作:いのかしら

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あけおめ。今年も続くんじゃよ





第29話 これが本当の

 

 

 

さて私が結局チョビ子と呼んで、向こうがアンチョビだと否定することで始まったアンツィオ戦。正々堂々と戦おうと手を結んだ

とはいえフラッグ車だったウチらはたいした仕事もせずに終わっていた。基本前線出ないなら越したことはない車輌だしね。やられたら終わりだし

 

カルロベローチェとかいう機銃しか乗っけてない戦車はアヒルさんが、他のセモベンテはカバさんとかが対処してくれた

そして秋山ちゃんが調べてくれてたアンツィオの秘密兵器、とはいえ性能はウチのIV号と大差ないP40はあんこうチームが撃って終わり

相手は壊滅的被害を受け、こちらの被害はセモベンテと相討ちになったカバさんだけ、と圧勝を飾った。そのセモベンテになんでも鈴木ちゃんの知り合いが乗ってたらしいけど、まぁいいや

 

一応アンツィオも看板で主力を誤認させるという作戦を取っていたらしいけど、なんで数のコントロールをしてないのかねぇ。そりゃ規定が10輌なのにそれ以上の看板を用意してたらバレるわ

 

こうして見事、大洗女子学園は久々の出場でベスト4に食い込んだのである

 

 

試合終了後、アンツィオの幹部面々がウチらを招待してきた。何かと思ってついていくと、並んでいたのは大量の鍋とフライパン

 

「これは……」

 

「試合が終わったら勝ち負け関係なし!みんなで食べて試合の結果を分かち合うのがアンツィオ流だ!みんな食べてってくれ!」

 

そのチョビ子の掛け声に応じてアンツィオの緑っぽい洗車服に身を包んだメンバーが叫ぶ

 

料理は多様だ。パスタとピッツァはもちろん、しかも種類もトマトソースとかクリームソースとかソースが目立たないものまで色々だ。濃い目のチーズの香りが漂ってくる

 

皆昼過ぎからの試合だったし試合の時の緊張と消耗もあって、喜んで乗っかることにした。私もね

 

しかし……学園都市で維持費稼ぎに屋台やってるって聞いたけど、屋台で安く出してることを考えなくてもうまいよなぁ……他所なら3倍で売ってても利益出るぞ、これ。私じゃ同じ味は無理だ

 

笑顔だねぇ、みんな。アンツィオ側だって誰一人泣いてる人はない。確かに美味いというのもあるけど、それが仮にこの先あっても果たしてウチらは負けた時に同じ顔ができるのか。私には無理だね

 

 

飯がうまいとはいえ、それだけじゃいけないんだな。西住ちゃんには隊の指揮や相手との交流に集中してもらってる。勝たなきゃいけない、相手との交流は控えめな黒森峰との差からこちらに残ろうとする意志をより引き出すためにね

 

だから事務処理は私とかかーしまで受け持ってる。そしてこうして今、大会本部に港までの車輌運搬の手続きに来た

行きに引き上げた時と同様、私が車輌、備品の確認書類を出して許可をもらう。急いでやる必要もないけどウチは自動車部が学園艦にいるから、特に損傷したIII突とかは引き上げないと修繕できない

 

「はい、こちらの現場資料とも照合取れましたので、用意の出来次第引き上げいただいて構いません」

 

「ありがとうございます」

 

帰ったら飯の騒ぎもある程度落ち着いてるだろうし、そしたらかーしまに指揮してもらって撤収かな……

 

「あ」

 

と思いつつ外に出ようとしたところで、めっちゃ重そうなロールをぶら下げた人とぶつかりかけた

 

「お、チ」

 

「アンチョビだ」

 

速攻で名前を呼ぶのを否定された。よっぽどその名前で呼ばれたいらしい

 

「……総帥アンチョビ。君もあれかい?」

 

「いや、だからアンチョビでいいって。外の人からそう呼ばれるのはくすぐったい」

 

「でもそう呼ばれてるんだろう?」

 

「それ知ってるのか……あ、因みに来た理由はそちらの予想通りだ。私たちも今日中に戦車引き揚げたくてね」

 

「そちらもか」

 

向こうが背を向けて手続きに向かおうとすると思いきや、少し立ち止まって話しかけてきた

 

「角谷……君とは少し話してみたかったんだが……」

 

「人目につかないうちにかい?」

 

「そっちの方がいいだろう?」

 

「……乗った。外で待ってる」

 

何を話す気かは知らないが、同じ関東圏の戦車道やってる学園。しかも都市運営委員の一人だ。伝手は広げておこう

 

 

「待たせたな」

 

私よりちょっと時間がかかったようだが、それでも早めに彼女は外に出てきた

 

「いやいや、こっちもそちらが片付け中じゃ動かせないしね。一緒にやったなら手伝うもんさ」

 

その場で立ち尽くしていても、そこまで蒸し暑い時間じゃなくて助かった

 

「そこを分かってくれるのはありがたいな。むしろウチら楽しむのは楽しむんだが、片付け終わるまで集中力が保たないからな……」

 

「そうなのか?」

 

「飯の時間とおやつの時間には正確なんだがなぁ」

 

向こうはちょいと大きめのため息をついた

楽天主義。秋山ちゃんに見せてもらった映像や試合後の選手の様子とかこうした反応から察するに、アンツィオに蔓延しているものはそれだ

金銭面の緩さ、長期的視点の不足。その理由は『なんとかなるさ』、そんな感覚だろう

 

「そりゃ気質ってもんじゃないかい?」

 

「その通り。私じゃそれは変えられないさ」

 

「ふーん……」

 

戦車道においては絶対的カリスマである彼女がそう言うのは彼女が高校で入学しているが故だろうか。それとも他にあるのか……

 

「干し芋いる?」

 

「貰おう」

 

おや?何気にすぐ貰ったね

 

「私はいうほど食べられてないんでな……」

 

結構すぐにかじり始めた

 

「あ、分かるわ。お偉いさんとかと食事したりするとあまり喉通らなくて後々腹減るんだよね」

 

「そうなんだよなぁ……」

 

「ということは……今日お偉いさんがいたかな?」

 

「お前らのところの西住だよ!」

 

「あ、西住ちゃん?」

 

西住流絡みかな

 

「あの天下の黒森峰の副隊長だぞ!しかも1年で。化け物以外どう呼べばいいんだよ!」

 

「あー、確かに」

 

「今日の食事会も隣にいたけど、内心バックバクだったんだぞ!どうやってあんな人材呼んだんだよ!しかも今戦車道やってんだろ。あれがあって

戦車道やっているところはどこだって西住に勧誘かけてるさ。それで結局大洗に来てるってことは、そもそも西住は戦車道やりたくなかったってことだろう?」

 

「……頼んだらやってくれたよ。あとは……いる間にできるだけ負担かけないように、かな。ウチの戦車道は西住ちゃんなしでは回らなくなってるから」

 

「負担かけないように、ねぇ……ということは、話してないんだろう?」

 

「……何をさ」

 

「ま、おおかた今年の戦車道大会で負けたら廃校、ってところじゃないか?」

 

ほう……

 

「どうしてそう思うのさ」

 

「どうもこうも、廃校準備校に指定された学校が急に戦車道に参加して、しかも西住をわざわざ呼んだんだ。本気度から見るに、ただならぬ理由があると考えるのが普通だ」

 

「確かにね……」

 

「私もこうして幹部として戦車道に携わっているから分かるが、戦車道はひたすら金がかかる。ウチも切り詰めに切り詰めて、稼げる限り稼いでなんとか回してるんだ。それを公立の、しかもその中で特段大きいわけじゃない大洗が持つんだ。乾坤一擲の何か、そう考えるには十分すぎる」

 

金か。物価を見るにもっと稼げる気もするが、それは競争の結果のようだし、厳しいのはお互いだろう

 

「あとそれであえて戦車道を選んでいるってところもな。ぶっちゃけ私も詳しいわけじゃないが、それでもない限り大洗が戦車道を作る理由はない

BC自由とかベルヴォールとかが戦車道拡大したとか作ったとかだったら、まぁ裏は大体想像つく。だが内政状況に大きな混乱がない大洗が作るとなったら、相応の理由が必要だろう

本来戦車は市街戦で不利だから、学園都市が持つ意味も薄いしな」

 

相手をよく見てるな。そして内実もほぼスパっと当ててる

 

「……ほぼご名答だよ、アンチョビ」

 

「ならよかったじゃないか。私たちに勝って廃校を逃れる道が見えてるってことだろ」

 

「まぁ……そうだね」

 

その先を見据えると、喜べることばかりじゃないんだけどね

 

「だがな……角谷。私が言うのもなんだが、そのことは西住に伝えといた方がいいんじゃないのか?」

 

「ほう。西住ちゃんに負担をかけたくない。それが間違いかい?」

 

「いや、それは正解だろう。そうじゃなきゃ西住はあんな笑顔を見せることはあるまい。大洗で戦車道楽しんでるんだろうな、とは思う

だが……西住が何から逃れてそっちに来たから知ってるよな?」

 

「黒森峰と、西住流……」

 

「どちらも『負けが許されない』ところからだ。だからこそ負けそうな事態になった時に『負けてもいい』と考えかねないんじゃないか?それは困るだろう?」

 

「勝ちにはそこそこ貪欲なように見えるけどね、西住ちゃん」

 

「だがそれに……『仲間の無事』がかかったらどうだ?」

 

仲間の無事。西住ちゃんが無線で真っ先に確認すること

頭の中で去年の全国大会の決勝の映像が駆け巡る

確かにどこかのチームが無事でいられない。それとを天秤に乗せられたら、西住ちゃんは勝ちを捨てる采配を取るだろう。それは……許していいのか?許さないべきなのか?

 

「ま、そこは私が介入し過ぎることでもないかな。それにしても、この干し芋美味いな。なんかイタリア料理にアレンジで使っても面白そうだ」

 

「干し芋がかい?あまりパスタにもピッツァにものってるイメージ湧かないけどね」

 

「なにおぅ。本来のイタリアンは素材本来の味を活かすスタイルだぞ。この干し芋こそまさに素材の味だろう」

 

そうなのか?結構ソースとか使うイメージあるわ

 

「実際スイーツパスタとかもあるからな。この渇き具合を戻して使うか、それともこれを活かして潰したりして使うか、いやそれだと食感を活かせないな……悩むところだ」

 

「できたら食べさしてくれる?」

 

「ああ、もちろんだ。そしてお返しと言ってはなんだが……」

 

背負ってたカバンから瓶と紙コップを取り出す

 

「ぶどうジュース一杯どうだ?」

 

「ぶどうジュース?」

 

「ぶどうジュース」

 

色的に紫っぽいから、まぁ間違いない

 

と思っていた

 

「しっっっっっっっぶ!」

 

口の中の水分が一斉に渋みに置き換えられ、喉に張り付く。干し芋食べなれてるけどこれはレベルとベクトルが違う

 

「あ、それフルボトルだったか」

 

「いや、てかこれワ」

 

「ぶどうジュース」

 

アッハイ

 

「こっちなら大丈夫じゃないか?軽いやつにしたけど」

 

「ま、少しなら……」

 

そして帰るまでに追加で2杯もらっていた。呑みやすかったんだもん

 

しかし西住ちゃんに話すか……片付けを進めながらも私の思案は止まる様子を見せなかった

 

 

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