作:いのかしら

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第3話 政党

 

まぁここまでさんざん悪口を言ってきたわけだが、本来ならば都市内条例や予算などで問題改善に向けて働きかけていくのが基本だ。だがそうも上手くいかない。その要因が私のいる総合局のお相手、生徒議会である

 

私がまだ総合局に配属されて間もない頃、ある法案を通す際に当時の上司の3つ上の先輩に一度尋ねたことがある

 

「なぜこの法案を通してしまわないのですか?」

 

と。返事は簡単だった

 

「無理だからだ」

 

そこから先に聞いた話は私の耳にこびりついて離れない

 

 

まずそれぞれの政党の特徴から掴んでおこう

先ほど述べた大洗フォーラムは普通科を支持基盤とする中道左派政党だ。大洗女子学園でも有数の歴史を持ち、その支持基盤の大きさから長らく議会第1党にして政権与党を務めている

最大政党だけあって、生徒会会長もこの党に近いものから公認を受けて出ることがほとんどだ。ここ10年以上変わらない

基本路線は相応予算と部分介入経済。身の丈にあった予算を組み、また負担は生徒が学習に必要なものの総計に応じて負担すべきとの立場をとり、議会や行政の都市経済への一定の介入を認めている。実際学習必需品への援助金を予算に組み込んでいたりもするし、そんな予算を通してきた

 

続いて新大洗クラブ

開放経済と拡大予算を主張する中道右派の議会第2党。議席数はだいたい140〜150といったところだ。地方債を発行してまでもの財政拡大を主張する。担保は学園都市そのものだそうだ。2000年代に入ってから結成され、あまり科などに左右されず一定の支持を得る。だから支持層も幅広く、切り崩しは厄介だ。その主張からサンダースとの繋がりがある

 

それと海の民と職人連合組合

ここを一纏めにしているのはその主張が似通っており、結構行動を共にするからである。主張の軸は専門科への支援の拡大による普通科との学費格差の縮小。それぞれの科ごとの詳細で違いがあるが、大筋では変わらない。議席数はだいたい40〜50で、足して90くらい

 

あとは人民による大洗

名前の通りプラウダ寄りの左派政党。党首が変わるとプラウダに挨拶に行くという習慣がある。船舶科の労働条件の改善が基本だが、その革新方法をめぐり議会路線と一党独裁移行路線が対立している

議席数は30弱。とっとと分裂しろ、暴力行為の予備罪とかで風紀委員投入するぞ。流石にプラウダと関係を拗らせたくないからしたくないけど

 

他の公正会と学生自治権党は基本中道路線だ

公正会が教員、都市民を含めた複合的議会の開催。学生自治権党はクラス、学科ごとの裁量拡大を主張している。議席はそれぞれ20ほど、大した勢力ではない

 

そして残りの約200人。これが無所属議員である

その場その場で対応を変えてくる厄介な存在。どう動くか読めないため、ここの数を計算せずに案を通過させるのが理想だ。しかしそうもいかない。重要議案でさえ与党以外の無所属も全員賛成したら通ってしまう程なのだ

要するにこの与党、拒否権すらまともにない。こんな与党が力を十分に発揮できる訳がなかった。それを仲裁しなんとか案をまとめるのが総合局の大きな仕事だったわけ

 

なぜこのような事態になるのか。それはクラスから2人ずつ選出する生徒議会の仕組みにある

クラスから2人、となれば、同一政党の2人を選出することはほぼない。それはクラスの総意がその政党支持、と言っているようなものだからだ。流石に心理的に避けてくる

普通科ならフォーラムとその他どこかの政党の候補が一人ずつ選出されているクラスが多い。普通科の中でフォーラムで独占できているクラスなど、クラス数は200以上あるのに片手の指でも余るほどだ

 

それに選挙が行われるのは4月の頭、入学したての中学一年生からも選出される。政治の話も通じるか怪しいのに、各党がその学年に地盤を有せるはずもない。ここからは小学校時代の人気者などの無所属議員が当選しやすくなるのだ。彼らをいかにフォーラムに引き込むかも腕の見せどころだが

 

結果無所属議員の拡大と少数野党の乱立を防げないし、与党も最大学科普通科の支持を固めるのが精一杯

新大洗クラブのせいでそれすら危ういのが現状なのに、他の学科に支持を広げる余裕なぞない。やはり専門科はそこ地盤のとこが強いしね

 

 

なら主張を取り込んで連立政権でも作って仕舞えば、と言いたくなるが、それもまた難しい。理由は連立政権となっても行政と立法が分裂している体制下では、与党と連立を組むメリットが少ないからである。現在の日本のように議院内閣制を取っていれば、連立を組んだ党も大臣を出したりして影響力を示せる。しかし行政が別ではそうもいかない

 

一応生徒会の者は政党所属が禁止されているが、心の内では大半は親大洗フォーラムだ。政権交代はそうそう望んでない。何より仕事の勝手もわからない奴らが、政党の主張を実行するためとか理由をつけて毎年交代でぶち込まれては、回る仕事も回らない。昔アメリカにそういう制度あったらしいけど、ウチらで導入する予定はないし、それをフォーラムはわかってくれている

 

とにかくこうしてフォーラムしか絶対的な与党がいない以上、何か法案や案件などを通過させるには無所属議員や他の党の賛成を得なければならない。そうなると必然的にその党の主張などを盛り込まなければならなくなる

 

結果的に大規模な改革は進まず、予算も各党の意見を反映するものとなる。だから各学科にも予算を分けるし、さらに無所属議員に影響力のある甲板上の町内会の意図を反映する形になる。

さらに体育会部活も文化系部活の予算も、さらなる躍進、ネームバリューの獲得を名目に要求を受ける形になる。反対されたらクラスの支持が落ちて政権が転ばざるをえん。クラス選挙区というのはたった数人の反対で当選者が変わり得る世界なのだ

 

この配慮に配慮を重ね、吐き出しに吐き出した挙句に残る金など僅かだ。この妥協に妥協を重ね緩みきった関係がずっと、そうそれは戦車を売っぱらうよりも前からズルズルと続いていた。そして各団体が強力な後援を受けている以上、どうあがいても無碍にできない

 

誰もこれを変えられなかった

 


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