」

 

「あ、はい」

 

「西住ちゃんのおかげだよ。ありがとね」

 

「あ、いえ……お礼を言いたいのは私の方で。最初はどうなるかと思いましたけど、でも私今までとは違う戦車道を知ることができました」

 

「それは結構だが、次も絶対に勝つぞ」

 

「勝てるかねぇ〜」

 

「チームはまとまってきて、みんなのやる気も高まってますけど、正直今の戦車だけでは……」

 

「ふむ……」

 

これを今こそ『西住ちゃんの号令で』進める時だねぇ〜

 

 

とにかく戦車だ。次の次からは相手は15輌。5輌じゃどうあがいても勝ち目はない。なら数をなんとか増やすしかないよね。ということで特段手掛かりもないのに捜索隊が組まれた

人員?後で考えよう。目星は付けてるし

 

練習日のうち一日を割いて艦内での戦車探しを行った。棒を倒して適当に探し始めたカバさんチームとか、多種多様だったけど

残された廃棄車輌の資料を見るに、まだまだ間あるのは間違いないようだしね

 

まず西住ちゃんとバレー部が見つけたのは、戦車じゃなく砲身。どうもドイツ製の75ミリの長砲身だそう。これはIV号の強化に使うことになった。というかそれ以外載せられる車輌ないし

 

そして艦内を探し回らせて秋山ちゃんとカバさんチームが見つけてきたのが、ルノーB1bisというフランスの戦車だった。いやあの棒で見つかんのかい

農業科が半ば放棄していた池の中から出てきたので、重量のあるIII突とかに引っ張らせて引き上げた。これ以上下手に自動車部動員したら弱み握られちゃうしね

見た目的には89式っぽい気もするけど、一応75ミリ砲というM3Leeくらいの副砲は乗っけているとのこと。装甲も厚いからまだマシだね

乗員定員は4人だけど、砲塔が1人乗りなので副砲、操縦で3人いればなんとかなるとのこと

 

そしてもう1輌、ウチの運命を左右し得る存在が見つかった

 

艦底を捜索していたウサギさんチーム一行が行方不明になって、それを捜索すべく残りのあんこうチームに艦底に入り込んでもらった。一応地図は渡したし、派閥争いが残ってそうなところは侵入不可マーク付けといたから一応安心だ

 

「会長、お銀に話は……」

 

「めんどいからなしね」

 

 

調査の結果、ウサギさんチームと武部ちゃんは無事発見された。いたのはまだ比較的浅いところで、艦底の派閥の影響の薄いところだったのは幸いだった

 

そしてたまたま彼女らがいた場所で見つけたのが

 

 

「これが件のポルシェティーガーですか」

 

「そ、んでこれ引き揚げて修理して欲しいんだけど」

 

「……いつもやってる作業に加えてですか?」

 

「そう」

 

「……わかりました。しかしこれの復帰、元の車輌が車輌だけに、復帰に二週間弱はかかりますよ」

 

ビンゴ。決勝からしか無理だろうけど……そりゃそうか。こんな下から上げてくるんだから学園艦の仕切りぶち抜くレベルだしね

 

「OKOK、宜しくね〜」

 

「いいや!せっかくのアハトアハトなのにそんなに待てるか!貴様ら徹夜で修理だ〜!」

 

「そりゃ無理ってもんですよ。時間かけてじっくり直させてください」

 

「ぬぁーにぃー!」

 

「まぁまぁ、自動車部が言うんだから仕方ないさ」

 

「その代わり修理が完了したら、この戦車を私たちで動かします。かなりマニアックですしね、これ」

 

よっしゃ、人員確保成功!

 

「りょうか〜い。単位は保証するし、自動車部予算増額ね」

 

「よ、宜しいのですか!」

 

「いいじゃん。こうして役立ってくれる人に報いない方が悪いし」

 

 

んで1輌は乗員の目星つけたけど、もう1輌もつけなきゃならないよね

 

「つーわけでさ、この見つけた車輌乗って戦車道やってくれない?」

 

「はぁ?」

 

園ちゃんを呼び出して切り出したのはそれだ

 

「いや、あの時以来下手な用件で呼び出したりしないでって言ったけど……」

 

「結構重要案件だろ?」

 

「どうして私たちなのよ」

 

「まず戦車道が廃校に繋がってると知ってること。愛校心溢れる風紀委員ならそれだけで戦車道に集中してくれる動機になる」

 

「まぁ……そうね」

 

「あとそど子の視力が欲しい」

 

「視力?確かに両眼2.0あるけど……」

 

「偵察とか砲撃とかで視力は欲しいのさ。それも一つ。最後はここから本格的な監視と対策を立てときたい」

 

「……どういうこと?」

 

「アンツィオ勝ったら相手はプラウダと黒森峰、あとは聖グロだろうさ。そんなところと戦うんだ。こちらも内部の引き締めを強化しておかないといざという時困る」

 

「あの2人は大丈夫だったじゃない」

 

「それ抜きでもさ。他のチームが自分たちの活躍から私たちや西住ちゃんに逆らおうとしだすと困る

あと強豪が曲がりなりにもサンダースに勝った私たちに目をつけてるだろうから、みんなと情報の保護も兼ねてね」

 

「要するに秋山さんがやったみたいな話の逆を警戒しろと」

 

「そーゆーこと。つか今もやってもらってるけど。とはいえこちらに戦力を組み替える余裕とかないから、元から筒抜けな気もするけど、念には念をってことで。なんならそーゆーことしてくるの、相手の学校だけとは限らないし」

 

「……文科省?」

 

「とかね」

 

「話としてはわかったわ。でも一つ聞いていい?」

 

彼女らもすでに他の選択科目をとっている。それを切り替えさせるわけだから向こうが切り出すことは一つ

 

「……単位の扱いはどうなのよ?」

 

「今参加すれば確定!」

 

「……どういうこと?」

 

「次の試合、今参加してもそど子達出れないだろうけど、アンツィオに勝てば参加扱いで単位決定」

 

「そど子じゃないわよ。で……負けたら?」

 

「そもそも廃校じゃん」

 

「そうだったわね……」

 

「ということで、あと2人呼んで次に向けて練習よろしくね〜。その人選は任せる」

 

その後実際に2人連れてきたので、決定したとのことを伝えといた

風紀委員の仕事?しばらく艦底との争いないんだしなんとかなるっしょ

 

 

7/6。試験前最後の議会にて可決されたのは『船舶科業務改善条例』。これで船舶科の4ローテ制への改定や休暇制度の拡充などが取り決められた。以降は2年後の予定だ

ちょいと手間をかけて教員採用の幅や艦底の者らへの処遇の詳細を船舶科、教職員連盟と調整したから時間かかったけどね

艦底からの幹部登用にNOを出してきた船舶科を、教員監視を一年試験的に付けることを条件に幹部層へも部分的に登用を認めさせたりね。ここら辺はもう今年度入ったら担当部署作ってそこに振っちゃってたから、私は言うほど関与してないけど

これで海の民は建艦以来の結党の理由を失った。とはいえ海の民自体はフォーラムに編入されたし、それに反発したメンバーは私の刺客にやられたり無所属で細々と結党を宣言したりしている程度だから、ほぼ意味ないけど

 

艦底から小勢力の主力を正式に引き抜いて弱体化させ、相対的にお銀派の力は強まり、完全一強を達成。武力抗争も収まりを見せ、風紀委員を介さずとも一定の自浄が進んだ。本物の酒とか違法薬物関係は放棄、摘発が進んだ

もっとも酒や薬物とかでバレて警察に突き出さざるを得なくなれば艦底との信頼関係が崩壊するから、秘密裏に焼却して流したりしたけどね。証拠は海流が処分してくれるさ

汚染?確かに問題だね。ただそれは艦底が再び抗争して血を垂れ流すようになるよりマシさ。海は広いな大きいな

 

 

一連の改革はほぼ順調に進んでいた。こちらには廃校の危機回避というお題目があるし、党の対立も挙校一致をある程度達成し収まっている。支持率も世論調査見るに若干下がっているが高水準であるのに違いはない。まぁ今のところ廃校の絶対回避の道は示してないわけだし

私が来たる時に向けて練習できているのも、私にかけなければならない案件が減ってきているから、というのもある

 

あとは託児関係とかに手を入れて卒業後も学園に残りやすくするとかあるけど、議会はこれでしばらく閉会。試験期間もあるしね。次に開かれるのは新学期だ

市民議会の議員の方も研修期間という名目で間を開けてある。実際の地方議員も研修で海外とか行ったりするしね

 

生徒会は残る生徒で夏休み期間中も基本業務を回す。接岸こそ戦車道の都合で期間を制限されるとはいえ、実家に帰るって人も多いからね。仕事も減るから、多少抜けても問題ない。私は8月末に休暇取得予定だけど、それ以外は戦車道と事務作業に専念できる

 

夏休みの前に試験勉強もあるけど、それが効率的に捌けないと生徒会ではやっていけない

 

 

そして各校の試験期間を挟んで7/14。なんとか次の試合、荒地と森ステージでアンツィオ戦が始まることになったのである。他の場所では同時にプラウダが試合をしているらしい。また荷物を陸に上げて点検作業から始める

 

安斎千代美、なんで呼んだろかな

 

 


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